ウィレム・デフォー『ドッグ・イート・ドッグ』インタビュー 肉体の持つ知性とヨガ……怪優は“狂犬”をどう演じたのか?

2017.6.15
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ウィレム・デフォー 映画『ドッグ・イート・ドッグ』 (C)2015 BLUE BUDGIE DED PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED.

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6月17日から公開される映画『ドッグ・イート・ドッグ』は、『タクシードライバー』『レイジング・ブル』の脚本家としても知られるポール・シュレイダーがメガホンをとるクライム・サスペンスだ。服役経験もある異色の作家エドワード・バンカーによる同名犯罪小説を映画化した同作は、ニコラス・ケイジ、ウィレム・デフォー、クリストファー・マシュー・クックら強烈な個性を持つ俳優をメインキャストに迎え、三人のならず者が人生の一発逆転を狙って赤ん坊誘拐計画に挑む姿を暴力とトリップ映像たっぷりに描き出す。第69回カンヌ国際映画祭の監督週間部門ではクロージング上映され、観客に衝撃を与えた怪作だ。

シュレイダー監督は最終的な編集権限を手に入れるために同作を低予算で製作し、美術や編集に若いスタッフを起用。信頼するケイジやデフォーのエキセントリックな演技もあり、R-18指定を受ける過激な作品を作り上げた。そして、ケイジ演じるリーダー・トロイたち三人の犯罪者の中でも、最もキレやすい危険人物“マッド・ドッグ”を演じたのが、個性派俳優として知られるデフォーである。『プラトーン』でアカデミー助演男優賞にノミネートされる実力派であり、『ニンフォマニアック』『処刑人II』などでの怪演でも知られる変幻自在の俳優は、どんな思いで”狂犬”を演じたのか。作品への思いや、肉体の動作に特化した役作り、そしてヨガについてなど、様々なエピソードを電話インタビューで語った。

 

「肉体には知性がある」怪優の役へのアプローチ

左から、クリストファー・マシュー・クック、ウィレム・デフォー、ニコラス・ケイジ 映画『ドッグ・イート・ドッグ』 (C)2015 BLUE BUDGIE DED PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED.

――同じエドワード・バンカー原作の映画では『アニマル・ファクトリー』にも出演されていますね。彼の作品の一番の魅力は何ですか?

彼の物語はリアルで自伝的だし、自分の知る世界を描いているから魅力的なんじゃないかな。彼は犯罪者としての生活を送って、刑務所にもいたわけで。その中で生き延びて、自分のアートを通してある意味再生した。そんな人間だから魅力的なのかもしれない。しかも、今までの自分の生活をセンチメンタルに描いたり、犯罪を素敵なもののように描くわけでもなく、犯罪に対して謝るようなこともしない。つまり、事実として綴っていることが魅力なんじゃないかな。

――そのバンカー作品への参加を、ポール・シュレイダー監督からオファーされた時はどう思われましたか?

監督はもともと何度も仕事をしている友人なんだ。彼から電話がかかってきて、「小さな作品なんだけど、君にとって面白い役がある。悪役だからもしかしたらやりたくないかもしれないけど、やってほしいと思っているんだ」と言われた。「とても低予算だから、ひとつの挑戦にはなるよ。とにかく脚本を読んでくれ。ニコラス・ケイジの出演はもう決まっているし」とも。これまで、数本ファイナルカット(最終編集権)を貰えなかった経験があったんだけど、この作品ではファイナルカットの権利を貰えるということもあったので凄くワクワクしていたから、「友人として参加させてくれないか」って言ったんだ。ポールは非常に思慮深い人間で、今回も作品に取り掛かる前に、「僕たちの最大の義務はつまらないものは作らないこと、つまらない瞬間を一つも作らないことだ。とにかくエンタテインメントな作品を作りたい。みんなが楽しんで観られるものを作りたい」と言っていた。かえって低予算ということが味方になったところもあるね。

――バンカーの原作には、映画にはないトロイ、マッド・ドッグ、ディーゼル(クリストファー・マシュー・クック)の出会いも描かれています。3人の関係をより深く知るために、原作を読みましたか?

バンカーは『アニマル・ファクトリー』の脚本にも携わっていたし、(俳優として同作に出演していたので)現場にもしょっちゅう来て演技もしていたから、そこで知り合いになった。当時、彼自身から彼の作品を貰っていたので、全作読んでいたし、今回また原作を読み直したよ。もちろん、映画には原作から変更されている点もたくさんあるけど、それは僕の納得のいく脚色だった。例えば、映画の舞台は90年代だけど、彼(バンカー)の人間が形成されたのは60年~70年代なので、その時の犯罪者の生活に対する理解度なんかも、やはりその時代のものなんだ。原作は西海岸が舞台だけど、この映画ではクリーブランドになっている。そういった違いは結構あるんだけど、今回は納得できたね。
 

クリストファー・マシュー・クック 映画『ドッグ・イート・ドッグ』 (C)2015 BLUE BUDGIE DED PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 

――本作に限らず、原作は読み込まれるんでしょうか?

原作モノの場合、僕はだいたい監督に読むべきかを聞くんだ。聞いて情報として得るものがあると思えば読むし、逆に脚本が凄く強く、良い出来で、自分が何をすべきかが分かるものなら、「原作にも忠実にしたい、脚本にも忠実にしたい」と考えてしまわないように、原作を読まないようにすることもある。だって、映画は原作から派生したもので、それはそれで独立した作品として成立しているべきだから。

――トロイ、マッド・ドッグ、ディーゼルの中でも、マッド・ドッグは特に狂気に満ちた人物だと思います。脚本を読んで、どう演じようと思われましたか?

実は、最初はこの役をやるべきか悩んだ。ちょっと極端すぎるキャラクターだからね。だけど、暴力的でありながら、愛を受け入れてもらいたいという気持ちを持っているのが凄く面白いと思った。ドラッグをやってハイになって、いろんなことを妄想してしまう面を持ちながらも、彼の心は平和とか愛とかを求めている。そのバランス・組み合わせが、やっぱり演者としてはたまらないものがあったんだ。コカインをやってディーゼルと車で話しているシーンを読んで、この役をやろうと決めた。それに、ポールともニコラス・ケイジとも仕事をしたことがあったし、低予算映画としてみんなで力を合わせるような、その場で作っていくような実験的な作品になると思ったから出演を決めた。僕は、絶対に犯罪に抗うことが出来ないようなキャラクターに、人間性だったり贖罪の機会を与えられるかどうかを見出せるかが、役者としてのいいチャレンジだと思っているんだ。マッド・ドッグは、自分が受けたいタイプのチャレンジだったんだ。

――映画や舞台で誰かを演じるとき、そのキャラクターの動きや身体的特徴から役づくりをされると聞きました。それはなぜですか?

僕は肉体には知性があると思っていて、それを信頼すべきだと考えている。動くことによってロジックが見つかってくるし、役者は“Doer”、つまりものごとを‟Do”する人であるべきだと思うんだ。確かに言葉はセリフとして発するけど、言葉というものはいくらでも歪めることが出来るわけで。僕は演者としていつも“Do”することと“Show”することの違いを意識して、それをずっと大切にしてきた。何かをするということは、すなわちアクションするということなので、必ずしも伝統的な心理学や気持ちを考える必要はないんだよ。役者として、行動する・やる・動くということをオープンなマインドで行うことが、物語の中で自分を役者として導いてくれる。導かれる中で、その物語が立ち現われてくると思っている。「行動の効果がこう現われるんじゃないか?」と先入観を持ってやるのではなく、まず行動するという考え方だね。

――役作りにヨガ(アシュタンガヨガ)をとりいれているとも聞きました。

毎日やっているよ。仕事があるときも無いときも。自分の肉体とマインドをつなげることが出来る、あるいは今どういう状態なのかを確認できるし、自分のフレキシブルな強さも保持することが出来る。これが自分として正しいんだという“呼吸”も知ることが出来る。仕事をしている時に固まってしまったり、「厳しいな、キツイな」と思ったり、トラブルが起こってしまったとしても、自分の呼吸がどんなものかを知っていればそこに立ち返ることができるんだ。そういった意味で、瞑想やヨガは役に立つよ。

 

監督としてのポール・シュレイダーの魅力

左から、ニコラス・ケイジ、ウィレム・デフォー 映画『ドッグ・イート・ドッグ』 (C)2015 BLUE BUDGIE DED PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED.

――ニコラス・ケイジさんと映画でご一緒されるのは、『ワイルド・アット・ハート』以来ですね。久しぶりの共演はいかがでしたか?

『ワイルド・アット・ハート』からの関係性が継続しているような感じだったよ。多くが変わりもしたし、何も変わってないこともたくさんあった。

――ケイジさん演じるトロイとマッド・ドッグの関係は複雑だと思いました。二人のシーンで一番印象に残っている場面はありますか?

ニコラス・ケイジのキャラクターが持っている“知性”みたいなものに敬意を払っているところがあって。彼(マッド・ドッグ)にとってトロイは凄い成功者で、自分が学べるものを持っているグループのボス的存在として見ているから、特にこのシーンという場面は無いかな。マッド・ドッグに関しては、ディーゼルとのシーンで彼らしい魅力的なシーンが多かったかな。

――脚本家としてはベテランのシュレイダー監督ですが、監督としての彼の演出の魅力は何でしょう?

彼の面白いところは、フォーマルな形で、熱くならずに素材にアプローチしていくところだね。だから(観客を)巻き込んでもいくんだけど、ストーリーを綴っている時に距離感みたいなものを感じる映画作家でもある。彼の物語が気持ちを喚起したり、何が起きているのかすごく分かりやすいのは、おそらく彼が気持ちで綴るというより、知性で綴る監督だからじゃないかと思う。それと、彼の惹かれる素材に僕も惹かれるところがあると思うんだ。彼が惹かれ僕も惹かれる素材というのは、全部がそうではないんだけど……高い精神性を持った人、獣のような低い人間性を持った人、二つ人間性が引っ張り合う葛藤がテーマになることが多いということだね。

――シュレイダー監督は本作に俳優としても出演しています。彼の演技はいかがでしたか?

彼は役者じゃないよ(大笑)。今回はうまくハマっていたけど。

――美術や編集に若いスタッフを起用していますね。そのせいか、オープニングのマッド・ドッグ登場シーンのピンクの色彩は強烈ですし、後半のカーチェイスも独特の編集で繋がれています。完成した作品を観てどう思われましたか?

監督の意図は、まだこういったやり方とか美的センスが形成されてないスタッフと仕事がしたいというところにあった。多くのスタッフが長編作品への参加が初めてだったので、ほんとうに経験値が無い中で必死に出せるものを出した、という感じだ。そのおかげで、凄くエネルギッシュで、同時にリスキーで予測できないような現場・映画作りになった。それが監督が望んだものだった。とはいえ、監督は明確なビジョンを持って彼らを導いてもいた。僕の場合は、(現場で)アニメの『マイリトルポニー』みたいなピンク一色の自分の家を初めて見た時はビビったけど、さすがに映像で観た時はビビらなかったよ。

 

ウィレム・デフォー 映画『ドッグ・イート・ドッグ』 (C)2015 BLUE BUDGIE DED PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED.

――そんな中でも、お気に入りのシーンはどこですか?

コカインでハイになって車の中でディーゼルに話してるところと、オープニングかな。

――逆に、撮影中に大変だったことはありますか?

低予算映画だから、ほんとに撮影している環境・現場をコントロールできないんだ。危ないエリアでも撮影したから……通りで僕たちが(撮影で)暴力的なことをしているのと同じことが、通りの端の方でリアルに起きていた。例えば、警官たちがアフリカ系アメリカ人を車から引きずり出してボコボコにするシーンも、(実際に)アフリカ系の人たちが住むエリアで撮っていた。周りの人たちは映画の撮影だと知らないから、窓からそぉーと見てたりしていたんだ。だから、常にこの作品にはリアルな部分が、フィクションの中にもあったりする。妙なテンションがずっとあったね。

――本作にかぎらず、デフォーさんは比較的低予算で挑戦的な作品にもたくさん出演されている印象があります。こういった作品に求めるものはなんですか? 

毎回違うんだけど、強い監督には惹かれる。パーソナルな作品、観た後に人に話したくなるような作品が好きだね。

――なるほど。最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

日本にはまた行きたいね。近々行ければいいな、と思っている。最後に行ったのは4年くらい前で、結構な時間が開いちゃったけれど、日本のことは大好きだし、行くたびに素晴らしい時間を過ごせた。日本のファンは最高だ。最近、アメリカ映画の配給の数が、80年代や90年代に比べて少し落ち込んでいるのも知っているけど……80年代、90年代に日本にプロモーションでたくさん行くことができて、その時に出会った日本のファンの方々は本当に僕たちを支持してくれた。僕たちにワクワクしてくれていて、最高のファンだなって思ったんだ。この作品を観れば、人によって違うものを持ち帰ってもらえると思う。僕が願うのは、観たことが無いフレッシュな作品として楽しんでもらうことかな。


映画『ドッグ・イート・ドッグ』は6月17日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

作品情報
映画『ドッグ・イート・ドッグ』

2016年/アメリカ/93分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル
原題:Dog Eat Dog
監督:ポール・シュレイダー
脚色:マシュー・ワイルダー
制作総指揮:バーニー・バーマン、ジェフ・キャパートン、レイモンド・マスフィールドほか
制作:ブライアン・ベックマン、ゲイリー・ハミルトン、デヴィッド・ヒラリー
撮影:アレクサンダー・ダイナン
原作:エドワード・バンカー 「ドッグ・イート・ドッグ」(早川書房)
出演:ニコラス・ケイジ、ウィレム・デフォー、クリストファー・マシュー・クック、 オマール・ドーシー、ポール・シュレイダー
配給:プレシディオ
レーティング:R18
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