内田光子さん、「芸術のノーベル賞」=「高松宮殿下記念 世界文化賞」受賞
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横尾忠則、シルヴィ・ギエムとともに受賞
9月10日、内田光子が「高松宮殿下記念 世界文化賞」音楽部門の受賞者に選出された。
1988年に創設され、翌年に第一回の受賞者を選出した「高松宮殿下記念 世界文化賞」は、絵画、彫刻、建築、演劇・映像、そして音楽の五部門を対象とした顕彰制度だ。文学を対象とするノーベル賞がフォローしていない分野を対象にしていることもあり、「芸術のノーベル賞」とも評される権威ある賞だ。
音楽部門では過去にリゲティ、シュニトケら作曲家、ロストロポーヴィチやディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ、クラウディオ・アバドら音楽家が選ばれている。選ばれる対象はクラシック音楽に限られているわけではなく、過去にはオーネット・コールマン(サックス)、ラヴィ・シャンカール(シタール)、オスカー・ピーターソン(ジャズ・ピアノ)も選ばれている。
近年ピアニストの受賞者は多く、今回の内田の受賞はマルタ・アルゲリッチ(2005)、アルフレート・ブレンデル(2009)、マウリツィオ・ポリーニ(2010)らに続くもの、そして日本からは2011年の小澤征爾以来の受賞となる。
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「日本から」とは言ったが、現在の彼女は英国籍だ。幼い日に外交官の父に従いて生活の拠点を海外に移してウィーンでピアノを学び、その後の経歴は省くが2009年にはDBE(大英帝国勲章第2位)を授与されて称号を授かり、「デイム・ミツコ・ウチダ」と呼ばれる身なのだ。実際、彼女のサイトを見るとすべてが英語のみで、どこにも日本語の表記はない。
このことから個人的に思い出されるのは、以前に内田がインタヴューで自身のモーツァルト理解について「作品のどこをとってもオペラの場面が想起される」旨の発言をしていたことである。小林秀雄があの高名な評論の中で、ほぼオペラに言及していないスタンスとの好対照が印象的だったのだ。もちろん、現在クラシック音楽を好んで聴く日本人が小林のようにモーツァルトを捉えているわけではないが、「モーツァルトといえばまずオペラ」という「日本人離れ」した認識あればこそ、1980年代に録音したピアノ協奏曲全集の大成功があり、そして今の内田光子がある、ように感じる。
そんな内田のレパートリーは当然ながらモーツァルトに限られるわけではなく、バッハから現代作品に至るまでの広がりを持つ。最近では、プロムスに登場してウラディーミル・ユロフスキ指揮のロンドン・フィルハーモニー交響楽団とシェーンベルクのピアノ協奏曲で共演している(現在プロムス2015のサイトにて配信中・期間限定)。
またこの11月にはシューベルト、ベートーヴェンによる「日本ツアー」も予定されている。
あえて細かいことにこだわってもみたが(音楽そのものの前で、演奏家の国籍など些事でしかない)、それで音楽の聴こえ方が変わるわけでもないのだから、魅力的なデイム・ミツコの音楽が高く評価されたことをここは素直に寿ぎたいと思う。内田光子さん、世界文化賞受賞おめでとうございます。
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なお、今年の絵画部門は横尾忠則が、演劇・映像部門は引退を発表したシルヴィ・ギエムが選ばれている。そしてこれは豆知識なのだが、2009年の建築部門には話題のザハ・ハディド氏が選出されている。