芸術家たちが美術館で共同生活 ワタリウム美術館で『恋せよ乙女! パープルーム大学と梅津庸一の構想画』展が開幕

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現代美術家の梅津庸一が主宰する美術の共同体「パープルーム」。相模原にある「パープルーム予備校」と名付けられた梅津の自宅では、SNSなどで全国から集ま​​った若者たちが生活をともにしながら美術活動を続けている。そんな彼らがワタリウム美術館を2週間以上にわたって占拠する展示会『恋せよ乙女! パープルーム大学と梅津庸一の構想画』が6月18日まで開催されている。初日となる6月1日に行われたトークイベント『パープルーム大学開校式』の内容も抜粋しながら、本展をレポートする。

2階 パープルーム「パープルームとは構想画である」の様子

2階 パープルーム「パープルームとは構想画である」の様子

 

テーマごとに作品が展示された全4フロア

本展は、単にパープルームの作品を展示するだけの展覧会ではない。会期中にメンバーが会場に住み込み、連日にわたり講義やトークショーが開催されるというのがこの展示会の最大の特徴だ。この形態は、普段からメンバーで共同生活を営み、外部との交流も積極的に行っているパープルームがそのままワタリウム美術館に移動してきたともいえよう。作品が展示されているのは、会場の地下から地上4階まで、1階を除く全4フロア。各階にはそれぞれテーマが決められており、絵画から映像、インスタレーション、パープルームの機関誌、標語とおぼしきメッセージまで、多種多様な作品が飾られている。

2階 パープルーム「パープルームとは構想画である」の様子

2階 パープルーム「パープルームとは構想画である」の様子

そもそもパープルームとは「共同体」と銘打っているものの、Webサイトである「パープルームHP」、移動式の画廊「パープルームギャラリー」、「パープルームクッキング」、「パープルミーティング」など、さまざまな活動を指す言葉でもあり、不定形の共同体でもあるという。その名の由来についても公式資料には「外光派(=紫派)の部屋(注:1)」、「地球物理学用語のスーパープルーム」など諸説あると説明されており、一言でその全容を言い表すことは難儀だ。

 

現代における「構想画」の確立を目指す試み

メイン会場となる2階には「パープルームとは構想画である」というテーマが設けられている。構想画というフレーズは本展示会のタイトルにも使われている、メインテーマのひとつだ。構想画とは明治から大正にかけて活躍した洋画家にして政治家の黒田清輝が掲げた概念のこと。梅津の言葉を借りれば「絵画において国の理念をアウトプットしたもの」であり、黒田は構想画こそが最も優れた絵画であるとした。現代における構想画とはどんなものか? その問題意識をもとに展示が構成されている。

梅津庸一《智・感・情・A》 撮影=舩山貴之

梅津庸一《智・感・情・A》 撮影=舩山貴之

泰平《アブストラクト将棋》 撮影=舩山貴之

泰平《アブストラクト将棋》 撮影=舩山貴之

黒田清輝が残した構想画の代表作《智・感・情》のオマージュである梅津の《智・感・情・A》や、パープルームのWebサイトを手がけるKOURYOU(こうりょう)の作品をはじめ、壁面や柱一面に作品が展示されている。中でもユニークだったのは作家の泰平による《アブストラクト将棋》という作品。これは通常の将棋と同じように先手と後手が交互に盤面に色を塗っていき、81の枠すべてに塗り終えた時点で、どちらから見た絵が優れているかを決めるというルール。互いに使用できる色は12色で、それぞれの色は何回でも使える。将来的には、人工知能による判定を可能にしたアプリ化も見据えているとのこと。

この2階はパープルーム大学の教室としても使用され、会期中はさまざまなアーティストや批評家によるレクチャーも行われる。

『パープルーム大学開校式』の様子

『パープルーム大学開校式』の様子

 

パープルームと蟻塚の関係とは

3階のテーマは「パープルームの蟻塚」。ここではパープルームが蟻の巣である蟻塚に例えられている。蟻塚の内部では秩序によって蟻の社会が構成されているが、時に何メートルにもなる巨大な蟻塚はわれわれ外部の人間からすればどこか不気味に映るだろう。全国から集まった若者が集団生活のもとで美術に取り組むパープルームの姿勢も、外部から奇妙な存在として扱われることがままあるという。

パープルームを説明するチラシなどの資料には「コミューン」や「共同体」など、70年代のヒッピーやカウンターカルチャーを思わせるフレーズが使われており、どこかカルト的な雰囲気が感じられるのも事実。内覧会同日に開催されたトークイベント『パープルーム大学開校式』では、美術評論家の黒瀬陽平から「パープルームは新興宗教感、カルト的な雰囲気を上手く演出している」と評された。

3階 パープルーム「パープルームの蟻塚」の様子

3階 パープルーム「パープルームの蟻塚」の様子

3階 パープルーム「パープルームの蟻塚」の様子

3階 パープルーム「パープルームの蟻塚」の様子

3階 パープルーム「パープルームの蟻塚」の様子

3階 パープルーム「パープルームの蟻塚」の様子

そんな3階はパープルームの複雑な生態系を可視化するべく、これまでパープルームと縁のなかった作家を招いてインスタレーション作品やブラウン管テレビや電話、キーボードなどの電化製品が並べられている。このフロアは一部がガラス張りとなっており、吹き抜けから2階の様子を眺めることができる。決して広い空間とはいえないが、会期中にはこの場所でパフォーマンスが行われる予定だ。


4階 梅津庸一個展「視神経と鏡」の様子

4階 梅津庸一個展「視神経と鏡」の様子

4階 梅津庸一個展「視神経と鏡」の様子

4階 梅津庸一個展「視神経と鏡」の様子

4階は梅津庸一個人の作品の展示フロアとなっている。「視神経と鏡」なるテーマのもと、ピアノの演奏をバックに裸の梅津がハシゴの昇降を繰り返す映像作品「春に向けてのエクササイズ」や、数々の絵画作品が並んでいる。

 

19世紀のフランスから輸入された、美的基準を検証する

そもそも、梅津庸一という作家はどんな問題意識を持ってパープルームという共同体を主宰しているのか? トークイベントにおいて梅津は「日本人の美的な価値基準は、19世紀のフランスの保守的なアカデミーから影響を受けたもので、それは150年経った現代でも変わらない」と発言している。ここでいう保守的なアカデミーとは、現代アートのフィールドからすれば「時代にそぐわない西洋画」という一言で切り捨てられてしまうものかもしれない。

梅津庸一

梅津庸一

それらを単に「古くさいもの」と笑い飛ばすことは簡単だろう。しかし梅津は、フランスのアカデミーからもたらされた絵画の判断基準は日本の受験絵画にも通じるものであり、美大受験を経た現代美術家の多くに影響を及ぼしていると指摘する。

「19世紀フランスのアカデミー由来の美的な価値基準を笑って否定するだけではなく、パープルームではそれらと向き合うことによって、批判ではない検証をしていきたい。それは私たちの中で自明のものとなりすぎている『美術/アート』という制度を設定しなおすことになるし、ひいてはその圏外にあるとされてきたものも見えてくる」

生活すべてをアートに注ぎ込むパープルームが続ける"検証"。その全貌を会場で直に目にしてほしい。

 

(注:1)太陽光の色彩を表現するために屋外で絵を描いた画派。

イベント情報
恋せよ乙女! パープルーム大学と梅津庸一の構想画

会期:2017年6月1日(木)~18日(日)
会場:ワタリウム美術館
休館日:月曜日 開館時間:11時より20時まで *本展は通常より1時間延長して開館いたします。 (毎週水曜日は21時まで延長)
入館料:大人 1,000円 / 学生(25歳以下)800円 / 小・中学生 500円 / 70歳以上の方 700円
ペア割引:大人 2人 1,600円 / 学生 2人 1,200円

出展作家:小林椋、鋤柄ふくみ、予定と卵、坂本夏子、フナイタケヒコ、三瀬夏之介、泰平、宮下大輔、urauny、平山昌尚、3回目のゲルゲル祭、qp、梅津庸一、超エッチ+、小宮麻吏奈、リスカちゃん、荒木悠、村田冬実、KOURYOU
パープルーム予備校生:安藤裕美、アラン、智輝
授業/ 講師:黒瀬陽平、平倉圭、三瀬夏之介、筒井宏樹、柴田英里、泰平、上妻世海、石岡良治ほか

http://www.watarium.co.jp
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