「生きること」と「死ぬこと」について問いかける 『YCC Temporary 山川冬樹 :LIVE FOR 70 HOURS』レポート
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『YCC Temporary 山川冬樹:LIVE FOR 70 HOURS』が、2017年7月7日 (金) 午前0時から7月9日 (日) 午後10時まで行われた。
この催しはYCC ヨコハマ創造都市センターのアートプログラム『YCC Temporary』の第二弾として企画されたもの。現代美術家の山川冬樹による「LIVE(生きる/ライヴ)」をテーマとした、70時間連続ライヴだ。
山川冬樹は音楽、美術、舞台芸術など境界を超えて国際的に活躍する横浜在住の芸術家であり、ホーメイ歌手としても知られている。「ライヴ」という音楽の上演形態を借りて時間の尺度を問い直し、身体、音響、光、映像などさまざまな要素を動員しながら、「LIVE」=「生」そのものをインスタレーションとして70時間にわたり展覧した。会場となったYCC 1階ギャラリーは、開催中は昼夜問わず70時間連続で開館。
YCC ヨコハマ創造都市センターに着き、ギリシャ神殿風の円形の玄関口を入る。元は1929年に「旧第一銀行横浜支店(一部復元) 」として建てられたもので、戦前横浜の代表的な建築として知られている。
天井の高い室内に入ると、正面に設置されたグランドピアノが目に飛び込んでくる。加えてそこには、エレキギター、オルガン、シタール、チェロ、太鼓、シンバル、馬頭琴、チャング(朝鮮の打楽器)などの様々な楽器が。また、ステージ向かって左手の音響機材とアンプに繋がったコードが会場のいたるところに伸びている。
中央にはベッドがあり、上には様々な大きさの調理用ボウルが並べられている。金属の板や、畳の上にはスコップも。これらも楽器だろうか。
奥には電気ケトル、バスタブ、IHヒーター、手洗い用桶、TVなどの生活用品も置かれており、さながら山川の自室に作られたスタジオのようだ。衣装掛けには様々な服。ホワイトボードにかかった時計が時間を示す。それらに囲まれ彼は静かに演奏していた。
筆者が訪れた時間は以下の通り。
9日の15:00〜18:00と21:00〜22:00。
つまり63時間目〜66時間目と69時間目から70時間目の計4時間だ。一生を70年とするならば今回のライヴの中で筆者が立ち会ったのは63歳〜66歳、そして69歳最後の一年間となる。
クラッシュシンバルの演奏
室内に入りまず聞こえてきたのは空間に染み入るように鳴り続けるクラッシュシンバルの音。永遠に続くかと錯覚するようなリズム。
スコップでの演奏
スコップにマイクを取り付けた楽器(?)での演奏。山川にとっては全身が、そしてその場にある全てのものが楽器となる。
食道発声と電気式人工喉頭
食道発声は空気を飲み込んで食道の中に溜めこれを吐き出して声にするという方法。ゲップの要領で声を作っていく。また、電気式人工喉頭は医療用のマイクのような機械をあごの下に当て強制的に振動させることで声を作るというもの。山川は上記の発声法での歌唱を行いながら、「声とは何か」「人はなぜ声を必要とするのか」について語っていた。
心臓音と同期されたフィルムの映写
映写機で投影された古いフィルムの映像が心臓の鼓動に合わせ明滅する作品。本作の発表は、今回が初めてとのこと。
口琴のレクチャーと実演
さらに山川はアイヌ、アルタイ共和国、ベトナム、中国雲南省それぞれの口琴についての解説と演奏を実施。なかでも、アイヌの口琴に関しては演奏が難しそうであった。中国雲南省のものは音程の異なる3本の金属片からなっており、不思議な音を奏でていた。
70時間のライヴの最後
鳴り響く心音、骨伝導でのパーカッション、明滅するシャンデリア、DEADのリズム、激しく蹴り叩かれるクラッシュシンバル、空間を切り裂くギター音。終演間際、外に出てくださいと促され、観客たちは建物の外へ。観客が建物を囲む中、時報の音が聞こえ始め、二階のバルコニーから彼が現れる。空間に響く彼の狼の遠吠えのような雄叫びでライヴは幕を閉じた。
今回のライヴで、山川のパフォーマンスに加えて驚かされたのは、観客の様子だ。各々のタイミングで訪れ、表現や空間と対峙し目を瞑り、耳を傾け、あるいは眠り、そしてそれぞれのタイミングで去っていく。一時間はあっという間に過ぎる。空間と一体となり、「ライヴを観ている」というよりは「そこに居る」と表現したほうがしっくりくるような様子だった。さながらそこは、祈りの空間のように思えた。
70時間の間、山川による様々な表現行為は歯磨きをする、風呂に入る、食事をする等の生活行為と同時に行われていた。今回の試みにおいて観客は全貌を見ることはできない。「ハレ」としての芸術と「ケ」としての生活の境目が消失し、「Live performance」と「生きる」という意味での「Live」が混ざり合うその空間で、観客は何を感じとるのだろうか。
「『死』とは重力に身を委ねることであり、『生』とは重力に逆らい続けることだ」
彼は終演に際し、このような言葉を発した。「音楽」「声」「歌うこと」「全身で表現すること」を武器に、「今ここに存在していること」「生きること」「死ぬこと」について絶えず問い続ける彼の活動から、これからも目が離せない。
日時:2017年7月7日 (金) 午前0時 (開場は開演の20分前)から7月9日 (日) 午後10時 ※終了
会場:YCC ヨコハマ創造都市センター 1階ギャラリー
出演者:山川冬樹