ポップの進化にゲスの極み乙女。が必須であることを実感した、再始動後初のプレミアムライブ

2017.5.15
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ゲスの極み乙女。

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「達磨林檎」発売記念ライブ
2017.5.10(WED)ZeppTokyo

例えばオリンピックの陸上100メートル走のファイナルに優勝候補が欠場しているような物足りなさを、ゲスの極み乙女。が不在のポップシーンに感じていた人はファンのみらずいたはずだ。音楽は勝ち負けではないけれど、新作が常に新しい音楽性や価値観で過去を更新してくダイナミズム、それは一握りの前線を走るアーティストにしかなし得ない。果たして、昨年の12月リリースから延期された3rdアルバム『達磨林檎』は見事にオリコン・デイリーチャートで1位を獲得。シーン復帰を暖かく歓待するというより、ようやくファイナリストが揃った決勝戦を見ることができる、そんな高揚が再び始まった。

ゲスの極み乙女。

活動休止前の最後のライブ会場と同じZepp Tokyoにて、当日リリースされる『達磨林檎』を現場で購入し、くじ引きに当たったファン2500人が入場できるという、彼ららしい驚きのある再始動となったこの日。「新曲のみで構成した攻めたセットリストで展開するのでは?」と、勝手に想像したりしながら会場に向かう。そういう妄想をさせるのもゲスの極み乙女。ならではだと思うのだ。

ゲスの極み乙女。

開場したフロアはくじ引きに当選したファンで構成されているが故に、必然的に一人参加となり、ステージに投影される「シアワセ林檎」「勝手な青春劇」「心地艶やかに」「影ソング」のミュージックビデオを見つめるファンは、静かにメンバーの登場を待ち、立ち尽くしている。その緊張から一転、場内が暗転し4人の姿が紗幕越しに見えると悲鳴や叫び混じりの歓声が湧き上がった。抑え込んでいた喜びが爆発した瞬間だ。さらにオープナーはあのちゃんMARIのピアノが響く、そう「パラレルスペック」という王道な選曲。イントロのみならず間奏でも演奏に対して歓声と拍手が起こる。それはファンの最大限の“おかえり”の表現であり、他に替えの効かないこのバンドの演奏に対する変わらない賛辞だった。川谷絵音も歌い始める前に「行くぞー!」と、野に放たれ自由を得た生き物のように躍動する。躍動的なのはこれまでもそうだったけれど、明らかに自然とテンションが高い。「私以外私じゃないの」「星降る夜に花束を」「サイデンティティ」と、彼らの知名度を磐石なものにした近作「魅力がすごいよ」「両成敗」からのセレクトが続く。圧倒的なスキルはそのままに、ゲスの極み乙女。のこんなにライブハウスのライブらしいライブは久々なんじゃないだろうか。メンバー自身が演奏しながら感じているであろうカタルシスがフロアにも“そこがまさにツボ!”といった具合に刺さって、血液や気が循環するようなフィジカルなリアクションが起こっていた。

ゲスの極み乙女。

最初の挨拶がわりにちゃんMARIの「コポゥ!」にやんやの歓声が湧くと、川谷が「(休日)課長にはDADARYで会っていたが、(ほな・)いこかやちゃんMARIとは1ヶ月ぐらい前に会って、二人の髪型が以前と逆になってて、前の方がいいんじゃない?」と、身も蓋もない発言を繰り出すのだが、それもいつもどおりでむしろ安堵。まぁ変わるはずもないのだけれど。続いて、センチメンタルなメロディ、コーラスの重層的な厚みやチェンバロ風のキーボード・サウンドが印象的な新曲「心地艶やかに」が披露され、フロアは聴き入る態勢に。このブロックでは他にも川谷の早口のトーキングボーカルが聴きどころの「某東京」も披露。大人になることへの怖れというより、いつのまにか様々なことが変わっていき、もちろん自分も時間の流れに抗えない、息苦しさとそれでもその現実のなんかで生きるという、ゲスの中でもかなり具体的な言葉を持った曲が、この日一番の盛り上がりを見せたのはさすがだった。

ゲスの極み乙女。

「『達磨林檎』、皆さん聴いてくれましたか? 今日出たばっかりだもんね。もうこの後、1曲しかやりませんから」という川谷のMCにファンからは若干、不満と意外そうな声が。すかさず課長が「でも急いで皆さんが聴いてくれた時間は無駄にはなりませんから」とフォロー。そこからアルバム中、もっとも明るいムードを持った「シアワセ林檎」を披露。途中でいこかがドラムセットを離れてステージ前方でフロアを煽り、代わりにindigo la Endの佐藤栄太郎がドラムを叩いて、風のように去って行ったのもファンにとってはたまらない瞬間だったはずだ。川谷といこかのデュエット部分も見事に決まった。

ゲスの極み乙女。

終盤はインディーズ時代からのゲスならではのナンバーが続く。「ホワイトワルツ」での、いこかの「ゲス4か条」の迫力とセクシーさの現在形の凄み。そして「ドレスを」「脱げ!」のコール&レスポンスで、これまでずっとバンドを支えてきたファンと素直な再会を祝福しているような、素直なエネルギーの交歓が感じられた。本編ラストも川谷の「キラーボールで踊りませんか?」の一言から、シンガロングも起こり、ミラーボールに照らされたフロアは再びゲスの極み乙女。の音楽で一緒に揺れることの喜びを誰もが全身で表現。ステージ上のメンバーも、半年のブランクどころか、むしろタフで柔軟になった演奏で喜びを溢れさせる。それでもいい意味でポーカーフェイスでクールなアティチュードを崩さないのもゲスの極み乙女。がゲスの極み乙女。である、代え難い証左だと感じた。目の前にいる自分たちの音楽を愛してやまない人たちこそが命脈であるのはもちろんだが、川谷からは“ここしか居場所はない”という悲壮感はない。もっと自由に表現の場を持ちながら、生身で相対する“この場所が好き”というフラットな趣きを感じ取ったのだ。

ゲスの極み乙女。

アンコールに応えて登場したメンバーは『達磨林檎』をようやくリリースできたことの安堵に続いて、川谷が「心地艶やかに」のMVでの課長のキスシーン手前のエンディングなど「メンバーのキスとか見たくない」と本音で笑わせたり、アルバム収録曲の「DARUMASAN」はコーラスを20本重ねたことなど、自分でも「珍しく曲の説明なんかしてるけど」と言いながらも愉快そうだ。

ゲスの極み乙女。

この日のラストに演奏したのは、疾走するビートに乗りちぎれそうな気持ちに蹴りをつけるようなゲスならではの切なさ120%の「crying march」だったことは、とかくスキルの高さやアレンジの変態性で評価を受ける彼らの、実はナイーヴで壊れやすい本質を後味として残してくれた。

終演後、全国ライブハウス・ツアーがアナウンスされ、ファイナルは日比谷野外音楽堂。ゲスの極み乙女。が存在するポップシーン、そして日常も還ってきたのだ。


取材・文=石角友香

ゲスの極み乙女。

 

 

セットリスト
「達磨林檎」発売記念ライブ
2017.5.10(WED)ZeppTokyo

01. パラレルスペック
02. 私以外私じゃないの
03. 星降る夜に花束を
04. サイデンティティ
05. 心地艶やかに
06. ロマンスがありあまる
07. 某東京
08. シアワセ林檎
09. ホワイトワルツ
10. ドレスを脱げ
11. jajaumasan
12. キラーボール
<ENCORE>
13. ルミリー
14. ユレルカレル
15. crying march

 

リリース情報
アルバム『達磨林檎』
iTunes Store,レコチョク他各配信サイトにて全曲配信中
https://itunes.apple.com/jp/album/id1145417023?app=itunes&at=10l6Y8
iTunes StoreはApple Inc.の登録商標です。
各配信サイトリンク
https://gesunokiwamiotome.lnk.to/darumaringoAD

『達磨林檎』CD盤
価格:¥3000(本体価格)+税  品番:WPCL-12443
収録曲
01 シアワセ林檎
02 影ソング
03 DARUMASAN
04 某東京
05 id 2
06 心地艶やかに
07 午後のハイファイ
08 いけないダンスダンスダンス
09 勝手な青春劇
10 小説家みたいなあなたになりたい
11 id 3
12 Dancer in the Dancer
13 ゲストーリー

 

ライブ情報
ゲスの極み乙女。全国ワンマンツアー「丸三角ゲス」
8/1(火) 渋谷WWW X
8/3(木) 札幌ペニーレーン
8/7(月) 福岡DRUM LOGOS
8/8(火) 広島CLUB QUATTRO
8/15(火) 新潟LOTS
8/16(水) 仙台Rensa
8/28(月) 大阪BIG CAT
8/29(火) 名古屋DAIAMOND HALL
 
各公演ともに OPEN/18:00 START/19:00
[料金]オールスタンディング ¥4,860(税込/D代別/整理番号付)

9/3(日) 日比谷野外音楽堂
OPEN /16:00 START/17:00
 [料金]指定席 ¥5,400(税込)

 
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受付期間 2017/5/10(水)22:00~5/18(木)18:00