『カッサンドル・ポスター展』をレポート デザイン界に「革命」を起こした時代の寵児

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カッサンドル《ラントランジジャン》1925年、バツアートギャラリーコレクション蔵 (C)MOURON. CASSANDRE. Lic 2017-16-01-04 www.cassandre.fr

カッサンドル《ラントランジジャン》1925年、バツアートギャラリーコレクション蔵 (C)MOURON. CASSANDRE. Lic 2017-16-01-04 www.cassandre.fr

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埼玉県立近代美術館では、2017年2月11日 (土・祝) ~ 3月26日 (日)の期間で『カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命』が開催されている。

20世紀を代表するグラフィックデザイナーであるカッサンドル(1901-1968)の作品は、洗練された作風とダイナミックな画面構成で、一度見ると忘れられないインパクトを残す。もともと日本でも人気のある作家だが、1990年代に2回展示が開催されたのが最後で、およそ22年ぶりの個展になるという。また、作品のほとんどが、前衛的なファッションブランド『BA-TSU』の創業者兼デザイナーである故・松本瑠樹氏のコレクションによるものである点も、本展の特徴の一つだ。以下、『カッサンドル・ポスター展』の見どころを、3章構成になっている今回の展示内容に沿って紹介する。

街頭の視覚革命―鮮烈なデビュー

カッサンドルの名を世に知らしめたのは、家具店のポスター《オ・ビュシュロン》だった。黄色を基調とするダイナミックなV字構造の大判ポスターは当時、パリの街中に貼られたそうだ。この作品は1925年に現代装飾美術・産業美術国際博覧会でグランプリを受賞する。

カッサンドルは翌年、青を基調としてVの角度を鋭くし、人物をより抽象化した《オ・ビュシュロン》のヴァリエーションを発表。当時の街の様子が写真で残っており、ポスターが空間に迫力と緊張感を生み出している様子がわかる。

パリの街頭に貼られた《オ・ビュシュロン》1926年

パリの街頭に貼られた《オ・ビュシュロン》1926年

カッサンドルのポスターには線や円が多用されている。彼は建築に興味があり、デザインの際にコンパスを用いることが多かったという。例えば青い文字と黒い鳥、赤い液体のコントラストが印象的な《ピヴォロ》。文字から下の鳥が描かれている箇所は正方形で、ワインのイラストは対角線上の中心に据えるなど、幾何学的な構図はインパクトと安定感を与えている。

 

ポスターの頂点へ―時代の寵児として

最も有名なカッサンドルの作品は、鉄道や船などのポスターだろう。1920年代は新しい乗り物の持つ重量感、迫力、旅への憧れなどが持てはやされたが、そうした性質はカッサンドルの作風にぴったりマッチするものだった。《ノール・エクスプレス》や《エトワール・デュ・ノール》などは、長距離列車によって「遠くへ行ける」というロマンチックな思いを想起させ、また乗り物の持つメカニックな魅力を際立たせている。

カッサンドルのイラストは、キャラクターもまた愛された。食前酒のポスター《デュボ・デュボン・デュボネ》に登場する、デュボネに夢中になってしまう男性はさまざまなヴァリエーションとなり、灰皿や扇子、帽子になって登場した。本展ではそれらのグッズも見ることができて楽しい。

 

見果てぬ夢―ポスターを超えて

ポスターのデザイナーとして頂点に立ったカッサンドルは、1936年にニューヨーク近代美術館での回顧展開催の機会に恵まれた。アメリカに渡航するとファッション誌『ハーパーズ・バザー』の表紙デザインを任され、ニューヨークではジョルジュ・デ・キリコやサルバドール・ダリなどと出会う。またフランスでもバルテュスとの親交を深め、作品のモチーフが具象に傾き、シュルレアリスムの影響も見られるようになる。

言葉や文字に強いこだわりを持っていたカッサンドルは生涯、タイプフェイスの研究にも取り組んでいた。文字だけで構成されたポスターもデザインし、新しい書体も生み出していく。最晩年に考案した書体は彼の死後に『カッサンドル体』として世に現れた。

 

歴史に刻まれつづけるデザイン

最初に脚光を浴びた時、カッサンドルはまだ20代前半だった。時代がスピード感と躍動感を求めていたこと、経営者が情報伝達の重要性に気づき始めていたこと、最も華やかだった時代のパリにいたこと、これらすべてを味方につけて、カッサンドルはあっという間に時代の寵児となる。だが意外にも、彼は自害によって最期を遂げた。

カッサンドルという名前は、人々に予言が受け入れられなかったギリシャの巫女「カッサンドラ」に由来する。不吉なペンネームは、本人にしか知りえない苦悩を象徴するようだが、カッサンドルの作品は、沢木耕太郎の著書『深夜特急』の表紙に《ノール・エクスプレス》をはじめとする代表作が使われるなど、日本でも広く受容され、愛されている。

広告やポスターは、容易に消費され忘れ去られうるが、カッサンドルの作品は、時代や歴史と密接に結びついているという強みがある。それに今回の展示を通じて、優れたデザインはアーカイブとして残るのみならず、さまざまな形で後世に引き継がれ、活かされるのだと改めて実感させられた。ポスターのみならず、ブランドロゴやタイプフェイスを含め、この先カッサンドルのデザインが人々の記憶から消えることはないだろう。

 

イベント情報
カッサンドル・ポスター展 
グラフィズムの革命
Posters of A.M. Cassandre: A Graphic Revolution
 
会期:2017年2月11日(土・祝)~3月26日(日)
休館日:月曜日(3 月20 日は開館)
開館時間 10 時~17 時30 分(展示室への入場は17 時まで)
観覧料: 一般1000 円(800 円)、大高生800 円(640 円)
( )内は20 名以上の団体料金
*中学生以下と障害者手帳をご提示の方(付き添い1 名を含む)は無料です。
*併せてMOMAS コレクション(1F 展示室)もご覧いただけます。
主催:埼玉県立近代美術館
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
特別協力:LAFA/ Laboratory All Fashion Art.
協力:株式会社studio 仕組、JR東日本大宮支社、FM NACK5
企画協力:アートインプレッション
出品点数:約130 点
http://www.pref.spec.ed.jp/momas/?page_id=336
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