溝端淳平を独占インタビュー 出演者はたった三人だけ、刺激的で濃密な不条理劇『管理人』に挑む
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溝端淳平『管理人』 撮影=髙村直希
ノーベル文学賞を受賞していることでも広く知られるイギリスの劇作家、ハロルド・ピンターによる三人芝居『管理人』。ピンターの代表作とも言われるこの不条理劇に登場するのは、職を失くしたホームレス寸前の老人と、彼が偶然出会い深く関わることになる兄弟、このたった三人だけだ。その一見リアルなようで奇妙な三人の人間模様が、濃密な劇空間で刺激的に描かれていく。演出を手がけるのは、現代を代表する人気演出家のひとり、森新太郎。キャストには、弟役に溝端淳平、兄役に忍成修吾、老人役に温水洋一という個性的な魅力が光る演技派が顔を揃えることになった。なかでもここ数年、コンスタントに舞台作品に挑み続けている溝端は、今年は9月15日(金)に初日を迎える『ミッドナイト・イン・バリ~史上最悪の結婚前夜~』に続く、二本目の演劇が今作となる。四人芝居の軽妙洒脱なコメディから、三人芝居の不条理劇へと、振り切った二作品に果敢に取り組む溝端に、『管理人』への意気込みを語ってもらった。
溝端淳平 撮影=髙村直希
――溝端さんが今年、取り組む舞台作品はどちらも四人芝居、三人芝居と少人数の作品ですが、内容的には真逆といってもいいかもしれないくらいのギャップがありますね。
そうですね。『ミッドナイト・イン・バリ』はエンターテインメント作品ですが、この『管理人』は不条理劇なので。自分自身も、まだ稽古に入るまで時間があることもあって、どう取り組んでいいのか戸惑っているところなんです。僕もこの世界に入って11年目になり、作品のとらえかたにしても、どう役を作っていこうかということにしても、なんとなくでも考えながら脚本を読めるようになってきたんですが、この作品に関してはそういう風には読めなかったですね。もちろん、ドラマにしろ映画にしろ舞台にしろ、ほとんどが初めてやる役だし、初めて行く現場、初めてご一緒する監督という場合もたくさんありますけど、特に今回の『管理人』の場合は、はなから路頭に迷いそうな気分です(笑)。
――この作品の、どういった部分に一番魅力を感じましたか。
正直なところ、まだなんとなくこれが魅力なんだろうなって言うくらいしか、わからないんです。でもやはりすごく計算され尽くした不条理劇なので、そこに出てくる言葉にはギュッと込められた想いがあって。起きた出来事がすべて回収されるわけではないし、特にカタルシスがあるわけでもないんですが、だけどふだん僕らが接している日常にしても、何かが起きて、はっきりとして筋があって、結末を迎えることばかりではないですからね。だからこそ、こういう不条理劇にもリアリティを感じられるわけで。観る人たちの想像に委ねながらも、そこで何かを問いかけて、何かを感じてもらう、考えてもらう、そして持ち帰ってもらうというのが、やはり魅力のひとつなのかなとは思います。
そして、イギリスの作家ということで階級の差みたいな部分が描かれているところもありますが、同時に、人によって態度を変えたりするところや、私欲、物欲、支配欲みたいなものも描かれていて、そういうところは万国共通なので。だから、こういう作品は世界中で上演され、時間がたっても色あせないんだろうなと思います。
溝端淳平 撮影=髙村直希
――今回、共演することになった忍成さん、温水さんのそれぞれの印象は。
忍成さんは、勝手にパブリックイメージとしてすごくミステリアスな印象を持っていたんですが、今年、京都で共演した時に改めて感じたのはとても真摯で、誠実にお芝居をされる方だなということでした。温水さんとは、意外と共演回数が多いんですよ。舞台では『ウサニ』(2012年)という作品でご一緒していまして、僕のお父さん役でしたね。それにしても今回の老人役、温水さんにピッタリだな!って思いました(笑)。
――脚本を読んでいて、とても想像しやすかったです。
ですよね(笑)。でも、こういうシリアススイッチの入った温水さんと共演するのは初めてなので、それはそれで楽しみです。きっと、そうやって皆が画をパッと思い浮かべやすいような役だということもご自身はわかっていらっしゃるでしょうから、それをいい意味でどう裏切ってくれるかなという楽しみも、個人的にはあります。
溝端淳平 撮影=髙村直希
――そもそも、最初にこの作品への出演依頼のお話を聞いた時は、どんなことを思われたんですか。
ピンター……聞いたことはあるけど、でもちゃんと観たことはないなあ。不条理劇……やったことはないけど、何回か観たことはあるよなあとか、そんな感じでした。でもまず、不条理劇とは?というところからでしたね。ハロルド・ピンターで調べると、不条理劇の大家と書いてあるし。不条理劇がどういうものかというのは、なんとなくはわかるんです。でも、なぜ不条理劇が求められるのかとか、不条理劇を観た人はどう思うものなのかとか、そういうことから考えていきましたね。
――溝端さんが出演されていた『レミング~世界の涯まで連れてって~』は、不条理劇ではないんですか?
うーん、あれは“空想劇”みたいな感じだったからなあ。いや、でも確かにあれも不条理劇といえば不条理劇ですね。
――『管理人』とはまったく雰囲気が違いそうですが。
かなりリアルですからね、『管理人』は。はなから、空想です!芸術です!という雰囲気ではないので。また、そこがさらに不条理に感じるのかもしれないな。
――三人芝居ということは、セリフ量がかなり多そうですよね。
あ、そうか、セリフが多いという考えには至っていなかったです。セリフ、多いのかなあ。だけどセリフが多いというのは、最終的には何とかなるものですからね。だってたぶん、急に「来週が本番だ」と言われたとしても、人間、1週間死ぬ気でやれば覚えられますし。
――それは、すごいですね!
セリフ覚えは早いほうなので、覚えるだけなら、ですけどね(笑)。だけど、稽古に入ってもうすぐ本番なのにセリフが入らない!なんてことはこれまで一切なかったですから。稽古初日にはなるべく完璧に入れていくようにしていますので。
溝端淳平 撮影=髙村直希
――毎回、ですか?
あ、出来なかった例もありました。まさに『レミング』は、稽古初日で完璧に入れるなんてとても無理だった。完璧に覚えてます!なんて、今ちょっと強気に言い過ぎました、スミマセン(笑)。でもこうして、ここのところずっと年に1、2本は舞台をやらせてもらっているんですが、自分の中では高いハードルのものをできればやりたいなという願望があるんです。そういう意味では一昨年は『レミング』と、『ヴェローナの二紳士』というシェイクスピア作品では女役をやらせてもらいましたし、去年はアーサー・ミラーの『るつぼ』を、そして今回は初めてのピンターで、初めて森新太郎さんとご一緒させていただき、しかも東京公演はシアタートラムの濃密な劇空間で、ですからね。こんな贅沢な経験はなかなかできませんよ。
――ハードルは高いですか。
でも、ハードルがない時の方が怖いですから。ハードルがなくなったほうが、終わりだという気がします。
――ある程度そこに目標みたいなものがあったほうが、走りやすい。
たぶん、ものすごく苦労はするでしょうし、それこそ今まで経験してきたこと、役のとらえかた、作品のとらえかたでは通用しない作品だということはわかっているんですけどね。なので、今はお先真っ暗だなと思っていますけど、それでも、森さんが自分にはできると思ってくださったわけなので。苦労すればするほど、その分得たものも大きいですしね。だって28歳でピンターの三人芝居をやらせていただけて、しかも森さんと組ませていただけるなんて、これ以上役者で幸せなことはないわけで。そこはもう、本当にありがたく受け止めています。苦労は絶対するだろうけど、その分、終わった後の達成感があり、やりがいもあるんだと思います。
――そういうやりがいや達成感を得たいから、1年に1、2本は演劇をやりたいと思われているんですか。
もちろん映像の仕事も好きですし、大事なものだと思っていますけど、そこでは味わえない、また違った濃い経験ができるのが舞台なので。1、2カ月の間、ずっとその役のことを考え、作品と向き合える時間があるというのは、やはり魅力的です。あとは、やっぱりたまらないんですよ、ライブが。ライブでしか味わえないあの快感は一番、人間として生きている感じがするんですよね。本番中も毎日、今日はなんとか乗り切れた、今日はなんとかカーテンコールに胸を張って出られた、でも明日はどうなるかわからない。あそこの芝居こうやっちゃったなあとか、あそこはダメだったなって、毎日反省するばかりなんですが、そのジリジリした感じも舞台ならではのものなので。その快感に、ずっと魅了されている感じですね。
溝端淳平 撮影=髙村直希
――もしかしたら、不条理劇にあまり馴染みがなくて二の足を踏んでいる方もいらっしゃるかもしれません。そこでぜひ、溝端さんにいざないのお言葉をいただけたらと思うのですが。
そうなんですよ、今回は特に観に来てくださる方になんて言えばいいのかが一番難しいところです(笑)。でもやっぱりこの世の中、不条理なことばかりだし、そういう不条理を感じずに生きている人はいないと思うんですよね。そういう意味でいえば、この作品はとてもリアルにも思えるだろうし、ドラマがあり、筋書きがあってということではない中にも、何か感じるものがあり、考えさせられるものがあるのが、この作品の良さだと思うんです。たとえば一番見やすいのがドラマで、次が映画だとしたら、その次が舞台だと思うんですね。舞台は、わざわざその時間に都合をつけて、劇場まで足を運ばないと観られないものですから。でもそうやって劇場に来て、ハロルド・ピンターを観よう!なんて、とても贅沢な時間じゃないですか。その贅沢な時間を単に楽しむだけではなく、日ごろ考えないようなことにまで想いを馳せたり、ちょっと背伸びしてでもそういう文学に触れる楽しみみたいなものを見つけてもらえたら幸いですよね。全然文学に詳しくない僕が言うのも、なんなんですけど(笑)。
――でも本当に贅沢な時間ですし、しかもそれを楽しめたら豊かなことですよね。
会社で「日曜日、何してたの」って聞かれた時、「シアタートラムにハロルド・ピンターの作品を観に行ってた」、「ああ、イギリスのノーベル賞作家のでしょう?」なんて会話ができたらカッコいいじゃないですか! それも若い子がそんなこと言ってたら、「コイツ、すごいな」ってことに……ならないかなあ?(笑) 初めて触れるという方には、僕ら三人がやるということで今回は入口としては入りやすいかもしれませんしね。ともかくハロルド・ピンターしかり、森新太郎さんしかり、すごい人が作るものはすごいって素直に思えると思うんですよ。そういうすごいものに触れることは絶対に損にはならないと思うので、ぜひとも観に来ていただきたいです!
溝端淳平 『管理人』 撮影=髙村直希
インタビュー・文=田中里津子 撮影=髙村直希
撮影=細野晋司
会場:シアタートラム
作:ハロルド・ピンター
翻訳:徐賀世子
演出:森新太郎
出演:溝端淳平 忍成修吾 温水洋一
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料金:全席指定 6,500円
イープラス プレオーダー:2017年8月25日(金)12:00~8月31日(木)18:00
一般発売:2017年9月17日(日) 10:00~
公演公式ページ:https://setagaya-pt.jp/performances/201711kanrinin.html