ピアノ発表会の新定番、人気のギロック! レコード3社と楽譜出版社が生誕100年の合同プロジェクトでCDや楽譜をリリース

2017.9.22
インタビュー
クラシック

晩年まで音楽教育に情熱を注いだウィリアム・ギロック(1917~93)。これは生誕100年記念出版されたブックレット。彼の生涯や関係者の証言、ピアニストらの寄稿および直筆レッスンコメント、楽譜やCD情報など、充実の内容(全音楽譜出版社)


今や、子供から高齢者まで、老若男女に幅広く愛奏されているピアノ。その発表会で人気を読んでいるのが、ウィリアム・ギロック(1917~93)の作品だ。例えば『エオリアン・ハープ』『ガラスのくつ』『雨の日のふんすい』など、タイトルからしてイメージが膨らんで、弾くのも聴くのも楽しみになる曲や、『ニューオリンズのたそがれ』『カーネル・ストリート・ブルース』といった4ビートのジャズテイストの曲があったり、友達やきょうだいで弾ける連弾曲など、バリエーション豊か。

■ギロックの休日 最新ピアノ曲集。『モンテレーの休日』『パリの休日』『スペインの休日』はメキシコ、フランス、スペインを旅行した気分になれる。連弾3曲『おもちゃの行進』『三人の王様の行進』『エスパーニャ・カーニ』含め、全10曲(全音楽譜出版社)

ギロックはアメリカの作曲家・ピアニスト・音楽教育家。ミズーリ州で生まれ、ルイジアナ州ニューオーリンズで20年余りピアノを教えながら作曲を続け、テキサス州ダラスで作曲家・教育者として後半生を全うした。美しいメロディーの小品を多数作曲し「音楽教育界のシューベルト」と呼ばれている。

生誕100年の今年、レコード会社3社(キング・ビクター・コロムビア)と全音出版社が合同プロジェクトを組んでCDや楽譜などを出す、異例の事態が起きている。奏者も熊本マリ三舩優子小原孝と、日本を代表するピアニストたちだ。

熊本は、教授を務める大学で副科の生徒がギロックをよく弾くので、興味を抱いていた。
「楽譜をいろいろ読むとどれも美しい曲で、短いけれどバラエティに富んでいて癒やしがあるので、もっと多くの人に聴いてほしいと思いました。また、タイトルから想像を膨らませて弾いたり、ジャズのリズムを感じながら弾いたり、その人に合った曲で上手になれるし、弱点を直すときも練習が苦にならず、ピアノを楽しく学べます」

美しくて癒やしのあるメロディー、弾きたい曲で上達できるなど、ギロックの魅力がよくわかるという、熊本マリ

三舩は「幼少期を過ごしたニューヨークでの生活を懐かしく思い出させてくれます。ピアノを習ってる子はフツーに弾いていましたね。彼の曲が素晴らしいのは、短い中にたくさんの夢や可愛らしさや不思議さ、いろんな情景が色濃く描かれているところ。また、ピアノを習得するのに大切なバロック、古典、ロマン、近現代それぞれの音楽様式をバランスよく学びとれます」。

三舩優子は、初めて買ってもらったウォルナッツのスピネット型ピアノでお稽古した幼少期を懐かしく思い出すそうだ

ギロックは、どんなにピアノが好きでも興味のない曲を練習させられてやめてしまう生徒が多い現実をなんとかできないかと、工夫して曲を作り続けた。そのためレッスン曲の作家のように思われて、一般的にはあまり認知されずにきた。

ギロックの音楽を「指と心に優しい」と表現し、今日まで事あるごとに紹介してきた小原も、新人の頃に演奏会で弾きたくても「練習曲なので相応しくない」と没にされたり、レコーディング企画を入れても認めてもらえなかった経験を持つ。

学生時代に出会って以来、「指と心に優しい」ギロックを愛してやまない小原孝。ワークショップも積極的に行っている

ギロックを初めて知ったのは40年ほど前、学生時代だったという。「NHK教育テレビ(現Eテレ)のレッスン番組『ピアノのおけいこ』で宮沢明子さんが取り上げていたのを聴いたのがきっかけです。それまでの練習曲の概念を一新する美しい作品ですっかりファンになり、レパートリーにしたくなりました。厳選された少ない音数で、美しい響きを作り出す。さらに、一曲一曲が短いのも魅力的。美しくて短い曲だと、自然に何回も繰り返し弾きたくなるから上達も早いのです」

いい曲なのになかなか理解されない。そこで意を決して、楽譜の『抒情小曲集』と『ジャズスタイル・ピアノ曲集』を全曲収録した自主制作CD『小原孝 ウィリアム・ギロックを弾く』を2007年にリリースしたほど。これが好評で、人気作品をレベル別にまとめた09年のアルバム『ギロック・ベスト~レベル1・2』『ギロック・ベスト~レベル3・4』につながっている。対応楽譜も全音出版社から出ている。「今回のアルバムもそうですが、教材の模範演奏ではなく、純粋にピアノ作品として多くの皆さんに聴いていただきたい思いで演奏しています。弾きたい人は、その曲を大好きになって、自分で目標を見つけて練習すること。練習が楽しいと感じれば上達は驚くほど早い。弾いてて楽しい、もっと弾きたい、そんな気持ちを忘れずに練習に励んで下さい!」

■タカシ・プレイズ・ギロック 『ギロックの休日』のソロ全7曲、『こどものためのアルバム』の5曲など16曲を新録。他はCD『ギロック・ベスト』から(全38曲、コロムビア、COCQ-85370)。※『小原孝 ウィリアム・ギロックを弾く』はHPで取り扱い

熊本は「その人のためになる曲で上達させる、ピアノがより好きになる…、これができるのが本当の指導者だと思います。ギロックを弾きたがる人が多いのは、それがかなえられるからでしょう。連弾は、描く風景が同じ人とムードを感じ合いながら弾くとしっくりきます。テンポが同じでもムードが違うと合いません。私は妹と弾きましたが、うまく表現できました。CDを聴いてギロックのファンが増えるといいなと思っています」

■マリ・プレイズ・ギロック 楽譜『抒情小曲集』全24曲、『ジャズスタイル・ピアノ曲集』全15曲、連弾も4曲聴ける(全55曲、キング、KICC-1376)

三舩は、加えて「ギロック作品は、本当のアメリカを感じられる音楽」という。「彼が生まれたミズーリや大人になってから生活したルイジアナなどは、古き良きアメリカといえる地域で、人々がとっても親切。きっと穏やかでシンプルな生活をした人だと思いますが、彼の多様なスタイルの音楽からアメリカっぽさも感じ取っていただけるとうれしいですね」

■ユウコ・プレイズ・ギロック ~スタイル~ 楽譜『発表会のための小品集』から13曲、『アクセント・オン2 リズムと音楽スタイル』から「バロック・古典・ロマン・近現代」の四期の様式を学べる作品を選曲(全37曲、ビクター、VICC-60948)

アルバムへの選曲は三者三様だが、重なりもあるので聴き比べられるのも楽しい。また、どの楽譜集の曲かライナーに記されているので、弾きたい人にとても分かりやすい。来週の27日には、銀座山野楽器イベントスペースで、CDや楽譜などの購入者対象イベントが開催される。熊本、三舩、小原の3人が勢揃いし、演奏やトークが予定されている。

取材・文=原納暢子

イベント情報
【ギロック生誕100年記念イベント】
熊本マリ・小原孝・三舩優子 トーク&ミニコンサート&握手会

 
■日時:2017年9月27日(水)14:00~
■会場:銀座山野楽器 本店 7F イベントスペース JamSpot
■出演者:熊本マリ・小原孝・三舩優子

 
<備考>要招待券
下記対象商品のうち、いずれかを山野楽器(各店舗、及びオンラインショップ)にて
ご予約およびご購入いただいた方に、先着順にてご招待券を差し上げます。
終演後は、握手会にご参加いただけます。
また、ご来場の皆さまに、出演者全員(熊本マリ・小原孝・三舩優子)のサイン入り色紙を差し上げます。
※サイン入り色紙はスタッフよりお渡しいたします。

 
<対象商品>
① ’17/07/15発売 楽譜『ギロックの休日』と’17/08/15 発売 ブックレット『ウィリアム・ギロック』の同時(予約)購入 ¥2,800+税
※どちらか一方のみをご購入の場合は、ご招待券の配布はいたしませんのでご注意ください。
② ’17/07/26発売CD『Mari Plays Gillock/熊本マリ』(KICC-1376)¥2,800+税
③ ’17/07/26発売CD『Takashi Plays Gillock/小原孝』(COCQ-85370)¥2,800+税
④ ’17/07/26発売CD『YukoPlays Gillock~Style~/三舩優子』(VICC-60948)¥2,800+税

 
 
  • イープラス
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