刈馬演劇設計社が挑む! 三好十郎の戦後戯曲『胎内』2バージョン上演 刈馬カオスに聞く

インタビュー
舞台
2017.3.22
 刈馬演劇設計社『胎内』チラシ表裏面

刈馬演劇設計社『胎内』チラシ表裏面


ストレートとカオス・ハイミックス、どっちも気になる刈馬版『胎内』とは?

昭和初期から終戦後にかけて、プロレタリア劇作家として活動した三好十郎(1902-1958年)。その劇作のひとつで1949年に書かれた『胎内』に、刈馬演劇設計社が挑む。代表で劇作家・演出家の刈馬カオスは、今作で上演台本と演出を担当。3月23日(木)~26日(日)まで、名古屋の「七ツ寺共同スタジオ」にて上演する。

『廃墟』『その人を知らず』と並び、三好十郎の“戦後三部作”のひとつと呼ばれる『胎内』は、終戦の2年後が舞台だ。汚職事件に関わった闇ブローカーの花岡と、その愛人・村子、そして彼らが逃亡のため潜んだ防空壕跡の先客でこの洞窟を掘ったという復員兵・佐山。地震による山崩れによって閉じ込められた三人は、酸素が失われていく極限状態の中で生を渇望し、激しくぶつかり合う。

この三人芝居を、【カルマ・ストレートver.】と、6名のアンサンブルキャストを加えた【カオス・ハイミックスver.】と称した2バージョン完全Wキャストで展開するのに加え、【カオス・ハイミックスver.】では、共同演出に招いたダンサーで振付家の堀江善弘(afterimage/【exit】)がアンサンブルキャストの動作を演出するという試みも行っている。

敗戦直後の日本社会の混沌や問題、濃密な人間関係などが饒舌に語られるこの戯曲を、刈馬はなぜ今選んだのか、また、2つのバージョンで上演を行う意図などを伺いに、稽古場へ足を運んだ。

【カルマ・ストレートver.】稽古風景より

【カルマ・ストレートver.】稽古風景より

── 今回はなぜ三好十郎の『胎内』を上演しようと思われたんでしょう。

劇作家協会新人戯曲賞をいただいて(2013年『クラッシュ・ワルツ』で受賞)、それから新作を何本か書いて、自分の脚本のクオリティを保つということをかなり大事に活動していたんですけども、コンスタントにある一定の水準は出せるようになったなという思いがありまして。じゃあ、次のステップは何だろう?と考えた時に、演出力を高めなくちゃいけないと思いまして、そのためには自分の脚本だと、どうしても自分の頭の中にあるイメージに役者に近づいてもらうという風になってしまうものですから、フラットな状態で役者と向き合いたいということから既成の台本をやろうと。で、既成の台本をやるんだったら、ちょっとハードルが高い方がいいなと思ったんです。いろんなハードルがあると思うんですけども、ひとつには自分の生きている現代とは違う時代ー近代の戯曲に挑戦してみようと思いました。いろんな戯曲があるわけですけども、『胎内』は防空壕跡に閉じ込めらるという極限状態の人間模様で、そこから閉じ込められている世界や日本を映し出すという構造なんですね。それは僕自身が戯曲を書く上で、あるシビアなシチュエーションでの人間関係や、ワンシチュエーションでも部屋の外にある日本をそこから書けないか、ということを狙って書いてるものですから、そういう点で『胎内』は自分の作風と通づるものがあるので、これを演出することは脚本家としての自分のその後の活動に活きるのではないかという思いもあって選びました。

── 実際に上演されたものはご覧になっているんですか?

今回の公演がほぼ決まる頃に、鈴木勝秀さんが演出された舞台(2005年上演)はDVDで観て、「あ、やっぱり真っ暗じゃないんだな」と。本当に三好十郎が書いた通りにやると、ほぼ全編明かりがないみたいな感じになってしまうのでどうなってしまうんだろうと。

── 私もあの舞台を拝見して、言葉遣いがとても魅力的だなと思ったんですが、刈馬さんはどんな風に思われましたか?

いやもう、演出していてとにかく言葉の強度がものすごいと。特にやっぱり三好十郎自身が考えてること、戦争に対してどう思ってるのかっていうものが終盤にかなり怒涛のごとく書かれていて、それは一世一代の言葉だなという風に思うので、それをとにかくどう役者の身体を通じて舞台に乗せられるだろうかということは結構役者にも注文はしてるんですけども、今回の作品を創る上でも重要なテーマになっています。

【カルマ・ストレートver.】稽古風景より

【カルマ・ストレートver.】稽古風景より

── 今回は【カルマ・ストレートver.】と【カオス・ハイミックスver.】の2バージョンで上演されますが、上演台本は別なんですか?

ほとんど同じです。上演台本という風にクレジットをしているんですが、ほとんどカットのみで、現代の言葉遣いにしたりとかは一切していないし、ほぼ書き足しもないです。編集作業のような意味で上演台本というクレジットにさせていただいています。

── では、終戦2年後という時代背景もそのままなんですね。

【ストレートver.】の方はできるだけ原作通りにしようということで。主にビジュアル面ですけど、【ハイミックスver.】の方は「現代的な衣装の方が好ましい」という風に衣装さんには注文してます。でも、設定が現代になっているわけではないです。コンセプトとしては、【ストレートver.】は僕らがその時代に近づいていく、【ハイミックスver.】は僕らの時代に戯曲を近づける、ということです。昭和24年に書かれた話ですけど、68年経った今の時代が抱えているものも感じるものですから、ただただ当時の世相に合わせていくだけではなくて、こっちの世相に近づけても充分耐えうる強度を持った戯曲だと思うので、2バージョンやろうと思ったんです。

── そういう意図で2バージョンにされたんですね。

そうですね。やっぱりストレートに真っ向勝負でやってみたかったのと、真っ先に考えたのが、【ハイミックスver.】の大きな演出があって、それを試したいっていう思いがどうしてもあって。でもそれは【ストレートver.】には不必要な演出だったものですから、どうしようかなと思った時に、じゃあ2バージョンにしようと。

── その、大きな演出というのは?

〈酸素が無くなって苦しくなってきた〉っていう状況を、【ストレートver.】では役者の演技を通じて酸素の無い状態を作り出す。暑いとか寒いとかもそういうことですよね。つまり“見えないものを感じさせる”っていうことをやっています。【ハイミックスver.】に於いては、その状況を可視化させられないだろうか、と考えたんです。

【カオス・ハイミックスver.】稽古風景より

【カオス・ハイミックスver.】稽古風景より

── 具体的な方法は、上演を観てのお楽しみですね。今回、ダンサーで振付家の堀江善弘さんが共同演出で参加されていますが、アンサンブルキャストの方達はダンス表現をするということなんでしょうか。

最初に彼に注文したのが、「ダンスは踊らせないで」と。特に小劇場演劇におけるオープニングダンスが僕は大嫌いですっていう話をして(笑)。とにかく動き、何か動くとか呼吸だとかっていうことを中心に彼には演出してもらっています。なので、洞窟内で三人が何か不気味な感覚を持って不安になったり、どんどん錯乱していったりする時に、【ストレートver.】の場合は何かを感じてフッと振り返ったりするようなところを、【ハイミックスver.】では、アンサンブルが実際にメインキャストに触ったりします。要するに何か見えないものを見せるっていうことですね。あとは余計なことをしよう、っていう。こんなことしなくてもこの戯曲は充分面白いんだ、ってお叱りを受けてもいいようなことを挑戦してみようっていうのが【ハイミックスver.】のコンセプトですね。

── キャスティングについては、どのように決められたんですか?

村子役が岡本理沙と元山未奈美で、二人とも僕のお芝居によく出てくれているので、この二人がとにかく軸になってほしいということで、まずキャスティングしました。いちじくじゅんさんと中村猿人君は、共に僕のお芝居は3回目の出演ですね。僕も少し彼らのことを知ることができているし、彼らも僕のことを知ることができているので、ちょっと新しいことをやってみようと思える関係として二人をお呼びしまして、今津君とにへいさんが初めてですね。どちらのチームも常連と、最近お付き合いのある方と、初めての方を3人揃えたという感じです。

── 今津さんとにへいさん、お二人と今回一緒にやってみようと思われたのは?

にへいさんは、前から一度ご一緒したいなと思っていて、悪い役をやらせたいと思ってたんですよね。ご本人は結構優しいお芝居を創ったり柔らかいイメージがあるんですけども、悪人の目つきだなと思うので(笑)。今津君は30歳前後の若い男優というのがなかなかいない中で、結構骨太な演技を見せてくれる俳優だと僕は思ってるんですね。時代的なことを考えると、特に元日本兵という役柄ですから、少し骨太なものを感じさせる俳優がほしいなと思って、わりとすんなり今津君の名前は出てきました。

【カオス・ハイミックスver.】稽古風景より

【カオス・ハイミックスver.】稽古風景より

── 両バージョンの顔ぶれとも、タイプがかなり違いますよね。同じ台本のセリフを喋っても見え方が結構変わってくるのかなと。

そうですね。戯曲上の解釈だとか、テンポだとかは言うんですけども、僕の方からバージョンの違いを差別化するようなことはお願いしていなくても、自ずとやっぱり変わってきますね。

── バージョンごとに交互に上演されますが、舞台美術などは同じなんですか?

舞台美術は同じですけど、音響と照明は違います。音響は【ハイミックスver.】はあまり音楽じゃなくていい、っていうのと、ちょっと和を感じさせる音でいわゆるメロディじゃないもの。できるだけ装飾的なものはそぎ落としてほしいと。照明も基本的にはリアリズムに近いところで。僕から言ったのは、【ハイミックスver.】はミラーボールが回ってもいいし、RADWINPSが流れてもいいですよと。

── 見え方としてかなり変わってきそうですね。

相当違いますね。僕自身、稽古をやっててもこんなに違うもんなんだなぁと思いますね。

戦争の傷跡が色濃く残る混沌とした世相、暗がりの洞窟内で死を目前にした緊迫の状況、時に怒声となる強固で濃密なセリフの数々…その重苦しく息詰まる世界観にそれぞれ全身全霊で立ち向かうキャスト陣と、まるで別モノのような2つの表現で名作の舞台化に挑む刈馬演出。これはやはり、両バージョンの違いもぜひ楽しんでみたいもの。尚、【ストレートver.】で村子役を演じる岡本理沙は、日本劇作家協会東海支部が主催する【俳優A賞】受賞後初舞台となるだけに、こちらも要注目だ。

【カルマ・ストレートver.】出演者 左から・岡本理沙、上演台本・演出の刈馬カオス、いちじくじゅん、今津知也

【カルマ・ストレートver.】出演者 左から・岡本理沙、上演台本・演出の刈馬カオス、いちじくじゅん、今津知也

【カオス・ハイミックスver.】出演者 前列左から・元山未奈美、中村猿人、にへいたかひろ アンサンブルキャスト後列左から・森夏音、丹羽美由希、藤井見奈子、高橋佳菜、 養殖うなぎ、古部未悠

【カオス・ハイミックスver.】出演者 前列左から・元山未奈美、中村猿人、にへいたかひろ アンサンブルキャスト後列左から・森夏音、丹羽美由希、藤井見奈子、高橋佳菜、 養殖うなぎ、古部未悠

公演情報
刈馬演劇設計社 PLAN-11『胎内』

■作:三好十郎
■上演台本・演出:刈馬カオス
■カオス・ハイミックスver.共同演出:堀江善弘(afterimage/【exit】)
■出演:カルマストレートver./いちじくじゅん(てんぷくプロ)、岡本理沙(星の女子さん)、今津知也(オレンヂスタ) カオス・ハイミックスver./にへいたかひろ(よこしまブロッコリー)、元山未奈美(演劇組織KIMYO)、中村猿人(劇想からまわりえっちゃん)、高橋佳菜(右脳中島オーボラの本妻)、丹羽美由希、藤井見奈子、古部未悠、森夏音、養殖うなぎ

■日時:2017年3月23日(木)~26日(日)
 カルマ・ストレートver./23日(木)19:30、25日(土)11:00・19:00、26日(日)15:00
 カオス・ハイミックスver./24日(金)15:00・19:30、25日(土)15:00、26日(日)11:00
■会場:七ツ寺共同スタジオ(名古屋市中区大須2-27-20)
■料金:一般2,800円、U-25 2,500円、高校生以下1,500円 2バージョンセット券(限定30枚)一般5,000円、U-25 4,500円、高校生以下2,500円 ※セット券は1名での使用のみ
■問い合わせ:刈馬演劇設計社 090-5620-1693
■公式サイト:https://karumaengeki.wixsite.com/karuma
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