知られざるオーボエの魅力を届けたい~オーボエ奏者・渡辺克也が情熱あふれる演奏を披露

レポート
クラシック
2017.3.27
渡辺克也(オーボエ)

渡辺克也(オーボエ)

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オーボエ奏者・渡辺克也がカフェにぴったりなプログラムを用意 “サンデー・ブランチ・クラシック” ​2017.2.26ライブレポート

少しずつ寒さが和らぎつつある2月26日の日曜日。この日、渋谷・道玄坂のeplus LIVING ROOM CAFE & DININGで行われた『サンデー・ブランチ・クラシック』では、オーボエ奏者の渡辺克也が登場した。ピアノ伴奏は、古澤幹子が務める。

開演時刻の13:00、拍手とともに登場した渡辺が挨拶する。「本日は、『サンデー・ブランチ・クラシック』にお越しいただき、ありがとうございます。今日は、オーボエの知られざる名曲をお届けしたいと思います。最初の曲は、19世紀に活躍したイタリアの作曲家、ジョヴァンニ・ボルツォーニの『ファンタジア』という作品です。変わった和音も登場しますが、何よりもマスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』のような、美しいイタリアのアリアを思わせる音楽です」と曲目の解説をしてくれた渡辺は演奏に入る。

古澤幹子(ピアノ)、渡辺克也(オーボエ)

古澤幹子(ピアノ)、渡辺克也(オーボエ)

何かを追い求めるような、息の長い旋律が提示され、幾度もメロディーが繰り返されているうちに、少しずつ音楽は盛り上がりを見せ、緊張感を高める。

やがて、曲想は憂いを帯びた悲愴な音楽へ。人の声に近いと言われるオーボエの音色のおかげで、確かにイタリア・オペラのアリアを彷彿とさせた。

一つ一つの音に深い情感を込め、時には物悲しさ、時には懐かしさを感じさせる演奏だ。後期のロマン派らしい、非常に濃密な音楽である。

頂点を築くと、一転して甘美でロマンティックな旋律が現れる。ピアノの伴奏と掛け合いながら、曲は徐々に熱を帯びていく。激しい情熱のこもったクライマックスを経て、ピアノの先導で音楽はテンポを早める。繰り返される技巧的な早回しが披露された後、ピアノの強奏で曲は閉じられる。

ロマンティックな旋律がカフェに響く

ロマンティックな旋律がカフェに響く

満場の拍手を受けながら、渡辺が「実はこの曲は、オフィシャルな場での演奏は初めてになります。さて、無名な曲のあとは、超有名曲をお楽しみいただければと思います。続いて演奏するのは、ラヴェルの『ハバネラ形式による小品』です。もとは声楽のための曲で、音楽学校での課題曲として作曲されました。音楽学校に関わりのある有名作曲家として、学校から依頼されてつくられたのでしょう。この曲は声楽のためのものですが、ヴァイオリンなど、他の楽器で演奏されることが多いです」と次曲を紹介してくれた。

2曲目のラヴェル作曲『ハバネラ形式による小品』は、ピアノの断片的な音型で幻想的な序奏から始まり、伸びやかでよく響くオーボエの旋律が現れた。曲想は静かで落ち着いており、穏やかな夢か心地よい幻想の中にいるような錯覚におちいる。一瞬音量を落として静まったかと思うと、聴衆を煙に巻くように急速なトリルが現れ、現実離れした雰囲気を演出する。

やがて、アラベスクのような異国情緒あふれるメロディーが奏でられ、東洋風の旋律にオーボエの中音域の独特の音色によくマッチしていた。音楽は徐々にテンポを緩め、眠りにつくように安らかに終わる。

古澤幹子(ピアノ)、渡辺克也(オーボエ)

古澤幹子(ピアノ)、渡辺克也(オーボエ)

ここまで、イタリアとフランスの音楽が続けて演奏された。ベルリン在住の渡辺は、最近の欧州の気がかりな動きについても話してくれた。

「イギリスの離脱で、EUの危機が騒がれていますね。EUの理念は素晴らしいものだと思っているので、ぜひ続いてほしいのですが……今年は各国で選挙があり、慌ただしい年になりそうです。イギリス人のある友人は、『もうイギリスを捨てて、ドイツに移住したい』と嘆いていました。イギリスがまたEUに復帰してくれるのを願ってやみません。」

ヨーロッパに強い思い入れを持つ渡辺が続いて演奏するのは、そのイギリスの音楽だ。

「20世紀に活躍した作曲家マイケル・ヘッド(1900~1976)は、イギリスで生まれ、まもなくカナダに移住しました。なので、2つの世界大戦を経験しなかった幸運なイギリス人でもあります。当時、世界最高と言われたエヴリン・ロスウェル(1911~2008)というオーボエ奏者がいました。ヘッドは彼女のために多くの曲を作曲し、みずからもピアノ伴奏を務めたそうです。本日は、『オーボエとピアノのための3つの小品』を演奏します。」

渡辺克也(オーボエ)

渡辺克也(オーボエ)

3曲目となる、マイケル・ヘッド作曲「オーボエとピアノのための3つの小品」の演奏が始まった。第1曲は「ガヴォット」。ピアノの序奏に乗って、オーボエのゆったりしたメロディーが現れる。20世紀の曲だが、古典派のような聴きやすいメロディーだ。穏やかで、心が休まるような演奏となっている。音楽が盛り上がってくると、静かな中にも情感が溢れ、遠くまで響く澄み渡ったオーボエの高音域が印象的だ。会場全体が、音楽に没入しているのが感じ取れた。

ピアノの伴奏が趣を変えると、音楽はより情熱的になる。オーボエの旋律にさらに歌心が加わり、遠い昔を思い出すような哀切さを感じさせた。オーボエとピアノの掛け合いは、穏やかな対話を思わせる。音楽は再び静まっていき、息の長いオーボエの弱音で終わった。

第2曲は「エレジック・ダンス」。心に強く響くような悲痛な旋律が幾度も繰り返され、徐々に頂点に近づいていく。頂点に当たる甲高い音も、澄んだ綺麗な音色でダイナミクスの変化によって、聴き手を演奏に引き込む技術が見事だ。

ピアノとオーボエがそれぞれ奏でる旋律が、掛け合いのように絡み合っている。クライマックスではテンポを大幅に緩め、たっぷりと歌い上げた。曲想はまた静かになり、消え入るように曲が閉じられる。

第3曲は「プレスト」。悲しい旋律から一転、子供か小動物が遊びまわっているような楽しげなメロディーとなった。オーボエの旋律には躍動感があるが、バロックか古典派音楽のような品の良さも感じられる。一方、終止の仕方は音がとぎれとぎれとなり、ユーモラスな雰囲気に。

中間部では曲想が変わり、テンポは緩やかになる。ピアノ伴奏は情熱的になり、オーボエが民謡風の素朴なメロディーを歌い上げる。最後には冒頭のメロディーが戻り、軽快に曲を終わらせた。

古澤幹子(ピアノ)、渡辺克也(オーボエ)

古澤幹子(ピアノ)、渡辺克也(オーボエ)

渡辺と古澤に、この日一番の拍手が送られた。

「盛大な拍手にお答えして、アンコールを演奏したいと思います。ルーマニア人のヴァイオリニストで作曲家、ディニークの『ホラ・スタッカート』を演奏します。往年の大ヴァイオリニスト、ハイフェッツが取り上げ、有名になりました。オーボエで吹くと大変難しいので、オーボエでの演奏はあまりありません。どうぞ、オーボエ版の『ホラ・スタッカート』をお楽しみ下さい」

アンコール曲、ディニーク作曲「ホラ・スタッカート」は、ジプシー音楽調の軽快なメロディー。指の早回しはもちろんのこと、至る所でトリルを多用する非常に技巧的な曲だ。超絶技巧を要求されるが、演奏は正確かつ軽やかで、細かい音の一つ一つまで丁寧につくられている。急速なテンポで、ずれることなく機械的に演奏する必要があるが、見事にてきぱきとこなしてしまっていた。

「今回は、1ヶ月ほど日本に滞在しました。3月3日のフライトでベルリンに戻るのですが、ベルリンに帰る前にルクセンブルクでのコンサートを控えています。日本での演奏はしばらくご無沙汰になるのですが、また次回、どこかで練習の成果を披露させて頂ければと思います。」

渡辺が魅せてくれた40分強のミニコンサートに会場からは惜しみない拍手が送られた。

古澤幹子(ピアノ)、渡辺克也(オーボエ)

古澤幹子(ピアノ)、渡辺克也(オーボエ)


現在ベルリン在住、日本のみならず海外で活躍する渡辺に少しだけ時間をもらい、お話を伺うことができた。

――初めての『サンデー・ブランチ・クラシック』出演ですが、カフェでのライブはいかがですか?

少し店内を回ってみたんですが、とてもお洒落な雰囲気ですね。今日はボルツォーニの「ファンタジア」を初めて演奏したんですが、バジルやオリーブオイルを思わせるような、いかにもイタリアといった香りの曲で、いつかやりたいと思っていました。このカフェでは、カジュアルなイタリアンの料理を出しているので、ちょうどいいと思ってプログラムに入れました。

インタビュー中の渡辺

インタビュー中の渡辺

――普段はどういった楽曲を演奏されているんでしょう。

これまで、ロマン派の音楽を中心にやってきたのですが、つい3日前に古典派のオーボエ四重奏曲を演奏したところ、好評をいただきまして。実は、僕は古典派の音楽は大嫌いだったんです(笑)。小さい頃、モーツァルトやベートーヴェンを沢山弾かされたもので……。

もちろん今の財産にはなっていますが、古典派というと細かい規則が多く、どうしても枠にはまっていないといけません。しかし、コンサートは好評で、お客様の中には『古典の真髄に近い』とおっしゃってくれた方もいらっしゃいました。自分では、古典派は不得意だと思っていたので、とても意外でしたね。

――自分では気づいていらっしゃらなかった。

おそらく、小さい頃に古典派に触れた経験と自分のアプローチの仕方にあると思います。規則や形式を守りながらも、そうしたものにとらわれたくないという思いで演奏に入ったのが良かったのでは、と。

他者の評価というのは不思議なもので、「自分は古典派が得意だ」と思っている演奏家が、むしろロマン派の演奏で評価される、ということもある世界です。これからは「古典派の方もどんどんやってみたい」と思いました!

渡辺克也(オーボエ)

渡辺克也(オーボエ)

昨年7月には、アルバム『Pastrale』をリリースした渡辺克也。新たな分野に挑戦しながら、国際的な活躍を続ける渡辺の今後の動向をチェックしたい。

毎週日曜日、午後の昼下がりに渋谷のカフェでおこなわれる『サンデー・ブランチ・クラシック』。ぜひ一度足を運んでほしい。

サンデー・ブランチ・クラシック情報
3月19日
松田理奈/ヴァイオリン&中野翔太/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円

3月26日
ピーノ松谷/バリトン
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
4月2日
鈴木舞/ヴァイオリン&實川風/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円

4月9日
小野明子/ヴァイオリン&益田正洋/クラシックギター
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
 
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html​
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