三戸なつめ、“未来の私に繋ぐ”ファーストアルバム『なつめろ』を語る
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三戸なつめ
2015年、中田ヤスタカをプロデューサーに迎えた「前髪切りすぎた」で鮮烈なデビューを飾って以来、アーティストとしての活動のみならず、タレントとしてCMやテレビ番組にも多数出演している三戸なつめ。彼女が4月26日(水)にリリースしたファーストアルバム『なつめろ』は、デビューから2年間の想いが詰まったベストアルバム的な内容に。代表曲「前髪切りすぎた」に始まり、ライブで披露されると音源化を望む声も多かった「おでかけサマー」、デビュー前の歌手活動を開始した初期から歌い続けてきた「ねむねむGO」のほか、新曲「なつめろ」と「風船と針」を含む全12曲を収録。ポップでキャッチーな楽曲のイメージが強い彼女だが、今作ではただ明るく楽しいだけではない、どこか哀愁漂う新境地を覗かせる。ターニングポイントになったと語る楽曲を中心に、この2年間を振り返りながら、これまでの不安や葛藤、ライブの喜び、そして新たな“三戸なつめ”へと向かう変化についてたっぷりと語ってもらった。
――ベストアルバムに近い人気曲がそろった内容になっていますが、これまでのポップさはそのままに、今回は新たにじんわりと胸にしみるような哀愁を感じられる1枚になっていたように思いました。
個人的にも、デビュー当初と今とではヤスタカさんが作ってくれる曲の雰囲気が違ってきているなと思っています。最初は「前髪切りすぎた」のように、キャッチーでみんなに"三戸なつめ"を知ってもらうための楽曲が多かったんですけど、だんだんと色んな意味で深みのある楽曲も増えてきたなと。なので、みんなに知ってもらおうと楽しく歌っていたのが、より歌詞の深いところを読み取って、そこにある想いをみんなに伝えようという気持ちで歌うように変わってきていますね。レコーディングも最初の方は、ヤスタカさんから具体的なことは特に何も言われなかったんです。だけど最近のレコーディングだと、いろいろな細かい指示があって、「ここはそこまで伸ばさなくていい」とか「ここの歌い方はもっと弾む感じで」とか。そういうことは今まであまり言われてこなかったので、2年間の中で変化はありますね。
――それというのは、中田ヤスタカさんと意思疎通してそういう方向に進んでいるのですか?
曲に関しての打ち合わせって実は全くしていないんです。レコーディングすると決まった時には曲ができていて、今回のアルバムもヤスタカさんが決めた曲順で出来ているんです。
――なつめさんにとって、ターニングポイントになっているような曲が詰まっていたり、その時の心境が描かれているような歌詞の曲も多かったと思うのですが、そういった曲も中田ヤスタカさんがすべてなつめさんの心境をくみ取って手掛けられていると。
そうなんです。だから、ヤスタカさんはエスパーなのかな?と思うぐらい(笑)。どこで自分の情報を仕入れているんだろう?って……それぐらい私自身も歌っていて胸に刺さる歌詞が多いので驚くこともあります。
――どのぐらいの時期から、出来上がってくる楽曲のアプローチが変わってきたのでしょうか?
「I'll do my best」の頃からかなと思います。新生活に向けてというテーマで作られているんですけど、自分が関西から上京する時の考えだったり感情がそのまま歌詞に出ているんですよね。
――<新しい空 新しい部屋 片付いていないのはこの気持ちかもね>という歌詞は、まさにリンクしてきますよね。
そうなんです! 他にも、<楽しい思い出に頼らない日は 来ると信じている>という部分も、自分が上京した時に思っていたことがそのまま歌詞になっていたのでびっくりしました。芸能界で頑張っていこうと覚悟を決めて、心の準備をして来たつもりだったけど、いざ上京してみると寂しさだったり動揺してしまう部分もありました。だから新生活を迎える人たちにも、きっとそういう風に感じてもらえるだろうなと思いながら歌うことができたり。
――上京してから1年後には歌手活動開始。その翌年には「前髪切りすぎた」でデビューと、すごく速いスピード感で時間が経っていったのではないかなと思います。その中で、葛藤や不安な思いってありましたか?
もちろんありました。デビューしてからすぐ大きいフェスにも出させてもらえたりしていたので、自分にできるのかなという不安も葛藤もありました。だけど、そんな恵まれた環境があって、たくさんチャンスをもらえることは普通ではありえないと思うので、"しっかりと成果を出したい!"という気持ちでやってきました。
三戸なつめ
――元々、音楽をしていたわけでもないですし、準備期間もそこまでたっぷりと時間があったわけではないですしね。
アーティストとしての自分の実力が、お客さんを前にしてステージに立てるほど追いついていないなとすごく感じて。でも動き出したし、だからもうやるしかないと……自信を無くしちゃった時はあったんですけど。でも自信がないアーティストのライブなんて絶対に観たくないじゃないですか。だからライブの日までとにかく練習を積む。それで自信がつくかといえばそこまでですけど、自分がここまで一生懸命に頑張ったという糧を自分で持っておきたかったというのはあるかもしれません。
――中田ヤスタカさんのプロデュースでデビューすることが決まった時はいかがでしたか?
歌手活動は自分もやりたかったし頑張ろうと思っていてやり始めました。だけど、ヤスタカさんがプロデュースしてくださると決まった時は、そりゃもうプレッシャーが相当ありました。
――そのプレッシャーも練習を積んで克服していったのでしょうか?
それもありますし、ヤスタカさんのことを一度忘れようと思いましたね(笑)。本当にプレッシャーがやばかったので……。最初は、“中田ヤスタカプロデュース!”という風に謳って出てきたので、ライブのMCなんかでも積極的に名前を出していたんですけど、「これはもう、一度名前を出さずにやろう」と思ってみてからは少し気が楽になりましたね。やっぱり歌うのは自分だし、ライブのステージに立つのは自分だからと、少しずつ自分の中で整理して落ち着けてきたんだと思います。
――モデルとして立つファッションショーのステージと、アーティストとして立つライブのステージとでは緊張感も違いますか?
そうですね……MCが特に大変で難しかったです。お客さんの反応が薄かったり無かったりすると心が折れそうになって、この後どうしようとあたふたすることもありました。それでもアーティストとしてステージに立っている以上は、全て一人で解決していかないとダメなのが初めてだったからすごく大変でした。
――これまでには、実際に心が折れて挫折してしまいそうなことも?
はい。一番は去年のワンマンの時です。その頃はワンマンができるほど曲数もまだなかったんです。どうしようかと思っているときに、リハーサルをする時間もなかなかとれず。こんな状態でワンマンをやってもいいのかと考えていた時は、相当しんどかったです。だけど当日ステージに立ったら、ファンの方たちがいっぱいですごく盛り上がってくれました。それまでは不安でも、はじまってみればファンの方の顔を見れば自信につながって後は出し切ることができましたね。
――自信がないというのは、今でもずっとあるのでしょうか?
それが、去年の年越しフェス『COUNTDOWN JAPAN』で、少し吹っ切れたんですよ。自分でも忘れられないライブになっているんですけど、すごく脳が覚醒していたんですよ、あの日! すごく眼が覚めていた。あ、危ないことは別にしていないですよ?(笑) 「パズル」を初披露した日で、心の底から楽しいと思えるライブができて、お客さんもめっちゃ盛り上がってくれたのを憶えています。これまで自分の自信に繋がっていた目の前のお客さんたちがもしゼロ人だったとしても、すごく楽しんでできていたかも。そう思えるぐらい良いライブができたんです。そこから根拠のない自信が沸きあがってきて、“私、まだまだいけるかも!”という思いが出てきました。
――危ないことでなくてよかったです(笑)。覚醒したきっかけは分からないままですか?
そうなんです。なんでだったんだろう……。だけど、ほんとに覚醒していたんです! その日はライブ納めだったので、そこで納得できるライブができて本当によかったですね。それもあって今年に入ってからは、今まで以上にすごく前向きなライブができているなと。
――「パズル」がなつめさんの中で、特別な曲だったからとかではなく?
アップテンポでライブ映えする曲なので、お客さんも私もすごく盛り上がる曲ではありますね。そういう意味では曲に助けられたという部分もあったのかもしれないです。
――それからは、今では不安だったライブも自信に繋がって来たわけですね。アーティストとして活動していく中で、エネルギー源だったりモチベーションってどこから来ているのでしょう?
なんと言っても、ライブが終わった後の達成感がヤミツキになっていますね。ライブですごく盛り上がって、会場のエネルギーがバーン!と爆発している時にゾクゾクっとする感じが堪らなくて……。練習とかステージを下りたところでは、しんどかったり不安になることも多いんですけど、待ってくれているたくさんのお客さんの前でライブができたり、完成したCDを手にした時に、“やっててよかったー!”ってホッとするというか、報われたような喜びを感じます。
――アルバムには、「わたしをフェスに連れてって」というフェス曲も。<何千何万の出会いが>と歌詞にもありますが、実際にそれだけの人を目の前にすると今でも緊張しますか?
緊張というよりも、逆にテンションが上がってめっちゃ楽しくなります! フェスって自分のファンの方じゃなくて、いろいろなアーティストを観に来ている人が集まっているから、なんとなく自分のステージを観てくれることもあるじゃないですか。自分に無関心な人たちも観てくれるからこそ、「こっちを振り向かしてやるぞ!」とある意味で開き直って燃えてくるんですよ。
――そういえば、銀杏BOYZなどロックバンドがお好きなんですよね? 今のお話なんて、まさにロックスピリッツとリンクするところがあるような気がします。
銀杏BOYZ好きです! 私は割とポップでハッピーなことを歌うことが多いけど、ロックとかパンクの人たちは自分の気持ちを歌詞にして歌っていますよね。私は自分で歌詞を書いていないので、そういう意味では羨ましいなと思う部分があります。だからこそ、自分の曲の中で「I'll do my best」だとか、自分の気持ちと繋がっている曲で想いや歌詞を伝えたいという時は、なんとなく頭に銀杏BOYZとか好きなバンドのことを思い浮かべながら、こういう風に歌えば伝わるんじゃないかなと意識したりします。もちろん、そこまで“うぉー!”とはできないんですけど(笑)。それでもアプローチが違っても、気持ちはそれぐらいの勢いでやろうと思って歌っています。
三戸なつめ
――他にもステージで心がけていることはありますか?
まず、私は背が低いので、やっぱり背の高さって重要だなとか、高い人はカッコいいなと思うんです。だけど、aikoさんのライブを観させていただいた時、自分よりも小さいaikoさんがすごく大きく見えたのが印象的で。aikoさんはライブ中にすごく動くしジャンプしますよね。そういう動き方ひとつとってみても、大きく見えるポイントだと思うので自分も真似したりしています。何より、自分のファンの子たちは背の低い子も多くて、後ろの方にいると見えないなんてこともあると思うので、そういう時は精一杯ジャンプして少しでも観てもらえたらと思いながらやっていますね。
――代表曲「前髪切りすぎた」に始まり、「I'll do my best」、「パズル」に続いてラストナンバーの新曲「風船と針」もまたアーティスト活動のターニングポイントになるような楽曲なんじゃないかなと感じました。センチメンタルなメロディーに乗って、「ずっといい子でいすぎたの」と歌うなつめさんにグッと来て……、今までにないような哀愁のある楽曲に。
Aメロの「自分で思うほど 慎重じゃなくても 心配はいらないのかもね」という歌詞は自分にも当てはまるんですよね。いろいろなメディアに出させてもらうようになって、責任が増えるほど自分が委縮してしまっているところがありました。これはダメかなとか様子をうかがって考えている内に自分を出せなかったことも。だけど「風船と針」を聴いた時、「ぜんぜん委縮しなくても、自分を解放してもいいんだよ」と言ってくれている気がして、私自身が励まされたしグッときましたね。
――哀愁という面では表題曲の「なつめろ」もまた、ポップで鮮やかな音に切なさや淡いエモーショナルさが織り交ぜられていましたね。
自分の青春時代を思い出すような、甘酸っぱいトキメキみたいなものが詰まっていますよね。いろいろな年代の方が聴いても重ね合わせてもらえるんじゃないかなと思っているので、中年男性にも聴いてほしいですし高校生の頃を思い出してキュンキュンしてほしいです。曲調で言えば、この曲はずっと“過去”のことを歌っているんですけど、<思い出すのいつもこのタイミングで>のフレーズでガラッと曲調が変わって“今”になるんです。一瞬にして過去から今に戻す曲の構成が本当にすごい。誰でも自分の大切にしてきたことをふと思い出すことがあると思うので、そういう瞬間が表現されている曲になっていると思います。
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――ジャケット写真で、またガラッとイメージが変わりました。
アートディレクターの矢後直規さんに手掛けてもらったんですけど、私と話をしていろいろ決めたいと言ってくださったのでディスカッションしながら作りました。私はちょっと違和感のあるようなものが好きだと伝えていたので、バックが地層の殺風景な場所にレトロな赤いラジオと椅子が置いてある。“なんだろうこれ?”と気になる違和感が見事に表現されていたのでお気に入りです。曲はまだできていなかったんですけど、アルバムが『なつめろ』というタイトルだったので、ラフが“過去の私”と“未来の私”というイメージの2パターンがありました。ブックレットの中には、“未来の私”としておばあちゃんが出てきます。おばあちゃんのオーディションをして、私と同じおかっぱの白髪ヘアーになってもらうと。これについて矢後さんが、未来の私も『なつめろ』を聴いて、昔のことに黄昏たりできるような、未来でも聴いてもらえるようなイメージで作りたいと仰っていて、それがすごくいいなと思ったんですよね。まだデビューしてから2年しか経っていないので、自分の歴史ってぜんぜん浅いなと思っていたところなんです。それなら、未来でも『なつめろ』を聴いてもらえるような願いを込めたジャケット写真を撮ることにしました。
――ということは、これまでの集大成というよりもこの先をイメージしたアルバムに?
最後に今までにないような「風船と針」で終わることに、自分でもビックリしたんですよ。だけど、曲順もヤスタカさんが考えてくれているので、きっとこれがこの先の“三戸なつめ”のイメージなんだと思うとワクワクして。最初は「前髪切りすぎた」でポップでキャッチーで分かりやすい自己紹介ソング、だんだん今の自分になっていく曲順になっていて、最後にはすこし先の未来像が見えるようになっているようなアルバムになっていると思います。
――そう考えると、次のシングルだったりアルバムがすごく楽しみですね!
そうなんですよね! どうなるんだろうと私も楽しみです。
――以前インタビューをさせていただいた時に、実はこっそりと歌詞を書き溜めていると仰っていましたが、それが楽曲になるという可能性がもしかすると今後はあるかも?
そうなんです! 歌詞をずっと書いていて、タイミングがあれば本当に出したいんですよね……。
――ちなみにどんな歌詞が……?
いろいろなんですけど、こないだ見返していたら自分って暗いなと思いました(笑)。最初はハッピーな詞なのに、だんだん様子がおかしいぞと(笑)。
――もし曲調がポップなら、歌詞が暗いぐらいの方が奥行きがあっていいですよね。
そうなんですよね! そういう曲が私も好きなので、いつかお披露目できたらなと思っています。
――これから作詞した楽曲がもし出てきたら、今回のアルバム以上に“三戸なつめ”らしさが出てくるかもしれないですね。
自分らしい色は出していきたいですね。今は歌でしか自分を表現出来てないですし、なにより“三戸なつめ”というと、タレントのイメージの方が強いと思うんです。もう少し自分なりに音楽の部分でも色を出していって、アーティストの面もたくさんの人に知ってもらえたらと思っています。
――次はどんな音源ができるのか、また『COUNTDOWN JAPAN』で味わった感覚がどこかで再来するのか。その感覚を毎回出せるスイッチを見つければ、またライブの良さも変わってきますよね。
確かにそうですね。そのスイッチ……見つけないと! 大事ですね。
――ワンマンライブツアーではぜひ覚醒してください! 7月23日(日)には、地元関西の大阪・BIG CATでファイナル公演がありますね。
やっぱり大阪がファイナルというのは感慨深いですね。関西には、自分が芸能界に入る前の読者モデル時代からずっと応援してくれている人たちもたくさんいるので、成長した姿を見てほしいとも思っています。もちろん、アルバムを中心にしながらも自分の好きな事を詰め込もうと思うので楽しみにしていただければ。その上で、「三戸なつめって、こういうことを考えているんだ」とか、超オメデタイ私を、みんなに感じてもらえたら嬉しいです。このアルバムでひとつの区切りにはなると思うので、また進化していけたらと思います!
取材・文=大西健斗 写真=ハヤシマコ(maco-j)
2017年4月26日(水)発売
価格/品番:初回生産限定盤(CD+DVD)¥3,241+税/AICL-3324~3325
通常盤:¥2,315+税/AICL-3326
M 2「おでかけサマー」
M 3「8ビットボーイ」
M 4「I'll do my best」
M 5「コロニー」
M 6「ハナビラ」
M 7「もしもクッキング」
M 8「なつめろ」
M 9「パズル」
M 10「ねむねむGO」
M 11「わたしをフェスに連れてって」
M 12「風船と針」
全12曲収録
初回DVD収録予定内容
・前髪切りすぎた -白菜 篇-
・前髪切りすぎた -落書き 篇-
・8ビットボーイ-ブラウン管の妖精 篇-
・8ビットボーイ -三戸マス目 篇-
・8ビットボーイ -王子様 篇-
・わたしをフェスに連れてって
・I’ll do my best
・おでかけサマー
・パズル
・ハナビラ