日本初の『ソーシャリー・エンゲイジド・アート展』をレポート プロジェクトを展示する新たな試み

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藤元明《2021》

藤元明《2021》

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日本で初めてのソーシャリー・エンゲイジド・アートを特集した展覧会である『ソーシャリー・エンゲイジド・アート展 社会を動かすアートの新潮流』が、2月18日(土)より3月5日(日)までアーツ千代田3331にて開催されている。「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」とは、現実社会に直接的にかかわり、人々との対話・協働のプロセスを通じて社会変革をもたらそうと試みるアート活動の総称だ。その性質を考えると「展覧会」とは相性の悪いように思えるが、本展は果たしてどのような世界をみせてくれるのだろうか。

 

ソーシャリー・エンゲイジド・アートとは? 
海外での文脈を紹介

本展の意義の一つには、「紹介」の役割があるだろう。難民問題をテーマとしたアイ・ウェイウェイの《ライフジャケットの輪》をはじめ社会を強く意識した作品や、ソーシャリー・エンゲイジド・アートのプロジェクト記録などが意匠を凝らした展示で発表されている。

なかででも、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの先駆的存在でもあるスザンヌ・レイシーの《自らの手で》の映像インスタレーションは壮観である。《自らの手で》はもともとパフォーマンス作品であり、これはその「記録」に過ぎない。しかし「性暴力被害女性の手紙を、男性が闘牛場で読み上げる」というこのパフォーマンスの記録映像を、ろうそくや写真とともに配置することで、その迫力を演出してくれている。この作品で読み上げられる性暴力被害者の手紙には、ときには耳を塞ぎたくなるような描写も含まれる。女性が綴ったそのような言葉が、男性の口から語られるのだ。言葉では言い尽くせない情景である。レイシーはこのプロジェクトをやるにあたり、男性の積極的な参加を求めることで彼らの意識改革を試みたのだった。

展覧会場風景より スザンヌ・レイシー《自らの手で》

展覧会場風景より スザンヌ・レイシー《自らの手で》

 

生徒と教師が逆転? 公共性を考え直す

しかし、本展はただ海外のプロジェクトを紹介するだけにはとどまらない。日本でも、社会とのかかわりの意識を「社会相互行為的」「概念的」「プロセスを作品化する」といった方向へ向かわせるアーティストが増えてきている。それらとこのソーシャリー・エンゲイジド・アートの文脈をあわせ、日本における可能性を模索しているのが、本展の一番大きな意義だろう。

たとえば、丹羽良徳。彼は「公共性」というシステムがもつ幻想性を露呈させる作品を創る。

展覧会場風景より 丹羽良徳《より若い者がより歳をとった者を教育する》

展覧会場風景より 丹羽良徳《より若い者がより歳をとった者を教育する》

本展では、丹羽による《より若い者がより歳をとった者を教育する》という作品のプロセスの記録映像を展示している。これは「教師と学生という固定された立場を、あえて、しかも明確に逆転させた授業を実施する」というプランを教育委員会に提出するも「失敗する」という作品だ。映像の隣には、今も交渉は続いているという立て看板もあるので、もしかすると実現することもあるのかもしれない。しかし実際には、様々な規定から実施は難しく、交渉では悉く難色を示される。

展示される映像は、その実際の交渉の様子を映した記録と、その場にはいなかった子どもたちが、教育委員会や教師、丹羽に扮して架空の交渉の続きを演劇として演じる映像で構成されている。「教育をする」というシステムの奇妙さが露呈し、それをさらに子どもたちが笑いながら演劇にしていくことで、さらに滑稽なものとしてあらわれてくる。

展覧会場風景より 丹羽良徳《より若い者がより歳をとった者を教育する》

展覧会場風景より 丹羽良徳《より若い者がより歳をとった者を教育する》

 

会場外のプロジェクトも含めて、
ソーシャリー・エンゲイジド・アート展

しかしどうにもソーシャリー・エンゲイジド・アートの「展覧会」は難しい。会場の中をただただ見て回るのでは、実質「プロジェクトの記録映像の展覧会」のようでつまらなく思う人もいるかもしれない。しかし、ソーシャリー・エンゲイジド・アートはヨーゼフ・ボイスの提唱した「ソーシャル・スカルプチャー=社会彫刻」の影響を少なからず受けている。展覧会場をまわるだけでなく、会場の外で、社会を巻き込んで起こることも視野に入れてもらいたい。

なお、今回展覧会と並行して都内で5つのプロジェクトが行われている。ママリアン・ダイビング・リフレックス《子どもたちによるヘアカット》は丹羽とは全く違った方法で、大人と子供の立場を逆転させるプロジェクトだ。ママリアン・ダイビング・リフレックスは芸術ディレクター・ダレン・オドネルを中心とするカナダのアート&リサーチ集団。《子どもたちによるヘアカット》は、子どもたちがプロの美容師から講習を受けたのちに、本物の美容室を借りて大人の客に無料のヘアカット・サービスを行うというものだ。「子どもたちには美的・創造的な決定のできる個人としての責任と自信を持たせ、大人たちには、従来の大人と子どもの力関係が逆転した非日常的な体験により、子どもの能力を見直すきっかけを提供する」という狙いを掲げている。今回は、足立区のみらいフリースクールで学ぶ子どもたちを中心に、文京区の東京ビューティーアート専門学校で研修を受け、同校のサロンでヘアカットに挑戦するとのこと。

建築・アートユニットのミリメーターによる《URBANING_U 都市の学校》は、制度や慣習の枠組みを超えて「都市を自分のものにする」ことを試みるプロジェクト。

建築・アートユニットのミリメーターによる《URBANING_U 都市の学校》は、制度や慣習の枠組みを超えて「都市を自分のものにする」ことを試みるプロジェクト。

会場にて ミリメーター《URBANING_U 都市の学校》

会場にて ミリメーター《URBANING_U 都市の学校》

展覧会風景より 西尾美也《Self Sekect: Migrants in Tokyo》

展覧会風景より 西尾美也《Self Sekect: Migrants in Tokyo》

また、ペドロ・レイエスは、2008年から継続するプロジェクトである《銃をシャベルに》を都内の小学生との協働で展開。《銃をシャベルに》は、市民に呼びかけ銃など兵器を回収し、それらを溶かしてシャベルを作って、そのシャベルで植樹を行うというもの。今回はメキシコの街・クリアカンで集まった1527本の銃を1527本のシャベルにし、小学生60名とともに1527本の樹を植えた。

ペドロ・レイエス《銃をシャベルに》 展示されているシャベルの柄には文字が

ペドロ・レイエス《銃をシャベルに》 展示されているシャベルの柄には文字が

本展に出展された作品や並行して行われるプロジェクトは、扱うテーマや方法は多様ではあるが、みな社会の認識の変革をめざしている。国内外の主要なプロジェクトの紹介のみにとどまらず、新たなプロジェクト展開も試みる本展は、日本でもこの新しいジャンルが本格的に展開していく可能性をのぞかせてくれている。

会場ではソーシャリー・エンゲイジド・アートにまつわる年表があり、来場者がそこに書き足すこともできる

会場ではソーシャリー・エンゲイジド・アートにまつわる年表があり、来場者がそこに書き足すこともできる

 

イベント情報
ソーシャリー・エンゲイジド・アート展 社会を動かすアートの新潮流

日時:2017年2月18日(土)~3月5日(日)
会場:アーツ千代田3331 1階メインギャラリー
開館時間:11:00~20:00 ※入場は19:00まで ※休館日なし
観覧料:一般1000円/大学生以下500円※要学生証
主催:特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター
http://sea2017.seaexhibition.site/

 

関連イベント情報
本展レクチャー・シリーズ

2月18日(土)14:00~16:00 ペドロ・レイエス
2月19日(日)14:00~16:00 パーク・フィクション+藤元明+笠置秀紀[ミリメーター]
2月24日(金)19:00~21:00 ダレン・オドネル[ママリアン・ダイビング・リフレックス]
2月26日(日)17:30~19:00 片岡真実[森美術館]+村尾信尚[キャスター] アイ・ウェイウェイ作品のギャラリートーク&セッション
3月2日(木)19:00~21:00 フィフス・シーズン
※すべて会場はアーツ千代田3331
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