『遠い夏のゴッホ』出演の安西慎太郎&木ノ本嶺浩にインタビュー

2017.7.3
インタビュー
舞台

(左から)木ノ本嶺浩 安西慎太郎


恋人のベアトリーチェより1年早く羽化してしまったユウダチゼミのゴッホは、地上で再会するという約束を果たすため、セミには不可能な冬越えに挑んでいく──。昆虫たちの世界を舞台に愛の大冒険を描いたファンタジー、『遠い夏のゴッホ』が4年ぶりに上演される。主人公のゴッホを演じるのは安西慎太郎。そしてちょっとクセのあるゴッホの友人・ミミズのホセを演じるのは木ノ本嶺浩。かねてから交流のあるふたりが“2017年版ゴッホ”に向け、それぞれの思いを語り合ってくれた。


──おふたりは久しぶりの共演だとか。

安西 「わ、やった!」と思いました。まずこの『遠い夏のゴッホ』への出演が決まって、虫しか出て来ない作品、しかも演出は西田シャトナーさん、これは楽しみしかないぞって思い、さらにそこにみねくんの名前もあり……「みねくん、来た来た~!」って(笑)。

木ノ本 (爆笑)。

安西 みねくんのホセはなんとなく想像もできたし、逆に想像を超えてくるんだろうなって期待もあって。しかも絶対支えてくれるだろうし、お客さんと舞台の橋渡しをしてくれるなとも思って……もう、最初から信頼しかないですね。

木ノ本 わ~、褒められてるわぁ(笑)。僕もそうですね。シャトナーさんとご一緒するのは初めてで、でもそこに安西がいて、しかもゴッホを演ってくれるというのは頼もしいなって。出会った頃はまだ安西も初々しくて(笑)、自分の出し方を探っているようなところも感じたんですが、その後は舞台を観に行くたびに毎回違う表情を魅せてくれるのが素敵だな、頼もしいなと思って観てきました。もちろん、今回も楽しみですし、しっかり座長を支えたいと思います。

──これまで共演された『聖☆明治座・るの祭典』『晦日明治座納め・る祭』は、大所帯の中でわいわい創っていくタイプの作品でした。

安西 そうなんです。だから今回のように一本のお芝居をガッツリと、というのは実は初めてで。

木ノ本 以前共演したときに「またなにか違うカタチで一緒に舞台に立ちたいよね」って言っていたのが叶って嬉しいよね。

安西 そうだね。

安西慎太郎

──『遠い夏のゴッホ』、初演はご覧になりましたか?

安西 本番にはうかがえなかったので、出演が決まってまずDVDと台本を拝見して……この作品が一番魅力的だな、武器だなと思ったのは、人間が出てこないところですね。自分は特に昆虫に興味がなかったもので、観るまでは正直「虫の話!?」って、あまりピンと来なかったんです。でも作品に触れていくうち、この世界には僕の知らない昆虫たちの世界がちゃんとあるんだな、ということがわかって。しかもそれを舞台として創り上げていたシャトナーさんやカンパニーのみなさんも、ホントに素敵だなぁって思ったのが最初の印象です。

木ノ本 僕も映像で観ましたが、映画だったらたぶんCGでしかやりようがないような表現も、視覚的且つ感覚的な方法で……それこそ歌とか台詞ひとつで「そうか」と感じさせるところがたくさんあった。演劇だからできるあの自由な表現は、シャトナーさんならではの世界観ですよね。しかも台本で読むと、そこには見た目だけでは気付けなかった虫たちの深い世界が描かれているので……これは丁寧に表現していかなければいけないな、と感じています。ただ虫を演じるだけではなく、全体のチームワークもとても大切だなって。

安西 そうそう!

木ノ本 ゴッホの抗えない現状に対して、周りの虫たちが虫たちの日常の中から解決策を見つけていくような構成なので、すごく青春でもあるし、群像劇でもあるし、ある意味残酷なお話でもあるなぁと。台本は「コレを安西がやるのかって」思って、楽しみでニヤニヤしながら読んでました(笑)。

木ノ本嶺浩

──シャトナーさんとも少しお話をされたそうですね。

安西 まだ稽古前なのでハッキリとはわからないですけど、やはり再上演に際して新しいモノ、さらなる可能性を求めているんじゃないかな……とは感じています。また、僕ら役者はまず台本に書かれていることをやるっていうのが大前提だと思うんですけど、その中でもこれだけ自由度が高い世界なので、そこに向けて役者が自分で練り、考え、実際に出して来たモノを稽古場でちゃんと受け止めてジャッジしてくれる方だな、とも思いました。

──今の段階でなにか具体的なリクエストはありましたか?

安西 それはまだです。まずはお会いして、作品の大まかなお話をして……あ、そこから宇宙の話なんかもしました。

木ノ本 僕もそうでした! シャトナーさんが「ミミズっていうのは神なんだよ」とかお話ししてくれて。

安西 神!

木ノ本 うん、神! 「ミミズってなにも考えてないよね。食べることで前に進んで行くよね。繁殖にも興味がないし、感情もないし……でも気づかないうちに生きてるだけで土をよくしているとしたら、それってホントにもう神の領域だよ」って。

安西 なるほどね~。

木ノ本 同時にミミズとして、ホセとして、「愚かであって」とも言われました。

(左から)木ノ本嶺浩 安西慎太郎

──まずは本当に純粋にその虫としての状態でいるのが大事なんですね。

木ノ本 そういうところはあると思います。

安西 シャトナーさんの虫の知識ってスゴイので、僕もある程度この作品に必要な知識も踏まえていきたいですね。その上で作品に必要なモノを引き出し……やっぱり人間が昆虫として生きるのって、下手すると見た目だけの仮装大賞みたいになってしまうかもしれない危うさはあると思うんです。そうならないようにまずは台本に書いてあることを……それもまた難しくはあるんですが、そこを押さえた上でどう演じていくのかのバランスが一番の課題かなって。

木ノ本 考えることがたくさんある台本だよね。実際に台本と舞台の両方に触れてみると、どれだけ台本を豊かに膨らませて実際の舞台に乗せていたかがわかるんですよ。また、言葉を喋らずにいろんなことを表現しているってところなんかは特に「芝居の根幹に迫っているなぁ」と思いますし。

──パワーマイムを筆頭に、シャトナーさんの演出は高度な身体表現も大きな個性のひとつですからね。

木ノ本 シャトナーさんとお仕事をしたことのある役者仲間からは「シャトナーさんとやるんだね。がんばって」って、すでにエールはすごく送られてます。

安西 そっか。どうなっちゃうんだろうね。僕,この前『破壊ランナー』を拝見したときも「すべて人間でやるのがすごい!」って感動して。ホント、シャトナーさんは「舞台上でできないことなんてないんじゃないかな」って思わせてくれる演出家さんですよね。

安西慎太郎

木ノ本 以前『仮面ライダーW(ダブル)』という作品に出演していたときに腹筋善之介さん(シャトナー氏の劇団・惑星ピスタチオに在籍)と1年間ご一緒してたんですけど、例えば台本に“映像で手が伸びる”って書いてあるのを、「やってみる」って、自分で「ウィーン」って言いながらやるんですよ。で、みんなで「あ、ホントに手が伸びた!」って盛り上がったりして(笑)。それがメチャメチャ面白かったんですけど、今思うと腹筋さんはもうずっとそういうことを追究してたんですよね。当時はわからなかったけれど……シャトナーさんのDNAにはもうすでに触れていたんだなぁ。

安西 昆虫の表現……そもそもセミらしさってなんでしょうね。初演では松山ケンイチさんがゴッホを演っていましたが、最初こそ舞台上を観て「いや、人間やん」って思うんだけど、じきにセミにしか見えなくなり……それはシャトナーさんの演出もですけど、松山さんの演技力と思考と全てが合致したから見えるんだと思うので、僕も今回そこを追究していきたいと思います。見た目もですし、中身もちゃんとセミの目線になってモノを捉えていきたいなって。セミと人間はやっぱり世界が違うから「共感」はできないと思うけど、近いところを「発見」することはできるんじゃないかなぁ……というか、ぜひいろいろ発見していきたいですね。

木ノ本 共通点か。「カマキリのところに行くと喰われる」みたいに、「ベテランの先輩の前では芝居喰われちゃうよなぁ」……みたいな?

安西 ハハハハッ(笑)。確かに上下関係やパワーバランスも、虫が生き抜くためにすごく必要な要素だね。

木ノ本 シビアだし、助け合わなきゃいけないし。とにかくもうみんな、「虫ってなんだ?」ってところからのスタートですよ。

木ノ本嶺浩

──じきに稽古も始まります。なにか掲げているテーマなどありますか?

安西 僕、まだ舞台上で恋をしたことがなくて。

木ノ本 うわっ、そうなの? あー、ちょっとこの話題であと2時間くらい話しましょうよ(笑)。

安西 (笑)。なので、早く舞台上で「恋したい」ですね。

木ノ本 儚くも濃密でピュアなセミたちの恋、か。僕はそれを見て……ジェラシーしたり、茶化したり。ね(笑)。

安西 そういうの、すごく想像つくよ~(笑)。

木ノ本 ゴッホとホセのやり取りって、普段の僕らのやりとりと似てるから。

安西 まんまですね(笑)。

木ノ本 さて。恋人の名前を呼ぶとき、きみはどんな顔をするんだろうねぇ。

安西 うん……だからね……その……ラブストーリーって、自分が普段どんな恋愛をするのかっていうのがね、お客様にバレるんじゃないかっていうのがちょっと恥ずかしいというか、若干怖くて(笑)。

木ノ本 たぶんバレる(笑)。

安西 いや、ちゃんとピュアだよ、ピュアなんだよ……ホントに僕、真っすぐでピュアってことで有名なんだけどさ。

木ノ本 なんだよそれ。知らないから!

安西 (爆笑)。いや、えー、それでもどう見られるのか怖いので、早くお稽古したいです! ちゃんと恋するためにも。

木ノ本 ベアトリーチェ、すっごくゴッホを信じてくれてるんだよね。なんか……そこでホセは……。

(左から)木ノ本嶺浩 安西慎太郎

──手助けしてるのか邪魔してるのか。

木ノ本 (笑)。彼のシニカルな会話を成立させていくのは楽しいだろうなって思います。言うこと嘘ばっかりだし、やることも裏返しもあるだろうし……ま、純愛を見守りながら「嘘に徹したい」と思います。こういうタイプの役は初めてなんですが、素直に翻弄されていきたいですね。嘘の嘘はホントにもなるし……ときにお客様と同じように目の前で起こっている出来事に素直に翻弄され、ある種ピエロ的な役回りを楽しみたいです。

──みなさんが新たに魅力を吹き込む愛と命の物語。期待しています。

安西 僕たちと命の感覚が違う虫のお話。木の根っこのほうでは実はこんなことが起きてるんだよ、彼らはスゴい環境で生きているんだよってことや、なによりも彼らが恋をしているってことを伝えたいですね。エンタメ性豊かな究極のラブストーリー。やっぱりお客様に『遠い夏のゴッホ』って素敵だな、と思ってもらうことが大切なので、これからみなさんに楽しんでもらえる作品づくりに集中していきたいと思います。

木ノ本 人智を越えた世界、なにをしてもなにが起きてもいいと思えるファンタジーの世界。演劇だからできる自由を徹底的に表現して……僕たち色の『遠い夏のゴッホ』をお届けします。安西が恋をしている姿を楽しんで欲しいです!

安西 俺はみねさんのミミズもほんっとに楽しみ。みんなの昆虫ぶりもお見逃しなく。

(左から)木ノ本嶺浩 安西慎太郎

取材・文=横澤由香  撮影=岩間辰徳

公演情報
キティエンターテインメント×東映 Presents SHATNER of WONDER ♯6
『遠い夏のゴッホ』

 
■日程・会場:
2017/7/14(金)~7/23(日) 東京・天王洲 銀河劇場
2017/7/29(土)~7/30(日) 大阪・森ノ宮ピロティホール
■席種・料金:全席指定-7,900円
■作・演出:西田シャトナー
■出演:
安西慎太郎
山下聖菜 / 小澤亮太  木ノ本嶺浩  山本匠馬 / 陳内 将
伊勢大貴  宮下雄也  三上 俊  永田 彬  土屋シオン  丸目聖人  星元裕月
米原幸佑  平田裕一郎  兼崎健太郎 / 萩野 崇  石坂 勇

■公式サイト:http://toinatsu-gogh.com/