Awesome City Clubが東京の夜に打ち鳴らした、洗練されたポップスと熱い衝動『Awesome Talks Vol.9』
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Awesome City Club
Awesome Talks Vol.9 2017.8.24 LIQUIDROOM
すでにAwesome City Clubはワンマンで赤坂BLITZをソールドアウトできるバンドだ。だが今回の自主企画であえて彼らはバンドにとっては小さめの会場にあたる恵比寿LIQUIDROOMを選んだ。「赤坂BLITZはライブハウスだけど、ホール寄りだと思う。今回はもっと狭い場所でライブハウスじゃないと伝わらない熱量を伝えたかった。そこで僕らが紹介したい人たちと一緒にやりたかった」と。だから今回の『Awesome Talks』は、Vol.7を大阪・梅田TRAD、Vol.8を名古屋CLUB QUATTRO、そしてVol.9を恵比寿LIQUIDROOMで、それぞれOGRE YOU ASSHOLE、LUCKY TAPES、iriを迎えたツーマンとして開催した。
同時にこの日のライブは、演奏にサポートメンバー3人を加えた完全生音スタイルで作り上げたこともトピックだった。これについてマツザカタクミ(Ba)がライブのなかで「昔、ギターを買って、スタジオでギャーンってやったときの楽しさを思い出している」と言っていたように、振り返れば、今回は全てがバンドのエゴを貫いた“やりたいこと”尽くしのライブだった。しかも、それがエゴだけには終わらない。集まった900人のお客さんがメンバーと共に喜びを分かち合う。このうえなく理想的で幸福な時間が会場には流れていた。
そんなライブのトップバッターを飾ったのは昨年10月に『Groove it』でメジャデビューした女性シンガーソングライター・iriだった。大きな歓声に迎えられて、ステージに登場したiriは「無理相反」からライブをスタートした。DJ+生ドラムの編成で繰り出すダウナーなトラックのるハスキーな声のラップ。少し低めで、渋みのあるその声が気怠い夜のムードを作り上げていく。「今日は『Awesome Talks』、呼んでくれてありがとうございます」。MCで多くは語らずに、「Never end」や「Fancy City」といったスローテンポのトラックで穏やかのフロアを揺らすと、中盤にはiriがアコースティックギターを弾きながら、ドラマーとふたりだけで届けた「ナイトグルーヴ」や「会いたいわ」へ。冒頭のスタイリッシュな印象からは一転して、人の体温をダイレクトに感じるような曲たちがiriのもうひとつ魅力を浮き彫りにした。そして再びDJを交えたクラブライクな「rhythm」でライブを締めくくったiri。この季節にピッタリとハマる夏の終わりの1曲には、不安と後悔を胸に抱きながらも“私は私のrhythmで(歩いてゆく)”という彼女の決意が刻まれていた。
20分ほどの転換を挟んでから登場したAwesome City Clubは、パーカッションを強く打ち出した野性的なビートで、いきなり恵比寿LIQUIDROOMを草木が鬱蒼と茂る密林へと変えてしまった。音源とは全く違う長いイントロにリアレンジされた「Jungle」だ。予想外のオープニングに大きな喝采が湧くなか、ユキエ(Dr)のフォーカウントを合図に、80'sなディスコナンバー「Don't Think, Feel」、そして、マツザカのベースラインがアグレッシヴに動きまわるファンキーな「アウトサイダー」へとつなぐ。この日はオーサムのオリジナルメンバー5人に加えて、キーボードにシモリョー、パーカッションに松井泉、コーラス&ギターに大比良瑞希を迎えた8人編成のパフォーマンス。あらゆるジャンルを自由に行き来するオーサムの音楽は、普段ライブで再現するときにはシーケンスのちからが不可欠になる。だが、この日、生音だけで彼らが鳴らした音楽は、人と人とが呼吸を合わせることによってのみ鳴らすことができる生命力と躍動感に溢れたエネルギッシュなものだった。
「今日は後ろのほうまで顔をピカピカにして帰ろうと思います!」と、atagi(Vo / Gt)が語りかけた最初のMC。そこからの中盤はダンスホールの夜の喧騒をキラキラとした音像で映し出したR&Bナンバー「Sunriseまで」、マツザカがラップを刻んだ「愛ゆえに深度深い」、モリシー(Gt / Syn)が奏でるピアノのフレーズが幻想的な空間を作り上げたスローバラード「Cold & Dry」、そして最高にハッピーなポップナンバー「青春の胸騒ぎ」へと、新旧織り交ぜた楽曲が披露されていった。この日、メンバーが身を包んでいた真っ白な衣装は、曲調によって目まぐるしく変わる照明の光を浴び、次々にカラフルな色に染まっていた。それは、atagiとPORIN(Vo / Syn)という男女ツインボーカルの巧みな掛け合いをバンドの唯一無二の“らしさ”として絶対的な軸にしながらも、ジャンルレスに色を変えるオーサムの音楽そのものを表しているように見える演出だった。
二度目のMCでは、このライブの前日・8月23日にリリースされた初のベストアルバム『Awesome City Club BEST』がオリコンデイリーチャートで過去最高の15位にランクインしたことに触れて、集まったお客さんに感謝を伝えたメンバー。「カウントダウンTVで言ったら最後のほうだよね」(モリシー)、「50位から数えたらけっこう最後のほう(笑)」(atagi)と言い合いながらも、「まだまだいけるんちゃうかと思ってます!」と、今後に向けた決意も口にした。そして、「後半戦リキッド楽しんでいけますかー!?」という煽りから、オーサムのはじまりの曲「Children」や「4月のマーチ」といった、弾けるようなポップナンバーでラストスパートをかけていく。ラスト2曲を残してatagiが「次の曲で今日のハイライトを作りたい」と言うと、披露されたのはベスト盤に収録されている新曲「ASAYAKE」だった。モリシーがバンジョーを弾くオリエンタルの楽曲はオーサムの新機軸であり、<夜明けの歌 夜明けの歌>と何度も同じフレーズを繰り返しながら増幅していくダイナミズムに言い様のない多幸感が溢れていった。それは結成から4年。自分たちだけの音楽を求め続けてきたオーサムがネクストステージに進んでゆくための革命の歌だった。
本編の最後を「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」で締めくくったあと、再びメンバーがステージに戻ってきたアンコール。atagiが「ユキエちゃんが“今夜だけ~”のとき、聴いたことがないぐらい最後に(ドラムを)ダカダカダカダカってやってて。“終わりたくない”っていう抵抗だったらしいです(笑)」と振り返ると、ライブの終わりを惜しむように、ラストナンバー「Lullaby for TOKYO CITY」を届けた。ここまで煌びやかな照明を浴びながら、あらゆる手法を使ってフロアを踊らせ続けてきたオーサムだったが、最後は薄暗い照明のなか、美しいハーモニーを紡いだ彼らだけの“東京”でライブを絞め括った。作詞を手がけたマツザカはこの曲について、「東京で暮らすことは椅子取りゲームだ」とコメントを寄せていた。夢を叶える街、負けられない街、命が続いてゆく街、東京。様々に交錯する想いに呼応するように、最初は穏やかだった音像が次第に熱を帯びていき、気がつけば、ステージに立つ全員が激しく体を揺らしながら楽器を奏でていた。
もしかしたら、Awesome City Clubというバンドは一見クールな佇まいのバンドに映るかもしれない。もちろん、“架空の街 Awesome Cityのサウンドトラック”を鳴らすというバンドのコンセプトや音楽性にそう思わせる一因はあると思う。だが、その洗練されたバンド像の内側には、抑えようのない熱さや衝動が間違いなく宿っている。「Lullaby for TOKYO CITY」という曲は、そんなバンドの本性を強く浮彫りにするようだった。
「『Awesome Talks』は自分たちがやりたいことをやらせてもらうライブでした。次はZepp DiverCityでみんなに良い夢を見させますので、絶対に遊びに来てください」と、アンコールでatagiは言っていた。Awesome City Club は10月から全国10公演のワンマンツアー『Awesome Talks -One Man Show 2017Autumn/Winter-』を開催する。その東京公演がセミファイナルのZepp DiverCityだ。またひとつバンドにとって大きなチャレンジとなる会場でオーサムが何を見せてくれるのか。いまから楽しみでならない。
取材・文=秦理絵
1. Jungle
2. Don't Think, Feel
3. アウトサイダー
4. Sunriseまで
5. 愛ゆえに深度深い
6. Cold & Dry
7. 青春の胸騒ぎ
8. Children
9. 4月のマーチ
10. ASAYAKE
11. 今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる
[ENCORE]
12. Lullaby For TOKYO CITY
『Awesome Talks –Oneman Show 2017Autumn/Winter-』
10/28(土)仙台MACANA
11/2(木)広島CAVE-BE
11/3(金)福岡BEAT STATION
11/5(日)金沢GOLD CREEK
11/12(日)高松DIME
11/19(日)札幌CUBE GARDEN
11/24(金)名古屋ボトムライン
11/30(木)大阪 味園ユニバース
12/6(水)東京Zepp Diver City
12/15(金)沖縄Output