食べるシーンなし! グルメマンガ戦国時代に異彩を放つ『ホクサイと飯さえあれば』

コラム
アニメ/ゲーム
2017.2.15

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マンガを掘りつくせ!Manga Diggin’ 』の第6回を担当させていただくのは、Reader Storeのコミック担当カワチです。2017年1月スタートの冬ドラマで楽しみに観ているのが『ホクサイと飯さえあれば』。グルメマンガ戦国時代ともいえる昨今、“異彩のグルメマンガ”と評される本作の魅力と見どころをたっぷり語りたいと思います!

 

“食べるシーン”がないグルメマンガ

『クッキングパパ』『ミスター味っ子』『美味しんぼ』――。グルメマンガは80年代から愛されてきましたが、2012年にドラマ化された『孤独のグルメ』『花のズボラ飯』(どちらも原作は久住昌之先生)が火付け役となり、新しいグルメマンガが続々と誕生しています。『甘々と稲妻』を筆頭に、『おとりよせ王子 飯田好実』、『いつかティファニーで朝食を』、将棋マンガですが一部ではグルメマンガとしての評価も高い『3月のライオン』など、映像化される作品が続出し、まさに今はグルメマンガ戦国時代。スープばかり作る作品もあれば、ひたすら何かの食材を燻っている作品、異世界のモンスターを料理してしまう作品も……。ただグルメを題材にしているだけでなく、それぞれ趣向を凝らした作品が生まれてきている中、異彩を放っているのが、この『ホクサイと飯さえあれば』。なぜならこのマンガ、グルメマンガなのに“食べるシーン”が一切ないのです。

舞台は東京・北千住。大学進学のために上京してきた山田文子(やまだあやこ)こと“ブンちゃん”は、美術系のコースを専攻するちょっぴり変わった女の子。喋る謎のぬいぐるみ“ホクサイ”といつも一緒のブンちゃん。美味しいものを食べることに異様なまでの情熱を持つ彼女は、そのための時間や手間を惜しみません。8時間かけて甘酒を作ったり、「どうしても肉団子が食べたい」と昼休みにわざわざ帰宅してまで作ったり、手持ちの材料を使ってその場でマヨネーズを手作りしたり……。これだけ美味しいものを作るための行動力はあるのに、実は人見知りなブンちゃん。大学入学前からホクサイに心配されてしまう有り様です。そんなブンちゃんが北千住という新しい土地で、美味しいものを追求しながら少しずつ友達や知り合いを作っていき、将来の夢を探し求めて成長していく物語です。

 

ブンちゃんの食に対する持論

とにかく美味しいものには目がないブンちゃんは、食に対する独特の持論を展開します。ある日ブンちゃんは、勝手に家に侵入してきた謎の少年・凪(ナギ)と肉団子を一緒に作ることになります。「一人飯って……美味しくないじゃん」と寂しそうに言う凪に対して、ブンちゃんは「ご飯は一人で食べた方が絶対に美味しい!!」と言い切ります。いやいやいや、物語の主人公として、そこは「誰かと一緒に食べたほうが美味しい」でしょう! しかし貪欲なまでの食欲を持つブンちゃんは、誰かと一緒に食べることでお喋りに夢中になってしまい、料理が楽しめないことを懸念しているのです。……恐るべき、山田ブン。

 

“ちゃんとした”分だけ美味しくなる、おばあちゃんの教え

なぜ『ホクサイと飯さえあれば』には食べるシーンが出てこないのか? それはブンちゃんのおばあちゃんのある一言がヒントになっているのかもしれません。

ひょんなことから友達になったジュンちゃんに、マヨネーズも甘酒もコンビニや自動販売機で買えるのに、なぜ自分で作るのかと問われるブンちゃん。買ってしまえば一瞬だし、作るのが大変なメニューがあることは理解しています。しかし、「自分が作ったほうがほんの少しだけ美味しい気がする」と返すブンちゃんの言葉の裏には、おばあちゃんの教えがあったのです。

子どもの頃、家で食べるそうめんやそばより、お店で食べる方が美味しいことを不思議に思ったブンちゃん。その疑問に、おばあちゃんはこう答えます。「お店が美味しいのはおつゆをちゃんと作ってるからなのよ。ちゃんと作ったから美味しいの。だから大切にいただきましょうか」。そう言って美味しいものを一から作る、魔法のようにキラキラしたおばあちゃんの手。作る楽しさ、ちゃんと作ったご飯の美味しさを知ったブンちゃん。そんなおばあちゃんの言葉があったからこそ、彼女は日々美味しいものを食べるための時間や手間を惜しまないのです。

たとえ寝坊して家を出るまでに30分しかない日でも、一日を楽しく過ごすために、一日の始まりの美味しいご飯に手抜きはしません。このようなブンちゃんの大切にする“手間をかけて美味しいものを作る時間の大切さ”を描くために、食べるシーンは敢えて描かない……という異色のグルメマンガになったのではないでしょうか。食べるシーンが描かれてなくても、これだけ手間と情熱をかけて作った料理が美味しくないわけがない! それは食べる前のワクワクドキドキした顔のブンちゃんを見ただけでわかります。

 

挑戦したくなる自炊メシ

本作には、社会人になったブンちゃんを描く『ホクサイと飯』という後日譚が存在します。掲載雑誌の休刊により惜しまれつつも連載終了となってしまったのですが、実は出版されたのはこちらが先なんです。その後、『ヤングマガジンサード』(講談社)で連載が始まったのが、大学生のブンちゃんを描いた『ホクサイと飯さえあれば』でした。大人になったブンちゃんは漫画家になり、締め切りに追われる日々を送ります。しかしそこは山田ブン、「締め切り間近でも食べたいものは作る!」というご飯への情熱は変わりません。こちらは『新装版 ホクサイと飯』として発売されましたので、『ホクサイと飯さえあれば』とあわせてお楽しみください。

『ホクサイと飯さえあれば』には、聞いたこともないような野菜や調味料で作られるような、そんな小難しい料理は登場しません。原作の鈴木小波先生が実際に料理をしてから描かれているので、おでんやパスタ、お雑煮にアップルパイなど誰でも知っている料理ばかり。そんな定番メニューを、ちょっと時間をかけて丁寧に作ってみる。その工程の中には、“売っているもの=作れる”という発見や、出来あがるまでの楽しさ、美味しいものを食べる喜びといったワクワクドキドキする時間が詰まっているのです。いつもは外食やコンビニで済ませてしまう食事を、明日は自分で作ってみませんか?

本作を読んだあとなら、きっと料理をしている時間も楽しめるはず。そんな挑戦したくなる自炊メシがいっぱいの『ホクサイと飯さえあれば』、ご賞味あれ!

 

書誌情報
『ホクサイと飯さえあれば 1巻』
鈴木小波(著者)
出版社:講談社/ヤングマガジンサード
 

伝説のインドア系ご馳走マンガ、復活移籍新連載!! かつて掲載誌の休刊に伴い惜しまれつつ終了した『ホクサイと飯』。本作『ホクサイと飯さえあれば』は、その8年前のお話。大学進学のため上京した山田ブンが、愛するぬいぐるみ(?)ホクサイと共に、東京・北千住で、いろんな出逢いや経験の毎日の中、アイディア満載のご馳走作ります! トラブルがあっても、ホクサイがいて、美味しい飯さえあれば、毎日ハッピー!

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