悪い芝居『罠々』 石塚朱莉(NMB48)&山崎彬にWインタビュー

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左:石塚朱莉(NMB48) 右:山崎彬(悪い芝居) [撮影]吉永美和子

左:石塚朱莉(NMB48) 右:山崎彬(悪い芝居) [撮影]吉永美和子


「役が付けたアザは勲章です」(石塚)
「アイドルなんて…って偏見がある方が、だまし甲斐があります」(山崎)


大阪のアイドルグループ「NMB48」の“あんちゅ”こと石塚朱莉が、2016年に悪い芝居の『メロメロたち』で舞台初出演&初ヒロインという大役を果たしたのは、アイドルマニアにも演劇ファンにも相当なディープインパクトだっただろう。普段のほがらかな雰囲気とは売って変わり、音楽にすがりながら戦場を駆け回る女子高生・生恥つづきを、神々しいほどの痛々しさで好演。あまりの相性の良さに双方のファンから「ぜひまたタッグを」と望まれていたが、次回作『罠々(ワナワナ)』で早くも再共演が実現した。ということで石塚と、悪い芝居主宰で作・演出の山崎彬の2人に話を聞いてきた。

■石塚さんは本番になるとさらに化ける、魔力がある人です。(山崎)

──まず石塚さんが『メロメロたち』に出ることになった経緯から聞かせてください。

石塚 私が『キスインヘル』(2015年)をたまたま観に行ったのがきっかけです。その日は握手会があったんですけど、お昼が空いてたんですね。そのヒマをどうにかして埋め合わせたいと思って、ネットニュースを調べてこの舞台を見つけて、軽い気持ちで観に行ったらどハマりしました。
山崎 めちゃくちゃな芝居だったんですけどねえ、『キスインヘル』は。
石塚 で、私がその感想をツイートしたら、山崎さんが見つけてくださったんです。
山崎 感想もそうですけど、劇団Tシャツを買って「ぐふふふふ」って言ってる画像も見つけて…(取材の時に着ていた)これがそのTシャツ?
石塚 これです、これ。
山崎 それで向こうから「好き」って言ってくれてるのなら、ダメもとでオファーしてみようかなと思ったんです。その前に石塚さんについてリサーチをしていたら、まとめ動画みたいなのが見つかって、それが結構バカなことばっかりやってて(一同笑)。だから我々の芝居に対しても「面白かったらやりまっせ」ってなる人なんだろうなと思ったんです。それで公式サイトのお問い合わせフォームから申し込んだんですけど、その後はすごくトントン拍子に進みました。
石塚 そのオファーは、すごくビックリしたんですよ。ホンマに好きな劇団やし、いつか悪い芝居に出るというのが夢の一つになっていたので。でも最初は「好きな劇団を、私の手で潰してしまうんじゃないか?」という不安がありました。

──石塚さんはもともと、吉本新喜劇を観て女優を目指していたそうですね。

石塚 そうです。ある日TVで新喜劇を観て「演技で人を楽しませるっていいなあ」と思って。そこからアイドルになって、次に舞台にハマったんです。悪い芝居に会う前には、ヨーロッパ企画さんとかも観に行ってました。
山崎 それで将来的には舞台女優になりたいと言うあんちゅが、初めての舞台で僕らを選んでくれたのが嬉しかったですね。舞台未経験ではあったんですけど、さっき言ったように『キスインヘル』みたいな芝居を観てテンションが上がるような子なら、多分僕が好きなタイプのアホな子やから大丈夫って思ったんです(笑)。で、予想通り大丈夫だった。いや、思ってた以上でした。

悪い芝居『メロメロたち』より(上下とも) [撮影]竹崎博人

悪い芝居『メロメロたち』より(上下とも) [撮影]竹崎博人

──確かに『メロメロたち』の石塚さんは衝撃的でしたね。すごく華があるというか。

山崎 そうそう。華ですよね。
石塚 嬉しいー!
山崎 石塚さんはすごく真っすぐで、いろんな打ち方をしても何かしら返って来る子だから、稽古の段階から面白かったんですよ。それでも「本番ではどうなるか?」という不安があったんですけど、本番ではさらに化ける子だった(笑)。多分観客がいればいるほど、その人たちの生命力を吸い取って自分のエネルギーにする、そういう魔力みたいなのがある人なんだと。僕も同じ舞台に立っていたけど、実際すごく光って見えてましたもん。先日DVDのコメンタリーを撮った時も「何や、この子は?」って一緒に言ってました(笑)。
石塚 「これは私ですか?」って(一同笑)。でも本当に、舞台がこんなに楽しいものだとは思わなかったですね。ライブとは疲れ方が全然違うし、楽しさも違いました。

──出てみて初めてわかった悪い芝居の魅力って、何かありましたか?

石塚 バカに筋道がある、ということですね。普通「バカ」っていうとヘニョヘニョしてるってイメージがあるんですけど、悪い芝居はバカをやるにもちゃんと根拠があり、意図があるんだなって。そのバカに至るまでの筋道を体験してみると、これは心に突き刺さる作品ができるはずだと思ったし、同時に「これが演劇というものか!」とも思いました。
山崎 すごくバカでデタラメな芝居をしてるけど、意外とちゃんと稽古するんですよ、僕ら。「そこで変な動きをすることに今のままでは説得力がないから、考えてやってもらっていい?」みたいな感じで(笑)。やっぱり演劇って稽古でも本番でも、生きて死んで生きて死んでってのを何回もやるからこそ、自分なのか役なのかがわからなくなってきて、それによって世界が出来上がるものだと思うんです。

──ただアイドルアイドルしてる時の石塚さんしか見たことなかったファンにとっては、ナイフの切っ先のようなキャラのつづき役は結構ショックだったんじゃないですかね?

石塚 めっちゃ衝撃的だったと思います。「今までの石塚朱莉は何だったんだ?」と、すごく言われましたから(笑)。どれを信じたらいいんだ、どっちを信じたらいいんだ、って。
山崎 最初から、ファンの人に「何てことしてくれたんだ、ありがとうございました!」っていわれるような役にしたいと狙ってたんです(笑)。表面的な部分はTVとかライブとかでも知ることができますし、そもそもアイドルって本当の部分を出さない仕事でもあるから。その部分を稽古で探っていく中で、どんどん役自体が魅力的になっていった感じはありました。今回は、それを一回踏まえての共演ですからね。世の中の人は「もう掘る所ないかな」と思ってるかもしれないけど、今はまた別の所をガシガシ掘らせてもらってます(笑)。


■悪い芝居に出てから、NMBのライブでももっとやり過ぎてもいいかなと。(石塚)

──『罠々』はどういう舞台になりそうですか?

山崎 今までの人生で上手く行かなかったことは、すべて誰かにハメられた罠だと思っている男が主人公です。そいつが10何年も帰ってなかった地元に戻って、久々に会う親友に「自分は罠にハメられている」と言う。ただハメた相手は、言われた親友自身もすぐには理解できないモノで(笑)。この話は僕自身が「長年会ってない地元の友達に会って『罠にハメられている』と言ったら、どういうことが起こるだろう?」と思ったのが、書き始めたきっかけなんです。すごく空白の時間があるからこそ、それまでの間に自分が経験したいろいろなことを元にして、お互いの「思い出にはない思い出」を埋めていこうとするんじゃないかと思って。主人公の男がいかにその親友や周りの人間たちと距離を詰めていって、罠にハメられていることを理解してもらうか…という感じの話です。

──ということは、今回は石塚さんはヒロインではないと。

山崎 メインストーリーとは別の、もう一つの話の中心ですね。今回は物語の幹の周りにある枝をヒョイヒョイと飛んでもらいつつ、演じるのに力がいる役をやってもらいたいと思いました。役柄としては、YouTuberです。
石塚 YouTuberで孤児。
山崎 主人公の地元の街でホームレスに育てられた孤児で、ある男がその子の生活や考え方に興味を持って、YouTubeにその様子を流してる…という。YouTuberを出したいと思ったのは、今の世の中はその人自身の面白いと思うものを、ダイレクトにマスメディアに…しかも世界レベルで発信できるんですよね。おでんを突くみたいな軽犯罪も含めて。そこに面白さを感じたし、これをやらせるとしたらあんちゅかなと思いました。前回の役は、もともとのあんちゅを知ってる人は「えー?」と、知らなかった人は「何だこの子は?!」と思っただろうけど、今回はそれ以上に「あらー?」ってなると思います。

──今その役を演じてみて、感じることとか気をつけてることはあるんですか?

石塚 …愛おしさ、かな? それをすごく意識しています。愛されたいと思ってる子だと思うんですよ。YouTubeというモノを通して、世界とかに愛されたいと。私はめっちゃ人見知りで、ふと自分に戻った時にまったくしゃべれなくなったりすることがあるんですけど、動画を通したら自分を素直に出せるという所があるんですね。その辺りは似ている感じがするし、愛されたいという気持ちも共感できるなあと思います。稽古を重ねているうちに、だんだんその辺りの身が削れていってますねえ。皮もめくれて、身も削れて。
山崎 骨になりつつありますよね。またアザだらけにしてしまうな、膝を。
石塚 いや、私が付けたアザじゃないですから(笑)。その役が付けたアザなので、ミニスカートを履いた時に目立ったとしても、そんなことは私は知らないよと。勲章ですね(笑)。

『罠々』イメージ写真 photo by bozzo

『罠々』イメージ写真 photo by bozzo

山崎 でも人見知りとは関係ないと思うんですけど、あんちゅには何かすごいズーンとした強い芯があるのに、それを開けたり閉じたりしてるので、それをドーン! と開けた所が見たいなあと。その辺りを…ホンマにこの役を通じてだけど、出し惜しみせず出してもらうというのを、今回求めてるんです。でも今の稽古では「多分その方向でいいと思う」っていう感じのものが来ています。

──石塚さんが前回好演したことで「アイドルは可愛いことしかできない」という偏見はかなり打ち破られたと思うし、今回はそこからさらに次の段階に進みそうな気がします。

山崎 でもその「アイドルなんて…」って、誰が言い出したんでしょうね? 僕から言わせると、たくさんの目に触れてきているアイドルの人たちの方が「芝居をする」ってことをわかっている場合も多いと思います。でも逆に、その偏見があってくれた方がだまし甲斐があるというか(笑)。
石塚 私ね、それは思いました。前作に出た時も「アイドルだからしょうもないんでしょ?」って言われるのがメチャクチャ嫌で、それやったら劇団員の人らよりもやってやろう! って思ってやったんです。でも「アイドルの見方が変わった」みたいに言ってくれる人が多かったので、すごく嬉しかったですね。それで視野を広げてもらったら嬉しいし、逆にアイドルのファンの方にも演劇の良さを広めていけたらなあって、すごく思います。
山崎 それはもう、ありますよ。前回の『春よ行くな、』にはあんちゅ出てないのに「あんちゅのファンです」という人が観に来てくれてたし。
石塚 あと男性のファンで『メロメロたち』を観てから、山崎さんがすごく好きになったという方がいるんですよ。昨日まで握手会やったんですけど、その人が「山崎彬」っていうTシャツを作って、それを見せに来てました(一同笑)。
山崎 ちょっとその人、紹介してくださいよ! 全然俺、握手会しますよ(笑)。
石塚 私も悪い芝居きっかけで、NMBのライブとかでももっとはっちゃけようというか、ちょっとやり過ぎな部分を見せてもいいのかなあと思うようになりました。だからやり過ぎるようにしています(笑)。
山崎 じゃあ、他のアイドルならできないようなギャグとかも…。
石塚 やっちゃえますよ、全然。

──この公演の自分なりの見どころとか、期待してほしい点とかはありますか?

石塚 汚れた…というか、この公演で見せる私の新しい顔を見てほしいですし、それを笑ってほしいですね。そしてもっともっと好きになってほしいです、演劇も、アイドルも。
山崎 最近バンドを入れた芝居が続いていたんですけど、今回はそうじゃなくて、空っぽの舞台で役者の身体と存在だけで物語を紡いでいくという演出になっています。そういう意味では「あー、演劇観たなあ」という気分になってもらえるんじゃないかと。僕自身は日常をホッと忘れられるような作品よりも、ことあるごとに劇場での体験をふと思い出しちゃうみたいな作品を作っていきたいんです。昨日稽古で前半部分を通したんですけど、本当に「何を観たのかわからんけど面白い」みたいな感じになってたので、多分楽しんでもらえるとは思います。芝居の冒頭から…いや、劇場に入った時点から「こんなの観たことない」って思うかもしれない(笑)。
石塚 「何じゃこれ?」って。確かに観たことがないし、わけわかんない芝居ですよね、今のところ。
山崎 「観たことがないものが始まります」ってことに注目してほしいです。観たことがないあんちゅと、観たことがない芝居を。

[撮影]吉永美和子

[撮影]吉永美和子

公演情報
悪い芝居vol.19『罠々』
 
《大阪公演》
■日程:2017年4月8日(土)~16日(日)
■会場:HEP HALL
 
《東京公演》
■日程:2017年4月18日(火)~23日(日)
■会場:東京芸術劇場 シアターウエスト
 
■作・演出・出演:山崎彬
■音楽:岡田太郎
■出演:渡邊りょう、野村麻衣、植田順平、中西柚貴、北岸淳生、畑中華香、長南洸生、東直輝、川人早貴、松尾佑一郎/石塚朱莉(NMB48)、緒方晋(The Stone Age) 
■公演特設サイト:http://waruishibai.jp/wannawana/main.html

 
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