美術館で植物鑑賞!? 『芸術植物園』開催中

レポート
アート
2015.9.1
『芸術植物園』チラシ

『芸術植物園』チラシ

多彩なアプローチの“芸術植物”をご堪能あれ

“まるで植物園を訪れたように、芸術を楽しんでほしい”と企画された展覧会が、現在「愛知県美術館」で開催中だ。今展は、BSドラマ『植物男子ベランダー』を地でいくような当館学芸員・副田一穂さんの企画によるもの。絵本作家として知られるレオ・レオニが、“奇妙な植物”について研究しまとめた本『平行植物』に想を得て、「芸術作品のなかに育つ植物」をコンセプトに練り上げた展覧会なのだ。

そんな副田さんの植物愛が結集した展示内容は、芸術家たちがモチーフとして取り上げ、各々の方法で表した作品はもちろん、観察や研究の対象として記録されたもの、ありままの美の瞬間が切り取られた写真、或いは現実には存在しない、自由な発想のもとに生み出された仮想植物など実にさまざま。古代の植物文様から江戸時代の花鳥画、東西の本草学図譜、近代の植物写真、そして現代アート…とバラエティに富んでいる。

小茂田青樹《薫房》1927年 福島県立美術館蔵 現代にも通用するモダンさで温室内の植物を描いた、日本画家・小茂田青樹晩年の代表作

小茂田青樹《薫房》1927年 福島県立美術館蔵 現代にも通用するモダンさで温室内の植物を描いた、日本画家・小茂田青樹晩年の代表作



誰もが知るメジャーな作品こそ少ないものの、「こんな作品があったんだ!」と新鮮な感動を覚える出会いがあるのも魅力のひとつ。例えば下の写真。壁一面にずらりと並ぶ作品群は28葉の植物版画集なのだが、どれもメインの植物は「図解」の基本に忠実に描かれている一方、それぞれ異なる背景が加えられ、その植物にまつわる神話や物語のイメージが表現されている。学術的要素と幻想的イメージの共存、さらにひとつの絵を複数の画家が分担して描いているという点も興味深く、一作一作つい見入ってしまう面白さなのだ。

会場風景1

会場風景1

R.J.ソーントン編『フローラの神殿』:リンネの雌雄蕊分類法新図解 1798-1807年 町田市立国際版画美術館蔵

R.J.ソーントン編『フローラの神殿』:リンネの雌雄蕊分類法新図解 1798-1807年 町田市立国際版画美術館蔵

そして、今村文(1982年愛知県生まれ)、狩野哲郎(1980年宮城県生まれ)、渡辺英司(1961年愛知県生まれ)の3人の現代作家による、本展のためのインスタレーションも注目だ。下の写真で子ども達が熱心に見上げている今村作品《温かい家》は、一見すると押し花のような色と質感なのだが、実は水彩絵具で描いた植物を切り抜いてグラシン紙に貼り付けたという“架空の植物標本”。実物の前に立つと、見たことはないはずなのにどこか懐かしく、生の温かみすら感じる不思議な印象を持つだろう。

会場風景2

会場風景2



《図鑑採集2015》や《常緑》などを手がけた渡辺は、既製品に手を加えることで、言葉と物との関係を新鮮な視点で問い直す表現で知られている。植物きのこ図鑑から切り抜いた無数のイメージを空間に配置した《図鑑採集》シリーズは、前回の「あいちトリエンナーレ2010」でも展示された圧巻の作品。片や、プラスチックの人工芝をペンチで1本ずつ引き延ばした《常緑》は、所どころ本物の芝が生長しているかのように見えるユニークなものだ。

会場風景3 図鑑の分類から解き放たれた色とりどりの草花が咲き乱れる《図鑑採集》シリーズ。こんな庭が現実にあったら楽しい!

会場風景3 図鑑の分類から解き放たれた色とりどりの草花が咲き乱れる《図鑑採集》シリーズ。こんな庭が現実にあったら楽しい!

また、狩野哲郎も身近なアイテムを駆使し、マスキングテープや既成のシールなどをコラージュした色鉛筆によるドローイングや、木と人工物を融合させた立体作品による《あたらしい植物》シリーズを発表。彼らの表現は、「植物」に対する概念をより広い枠組で自由にとらえた独自の解釈によって、見る者の感覚や発想を刺激する。

会場風景4 自然光が入る展示空間には、狩野が創り上げたミクストメディアの植物園が出現

会場風景4 自然光が入る展示空間には、狩野が創り上げたミクストメディアの植物園が出現

そして本展のもうひとつの見どころが、当地と縁の深い「本草学」に焦点を当てた展示である。江戸時代に全盛期を迎えた「本草学」は、中国古来の植物を中心に動物や鉱物まで含めて薬の研究を行った学問で、ここ尾張名古屋も江戸や京都に並ぶ研究の中心地だった。その発展に大きく寄与したのが、植物学者で医者、そして日本初の理学博士となった名古屋出身の伊藤圭介(1803〜1901)である。かのシーボルトからも本草学を学び、多くの書物を残した氏の貴重な資料や絵図をはじめ、鮮やかな色彩を今に伝える花の画譜、書体も目をひくヨーロッパ中世の本草書など、その美しさにも驚かされる展示物ばかりだ。

宮越精之進摺・伊藤圭介識《安喜多富貴印葉図》1882年 名古屋市東山植物園蔵

宮越精之進摺・伊藤圭介識《安喜多富貴印葉図》1882年 名古屋市東山植物園蔵



知れば知るほど見応えのある内容だけに、来場の際は鑑賞がより楽しくなる「“芸術植物”をもっとよく知るためのキーワード集」(会場に設置、無料)の入手をお忘れなく。鑑賞後には、いつでも誰でも参加可能なプログラム『新種発見ガーデン』や、渡辺英司の《常緑》が作れる『しばのばし』などを体験してみるのも。
会場風景5 好みの花びらや葉を組み合わせてオリジナルの花をつくる『新種発見ガーデン』は、人気のあまりプランターが増殖中とか

会場風景5 好みの花びらや葉を組み合わせてオリジナルの花をつくる『新種発見ガーデン』は、人気のあまりプランターが増殖中とか


 
イベント情報
芸術植物園

会期:2015年8月7日(金)〜10月4日(日)
会場:愛知県美術館(名古屋市東区東桜1-13-2 愛知芸術文化センター10階)
開館時間:10:00〜18:00(金曜は20:00まで) ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜(ただし9月21日は開館)・9月24日(木)
観覧料:一般1,100円、高大生800円、中学生以下無料 
アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「栄」駅下車、オアシス21連絡通路利用徒歩3分
公式サイト:http://www-art.aac.pref.aichi.jp
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