第24回読売演劇大賞 最優秀男優賞を受賞した中川晃教「いつかオリジナル・ミュージカルを作りたいですね!」
中川晃教
先日発表された、第24回読売演劇大賞にて、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』での演技を高く評価され、見事、最優秀男優賞を受賞した中川晃教。その中川が2月15日(水)、授賞式に先駆けて行われた取材会に出席し、今の率直な気持ちを語った。
今回、中川が最優秀男優賞を受賞しただけでなく、『ジャージー・ボーイズ』自体も最優秀作品賞を受賞、さらに演出の藤田俊太郎が優秀演出賞を受賞するという、トリプル受賞となった。これに関してキャストやスタッフとどのような話をしたか? と聞かれた中川は「『ジャージー・ボーイズ』ではグループLINEは作って無かったので…僕だけ入っていなかったのかもしれませんが(笑)」と笑わせた上で、「連絡先を知っている人からそれぞれに『おめでとう』『よかったね!』と喜びを分かち合いました」と笑顔。なかでも特に心に響いた言葉は、「近年、一緒に仕事をすることが多い、制作会社のプロデューサーさんから『中川さんが、そして中川さんが出ているこの作品が受賞したことを、中川さんと仕事をした、そして中川さんを知る人はみんな喜んでいると思います』という言葉です。今回この作品に関わったすべての方々が、この賞をいただいたことで頑張ってきたことが報われ、この作品に出会えたことを感謝する気持ちがあると同時に、そのプロデューサーさんのメッセ―ジを読んだとき、これまで出会ったすべての方々への感謝の気持ちにも繋がったんです」と振り返った。
中川晃教
中川が演じる『フォー・シーズンズ』のフランキー・ヴァリ役を演じるには、ファルセットより強い「トワング」と呼ばれる高難易度の発声法が必要となる。
「最初は、まさか本国にいる、ボブ・ゴーディオさん(実在する『フォー・シーズンズ』のメンバーの一人)の許可を得なければやらせてもらえない役だとは知らなかったんです。そのことを知り、よし、じゃやってみようと、最初は劇中の3曲のデモテープと映像をボブさんに送りました。おそらくボブさんたちが知りたいのは一曲の中でトワングが必要なところ、ファルセットが必要なところ、そして地声の使い分けのコントロールができているか、だったと思うんです。中川晃教の歌声ではなく、まずは本国の人たちが求める歌声を目指しましょう……宝塚歌劇団出身で『ミス・サイゴン』の初演時のキャストでもあり、現在ボイストレーナーとしても活躍されている楊淑美(よう・しゅくび)先生のもと、取り組みました。すると次は6曲送ってほしいと言われ、「試されている!?」と思い、さらに火が付きました。結果、ボブさんからOKをいただき、この役を演じることになりました」
中川晃教
中川が最初にミュージカルの世界に飛び込んだのはミュージカル『モーツァルト!』。
「それまではシンガー・ソングライターだったので、この世界に飛びこんだときは真っさらな状態。無我夢中でミュージカルにぶつかっていきました。その作品でいただいたのが読売演劇大賞の優秀男優賞と杉村春子賞。その時はまだその重みを実感することはできていなかったのですが、そこから14年間、1作1作真剣に取り組むようになりましたね。1作ごとに向き合って取り組んできたことの結果が今回の読売演劇大賞最優秀男優賞の受賞につながったのかな。とても嬉しかったです」
ボブ・ゴーディオのお墨付きをもらった中川だけはシングル・キャストとしてフランキー役に全41公演ずっと挑み続けた。
「初めて出す声で41公演、最後までやり遂げなければならない。責任を感じると共に、自分が知らない自分の声に出会ったときの感動がとにかく大きかった。その声を保ちつつ、さらに進化させながらやり遂げられるかというと、僕の中でまだ経験がなかったので不安でした。
そこで、約一か月の公演期間の休演日や一日一公演という日の空いた時間にボイストレーニングに通いました。本番中にトレーニングに通うというのは初めてでしたね。空いた時間は、休みを取って寝たりするほうがいままで重要だと思っていたんですが、舞台に立ち続けるため、また最高のパフォーマンスを見せ続けるためには、自分の声や身体のメンテナンスをしないと次の日にできないと実感していたので、公演の前と後にジムに行って身体をアップ、もしくはクールダウンしたりしていたんです。でも、声については声を使ったあとでボイストレーニングに行くことが、果たしていい事なのかどうか悩みました。でも、結果、声帯がものすごくトリートメントされて、翌朝、声がむしろもっとよく出るようになりました。思うがままに声を出すということでなく、しっかりとコントロールすることができるようになりましたね」
中川晃教
これまでのミュージカル人生を振り返り、「10代、20代の中川晃教の代表作であり、運命を感じるのが『モーツァルト!』ならば、30代に入ってから、フランキー・ヴァリに出会ったときに『あ、これは僕の30代の代表作になるに違いない』と感じました。周りの方々にも『この作品をアッキーの声で聴いてみたい』と言われて、導かれてきたように思います」
そんな中川は、35歳と一つの通過点として、「新しい世界」に挑もうとしていると話し始めた。
「自分のモットーは、誰も歩いていない道を歩くこと。音楽をやっているときに特にその感覚が強いんですが、孤独なんですよね。自分をとことん追い詰め追い込みますから。一方、ミュージカルはカンパニーなのでみんなで作っていくもの。苦労もみんなで乗り越える。その過程が作品に生きてくる。そんなまったく違うエンターテイメントが自分の中に共存しているんです。
ミュージカルをやってみて思うのが、自分がミュージシャンだからこそなんですが『ミュージカルを作りたい』という想い。韓国発ミュージカル『フランケンシュタイン』に先日まで出演していましたが、軽く嫉妬しますね、本作の作曲家が31歳と聴いて!どう見ても若い人なんですよ。それなのにあれだけの壮大なオーケストレーションを作るんですよ。お隣の国で。
中川晃教
日本もいつかそういったオリジナル・ミュージカルを生み出す時代がくるんじゃないかな。僕だけでなく、井上芳雄さんを初め、同じエンターテイメントシーン、ミュージカルシーンで頑張っている仲間たちが……そういう時代が近づいているように思います。そして、その動きを待っている人、応援してくれる人がいます。待っている人がいるからには、僕らは夢ではなく現実にしていかなければならない。ではどうやって現実にしていけばオリジナル・ミュージカルを作れるんだろう……。
今お仕事としていただいているミュージカルの一つ一つ……本物のブロードウェイミュージカルを一か月二か月とやらせていただくことで、ミュージカルの作り方は学べるんです。モノは考えようで、これだけの作品に出演させていただくことで「こういう作り方もあるのか」と気づかされます。いろいろなミュージカルに出会い、いろいろな作り方を学ぶことでいよいよ僕らは次のステージに進む。そこに向かうにはこれまでミュージカルを牽引してきた先輩がたの努力があったからこそ。新しい世代が思い描くミュージカルの世界、そしてそこに誰もが恋をする時代。韓国から日本にソフトがくるように、日本のソフトが世界に出て行ってもいいと思うんです。そうなれるように頑張っていきたいです。やらなければならないことはたくさんありますが、夢は大きく!」
足元にこんなポップな色使いを!
ちなみに4月9日(日)から日比谷 シアタークリエにて上演されるブロードウェイミュージカル『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』にスヌーピー役(世界でいちばん有名かもしれないあの犬!)で出演する中川。
「このミュージカルは日本では坂本九さんが出演されていて、スヌーピー役は近年では市村正親さん、そして大澄賢也さんもなさっていると知りました。歴史がある作品なんですね。『モーツァルト!』で僕のお父さん役をやっていたあの市村さんがスヌーピー役……それもすごいな(笑)。役者冥利につきますね。
この作品、実は深いんです。ちらしやポスターなどは子どもミュージカルのような雰囲気ですが、決してそうではなく大人が観ても楽しいミュージカルです。『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』の中に描かれた子どもたちの日常……それは決して子どもたちだけのものではなく、“大きくなった大人たち”の日常にもあることだよね?とささいな事でも気づかされるんですよ」