関取花、様々な“決まり手”で楽しませたツアー『君によく似た人がいる』東京公演をレポート
関取花 “君によく似た人がいる” ツアー 2017.3.25 渋谷WWW
「ひがみソングの女王」と呼ばれ注目、また芸人も顔負けのユーモラスなトーク・センスで、現在メディアやSNSを騒がせている女性シンガーソングライター、関取花。今年2月にリリースされたアルバム『君によく似た人がいる』の東京公演が、3月25日渋谷WWWにて開催された。
は発売と同時にソールドアウトしたということもあって、会場には子どもからお年寄りまで入りきらないほどの観客で溢れかえっていて、そのサウンドやキャラクターが、世代を超えて支持されていることを示していた。そこに、相撲太鼓(相撲中継の最初と最後に流れるBGM)をバックに、彼女が満面も笑顔を浮かべて土俵入り、ならぬステージに登場。最新アルバムの冒頭に収録されている「この海を越えて行け」を弾き語りで披露し始める。メディアなどを通じて見る彼女は人懐こい印象であるが、アコースティックギターを弾きながら歌い出した瞬間に響く、透き通った伸びやかな声に、思わず息をするのも忘れるほど、ハッとさせられた。その後、キーボードの谷口雄、ベースのガリバー鈴木、ドラムの神谷洵平に、john*(John John Festival)のフィドルも加わり、海を渡る鳥になった気分にさせるような壮大なサウンドへと展開していく。その世界観に、観客の誰もが魅せられていた様子だった。
以降も最新アルバムの収録曲を中心に、時には謎の「ジャーマン・レゲエ」調にアレンジし直したという「ラッターネ」(2012年発売作『中くらいの話』に収録)、エキサイティングなバンド・セッションを披露した「だからベイビー」(2014年発表作『いざ行かん』に収録)など数々の楽曲を、広島に行った時に経験した謎のお色気マッサージ店のことや、冷凍チャーハンを温めずにそのまま食べてしまうほどの自堕落な日常、さらに見知らぬ人と相席ができる居酒屋に友人と行こうと計画している話など、落語家のように軽妙なトークを織り交ぜながら披露。会場の空気をさらに暖かなものにしていった。
そして「ひがみソング」と呼ばれ、話題沸騰の楽曲「べつに」を披露すると、会場からは、日常のやりきれない思いをすべて込めているような、拍手や歓声が轟くように。他のライヴ会場にはないような不思議な一体感が生まれていったのだった。またそんな観客の心を、そっと包み込むかのように歌っている彼女の表情も印象に残っている。
パフォーマンスの前半から中盤にかけては、ほのぼのとまたあっけらかんと自分のことをユーモラスに語る彼女であるが、終盤になるに従い、そういう部分ではない姿を見せる場面も。特に、手の故障でしばらくギターを弾くことができなくなったものの、どうしても歌いたいという気持ちから完成させたという、最新作に収録の「僕らの口癖」をピアノの弾き語りで披露した際は<音楽を純粋に作り続けたい>というオーラが伝わってきて突き倒された、もとい圧倒されたというか。空から音楽の天使が舞い降りてきたような、特別な瞬間を味わえた気分になれたのだ。
また本編ラストには、シンガーソングライターのReiがギタリストとして登場。彼女やハマ・オカモト(OKAMOTO’S)がレコーディングに参加し、関取自身が「最新作の中で最も思い入れの強い楽曲」という「平凡な日々」と「もしも僕に」を披露。ここでも彼女の力強いシコ、いや音楽への愛がズシンと心に響いた。
アンコールでは、「ここで盛り上がるかどうか次第で、打ち上げのテンションが変わる」と、観客に対して軽いプレッシャーをかけながら、最新作収録の「黄金の海で逢えたなら」などの、盛り上がるナンバーを披露。結果、これまで以上に歓声や手拍子が響き渡り「打ち上げは黄金の海(ビール)に飛び込める!」と語っていた。そしてステージ最後には「本当に今日は楽しかったです!」と叫び、押し出しポーズをきめて、ステージを充実した笑顔を浮かべ去っていったのである。
音楽とトークを絶妙なバランスで展開、笑い、感動(お色気も?)、さまざまな「決まり手」で、観客を大いに楽しませてくれた2時間半に及んだステージ。終演後には、ポワーンとした興奮や幸福感が会場を包んでいたのだった。
Text by 松永尚久 Photo by Kayoko Yamamoto