結成10周年を記念して全国ツアーをおこなうマームとジプシー主宰・藤田貴大にインタビュー
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藤田貴大(撮影:荒川潤)
重要なシーンやセリフを、角度を変えて何度も反復、リフレインさせて印象づけていくというスタイルで、演劇という意味でも、身体表現、パフォーマンスという意味でも注目されてきたマームとジプシー。彼らが結成10周年という節目を迎えた今年の夏、全6都市を巡る大規模なツアーを行うことになった。過去作品から3作ずつを再編集した3作品に、『あっこのはなし』を加えた計4作品を同時期にさまざまな組み合わせで上演するという画期的な公演となる。脚本、演出を手がける主宰の藤田貴大に、ツアーで上演する作品のこと、結成10周年への想いなどを語ってもらった。
『クラゲノココロ モモノパノラマ ヒダリメノヒダ』撮影|三田村 亮
――この10年、早かったですか、長かったですか。
長かった気もします(笑)。でも、実は10年も続けられるとは思っていなかったです。マームとジプシーの結成は2007年で、当時僕は大学4年生。そのまま演劇を続けるのかどうか悩んでいる時でしたし、これで食っていけるとも思っていませんでしたから。それがまさか10年も続くなんて、驚きです。
――なぜ続けられたと思われますか。
いろいろなタイミングが良かったんじゃないでしょうか。賞をいただいたり(2011年に岸田國士戯曲賞、2016年読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞)、いろいろな方とコラボレーションしていただいたりして、大きい劇場に規模を広げていった時もあまり無理することなく行けたように思いますしね。普通はそういう時にスタッフと離れざるを得ないことが出てきたりもすると思うんですが、僕らはそういうこともなく、規模が大きくなってもクリアしていけたので。周りに、タフな人がすごくいっぱいいた気がします。
――タフな人、ですか?
スタッフさんも役者のみんなも、こうして僕にずっと付き合ってくれる人がたくさんいたからこそ、続けられたんだろうと思います。自然と残った人たちとやっているとも言えるんですけど。いろいろありましたけど、ここまでやってこられたのは、僕のテンポにみんながついてきてくれたからだと思っているので、その点は本当にメンバーに感謝しています。
『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、 そこ、きっと──────』撮影|橋本倫史
――そして今回の10周年のツアーでは、10作品を選び、それを4つの公演に再構成して、さまざまな組み合わせで上演するという面白いスタイルの公演ですね。これまでの作品群のなかから、この10本を選んだというのはどういう狙いだったんですか。
まず、『夜、さよなら』『夜が明けないまま、朝』『Kと真夜中のほとりで』の“夜”3作と、『クラゲノココロ』『モモノパノラマ』『ヒダリメノヒダ』の“カタカナタイトル”3作は、2016年に彩の国さいたま芸術劇場でリクリエーション(再創造)したものです。それに加えて、岸田戯曲賞をいただいた作品でもある『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっとーーーーー』をツアーに持っていこうと思ったのは、これらは僕が18歳まで育った町をモデルに、自分自身で書き直して語っているということが共通点なんですね。でも結局、ひとつの作品で自分のことを全部語れるわけではなくて。
夜、という時間を或る作品では描いたけど、家で過ごしていた時間についてはこちらでは描けていないとか、この作品では飼い猫のことは描けないので、違う作品で改めて描こうとか。そうやって自分のことをどう描いていこうとさまよいながら、20代の時に作った作品ばかりなんです。
それは作家だからとかアーティストだからということではなく、誰でも振り返ればきっと20代って、それまでの自分と今の自分をどうやって把握するか考える時期だとも思う。ま、30代になっても僕はまだそれをやり続けている気もしますが(笑)、でも20代はもっと必死にやっていた気がするんです。親との関係はどうだったっけとか、その町でどう過ごしていたかということを時間をかけて考えながら作品にしていっていた。そう考えると、やはりこの10年は自分というものをどう把握するか模索し続けてきた10年間だったと思いますね。だいたいマームとジプシーという名前をつけたのも、最初から旅公演をしたいと考えていたからですし。
――そうだったんですか。
というのは、10代の頃から僕は演劇をやっていたんですが、やっぱり北海道の地方の町に住んでいると演劇作品を満足に観ることって叶わないじゃないですか。
『夜、さよなら 夜が明けないまま、朝 K と真夜中のほとりで』撮影|細野晋司
――ナマの舞台を観ることはなかなか機会が少ないかもしれないですね。
それがコンプレックスで。おそらく東京に住む同年代の子たちは四六時中、演劇が観られるんだと思って、嫉妬していました。実際に上京してみたら、同年代の子たちも僕と同じくらいしか演劇を観てはいなかったんですけどね。だけどやっぱりその頃の悶々とした自分、もっと何かを観たいと欲求を高めていた自分はいまだに残っているので、その頃の自分に見せに行くような感覚はずっと忘れたくないという想いがあるんです。それでジプシー、旅をしていくという言葉をつけたかったんですね。これまでもそれは実行してきたつもりですが、でもやっぱり地方との出会い方ってすごく難しくて。東京で演劇を観る感じよりも、地方の人の場合はひとつひとつの観劇にどうしても慎重になってしまう。1回の観劇に、今回だったら3000円か4000円を払っていただくわけですが、やっぱり消えてなくなる媒体にそれだけのお金を払うということってすごいことで。たとえば手元に残るCDを買うことよりも、かなり難易度が高いんですよ。
――なるほど、そうですね。
そして一度足を運んで、「あ、こういう感じなのね」と去っていく人もいればとても感激してくれる人もいるんだけど、またその人たちに別の作品を観ていただくのは、どうしても何年か後になってしまう。
――毎年、その土地に行けることのほうが少ないから。
だから、もし観たいと思ってもなかなか観られない人たちがいるところに、たった1本の作品だけを持っていくというシステムがちょっと腑に落ちなくなってきたんです。そこに、さっきも言いましたけど作家の欲求としては1本の作品を描いたことによって自分の全部を描けたわけではないという想いがあるから、だったら何作品か持って行って自由に選んでみてくださいというスタイルが地方でもできたらいいなと思ったわけです。何作か観ていただいたら、きっと1本だけ観た時とは後味が違ってくるはずですし。こういうことも考えているんだ、こういう角度でもその町を見つめているんだみたいなことを、味わってみていただきたいんです。
――そのチャンスを持ってきましたよ、ということですね。
そうです。それをやることで、ますますわからなくなるのか、すごく理解を深めていくのか、それはどちらでもいいんだけど、とにかくそういうことを一回、この10周年のタイミングでしてみたかったというのが今回の企画なんです。たとえば今回の舞台装置は、たぶんひとつの同じ正方形の舞台になるんですが、それに盆(廻り舞台)がついたり、まったくの素舞台だったり、窓枠みたいなものが出てくるだけだったり。基本的に僕の空間のとらえ方というのは、舞台セットを大掛かりに変えていくというよりは素舞台がベースで、そこにたまたま廻る床がついたり窓枠がつく。でもそれだけでこんなにも作品のニュアンスが変わるんだよということも、見てほしいんですよね。つまり内容をというよりは、演劇というスタイル自体を体験してもらいたかったりもするので。
『あっこのはなし』撮影|橋本倫史
――その、先程の3作品と、もう1本の『あっこのはなし』は、また違う味わいの作品かと思いますが。
はい。その3作品は自分のパーソナルな話がモチーフになっているんですが、『あっこのはなし』は30代の女性をメインに描いている作品なので。さっきから10代とか20代という言葉を出していましたが、今年の4月で僕は32歳になりました。そういう30代の僕という現在地を、『あっこのはなし』では描きたいなと思っていて。パーソナルな話だと記憶の話になるのでノスタルジックなニュアンスが出てきて、ちょっとナルシシズムも入るじゃないですか。でも『あっこのはなし』は、そういう風には着飾っていない作品なんです。だからこそ、この1本も一緒にツアーに組み込むことがすごく重要だった。これがあることで現実感が切り離されないと思うので、そういう意味でもすごく大切なピースなんです。
――今回のツアーは、以前からマームとジプシーのことは気になっていたんだけど……というような初心者の方も足を運びやすい機会になるかもしれないですよね。
そうですね。まあ、どんな演劇でも敷居が高いと感じてしまうものかもしれないんですが、たとえば僕の作品の場合は、演劇だけを見る時間ではないんです。衣服を見る時間でもあるし、音楽を聴く時間ということでもある。たとえば『クラゲノココロ』だったら、ドラムの山本達久さんが音楽を担当してくれていたり。『ΛΛΛ(ラムダ)~』だったらシンガーソングライターの石橋英子さんが音楽を担当してくれることが決まっています。そうやって演劇以外のいろいろな入口が僕の作品にはあるので、そこをきっかけに選んでくれてもいいと思うんです。そうして演劇に興味なかった人が、演劇にちょっと興味が持ってくれればバンバンザイですしね。
――今回、藤田さん個人としては、どんなことが一番の楽しみですか。
旅公演もそうですけど、これらの作品をもう一回描き直して全部カッコよくしていくことが楽しみです。いい作品になるのは決まっているので、それを今の自分のスキルで、きちんと演出できたらと思います。演出の趣味とか、今、好きなこと、好きな配置とか人がどう動くかっていうのも、自分自身を振り返ると数カ月単位で変わっているんですよね。そこは斜めには動いてほしくないなとか、縦と横が今はカッコイイなとか。そういう、自分の中のチューニングの合わせ方も、僕の場合は特にコロコロ変わるほうなので。作品を新しく編集し直す時って、過去の自分に対してダメ出しをするところから始まるので、それもまたすごく楽しみです。昔、一生懸命聴いていた音楽でも、時間が経つと全然聴かなくなることってあるじゃないですか。洋服にしても好みが変わったりする、それと同じような感覚がたぶん演劇にもあると思うんですよ。その感覚をうまい具合に、今回の演出に生かせていけたらいいなと思っています。
藤田貴大(撮影:荒川潤)
取材・文=田中里津子
■日程:2017/7/7(金)~2017/7/30(日)
■作・演出:藤田貴大
■演目:
Ⅰ『クラゲノココロ』『モモノパノラマ』『ヒダリメノヒダ』
Ⅱ『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと――――――』
Ⅲ『夜、さよなら』『夜が明けないまま、朝』『Kと真夜中のほとりで』
Ⅳ『あっこのはなし』
■公式サイト
・マームとジプシー http://mum-gypsy.com/
・彩の国さいたま芸術劇場 http://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/3675
上演予定作品:Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ
2017年8月16日(水)19日(土)20日(日)札幌市教育文化会館
上演予定作品:Ⅰ、Ⅱ
2017年9月2日(土)3日(日)北九州芸術劇場
上演予定作品:Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ
2017年9月8日(金)~10日(日)穂の国とよはし芸術劇場PLAT
上演予定作品:Ⅱ、Ⅳ
2017年9月13(水)16日(土)17日(日)AI・HALL 伊丹市立演劇ホール
■会場:彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO(大稽古場)
■日程:2017年7月27日(木)~30日(日)
■公式サイト:http://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/4027