『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』 シリーズ構成・乙一に訊く「『ウルトラマンジード』では何が起こるのか?」
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左から、乙一、タカハシヒョウリ
ロックバンド『オワリカラ』のタカハシヒョウリによる連載企画『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』。毎回タカハシ氏が風来坊のごとく、サブカルにまつわる様々な場所へ行き、人に会っていきます。
2017年7月8日(土)からいよいよ放送開始となる、ウルトラマンシリーズ最新作『ウルトラマンジード』。なんと主役のウルトラマンジードは、シリーズの人気敵役・ウルトラマンベリアルの息子! さらに、そのシリーズ構成を小説家の乙一さんが担当されるという刺激的な知らせが飛び込んできた。乙一さんといえば、ファンの間で「白乙一」「黒乙一」という呼び方があるくらい、様々なジャンルの作品を発表してきた。今回は、乙一さんに参加への経緯と、その特撮的ルーツ、そして『ウルトラマンジード』の展望を対談インタビュー!
タカハシヒョウリ:今回、乙一さんが『ウルトラマンジード』のシリーズ構成を務めるということで、ウルトラファンにとっては、かなりビッグニュースというか、刺激的なサプライズだったんですね。ファンはやっぱりウルトラシリーズがどう変化するのかとか、何か新しい風が吹くのかとか、いろいろな部分でワクワクしてると思います。今回、『ジード』のシリーズ構成に携わることになったのは、いつ頃、どういう経緯なんでしょうか?
乙一:去年『ウルトラマンオーブ』のオンエアが始まって4~5回目ぐらいの頃です。僕が映像作品を手掛ける際に参加しているリアルコーヒーという会社の方から、「ウルトラマンの新作の脚本依頼が来てるんですけど、どうしましょう?」と言われまして。その時期、僕は息子と一緒に『ウルトラマンエックス』や『オーブ』を見て、時々ツイッターに書いてたので、そのツイートを見て声をかけて来たのかな?と思いました。それとはぜんぜん関係ないみたいでしたけど。
タカハシ: 関係ないんですね(笑)。坂本浩一監督がご指名なさったということではなくて。
乙一:そうではないですね。円谷プロのプロデューサーさんからの依頼でした。
タカハシ: 実際、シリーズ構成というと、何をどういう風にする仕事なのかっていうのが読者もわからないと思うんですけど、企画立ち上げやキャラクターを決めるという段階から携わっているということですよね。
乙一:そうですね。いろんな設定を決めたり、キャラクターの性格を方向づけたりとか、作品のベースとなる部分を考えました。ただ、シリーズ構成っていうものが何なのか、僕もよくわからないまま関わりはじめて、そのままシリーズ後半の構成と脚本に突入してしまいました(笑)。
乙一
タカハシ:(笑)。今回、ジードは「ベリアルの息子」っていうのが大きく打ち出されているんですけど、それはシリーズ構成の話を受けた段階から決まっていたんですか?
乙一:企画を受けて割と初期の頃に、「主人公はベリアルの息子でどうですか」というメールを円谷プロからいただきました。でも、そのちょっと前から、僕も薄々ベリアルの息子という設定がおもしろいのではと考えていて、それを提案しようとした矢先に逆に提案されてしまったような状態です。こんな偶然があるのかとおどろきました。自分の脳の中を勝手に読まれてるんじゃないかという不思議な気持ちでしたね。
タカハシ:じゃあ完全にイメージが合致したわけですね! 乙一さんが、ベリアルの息子が良いんじゃないかなっていうのはどういう理由なんですか?
乙一:ベリアルっていうキャラクターに妙なかっこよさがあって。
タカハシ:人気もありますよね。
乙一:ヴィジュアルも特徴的だし。
タカハシ:アメコミのヴィラン(敵役)みたいで、凄いですよね。
乙一:ベリアルの息子が主人公だったら、キャッチーで、特別な話になるんじゃないかなっていう気がして。ただ、きっと提案しても通らないだろうな……って思っていたら、まさか逆に提案されるとは。
タカハシ:円谷プロ的にも何か新しいヒーロー像を求めているっていうことですね。『ジョジョの奇妙な冒険』第四部のノベライズを担当なさったじゃないですか。僕、あの作品が大好きなんですけど、あれだと「たしかに乙一さんはジョジョ好きだろうな!」っていう腑に落ちる感があったんです。でも、乙一さんとウルトラマンっていうのはすごく意外な組み合わせっていうのがあって。実際子供の頃にウルトラマンを熱心に見ていたんですか?
乙一:子供の頃はあんまり見てなくて、再放送でたまにぼんやり見ていたぐらいでした。
タカハシ:乙一さんは、1978年生まれですから、80年代ってテレビにウルトラマンが不在の時期で、ちょこっと映画とか再放送とか。やっぱり子供の頃にウルトラマンが好きで、というような思い入れはそんなに……。
乙一:熱心に見た記憶はないですね。
タカハシヒョウリ
タカハシ:そうなんですね。じゃあ、特撮作品自体で、子供の頃に見ていたというのは?
乙一:特撮は、再放送の『仮面ライダーV3』や『仮面ライダーアマゾン』を学校から帰って夕方に見ていたり。「てれびくん」とか「テレビマガジン」を小学5~6年ぐらいまで買って読んでいた記憶があります。そのことを友達にバカにされた記憶がありますね。
タカハシ:小学校6年はなかなか粘りましたね(笑)。高学年で結構、卒業しちゃう人多いですものね。じゃあ、子供の頃にすごく熱中していたものって、何になるんですかね。
乙一:ゲームとかですね。僕は、途中から、興味が次第に映画の方、洋画の方にシフトしていって、ハリウッドの特撮映画とか、そういうものを追いかけるようになりましたね。
タカハシ:『インディ・ジョーンズ』とか、『スター・ウォーズ』とか?
乙一:そうですね、あと僕が小学校3~4年ぐらいの時に、ティム・バートン監督の『バットマン』や『ビートルジュース』を見ていました。ティム・バートン監督の人形アニメの動きとかすごく好きになって。
タカハシ:結構あのバートン・バットマンはダークゴシックな感じだし、乙一さんがハマったのもちょっとわかりますね。アニメ方面はどうですか?
乙一:例えば『ガンダム』は見ていませんでしたが、ガンプラだけずっと作っていました。アニメのストーリーが難しくて、よくわからなかったみたいです。
タカハシ:作っていたガンプラっていうのは、ファーストガンダムってことですかね。300円だった時の。
乙一:いや、もうちょっとあとの『Zガンダム』あたりでした。
タカハシ:じゃあ、アニメは見てなかったけど、造形的なところにかっこよさを感じて、作っているみたいな。
乙一:そうですね。
タカハシ:小説を読んでいても、「勢いだけで行ってない感」をすごく感じるんですよ。何か、建築物みたいな構築美を感じて、プラモデルが好きだっていうことに関しても納得がいくというか。
乙一:なるほど。
タカハシ:結構小説を書くとか、脚本書くっていう時は、ロジカルな頭がメインで書く感じですか。
乙一:バランスですね。書く前とか、書いている時もなんですけど、できるだけロジックで緻密に作ってやっていこうっていう意識があるんですけど、書いていて、ある瞬間に、ロジックを外れて、ここは感情で乗って行った方がいいなっていう瞬間があったら、そこを大事にしますね。
タカハシ:なるほど。それっていうのは、言葉にするのはすごく難しいと思うんですけど……、ロジックとエモーションの切れ目の部分というのは数を重ねることで、「ここで切り替えるべき」というのが経験則的にわかっていく感じなんですか。それとも、もっとプリミティブ(本能的)な感じですか?
乙一:そうですね……、経験かもしれないですね。ロジックばっかりで構築してやっていくとつまらないものができてしまうみたいな、過去の苦い経験もあり(笑)。できるだけ、頭で計算して書き始めるんですけど、なんだろうな……。
タカハシ:あえて踏みはずす、みたいな。
乙一:踏み外せる瞬間があったら踏み外すようにしていますね。
タカハシ:僕も乙一さんの作品を色々読ませていただいているんですけど、とにかくジャンルが幅広いじゃないですか。だけど、乙一さんのセンスの「物差し」があって、それを使えば何をやってもご自身の世界になる、というのがあると思っているんですけど。実際、今回「ウルトラマンシリーズ」を乙一さんがやるということで、どういう作品になる、というのはありますか?
乙一:SFマインドを感じるような話になると良いなと思っていました。
タカハシ:『オーブ』は、日常に根ざしているというか、身近な話が多いじゃないですか。それに比べるとよりスケールが大きいというか。
乙一:そうですね。なんか、SFっていうのが何を指すのか明確にはちょっと説明できないんですけど、ファンタジー的なものではなくて、ちゃんと物事の背景にロジックがあるような、そういう作品作りができたらいいなと思いましたね。
タカハシ:ある種のSF的な筋が一本通っているみたいな。
乙一:そうですね。ただ、それがやれているかどうかは……。
タカハシ:もちろん大人も見ていますけど、基本的には子供が見る朝の番組じゃないですか、そういう作品に直接関わることも初めてですか?
乙一:初めてですね。
タカハシ:そこはどうですか。今までとは違う客層がいるわけですが。
乙一:何かウルトラマンシリーズに関われて誇らしいっていう気持ちもあるんですけど、ファンの方々に怒られないといいなっていう……。
タカハシ:あははは!(笑)
乙一:同時に不安もいっぱいありますね。
タカハシ:今回、ご自身がウルトラマンを見て育ってきたような「マニア」じゃないっていうのが、すごく面白いところだと思うんですよね。ウルトラマンマニアがやると、やっぱりファンが見たいものを作っていくわけじゃないですか。それも良いんですが、違う影響がある人がウルトラマンのメインのシリーズ構成をやるのが面白いと思います。
乙一:そんなに大きく取り上げられると思ってなくて。こんなに多くの取材を受けるとは思ってなかったですよ(笑)。
タカハシ:ほんとですか。ファン的には、衝撃だったし、乙一さんは今までの作品で、非常にダークな世界観を書いていらっしゃるわけじゃないですか。
乙一:はい。
タカハシ:そういった作風の作家がウルトラマンを作るっていうのはどうなるんだろうっていうワクワクがあるんです。海外でもそれこそ、『死霊のはらわた』を作っていたサム・ライミが『スパイダーマン』を撮りましたとか、『ブレインデッド』を撮っていたピーター・ジャクソンが、『ロード・オブ・ザ・リング』を撮ったみたいな。ある種、グロテスクとかダークな世界観とSFやファンタジーって根底に流れるものは、似ていると思うんですね。
乙一:そうですね。
タカハシ:でもそういう部分って、最近のウルトラマンには薄いモノだと思うんです。僕は『ウルトラマンA』が好きなんですけど、結構作風がホラー調です。怖さとか生理的な不快さと、それを超えていくかっこよさとか突き抜け感っていうのが、自分的に魅力に感じる部分なんですけど、ここ最近の作品はよりかっこいい方に振っていると思うんです。今回は、乙一流のダークな部分っていうのを注入されたりするんですかね。
乙一:僕も、昔のウルトラマンのおどろおどろしい感じとか、SFホラーな感じが好きで、暗さというか、影の濃さというか、そういう要素を入れられたらいいなと思う反面、プロデューサーさんからベースはできるだけ明るくしてほしいというリクエストがあるので、笑いの要素も頑張っています(笑)。
タカハシ:(笑)。それ、でもすごいですね。できるだけ明るいものを発注するのに乙一さんをチョイスしたっていう、人選がなかなかすごいというか。
乙一:子供層が見やすいような明るいテイストを意図的に取り入れていかないとまずいとおもいます、僕も。
タカハシ:あと、今のウルトラマンの魅力として「おもちゃ」の部分が大事になってくると思うのですが、作劇のなかで難しさを感じたりしますか?
乙一:ありますね(笑)。例えばラスボスと戦うクライマックスがくる前に、玩具となる新規の重要アイテムを登場させたいといった要望がきたりします。新規アイテムの登場にあわせて大きな盛り上がりを作らなくてはいけないので、その後どう盛り上げていけばいいんだろう、みたいな。
タカハシ:そういう、商品的な魅力も必要な創作って過去にも経験あるんですか?
乙一:今ままでなかったですね。
タカハシ:本当に初づくしというか。
乙一:初めてで、それが面白いですね。
タカハシ:ファンの間では、今回のジードは乙一さんの作風として「黒乙一」なのか「白乙一」なのか、という話も見受けられます。いろんな名義を使っていらっしゃいますし、いろんな作風があると思うんですけど、円谷プロからは主に「白乙一」を求められているということなんですかね。
乙一:どちらかというと、そうだと思います。
タカハシ:たとえば、「黒」を入れ込んでいこう的なとこはどうなんですかね。
乙一:こっそりと目立たない感じで入れられるといいです。
タカハシ: (笑)。やっぱりほんの少し、入れて欲しいですね。連続殺人が起きたらまずいと思うんですけど(笑)。なんか、むしろ子供が一番怖いものを欲していて、敏感だったりするじゃないですか。今そういう「影」みたいなものを感じる事がそんなに無いというか、大人のマニアも見るから、そういうものは全部深夜アニメが担って、子供向けにあんまりそういうのが出づらいと思うんですけど、個人的にはやっぱりちょっと入っている物を見たいなというのもありますね。ちなみに、今回『ジード』を作るにあたって、インスピレーションを受けた作品というのは、あったりしますか?
乙一:アーサー・C・クラークの『幼年期の終り』という小説を元ネタにした設定をずっと企画書に書いていました。
タカハシ:へえ!! じゃあ本格SF的なことですよね。
乙一:その企画書の設定の3分の1ぐらいの設定は残っていますね。(※主人公・朝倉リクの名前も、「アーサー・C・クラーク」から取られている)
タカハシ:すごい意外なところですね!
乙一:SF感を、みたいな話もそこから来ているような気が。
タカハシ:乙一さんが好きなウルトラヒーローとか、怪獣はいたりするんですか。
乙一:『ウルトラマンエックス』が好きですね。本当に最近なんですけど、ちゃんとウルトラマンを追いかけはじめたのがこの作品からだったので。
タカハシ:それはお子さんが見ているからっていう。
乙一:そうですね。一緒になって見て、「すごいじゃないか! 今、ウルトラマンってこんな内容になっているんだ!」って驚きがあって。それもあってか『ジード』には『エックス』のネタも、いくつか入ってますね。
タカハシ:『ウルトラマンX』のメイン監督・田口清隆さんは、今回も何本か撮ると思うんですけど、年齢的には近い世代ですよね。田口監督とはお会いになりましたか。
乙一:はい、お会いしましたね。こんな若いのにあのような作品を手掛けられていてすごいなっていう。リスペクトです。
タカハシ:それ、全員が全く同じことを乙一さんに思っていたと思っています(笑)。
乙一:もちろん、シリーズに関わっていらっしゃる他の監督さんもリスペクトしています。
タカハシ:キャストの方に関しては、お会いしての印象とかはいかがですか?
乙一:ヒロインの山本千尋さんのアクションに期待ですね。武術が凄いっていう。
タカハシ:剣を使って戦うっていう。
乙一:どんな動きを見せてくれるんだろうという期待感があります。
タカハシ:撮影現場には足を運んでいらっしゃるんですか。
乙一:ほとんど行ってないですね。調布のスタジオで、特撮シーンを撮影しているところだけは行けたんですけど、役者の方々が演技をしているところには結局今も行けてなくて。本当に撮影しているのか?みたいな(笑)。
タカハシ:壮大なドッキリじゃないかっていう(笑)。
乙一:そんな感じです。
タカハシ:それでは、最後に楽しみにしているファンに見どころを含めて、メッセージをいただけたら。
乙一:シリーズ後半の脚本を執筆中なんですが、ちょっとこれは、みんな感動してしまうのでは?というシナリオが完成しました。
タカハシ:おおー!
乙一:ぜひ期待して見てください。主人公とベリアルの関係性にも注目です。よろしくお願いします。
タカハシ:ありがとうございました!
放送開始日:2017年7月8日(土) ※7月1日(土)は「直前スペシャル」を放送
放送時間:毎週土曜日9:00~9:30
放送局:テレビ東京系6局ネット 他
話数:25話
製作: 円谷プロダクション・テレビ東京・電通
番組公式サイト(テレビ東京):http://ani.tv/geed/
作品公式サイト(円谷プロ):http://m-78.jp/geed/
濱田 龍臣・山本 千尋・長谷川 眞優・小澤 雄太・渡辺 邦斗
(声の出演)潘 めぐみ・三森 すずこ・宮野 真守・小野 友樹
監督:坂本 浩一・市野 龍一・武居 正能・冨田 卓・田口 清隆・伊藤 良一
シリーズ構成:乙一
シリーズ構成協力:三浦 有為子
脚本:安達 寛高・三浦 有為子・柳井 ?緒・森江 美咲・根元 歳三・勝冶 京子
音楽:川井 憲次