映画とポップコーンとドリンクについて

コラム
イベント/レジャー
2017.4.25

 拝啓

 

 映画館近くの喫茶店でコーヒーを飲みながらこの手紙を書いています。エマ・ワトソンの「美女と野獣」の上映まで時間があるのでひまを潰しているんです。

 

 映画館に足を運ぶことは、僕の数少ない趣味のひとつです。と言っても僕は、年間数百本の映画を見るシネフィルだとか、日頃から映画のことばっかり考えている根っからの映画好きとかそういうわけではありません。もちろんエマ・ワトソンのおっかけでもありません。

 映画館に足を運ぶ回数はせいぜい月に1~2回程度ですし、僕が見に行く映画といえば大抵はテレビCMや雑誌広告等の大々的なプロモーションが打たれている話題作です。いわゆる「全米が泣いた」映画ですね。そうではない映画については疎く、とても映画に詳しいとは言えません。

 そもそも映画を見るだけであればTSUTAYAでDVDをレンタルしたり、ネット配信を利用したりして今では自宅で手軽に視聴できるので、わざわざ映画館に行く必要もないとも思っています。

 

 もちろん多かれ少なかれ映画は好きだし、迫力の大画面と音響のある映画館で鑑賞する醍醐味も感じてはいますが、実を言えば僕が定期的に映画館へ足を運ぶ大きな理由は映画そのものとは別にあります。

 それは、ポップコーンです。

 

 ポップコーン。その身いっぱいの幸せが弾けた歓びの種。

 僕はポップコーンを心から、深く、真摯に、断固、愛しています。つまり僕は映画を観ながらポップコーンを食べたいがために、映画館にいそいそと足を運んでいるわけです。

 あなたももちろん体験したことはあるでしょうが、映画鑑賞しながらつまむポップコーンは至高です。その瞬間、幸福そのものを口に放り込んでいるのではないかとすら思います。反対に、ポップコーンのない映画鑑賞のことを思うと悲しい気持ちになります。愛する人が去って向かい側に誰もいなくなってしまった食卓のような、決定的に重大な要素に欠けた寂しさを覚えます。

 

 数ある「映画館のポップコーン」の中でも僕が最も気に入っているポップコーンは、TOHOシネマズのポップコーンです。売店内に設置されている専用の什器で常に温められており、購入時には熱々のポップコーンを提供してくれます。味は塩味とキャラメル味の二種類がありどちらも絶品ですが、特に塩味は受け取りの際にその場でバターをたっぷりかけてくれるサービスがあっておすすめです。粒を口に含むと思わずシャイニングのジャックニコルソンみたいな笑顔になってしまうくらいのおいしさですよ。

 僕はいつもダブルセットで注文します。ダブルセットというのは、スニーカーを一足突っ込んで洗えそうなくらい大きなバケツに山盛りのポップコーンとドリンクふたつのセットです。ポップコーンは二種類の味を半分ずつ盛ってもらうことができます。要するにカップルなんかのための二人分のセットなのですが、僕はひとりでダブルセットを頼みます。両方の味を楽しみたいですからね。

 

 しかし、そうすると困ったことが起きてしまいます。ひとつは、バケツサイズのポップコーンをひとりで食べることはやはり大変だということです。無類のポップコーン好きとはいえ食べられる量には限界があります。かといってシングルサイズで塩かキャラメルかどちらか一方の味のみを選ぶというのも文字通り味気ない話です。

 もうひとつは余ったドリンクの扱いです。先ほども言った通りダブルセットはドリンクがふたつついてくるセットですが、そもそも僕は、映画鑑賞中はトイレに行きたくならないようにほとんど飲み物を飲まないのでドリンクはひとつで十分すぎるほどなんです。もうひとつのドリンクは仕方なく持ち帰ったりするのですが、扱いにいつも困っています。

 

 そこであなたに提案なんですが、ポップコーンとドリンクの片付けを手伝ってもらえないでしょうか? もちろん難しい作業ではありません。僕の隣の席で映画を観ながらポップコーンをつまみ、ドリンクを飲んでもらえば結構です。観たい映画はあなたが選んでもらって構いませんし、もしよろしければ映画を観終わったあとでディナーもごちそうしますよ。

 どうでしょう。悪くない話だと思うのですが。手伝って頂ければ僕としてはこれ以上なく助かります。

 

 

 さて、そろそろ僕は映画館に向かおうと思います。「美女と野獣」の上映の時間が近づいてきましたからね。その前にポップコーンのダブルセットを買わなければいけませんし。ああ、今日もポップコーンとドリンクを余らせてしまうかもしれません。まいったなぁ。

 

 良い返事をお待ちしていますね。

 それでは。

 いつかまた宇宙のどこかで。

 

敬具


チープアーティスト・しおひがりによる連載『メッセージ・イン・ア・ペットボトル』。毎回、この世にいる"だれか"へ向けた恋文のような、そうでないような手紙を綴っていきます。添えられるイラストは、しおひがり本人による描き下ろし作品です。 過去の手紙はこちらからお読みいただけます。 

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