柄本明「魔がさした」とにやり、劇団東京乾電池が劇団創立40周年プラス1公演で明治座初登場
-
ポスト -
シェア - 送る
柄本明
チェーホフとシェークスピアの笑撃作で大劇場に挑む
劇団東京乾電池が商業演劇のメッカ、明治座に初めて登場する。演目は、柄本明の一人芝居『煙草の害について』(アントン・チェーホフ作)と、劇団員総出演の『夏の夜の夢』(ウィリアム・シェイクスピア作)。劇団を挙げて大劇場に乗り込むが、座長の柄本はいつも通り。「何が生まれるかやってみないとわからないから、やってみる」とひょうひょうと語る。昨年、劇団創立40周年を迎え、やわらかにマイペースに演劇を続ける柄本に聞いた。
――そもそも東京乾電池がなぜ明治座登場となったのでしょうか?
なんでやることになっちゃったんだろうね? お話を頂くのはありがたいのですが、なんていうんですが、魔がさしたというか、そういった場所で、やるとどうなるのかなというのが自分の中であったんですかね? 「いいんじゃない」って言っちゃたんです。後になってどうやりゃいいのかと……。うちのアトリエだったら50人とかですから、どういうことになるのか(明治座は約1400席)。本当に明治座の方の、その発想に感服しますね。
――演目はどう決めたのですか。
『夏の夜の夢』は妖精役に何人も出せるからと。劇団の子がたくさん出られますからね。昨年は沖縄で、一昨年は野外のテント劇場でも上演したことがあるんです。いわゆる明治座仕様でやってもしようがないとは思いつつ、だからといってせっかく明治座でやるのですから花道は使わせてもらいたいですね。どういう風になるのか分からないですが、いろいろと(演出の構想が)めぐっています。『煙草の害については』は、野外でもやったなあ。ただ、明治座だとね、どうなるのかね(笑)。
――今回の2作はどちらも笑いが盛り込まれています。東京乾電池に笑いは欠かせないと思いますが、笑いについてはどう考えていますか?
一番、怖い質問ですね。バナナの皮で滑って転べたらいいのでしょうけど。何でしょうね? 僕が知りたいですね。『煙草の害について』も、なんか(主人公が)可哀想ですよね? というのは、可哀想とか悲しいとか、この人大変だなっていうようなことって、笑いながら話しません? 笑いというのは角度を変えることによって生まれる。例えば、終電に狂ったように走ってきた人がいて、その目の前でドアが閉まっちゃうのを見たら、ものすごく笑えるでしょう。終電間近の改札口の横で見つめ合っている男女とかも、なんか笑いませんか? その人たちは別に笑わそうとしているわけではない。どちらかというと不幸な目にあっている人です。人間のいうそういうところがおかしい。チェーホフも好きなんですよね。『ワーニャおじさん』の最後も笑えるでしょう。彼らにとっちゃ悲しいんだけど笑える。そういうところを笑えるのが、人間の、ある種のすごく豊かな部分なんじゃないかなと思うんですよね。
――今回は創立40周年+1公演ですね。劇団の40年間を振り返ってみて、いかがですか?
オンシアター自由劇場というところにいまして、そこからなんとなく僕も自分でやりたいと飛び出てね。歴史的なことでいうと、佐藤B作の東京ヴォードヴィルショーという劇団もオンシアター自由劇場から出たので、彼らが先輩になるんですよ。僕らも自分たちで何かやりたいと思ったんですよね。お芝居というのは、そういうことだと思うんですよ。何かやりたいと、アルバイトしたお金で小屋借りてやる。精神は今でもそうですね。僕らがやっている芝居というのは、そういうアマチュアだと思っています。「アマチュア」という言葉がどう伝わるかわからないんですが、アマチュアなのにお金とってるじゃないか?とかではなくて、青春の誤解というか何というか、若いときに「こんなことやりたい」「あんなことやりたい」と思ったのが芝居であって、そんなことを続けているんですね。今でも何も変わっていないですね。
――『夏の夜の夢』は劇団の25周年が初演ですね。
そのころ、僕自身が劇団の芝居をやらなくなっていたんですよね。若い子たちがそれぞれユニット組んでやっていた。で、25周年が近づいてきた時に、この子たちと僕とで芝居をやりたいじゃないかと勝手に思ったんですよね。25周年にみんなが出られる芝居をつくりたいなあと思い、人数がたくさん出る芝居はシェイクスピアだろうって。ですから劇団というものを意識したのは25周年からかもしれませんが。
――今回は一日だけの公演ですね。
まあ、それが、なんかいいですね。劇団の旗揚げも、浅草の木馬亭というところでやったのですが、一日だけでした。ひどい芝居でね、客席から声がかかったんですよ。僕の先輩が「柄本! それでいいのか!」と。なんか、やっぱり、ひどかったです(笑)。
――それでも続いてきましたね。
なんか、やっぱり、何かをするということは何にしたって大変なことですね。そういったこともあって、明治座というところから声をかけて頂いて、それでお断りしなかったのは、自分の中で何かがあったのかなと思いますね。僕は「わからない」という言葉が好きなんです。「わからない」ということの中で何かをやるということは、何か生まれちゃうことだから。明治座でどんなものが生まれるのかやってみないとわからない。せりふでも、そのせりふ言ったときに何が生まれるかわからない。お客さまも含めて、どんなことが生まれるのかということが、まあ、面白いことなんでしょうね。その「わからない」が、生きていくってことなんだと思いますね。
――東京乾電池はご自分にとってどういう場所ですか?
最初に始めたし、自分の出発点で自分の場所ですね。だからといって、天邪鬼なのかもしれないけれど、「テレビとか映画に出ていらっしゃるけど、やっぱりお芝居(舞台)のほうが好きなんですね」なんて言われると腹がたつんですよ。「金にもならないし余計なことですよ」と言いたくなっちゃう自分がいる。だから、そういう「命を懸けて」とかでもないですよ。まあこれだけやってきたわけですから、大事じゃないわけではないんですけど。自分にとって邪魔にならない場所であり続けたんですかね。
――ではこの先、どうなっていきそうでしょうか。
まあ、あまり考えていないですね。劇団を僕がやっているという意識もないですね。でも、劇団の頭になってやってはいるんだけど、「こう行こう」「ああ行こう」というのは比較的考えないでやってるほうなんです。スタンスとしてはそれが変わらないと思います。50周年、60周年を迎えられるかはわかりませんが、どうなっていくんですかね……。
――では最後に、明治座のお客さまにひと言。
普段は下北沢の小さい劇場でやらせて頂いている劇団です。大きな明治座でどんなお芝居になるのか見当がつきませんが、ご興味があったら見に来てください。
アマチュア性については勘三郎さんへの思いを、演劇をやることの粋については芝居好きだった亡き母の思い出と、ここでは紹介しきれないエピソードも山積みの柄本さん。まだまだ氷山の一角、芝居話が埋もれているようで興味がつきない。そんな経験が、明治座でどんな祝祭劇を生み出してくれるのか、「わからない」ことを楽しみつつ待ちたい。
取材・文・撮影:田窪桜子
柄本明一人芝居 「煙草の害について」
■出演:柄本明
劇団東京乾電池公演 「夏の夜の夢」
■出演:柄本明 ベンガル 綾田俊樹 角替和枝 宮田早苗 谷川昭一朗 他