レキシはなぜ “いまもっともチケットが取れないアーティスト”になったのか

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2017.7.18
レキシ

レキシ

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2017年現在、レキシは、「いまもっともが取れないアーティスト」の一人だという。

1stアルバム(『レキシ』2007年6月発売)が出た頃からのファンとしては、びっくりである。が、たぶん一番びっくりしているのは本人で、「そんなつもりはなかった」などと、訳のわからない言い訳を、あの子犬のように可愛い目を伏せながら言う、そんな姿が目に浮かぶ。

実際、レキシの首謀者・池田貴史は、筆者との過去のインタビューでも、同様の発言を繰り返している。いわく「10年に1枚のつもりだった」「何コレ?と言われたい」「みんな期待しすぎ」「レキシ自体がハプニング」等々。いわずもがな、音楽にもパフォーマンスにも、自信はたっぷりある。が、あまりにピンポイントで趣味的な“歴史”というテーマが、これほど熱狂的に受け入れられるのは想定外だ。想定外だがうれしい。そしてレキシのファンは増え続け、「いまもっともが取れないアーティスト」に大成長してしまった。

そこらへんの詳しい分析は、日経ナントカなどに任せておく。大事なのは、レキシのライブが、それだけの価値を持つ一大エンタテインメントであるという現実だ。地球上で、あんなに楽しく馬鹿馬鹿しく、かつ感動的でピースフルな空間はほかにない。ちょっと言いすぎた。少なくとも、映像作品などでは絶対に追体験できない、ライブの真髄がそこにある。映像化が不可能なことについては、また別の理由があるのだが、それは後で述べる。

そもそもレキシとは何か。それはキーボーディスト、作曲家、プロデューサーである池田貴史によって1997年ごろに結成されたらしいと、物の本には書いてある。当時の池田は不世出のファンキーロックバンド・SUPER BUTTER DOGのメンバーとしてメジャーデビューを果たしたところで、初期レキシのメンバーもSUPER BUTTER DOGとほぼ同じ。本隊のライブの合間に出現するサブユニットのようなものだったらしいが、筆者は未見なので実体はよくわからない。2000年代に入ると、SUPER BUTTER DOGが活動休止、スペースシャワーTVの番組内でレキシ復活など、紆余曲折あったが、すべて端折る。2007年6月にリリースされた1stアルバム『レキシ』から、レキシの本当の歴史が始まると言っていい。


 

 

足軽先生こといとうせいこう、シャカッチこと永積タカシ(ハナレグミ)ら、初期の重要メンバーが顔を揃えた『レキシ』は、その時点でのベストアルバムだ。池田が授けた“レキシネーム”を名乗るメンバーが入れ替わり立ち代わり、楽曲にカラフルな個性をつける手法はすでに確立している。スタイル的にはP-FUNK、音楽的にもファンク、ソウル、R&B、ヒップホップなど、ブラックミュージック色が濃く、音楽的なクオリティは恐ろしく高い。なおかつ「ええじゃないか」「参勤交代」「踊り念仏」など、単なる歴史的事実を、言葉遊び、シュールなギャグ、ひねりの効いたオチなどでエンタメソング化する鮮やかな手腕に、好事家たちは狂喜した。レキシの評価が高いのは、何よりもまず音楽的な質の高さ、表現力の見事さ。「和睦」など、ラブ&ピースをテーマにした感動的な曲の存在も大きい。ファーストにしていきなり名盤である。

その後のレキシは5枚のアルバムをリリースしているが、どれも甲乙つけがたい名盤だ。遠慮なく買ってほしい。ただし『レキシ』『レキツ』『レキミ』『レシキ』『Vキシ』と、タイトルとジャケットの見た目がほぼ同じなので、同じものを2枚買うことだけに注意してもらえれば、どれを聴いてもハズレはない。シングルも「SHIKIBU」と、今年4月に出たばかりの「KATOKU」がある。枚数を重ねるごと、サウンドがよりオシャレに洗練され、ポップになっていく傾向も感じるが、気のせいかもしれない。レキシは人を動かさない。人がレキシを動かすのだ。とか言ってみる。


 

 

冒頭の話に戻る。レキシはなぜ、「いまもっともが取れないアーティスト」になったのか。本格的にライブ活動を始めたのは2011年からだが、2012年のワンマンライブは、東京はリキッドルーム、大阪はumeda AKASOで、ソールドアウトしたものの、規模はそれほど大きくはない。ところが翌年はZepp TokyoとZepp Nambaを満杯にし、年末には東京・新木場STUDIO COAST 2DAYSを即完する。翌2014年8月には日本武道館を制覇し、レキシはついにトップアーティストの仲間入りを果たす。その後は、青森の三内丸山遺跡でライブも、オシャレキシこと上原ひろみとのジョイントライブも、何をやってもあっという間にはソールドアウト。大フィーバーは一向に衰えを見せないまま、現在に至る。

その、レキシのライブの魅力を解説するのは、なかなか難しい。一番簡単な答えは“見ればわかります”。もう少し複雑に言うと、凄腕ミュージシャンをずらりと揃え、ファンク、ソウル、R&Bなどグルーヴ豊かな音楽でしっかりと踊らせながら、CD音源にはないアイディアをふんだんに楽曲に盛り込み、突如現れるカバー曲、替え歌、コール&レスポンス、スクリーンを駆使した映像ネタ、かぶりものや仮装、メンバー同士のコント、漫談としか思えないMCなどを縦横無尽に展開し、時に1曲が20分を超えていくこともあるという、エンドレスパーティーな素晴らしいショーだということになる。

お館さまこと池田は、トレードマークのアフロヘアーにド派手な着物、ソウルフルな歌とキーボードを聴かせつつ、メンバーいじりなどお笑いトークも一手に引き受ける。いわば、音楽、演劇、コント、漫談が混然一体と、あくまで音楽ライブの快感の中で起承転結を持って展開される。しかも老若男女、主義思想、趣味嗜好を問わない。こんな贅沢なライブがほかにあるだろうか。いやない。


 

中でも2ndアルバム『レキツ』に収められ、ライブでも絶対のパワーを発揮する「狩りから稲作へ」のあまりの名曲ぶりは、“見ればわかります”と言うしかない。縄文から弥生へ、移動から定住へ、単なる教科書的な事実を、愛し合う男女が共に定住するか?というテーマへ昇華してゆく、とてつもないスケールの歴史的ラブソングを、客席一面に揺れる稲穂が祝福する、あの感動をぜひあなたに。唐突な替え歌やカバーが多いため、映像作品化することはほぼ不可能なレキシのライブの中でも、笑いと感動が交錯する最高の名場面がそこにある。

さあ迷わずライブへ。幸いにも、2017年もレキシはツアーをやってくれる。相変わらず長いタイトルだが、『レキシツアー2017 不思議の国のレキシと稲穂の妖精たち』と題した、大阪、東京、沖縄を巡るツアー。サブタイトルの『お城でライブができる喜びを皆で分かちあおう~あれ?大阪、いつの陣?~』は、10月1日、大阪城西の丸庭園という、絶好のロケーション。東京は『不思議の国の武道館と大きな稲穂の妖精たち』と題して、約1年ぶりに武道館へと帰還。10月10日は『~稲穂の日~』、11日は『~キャッツの日~』という2DAYSで、前回の笑いと感動を上回るスペクタクルなショーになることは必至。21日の沖縄・ミュージックタウン音市場での『不思議のウチナーのレキシと稲穂の妖精たち』は、ツアーファイナルの沖縄でゆっくり休みたいというプランが見え見えだが、毎回優に3時間を超えるライブを見ていると、実にさもありなんという気がする。あれだけやればそりゃ疲れるわ、ゆっくり休んでくださいという気持ちになる。

レキシとはすなわち、ミュージシャン・池田貴史の生きざまである。人生には山や谷があって、音楽もコントもあって、笑いと感動があって、そしてレキシは続いてゆく。レキシが始まって20年になるが、過去を知らなくても構いはしない。が取りにくくても気にしない。レキシを知ろう。レキシを見よう。


文=宮本英夫

 

 

ライブ情報
『お城でライブができる喜びを皆で分かちあおう ~あれ?大阪、いつの陣?~』
日時:2017年10月1日 (日) 開場:14:00 / 開演:17:00
会場:大阪城西の丸庭園 (大阪府)
料金 (税別)
(席種)
ブロック指定:¥7,500
親子:¥10,000
小学生:¥3,000 
*「親子」は「大人1名+小学生1名」
*各「シート」付き
*保護者同伴未就学児無料 / 小学生以上必要 / 中学生以上大人料金
一般発売日
2017年8月13日(日) AM10:00
主催:大阪城パークマネジメント共同事業体
共催:読売テレビ / 清水音泉
企画制作:ラフィン
後援:FM802 / ビクターエンタテインメント / 大阪府 / 百舌鳥・古市古墳群世界文化遺産登録推進本部会議
問) 清水音泉 06-6357-3666 (平日12:00 - 17:00)
 

『不思議の国の武道館と大きな稲穂の妖精たち ~稲穂の日~』
・2017年10月10日(火)
『不思議の国の武道館と大きな稲穂の妖精たち ~キャッツの日~』
・2017年10月11日(水)
日時:2017年10月10日 (火) / 11日(水) 開場:17:30 / 開演:18:30
会場:日本武道館 (東京都)
料金 (各日共通 / 税別)
(席種)
全席指定:¥7,500
親子席(ペアー指定):¥12,500  *立見禁止席
*「親子席」は保護者1名+子供1名(3~12才対象)
*未就学児入場不可
主催:DISK GARAGE
企画制作:ラフィン
問) DISK GARAGE Tel: 050-5533-0888   月-金12:00-19:00 

『不思議のウチナーのレキシと稲穂の妖精たち』
日時:2017年10月21日 (日) 開場:17:00 / 開演:18:00
会場:ミュージックタウン音市場  (沖縄県)
料金 (税別)
スタンディング:¥5,500
*ドリンク代別途、整理番号付
*3才以上必要
 

 

リリース情報
『レキシ』
2007年6月6日発売
『レキシ』

『レキシ』

『レキツ』
2011年3月16日発売
『レキツ』

『レキツ』

 

『レキミ』
2012年12月5日発売
 『レキミ』

『レキミ』

 

『レシキ』
2014年6月4日発売
『レシキ』

『レシキ』

 

『Vキシ』
2016年6月22日発売
『Vキシ』

『Vキシ』

 

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