誕生日と記憶力とフライドポテトについて

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拝啓

 ハッピーバースデー!
 
 だれの誕生日を祝ったかと言えば、僕の誕生日です。実のところ、先日7歳の誕生日を迎えました。最近、九九を8の段まで覚えたところです。
 

 それはまあ、もちろん嘘なんですけど、誕生日だったのは本当です。広義の「若者」にぎりぎり含まれるくらいの年齢になってしまい、歳を重ねることにはなんの喜びも見出せなくなりましたが、それでもいろんな人にお祝いしてもらえるのはやはりうれしいものですね。
 

 あなたからはまだ、祝われてませんが。

 僕は前の前の前世がにわとりだったせいで記憶力がとても悪く、日々の記憶はトイレットペーパーみたいに一瞬で流れ去って二度と戻ってこないことが多いのですが、思い返してみると過去の誕生日にあった出来事は案外よく覚えています。付き合っていた恋人がくれたプレゼントがマックフライドポテト(M)でがっかりしたり、振られた後輩を励ましていてその日は全然祝ってもらえなかったり、その他いろいろ。
 

 やはり誕生日は特別な日なんでしょう。特に漫然と日々を過ごしている僕のような人にとって、誕生日は見るたびにその年の出来事を思い出す記憶のモニュメントとしてとても重要な役割を担っているのだと思います。
 

 そう考えると、少なくないカップルが「付き合って1ヶ月記念日」など、やたらと記念日を制定する気持ちもわかる気がします。愛の記憶、場合によっては愛そのものも経過によって薄れてしまうからこそ、いつでも思い出せるよう記念碑を建てるのかもしれませんね。
 

 つまり、流れていったトイレットペーパーを節目にバキュームで吸いだして眺めているわけですね。いや、違いますね。忘れてください。

 しかし先ほども言った通り、僕は記憶力が賢いダチョウと同じくらいなので、どうにも他人の誕生日を覚えるのが苦手です。お祝いされるだけされておいて自分は祝ってくれた人の誕生日を覚えていないなんて薄情に思われるかもしれませんが、関心がないんじゃなくて本当に覚えられないんです。まあ、カレンダーに書いておけば済む話なんですが。
 

 たとえば昔付き合っていた女性の誕生日は、当時おおよそで覚えていて「だいたい10月の頭らへん」と記憶していました。もちろん一度はちゃんと誕生日を聞いていますが、正確には覚えられませんでした(これでも健闘しているほうです)。そうこうしている間に10月1日になって、「そろそろ彼女の誕生日だなあ」と僕は思いました。「10月の頭らへん」ですから、おそらく10月の3日とか4日とかだろう、最悪でも2日だろうとその時はなんとなく予想していたのですが、正解はまさかの10月1日で、それを共通の友人から確認した頃にはもう10月2日になっていました。特に理由なく恋人の誕生日をスキップしてしまったわけです。
 

 いやあ、その後のことはよく覚えていませんが、たぶん一生懸命言い訳をしたと思います。本当に悪いことをしました。
それにしてもこうして思い返してみると、数ヶ月後のこちらの誕生日にはちゃんとフライドポテトを用意してくれただけ彼女も慈悲深い人でしたね。がっかりするなんてとんでもなかったです。

 ああ、あなたの誕生日は忘れたりなんかしないので安心してください。あなたが10000回生まれ変わったとしても経験することがないくらい、盛大にお祝いします。

 しかし万が一があるので、一応誕生日の前日には連絡をくださいね。いや、一週間前がいいかな。早すぎるのもよくないし、とにかくちょうどいいタイミングで教えて下さい。

 ところで、僕へのお祝いはまだ受け付けていますからね。

 それでは。
 いつかまた宇宙のどこかで。

敬具


チープアーティスト・しおひがりによる連載『メッセージ・イン・ア・ペットボトル』。毎回、この世にいる"だれか"へ向けた恋文のような、そうでないような手紙を綴っていきます。添えられるイラストは、しおひがり本人による描き下ろし作品です。 過去の手紙はこちらからお読みいただけます。

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