タマラ・ロホ率いる大躍進中の「イングリッシュ・ナショナル・バレエ」がこの夏来日

2017.2.21
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『海賊』 ⒸLaurent liotardo


元英国ロイヤルバレエ団(ROH)のプリンシパル、タマラ・ロホ芸術監督が率いるイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)が2017年7月、来日する。

ENBは2012年にロホが芸術監督に就任して以来、英国のバレエ団としては初となる『海賊』全幕上演や、リアム・スカーレット、アクラム・カーンといった現代作品の振付家による作品を上演し、アグレッシブにプロジェクトを展開。また元英国ロイヤルバレエ団(ROH)の人気プリンシパル、アリーナ・コジョカルの移籍も話題を呼んだ、世界で今最も勢いのあるカンパニーの一つだ。

この夏の来日公演は噂のENBの“今”を目にする、絶好の機会となるに違いない。

タマラ・ロホ ⒸJeff Gilbert

■古典と新作のバランス良いプロジェクトを次々実現

ENBは1950年、「英国の隅々にまでバレエを届ける」ことを目的に、ロンドンを拠点とするツアーカンパニーとして設立された。

同じロンドンに、世界最高峰のカンパニーのひとつとして君臨するROHがあるなかで、ENBは日本のファンにとってはやはり少し距離のあるカンパニーではあった。

しかしロホの芸術監督就任、さらにコジョカルの移籍。同時代にトップダンサーとしてROHの舞台を引っ張ってきた2人が、ともにENBに新天地を求めたのである。「一体何が起こるんだろう」という、埋火にも似た静かな期待が大きな熱となって世界中を駆け巡ったのが、2016年9月に上演されたアクラム・カーン振付『ジゼル』であった。

身分違いの恋による悲劇を題材としたこの有名な古典作品を「アウト・カースト」「アッパー・カースト」という現代の身分違いの恋に読み替えた『ジゼル』は大成功を収め、「古典と現代の融合」「21世紀のバレエ」と絶賛されている。ロホの芸術監督就任から4年、マイルストーンの一つともいえる舞台となったといえるかもしれない。

就任後わずか4年余りでバレエ団をここまで引っ張り成長させた理由のひとつには、ロホは芸術監督就任後の目標として「バレエの可能性を押し広げる」と語った明確なヴィジョンと、それを次々と実行に移した実行力が大きいに違いなく、またカンパニーのバックアップも忘れてはならないだろう。

また現代の振付家によるコンテンポラリー作品や先の新作『ジゼル』といった現代作品の上演のみにとどまらず、古典の上演やその際の若手の起用、「My First Ballet」として子供向けのバレエ公演を実施。子供がバレエに触れる機会を提供するなど、未来の観客を育てる活動も行っており、そのバランスの取れた視点とプロジェクトは、さすが世界の最先端で活躍してきた人だけあると唸らされる。何より芸術監督を筆頭にダンサー、カンパニーが一丸となって新たな目標に向かって躍進する様子はまぶしいほどだ。

さらにこれまでENBで活動してきたダンサーがいよいよ育ち層が厚くなり、またロホ、コジョカルの存在も手伝い優秀なダンサーが集まってきたことも、躍進の理由に挙げられるだろう。

リード・プリンシパルを務める高橋絵里奈はこの夏の公演でも主演に予定されており、日本人ダンサーはこのほかプリンシパルとして加瀬栞、2016年ヴァルな国際バレエコンクールで銀賞を獲得した金原里奈がアーティストとして在籍している。ローレッタ・サマースケールズ(プリンシパル)はロホが高く評価しているダンサーの1人。2015年にオランダ国立バレエ団から移籍したイサック・エルナンデス(リード・プリンシパル)、昨今プリンシパルに昇格したヨナ・アコスタも注目だ。

『コッペリア』 ⒸLaurent liotardo

■上演演目は『コッペリア』と『海賊』

躍進するENBの、来日公演での上演作品は『海賊』と『コッペリア』。日本の観客にも親しみのある演目が並ぶ。

『コッペリア』はENBで長く上演されている、看板演目のひとつ。プティパ版をもとに英国の振付家ロナルド・ハインドが演出・振付した作品だ。ストーリーはコッペリウス博士の作った人形コッペリアに恋をしたフランツとその恋人スワニルダが巻き起こすコメディで、マズルカやチャルダーシュといった民俗性豊かな踊りも見どころ。チャーミングな、幸福感いっぱいの演目ということで、実に楽しみだ。

『コッペリア』 ⒸLaurent liotardo

また『海賊』は先にも述べたように、ロホ芸術監督就任後の翌2013/14シーズンの開幕を飾った、また英国のバレエ団として初めて全幕上演されたという記念すべき演目だ。ENBに移籍したコジョカルが主演として踊ったことも話題となり、2016年夏にパリ・オペラ座(ガルニエ宮)でも上演された。

振付はアナ=マリー・ホームズ。舞台美術には映画『バットマン』の衣装を担当したボブ・リングウッドが起用されている。衣装はインド、パキスタン、中東などの伝統的な衣装を利用して作ったもので、「すべてが本物であるからこその美しさがある」(ロホ芸術監督)とのこと。

海賊の首領コンラッドと恋人メドーラ、コンラッドの忠実な奴隷アリや部下ビルバント、奴隷商人ランケデムなど、個性的なキャラクターが登場して繰り広げる恋あり、策謀ありのストーリーで、力強い男性の踊りやコールドバレエなど見どころも多く、こちらも期待したい。

『海賊』 ⒸLaurent liotardo

両作品とも主演にはコジョカル、そしてリーディング・プリンシパルも勤めるロホ自身が登場。高橋絵里奈は『コッペリア』スワニルダに、サマースケールは『海賊』メドーラにキャスティング(予定)されている。

芸術監督を筆頭にカンパニーが明確なヴィジョンと将来性を掲げ、ダンサーが「踊りたい」と思う作品があることで人が集まり、人が育ち、アーティストも観客もともに楽しめる舞台が上演される――ENBには実にいい循環が起こっているようだ。

注目のENB、その全容はこの夏に明らかに。間違いなく、バレエファン必見の公演と言えるだろう。

 
 
公演情報
イングリッシュ・ナショナル・バレエ
 
『コッペリア』全3幕
■会場:東京文化会館大ホール
■日時:7月8日(土)13:00/18:00、7月9日(日)14:00
■振付:ロナルド・ハインド(マリウス・プティパに基づく) 
■音楽:レオ・ドリーブ
■演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
■出演:
7月8日(土)13:00
スワニルダ:アリーナ・コジョカル/フランツ:セザール・コラレス
7月8日(土)18:00
スワニルダ:タマラ・ロホ/フランツ:イサック・エルナンデス
7月9日(日)14:00
スワニルダ:高橋絵里奈/フランツ:ヨナ・アコスタ


『海賊』プロローグ付全3幕 フィリッポ・タリオーニ原案による2幕のバレエ
■会場:東京文化会館大ホール
■日時:7月14日(金)18:30、7月15日(土)14:00、7月16日(日)14:00、7月17日(月・祝)14:00
■台本:アドルフ・ヌーリ 
■復元振付:アンナ=マリー・ホームズ(マリウス・プティパ、コンスタンチン・セルゲイエフに基づく)  
■音楽:アドルフ・アダン、リッカルド・ドリゴほか
■演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
■「海賊」プロローグ付全3幕
7月14日(金)18:30
メドーラ:タマラ・ロホ/コンラッド:イサック・エルナンデス
アリ:セザール・コラレス/ギュルナーラ:ローレッタ・サマースケールズ
7月15日(土)14:00
メドーラ:ローレッタ・サマースケールズ/フコンラッド:ブルックリン・マック
アリ:オシール・グネオ/ギュルナーラ:金原里奈
7月16日(日)14:00
メドーラ:タマラ・ロホ/コンラッド:イサック・エルナンデス
アリ:セザール・コラレス/ギュルナーラ:カーチャ・カニューコワ
7月17日(月・祝)14:00
メドーラ:アリーナ・コジョカル/コンラッド:オシエル・グネオ
アリ:セザール・コラレス/ギュルナーラ:ローレッタ・サマースケールズ


 
他に名古屋公演あり
 7月20日(木)18:45
「コッペリア」 愛知県芸術劇場 大ホール(問)TEL:052-241-8118


■公式サイト:http://www.nbs.or.jp/stages/2017/enb/
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