『けものフレンズ』のヒューマニズムを超えた動物愛

2017.3.31
コラム
アニメ/ゲーム

『けものフレンズ』公式サイトより

2017年の冬アニメ最大の話題作となった「けものフレンズ」がついに最終回を迎えた。放送前には、これほど話題になることを誰も予想していなかっだろう。深夜アニメは以外なところからヒット作が生まれる土壌があるが、低予算でもチャレンジングな企画を実現できる土壌と目の肥えたファンがいる証左だろう。頼もしいことだ。

けものフレンズ」旋風を支えたのは、魅力的なキャラクターと牧歌的で平和、だけどどこか不穏な空気が漂う世界観と、その不穏さにまつわる多くの謎を巧妙に配置した点にある。こうした仕掛けがいわゆる考察班の深読み合戦を生み、多くの意見がかわされることによって、口コミが加速していった。

謎だらけの世界の物語は、ともすればわかりづらくなり、視聴者が離れてしまうこともあるが、本作の場合は世界は謎だらけでも、主人公たちの動機と目的がシンプルでハッキリしており、主人公の存在と行動が次第に舞台となるじゃぱりぱーくの謎に絡んでいくことにより、主人公たちと一緒にハラハラドキドキできるよう、シリーズ構成と脚本が非常に巧みに組み立てられている。

動物を知ってほしいから擬人化する

OPの歌詞の一部「ドッタンバッタン大騒ぎ」や、主要キャラたちの「たーのしー」などの明るいセリフに代表されるような、ほんぼのとした描写と、緻密に設計された、シビアさも含む世界観。それらとともに本作の大きな魅力となっているのは、単なる動物の擬人化にとどまらない、元ネタの動物の生態をも取り込んだキャラ設定だ。

本作の擬人化されたキャラたちは、「フレンズ」と呼ばれ、彼女らは動物がサンドスターという謎の物体の影響によってヒト化したものであるという設定だが、きちんとそれぞれの種の習性を引き継いでいる点が何より素晴らしい。例えば、メインキャラクターのサーバルちゃんが車に轢かれるシーンがあるが、実際にサーバルキャットは車に轢かれることが多い動物だという。本作は随所にそうした小ネタが散りばめられていて、作中の描写から動物への習性にとても興味を持った視聴者も多いだろう。

動物の擬人化自体は珍しくないが、元ネタの動物への興味、関心をも高めるように工夫されている作品となるとそうはお目にかかれない。例えばディズニーの「ズートピア」は、人間社会の差別や偏見を克服する物語を擬人化して描いた優れた作品だったが、主人公のジュディをかわいいと思う人は多いだろうが、ウサギそのものへの興味をどれだけ喚起できているだろうか。

コンセプトおデザインの吉崎観音氏もインタビューで、「動物こそが原作者」と語っているが、その動物への愛情がひしひしと感じられるのも、本作を特別なものにしている。「ズートピア」は典型的だが、人間社会のあれこれやヒューマニズムを描くために擬人化という手法が用いられることは結構多い。しかし、本作は動物の魅力を伝えるためにこそ擬人化を用いた。

先のインタビューでも吉崎氏が、

描き終えるころにはその動物のことがすっかり好きになっていて。そういう作業を繰り返してから改めて取材で動物園に行くと、これまで素通りしていたような動物たちがみんな大スターに見えるんです」

と語っている通り、この地球にはこんなに面白い特徴を持った動物たちが共存しているんだということに気づかせてくれる作品なのである。そしてかばんちゃんという「ヒトのフレンズ」が、フレンズたちと共存する楽しい冒険を通じて、動物たちとのふれあい、共生することの素晴らしさを伝えている。その意味で本作は単なるヒューマニズムよりも広い視座に立った作品と言える。

動物と対等の目線を持つことの素晴らしさ

かばんちゃんは多くのことをフレンズから学び、その知性によって問題を解決していく。フレンズの個性とヒトの個性である知恵をともに活用することで、困難を突破していくというシナリオの展開方法が秀逸だ。ヒトは他の動物に比べて上位種だなどという傲慢さは皆無だ。

作中の描写でも巧みなのが、人間目線と同時に動物目線で世界がどう見えるかをも考えて作られている点だ。プロデューサーの福原慶匡氏もインタビューで語るような、

例えば、スナネコが出てきた第4話でも、人間が砂漠を見たら普通は「何もないね」と言うところを、サーバルは「砂がたくさんあるね」と言ったり。

というような、見る人の視野を広げる工夫も随所に見られる。こうした描写の積み重ねが動物への理解を生むし、見る人へ新鮮な感覚を吹かせてくれる。

そして、本作には珍しい動物のフレンズが多く登場するが、中には絶滅種・絶滅危惧種も登場する(目にハイライトがないというデザイン上の仕掛けがしてあり、手が込んでいる)。先に本作は、元ネタの動物たちへの興味を喚起すると書いたが、本作の楽しげなフレンズとの交流は、現実ではすでに実現不可能なものもある。そのことに気づくととても哀しい気分になるのだが、だからこそ、かばんちゃんが、フレンズたちと対等に共生できていることの素晴らしさが余計に心に沁みてくる。

そう、対等に生きていることが重要だ。決して上から目線の保護や愛護を訴えていない。人間も他の動物も同じ生き物で、当たり前のように仲よくできたらいいのにね、というシンプルで豊かな感受性で本作は溢れている。深夜アニメにしておくだけなのは、本当に勿体無い。小さな子どもたちにも是非見てほしい作品だ。

けものフレンズ

 原作:けものフレンズプロジェクト
 監督:たつき
 シリーズ構成・脚本:田辺茂範
 コンセプトデザイン:吉崎観音
 音響監督:阿部信行
 作画監督:伊佐佳久
 美術監督:白水優子
 音楽:立山秋航
 アニメーション制作:ヤオヨロズ
 キャスト:内田彩、尾崎由香、本宮佳奈、小野早稀、佐々木未来、根本流風、
 田村響華、相羽あいな、築田行子 他