浦井健治が韓国の奇才ヤン ジョンウン演出舞台『ペール・ギュント』に登場、兵庫で意気込みを語った

インタビュー
舞台
2017.9.23
『ペール・ギュント』合同取材会にて(撮影/石橋法子)

『ペール・ギュント』合同取材会にて(撮影/石橋法子)


シェイクスピアに次いで、世界で2番目に上演の多いノルウェーの偉大な劇作家・詩人ヘンリック・イプセンが150年前に書いた壮大な「自分探し」の物語、舞台『ペール・ギュント』が、年末に東京と兵庫で上演される。演出は平昌冬季オリンピック開・閉会式の総合演出を務める韓国の奇才ヤン ジョンウン。出演には趣里、マルシアほかオーディションにより選出された総勢15名の日本人キャストと、韓国からヤンの信頼厚いユン ダギョンら5名の韓国人俳優が加わり、日韓文化交流企画として“アジア演劇の最前線”をめざす。本作でタイトルロールに抜擢された浦井健治が、兵庫公演の合同取材会で意気込みを語った。

「人生において大切なものは何かーー。普遍的なテーマが描かれた作品です」

浦井健治

浦井健治

ーーヤン ジョンウンさんは韓国版『ペール・ギュント』で大韓民国演劇大賞の大賞および、演出賞の二冠に輝きました。当初ヤンさんに再演の意志はなく、浦井さんと出会ったことで、新演出版をつくる創作意欲を刺激されたそうですね。

浦井版『ペール・ギュント』を作りたいんだと言って下さり、嬉しさと共にすごいプレッシャーを感じています。「君とやるからこそ、また新しい旅ができるのではないかと期待している」と。ヤンさんは笑顔溢れる方で、僕が出演した『トロイラスとクレシダ』、『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』なども観て下さっていて、今は(取材時出演中の)『デスノート THE MUSICAL』の夜神月役をまとっていることもあり、「会うたびに印象が違うね」と言われます。どんどん想像力を掻き立てられるから嬉しいとも仰って下さいました。

ーーオーディションを兼ねたヤンさんのワークショップには、浦井さんも参加されたのですか。

僕は参加できなかったのですが、共演の趣里さんが興奮気味に教えてくれました。ヤンさんのオープンマインドな姿勢に自分をさらけ出すことができて彼が大好きになったし、有意義な時間を過ごすことができたんだと。ヤンさんも「日本の役者には静かなイメージがあったけど、実際はオープンでエネルギーに溢れていて韓国の俳優と変わらない」、また稽古場にも「遊びに来る感覚を大切にしようね」と言って下さっているので、今から稽古が楽しみです。趣里さんとは『アルカディア』でご一緒して、お互いに「闇が深そうだね」と分析し合ったり(笑)、同じグミが好きということでも意気投合して。それ以来、事あるごとに連絡を取り合うほどの仲良しです。

浦井健治

浦井健治

ーー『ペール・ギュント』という作品については、どのような感想をお持ちですか。

深い解釈はこれからですが、ペール・ギュントという男の放蕩の旅であり生涯を描くもの。人生がいかに愛に溢れているか、もしくは人生において大切なものは何かを探すお話です。ペールは自分が中庸とか中途半端、普通であることを認めたくないがゆえに暴走したり、女性が大好きだとか、色々とダメな部分が出てくるのですが、最終的に母親オーセ(マルシア)と恋人ソールヴェイ(趣里)という二人の女性の大きな愛によって自分は成り立っていたんだなと気付かされる。男は自分探しに生き甲斐を感じながらも、結局は女性の元に帰る、普遍的なテーマが描かれていると思います。母は偉大で、女性は強いなと。場面が数珠繋ぎにポンポンと変わるので、描かれる速度はSNSなどで情報が飛び交う現代に適しているなと思います。逆に150年前の初演時にこの作品がどんな捉え方をされたのか、すごく興味があります。

浦井健治

浦井健治

ーー台詞はすべて日本語に?

基本的には、日本語での上演だと思います。現時点でヤンさんが仰っていたのは、韓国人キャストはもちろん韓国語の台詞もありながらも、例えばトロル(北欧の妖精の一種)、もしくは抽象的な何かを、日本語が面白い感じで発せられるポジションに配置しようかと考えていると。その逆で、日本人が韓国語を喋る場面ももしかすると、あるのかもしれません。きっと稽古をしていく中でヤンさんが色々な可能性を思いつかれるのではないでしょうか。

「主人公は普通であることに劣等感を抱く、そこか自分と似ているんですよ(苦笑)」

ーー浦井さんが演じるペール・ギュントという役についてはいかがでしょう。

ペールに関しては「何て自分勝手なんだ、全然感情移入できない!」と、お客さんはノッキングを起こすと思います(笑)。でも、その暴れ馬的な所から人間を紐解いていくと、ふと純粋な部分が見えてきたりする。人間を板の上にさらけ出すことで分析するような、イプセンが仕掛けた人間観察的な作品なのかなと自分は感じています。人の感情ってこんなに起伏があるんだとか、人ってそういうところがあるよなとか。学びの場としても作品のなかで泳げるんじゃないかな。

ペールは各シーンの重要なセクションが終わったときに、一度自分に問いかけたり罵倒したりする。それほど常に自分が嫌いで、なおかつどんだけナルシストなんだって思うくらい自分が大好きなんですよ。旅を続けるのは置かれている境遇が悔しくて、満足していないから。でもお母さんのことは責めずに、「俺が皇帝になったら腹一杯食わせてやる」とずっと言い続けている。そういう人物だから悔しいかな、憎めない。どこか優しいんだろうなと思います。

浦井健治

浦井健治

ーーペール・ギュントに、男として共感できる部分はありますか。

ないです(笑)。勝手過ぎるし、そんなに女性を取っ替え引っ替えしちゃダメですよね。だから、ヤンさんに「ぴったりだね」と言われてショックを受けました。僕の何を見て!? そんな人に見えたかな~?って。ペールを僕だとは思わないで頂きたい(笑)。

浦井健治

浦井健治

ただ、ペールは中庸とか普通であると言われることに劣等感を抱き、プライドを傷つけられてしまう男なので、そこは似ているんですよ。僕も学生時代には色んなことに興味を持って手を出していた時期もあって、「中途半端」と友達にもよく言われていたので。ペールがいう「中庸であるべきだ」「嫌々満足しよう」という所が、僕は核になっている気がしていて、自分を正当化したいと常に思っている。「俺の人生そんなもんじゃない!」というペールが、あまりにも自分にそっくりというか、「ああ…」みたいな気持ちはあります(苦笑)。

ーー前衛的ともいえるヤンさんの演出も気になります。

精神病院の場面とか女性とのたわむれの場面とか、韓国版では裸の人も出てくるので衝撃を受けました。韓国版ではステージ上に土が敷かれていましたが、装置などもヤンさんから思ったことは言ってねと言われているので、僕も映像、風船、かいこの繭とか、アイデアは全部伝えています。ペールは劇中で狂人たちの皇帝や予言者になったり、天に召されるまでを演じるのですが、その辺りの年齢の変化をヘアメイクなどで具現化するのか、そのまま走り抜けるのかもまだ分かりません。ヤンさんは新しいことが好きなので色んなことを取り入れてくると思います。

ーー兵庫公演は12月30日、31日です。ツアーの大千秋楽は大晦日ですね。

大晦日には少しお酒でもひっかけて「明日は新年だな~」というくらいの気持ちで来てもらえれば良いかなと思います(笑)。身近なひとを大切にしようとか作品のメッセージを受け取りつつ、イプセンという作家や作品に触れることで視野が広がり、日常が豊かになるきっかけになるかもしれません。若くフレッシュな座組みになると思いますし、エンターテインメントを楽しみに、構えることなく遊びに来る感覚で来ていただくのが正解だと思います。

浦井健治

浦井健治

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浦井健治

浦井健治

浦井健治

取材・文・撮影=石橋法子

公演情報
『ペール・ギュント』

■原作:ヘンリック・イプセン
■上演台本・演出:ヤン ジョンウン
■出演:
浦井健治  
趣里、万里紗、莉奈、梅村綾子、辻田暁、岡崎さつき  
浅野雅博、石橋徹郎、碓井将大、古河耕史、いわいのふ健、今津雅晴、チョウ ヨンホ  
キム デジン、イ ファジョン、キム ボムジン、ソ ドンオ  
ユン ダギョン、マルシア
■公式サイト:https://setagaya-pt.jp/performances/201712peergynt.html

 
<東京公演>
■日程:2017/12/6(水)~2017/12/24(日)
■会場:世田谷パブリックシアター (東京都)

 
<兵庫公演>
■日程:2017/12/30(土)~2017/12/31(日)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール (兵庫県)

一般発売 2017/9/24(日)10:00~

 
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