松田理奈(ヴァイオリン)と中野翔太(ピアノ)が織り成す情熱的でモダンな響き

2017.4.4
レポート
クラシック

松田理奈(ヴァイオリン)&中野翔太(ピアノ)

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ヴァイオリンとピアノで紡ぐあたたかなメロディー“サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.3.19ライブレポート

日増しに春らしい気候になってきた3月19日。この日、渋谷・道玄坂のeplus LIVING ROOM CAFE & DININGで行われた『サンデー・ブランチ・クラシック』に、ヴァイオリニストの松田理奈とピアニストの中野翔太が登場した。

13:00の開演時刻に向けて満員の会場は静かに盛り上がっていた。2人が舞台に登場するとともに、早速披露された1曲目は、ラヴェル作曲「ヴァイオリン・ソナタ ト長調より第2楽章」だ。

冒頭では、ヴァイオリンのピッツィカートで刻まれたリズムがピアノに移る。やがてピアノの刻むリズムに乗って、ヴァイオリンが息の長いメロディーを奏でる。作曲当時の流行だったブルースのように、陽気さと哀愁を感じさせる旋律だ。

ジャズを思わせるような、跳ねるようなピアノの伴奏が印象に残る。軽快なピアノと、鋭い高音域のヴァイオリンの対比も鮮烈だ。鋭いピッツィカートの場面では、大きな動きによって視覚的に聴き手を引き込んでいる。

音楽は徐々にテンポを速め、激しい情熱を帯びてくる。2つの楽器が掛け合いながら、時間をかけて少しずつ緊張感を高め、頂点に達すると一転して曲は静かになり、ユーモラスなヴァイオリンのポルタメントで閉じられる。

「ヴァイオリン・ソナタ ト長調より第2楽章」

会場の拍手を受けながら、まず松田が挨拶した。「今日は雰囲気を出そうと思って、靴を履いています(笑)」と、普段のステージでは見られないヒール姿の松田が、早速場を和ませてくれた。

「早速なのですが、今度の演奏会の宣伝をしたいと思います。今日の演奏会に入っているラヴェルやピアソラの曲は、次の4月22日(土)のコンサートの“チラ見せ”でもあります。『全楽章聴いてみたい!』という方は、ぜひお越し下さい」

続いて、松田からバトンタッチされた中野が、「続いては、雰囲気を変えてショパンのピアノ・ソロ曲をお楽しみ頂ければと思います。ショパンの時代は、大きなコンサートホールだけでなく、小さなサロンでも演奏会が行なわれていたそうです。当時のサロンのような素晴らしい会場で、今日ショパンを演奏できるのはとても楽しみです」とコメントしてくれた。

中野翔太

2曲目は、中野のソロによるショパン作曲「バラード第1番」だ。重厚な和音の強奏で、曲が開始する。短めの序奏ののち、悲痛で憂いに満ちたメロディーが提示される。ロマン派の音楽らしく、巧みに緩急をつけ、多様な表情を見せる。テンポを速め、激しく情熱的な演奏を見せたかと思うと、一転して雰囲気を落ち着け、甘美なメロディーを奏でる。メロディーの変奏は続き、活発で軽快な音楽も顔を出す。

音量がピアニッシモに落ちる場面でも、緊張感は継続し、聴衆はじっと聴き入っている。同じ曲の中でも、受ける印象は大きく異なり、対比が鮮やかになされていた。

コーダでは2拍子となり、急速なテンポの激情に溢れた音楽となる。一旦音楽は落ち着くが、再度の強奏によって曲は終わりとなる。

MC中の様子

情感あふれる演奏に、満場の拍手が送られた。松田が再度ステージに上がり、「聴いていてふと思い出したことがあります。あるピアニストと共演したとき言われたのですが、『ピアノとヴァイオリンの音符の比率を数えたら91%:9%だったから、出演料もそれでいい?』と(笑)。確かにピアノの音の数の負担は大きいですよね?」と話し出すと、話を振られた中野が笑って応じる。

「確かに、ピアノの音の数は多いです。でも、鍵盤を叩けば音が出るピアノに比べて、ヴァイオリンは1つの音を出すのがとても難しい楽器ですから……」

2人の軽妙なやりとりで、会場は和やかな雰囲気になった。リラックスしたムードの中、松田が次の曲を紹介してくれた。

「さて、次の2つの曲では、ピアソラの世界観に浸って頂ければと思います。まずは『オブリビオン』を演奏します」

3曲目のピアソラ作曲「オブリビオン」。曲の導入は、印象的なピアノの上昇音型だ。やがて、ヴァイオリンが微かな音から入り、旋律を提示する。哀歌のような、切ない歌心に溢れたメロディーである。静かな雰囲気の曲だが、心の奥底に秘められた情熱も、強く感じさせている。ヴァイオリンの音色は繊細で、弱音でも一筋の絹糸のような持続性と存在感がある。

同一のメロディーが繰り返されていくが、はっきりとしたダイナミクスの変化がつけられ、決して単調になることがない。最後は、2つの楽器がともに冒頭の上昇音型を奏で、曲は消え入るように締めくくられる。

続けて演奏されたのは、ピアソラ作曲「リベルタンゴ」。この日披露されたのは、中野の編曲によるものだ。ピアノで奏でられる序奏は、よく知られた伴奏音型の反復。この日の演奏は、早めのテンポで疾走感を感じさせる。やがて、伴奏に乗ってヴァイオリンの情熱的なメロディーが現れる。2つの楽器の間で、伴奏とメロディーがしばしば交換され、音楽に変化がつく。

曲の持ち味である激しい情念を余すところなく表現する一方、強音でも決して刺々しい音にはならず、美しい音色が保たれている。音楽に合わせたモーションも大きく、視覚的にも魅せる演奏だ。

注目されるのは、中盤以降のピアノ伴奏だ。ジャズやヒップホップの表現も取り入れているそうで、跳ねるような特色のある音型が登場する。そのため、情熱的でありながらジャズ風の軽妙さも加わった、非常に面白い編曲になっている。

終盤、音楽は緊張感を保ちながらも徐々に弱まっていく。ヴァイオリンの音が消え入りそうになったところで、激しいピアノのグリッサンドとともに曲は閉じられる。

カフェにあたたかなメロディーが響く

この日一番の拍手は、しばらくの間なり止むことがなかった。

「今回演奏したのは、実は翔太君の編曲です! 古典的な音楽から、タンゴやジャズなどの活動も多いですよね?」と松田が促すと、中野も応えてコメントする。

「僕は10歳の時にニューヨークのジュリアード音楽院に入学して、ちょうど10年アメリカに住んでいました。住んでいる間、本場のジャズクラブに通ったりして、ジャズなどにも興味を持ちました。ジャズの勉強をしたり、ジャズピアニストと友達になったりして、ちょくちょくそうした分野でも活動しています」

名残惜しいが、続くアンコール曲でコンサートは終わりとなる。アンコール曲も4月の演奏会の曲目、ストラヴィンスキー作曲「イタリア組曲よりガヴォット」。

20世紀の音楽だが、古典派音楽を思わせる優雅なメロディーが特徴の「ガヴォット」。宮廷音楽のように気品があり、伸びやかな演奏が奏でられた。冒頭の旋律は2度変奏され、大きく印象を変える。

ピアノの伴奏がリズミカルな音型に変わると、それに合わせてヴァイオリンの旋律も飛び跳ねるような軽快なものに。続いての変奏は雰囲気を変え、オペラのアリアのような歌心に満ちたメロディーとなった。ピアノ伴奏は対照的に細かい音となり、印象的なグリッサンドの音も時折挟まれる。音楽は古典風に落ち着いた雰囲気のままに終点へ着地した。

ステージの両名に惜しみない拍手が送られ、この日の演奏会は幕を閉じた。

終演後にお客様とのふれあいも


終演後、この日のステージを盛り上げてくれた2人に少しだけお話を伺うことができた。

――お二人とも『サンデー・ブランチ・クラシック』には何度目かの出演となりますが、今日の演奏はいかがでしたか?

松田理奈:今までここに出演したときは、コンチェルトを2曲演奏するなど、思い切った企画が続いていましたので、今回は久しぶりに統一したプログラムの演奏会にしました。この場所は、お客様にリラックスして聴いていただくので、とてもアットホームな空気があります。そうした暖かい空気の中でとても演奏しやすいことを、今日再確認できました。

中野翔太:前回はソロとしてガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』を演奏しました。今回は、当時のサロンと同じような雰囲気の場所で演奏したいと思っていた、ショパンを選曲しました。今回もとてもアットホームな雰囲気で、気持ちよく演奏ができました。

また、今日は学生時代の同級生も来ていて、1歳くらいのお子さんも一緒でした。小さなお子さんとコンサートに行く機会はほとんどありません。『子供と一緒に聴ける場があって良かった』と聞いて、僕も嬉しく思いました。

インタビューに答える中野

――4月22日(土)に控えている演奏会では、ラヴェルやガーシュウィンなど、近現代の作曲家がプログラムに並んでいます。曲目の意図はなんなのでしょうか。

松田:翔太君のアレンジは、オリジナルの和音・和声がすごく格好良いので、ピアソラの編曲版が入っています。また、ピアノ・ソロの「ラプソディ・イン・ブルー」も、一人の聴き手としてすごく楽しみです。純粋に「やりたい!」と思った曲目を入れていて、近年の私の中では珍しい、挑戦的なプログラムです。

中野:「イタリア組曲」などは何度か合奏で練習しています。僕自身は演奏したことのある曲ですが、練習の度に新たな発見があります。特に、プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」は、松田さんは演奏するのが初めてとのことなので、楽しみにしています。
 

――演奏会しかり、今後も様々な活動が続いていくと思います。目標などはありますか?

松田:去年は「こういうプログラムで弾きたい」という内容のものを何度かやらせていただきましたが、今年に関しては前から「新しいことに挑戦したい」と思っていました。ちょうど、今回のような近現代の曲や、室内楽でも多様な編成に参加する機会が多くあるので、一つ一つを丁寧に取り組んでいきたいです。

5月27日(土)には、神奈川県立音楽堂で『オープンシアター2017』という0歳から入場可能なイベントがあります。自身もママとして日々過ごしている中で浮かぶアイディアを活かしつつ、こうした子供向けの活動にも力を入れていきたいです。

中野:最近、演奏だけでなく、演出などもトータルで提供してみたいと考えていて、計画を立てています。「コンサート全体をプロデュースする」と言い換えてもいいでしょう。少しずつ実行したりもしていますが、今後数年はそういったことを目標にしていきたいと思っています。

4月22日 二人の演奏会が開かれる

毎週日曜日、午後の昼下がりに渋谷のカフェでおこなわれる『サンデー・ブランチ・クラシック』。ぜひ一度訪れてみてほしい。

取材・文=三城俊一 撮影=前川 俊幸

出演情報
中野翔太 松田理奈デュオリサイタル

■日程:2017年4月22日(土)
■会場:アートスペース・オー(東京)
東京都町田市小川 2-28-21

■出演
ヴァイオリン:松田理奈
ピアノ:中野翔太

■演奏曲目(予定)
イーゴリ・ストラヴィンスキー :イタリア組曲
エリック・サティ:右や左に見えるもの – 眼鏡なしで
モーリス・ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタ ト長調
ジョージ・ガーシュウィン:
ラプソディ・イン・ブルー(ピアノ・ソロ)
ジョージ・ガーシュウィン:3つのプレリュード
アストル・ピアソラ:オブリビオン
アストル・ピアソラ:リベル・タンゴ
プロコフィエフ:組曲「ロミオとジュリエット」
(編曲:リディア・バイチ&
マティアス・フレッツベルガー)

:全自由席5000円
■電話予約:Tel.042-796-3971 (水曜休) 
■メール予約:ohashi@artspace-oh.com

■会場URL:http://www.artspace-oh.com

 

サンデー・ブランチ・クラシック情報
4月9日
小野明子/ヴァイオリン&益田正洋/クラシックギター
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
 
4月16日
尾崎未空/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円

4月23日

阪田 知樹/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: \500

■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html​
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