松井玲奈が初の海外古典戯曲に挑戦!串田和美演出・舞台『24番地の桜の園』インタビュー
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松井玲奈
『ベター・ハーフ』(作・演出 鴻上尚史 )の公演も記憶に新しい女優の松井玲奈が、また新たな舞台に立つ。
『24番地の桜の園』は、チェーホフの傑作『桜の園』をベースに、チェーホフの短篇小説や一幕劇などを挿入しながら、串田独自の視点で再構築した意欲作だ。松井玲奈にとって、海外作家の戯曲に挑戦するのは今回が初めて。また演出家・串田和美との顔合わせも初となる。
SKE48卒業以降、女優としてめまぐるしいスピードで成長を遂げる松井にとって、また新たな糧を得る一作となりそうだ。
変化を恐れる人と恐れない人。そのぶつかり合いが面白い
ーー海外の戯曲に挑戦するのは、今回が初めてですよね。
初めてですね。ちょうど去年くらいから、こうした古典の作品に挑戦してみたいなと考えていたので、お話をいただいたときはすごく嬉しかったです。
ーー古典をやってみたいと思ったのはなぜでしょう?
もともと憧れがあったというのはもちろんですけど、これまで時代物から現代劇までいろんな作品に参加させていただいて、まだやったことがないものは何だろうと考えたときに浮かんだのが、古典作品でした。それで、いつか挑戦してみたいなと心の中で目標のひとつに置いていたんです。
ーー新しいことに挑戦するのは好きなタイプですか?
好きですね。同じ場所でずっと同じことをしているより、刺激がある方が好きなタイプ。ひるむ気持ちもありますが、それよりもいろんなことに挑戦してみたいっていう気持ちの方が強いです。
ーーこうした海外の戯曲にこれまでふれたことはありますか?
実は、高校時代に興味があってトライしてみたことがあるんです。何冊か最後まで読めたものもあるのですが、当時の私には難しくて途中で諦めてしまったものも多くて。この『桜の園』も、高校時代にさわりだけ読んで断念したのを、今回改めて読んで思い出しました(笑)。
ーーそうだったんですね(笑)。
でも不思議なことなんですが、今この年齢で読んでみるとすごく面白くて、一気に読み終えてしまったんですよね。
ーーそれは当時と何が違ったんでしょうか。
やっぱり私自身が年齢を重ねて経験が増えたというのは大きいと思います。あの頃読んでわからなかったことが、今も完全には理解できていないのかもしれないですけど、少しはわかるようになってきたんだろうなって。
ーー今回、『桜の園』を読んでみて、どんなことを感じましたか?
この『桜の園』は「失われる」ということが大きなテーマになっていると思うのですが、それに対して悲しむ人もいれば、新しいことに目を向けていこうという人もいる。変わることを恐れる人と恐れない人のぶつかり合いが、この作品の面白さなんだろうなと感じました。それって、現代にもじゅうぶん通じるところがあって。身の回りを眺めてみても、古いものを大事にしなさいと言う人と、新しいものの中から何か見えてくるものがあると言う人がいる。そう考えると、時代も国も違うけれど、じゅうぶん理解できるお話だなと思えたんです。
ーー松井さん自身は、どちらの考えですか?
私は、どちらかと言うと新しいものに可能性を見出す人間だと思います。今回演じさせていただくアーニャも同じ。彼女は、新しい場所でしっかり生きていこうと前向きに飛び出していく。すごく今っぽい感覚を持った女の子だなという気がします。
変わることを恐れる人と恐れない人。どちらに感情移入してご覧になるかで、きっとエンディングの見え方もまったく違ってくるんだろうなと思います。『桜の園』について、貴族の没落を描いた悲しい物語だと受け取る方が多いのは、きっとその人がいろんな経験を経て失う辛さや怖さを知ってしまっているから。一方で、アーニャや他の若い登場人物の視点から見てみると、きっとこの物語が終わった後も彼女たちはどこかで自分なりに幸せを見つけて暮らしているんじゃないかと想像してもらえるような気がするんですね。そんな面白さを感じてもらえるようアーニャを演じていきたいなと今は考えています。
串田さんの演出もコクーンも初めて。すごくワクワクしています
ーー串田さんの演出作品に出演するのも初めてですね。
そうですね。チラシ撮影のときに初めてお会いして、少しお話をさせていただいたのですが、そのときに「今回はミュージシャンの生演奏を使ったお芝居がしたい」とおっしゃっていて、串田さんのイメージされる音楽をその場でいろいろ聴かせていただいたんです。そのときの串田さんの様子がすごくエネルギッシュで。次から次に音楽をかけていく串田さんを見ながら、これだけのキャリアがありながら、今もこうしてどんどん新しいものを取り入れていこうとされる姿がとても素敵だなと思いました。
ーーこれまでも岡村俊一さん、鴻上尚史さんなど、演出家の方々との出会いがありました。
まだまだ経験は少ないですが、いろんな演出家さんとお仕事をさせていただく中で思うのは、行き着くゴールが一緒でも辿り着き方が人によって全然違うんだなということ。たとえば岡村さんは、その登場人物の台本に書かれていない過去の出来事を、岡村さん自身が口立てで指示をしながら実際に役者に演じてもらうことで、役者と役の間に埋まっているものを掘り起こそうとされるタイプの演出家さん。演じる側も自分がその感情を一度体感できるので、すごくやりやすいし面白いです。
一方、鴻上さんは「あなたはどう思いますか?」と役者に問いながら導いてくださる演出家さん。鴻上さんの場合は、脚本もご自分で書かれるので、きっと答えは鴻上さんの頭の中にすでにあると思うんです。でも、たとえその答えと違うものを役者が出しても、「じゃあこういうやり方もあるよね」と別のルートを提示してゴールへと導いてくださる。その中で学べたものはすごく大きかった気がします。
もちろん演じる私が自分の力でゴールへと辿り着かないといけないのですが、串田さんはどんな方法でそのヒントをくださるんだろうって、今からワクワクしています。
ーー東京公演ではシアターコクーンに立ちます。
コクーンに立たせていただくのも初めてなので、すごくドキドキしています。いつも「この舞台観たいなあ」と思う作品はコクーンでやっている印象があるので、そこに今度は自分が立たせていただけるなんて、本当に幸せです。劇場がコクーンだと聞いたときは、「とんでもないところに来てしまった…!」と少しひるみそうになりましたが(笑)、私にとっては夢のようなチャンス。1公演1公演かみしめながら演じられたらと思います。
今は入門編が終わったんだなくらいの感覚です
――本作における「桜の園」はラネーフスカヤ夫人にとって栄華の象徴であり、決して手放したくない大切なものです。では、栄華の象徴というのは置いておいて、松井さん自身がこれだけは手放したくないという大切なものをひとつ挙げるとしたら、何ですか?
何だろう…うーん…仕事?(笑)
――仕事ですか(笑)。
そう言ってる自分が怖くなりました(笑)。私、休みが好きじゃないんです。だから、仕事がなくなると嫌だなと思って。
――なるほど。今、仕事は楽しいですか?
楽しいです。今は仕事がなくなったら生きていけない。この仕事をしていると、毎日いろんなことに出会えるんです。それがすごく刺激的で。この仕事が向いているかどうかは別として、今、私は人生の中でとても充実した時間を過ごしているなという実感があります。
――SKE48を卒業して約2年が過ぎました。ここまでの女優としての道のりを振り返ってみてどうですか?
あっという間だったなとは思いますが、まだまだですね。もっともっと頑張らなきゃいけないことがたくさんある。もちろん2年前と比べて感じることが変わったり、お芝居のやり方がだんだんわかるようになってきた感覚はあるけれど、たぶんそれは入門編が終わったんだなくらいの感覚です。これから登らなきゃいけない階段はまだたくさんあると感じています。
――2017年も折り返しが過ぎました。下半期はこの作品と過ごす時間が長くなりそうですが、何か目標にしたいことはありますか?
私が嬉しいのは、作品をご覧になった方たちに、ひとりの演者として良かったと思ってもらえることなんですね。次の作品も観てみたいなと思ってもらえたり、今までどんな作品に出てたんだろうと気にかけてもらえることが、いちばん嬉しい。この作品でもそうなれるように、しっかりと頑張っていきたいなと思います。
取材・文・撮影=横川良明
『24番地の桜の園』
作:アントン・チェーホフ
翻訳・脚色:木内宏昌
演出・脚色・美術:串田和美
出演:高橋克典、風間杜夫、八嶋智人、松井玲奈、美波、大堀こういち、池谷のぶえ、 尾上寛之、北浦 愛、菅 裕輔、新田祐里子、大森博史、久世星佳、串田和美、小林聡美
ミュージシャン:太田惠資、関島種彦、アラン・パットン、飯塚 直、ギデオン・ジュークス
<東京公演>
日程:2017年11月9日(木)~28日(火)
会場:Bunkamuraシアターコクーン
※コクーンシートは、特にご覧になりにくいお席です。ご了承のうえ、ご購入ください。
※未就学児童のご入場はご遠慮いただいております。
<松本公演>
日程:2017年12月2日(土)・3日(日)
会場:まつもと市民芸術館 主ホール
※U25/U18は当日要年齢確認証提示
<大阪公演>
日程:2017年月12月8日(金)~10日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール