雨のパレードが提示する共感覚の新しいあり方、全国ツアー・セミファイナルをレポート
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雨のパレード 2017.9.24 新木場STUDIO COAST 撮影=後藤壮太郎
雨のパレード ワンマンツアー2017「Untraveled」
2017.9.24 新木場STUDIO COAST
全7本にくわえメンバーの地元・鹿児島での追加公演を含めた8本にわたる全国ツアーのセミ・ファイナル、キャリア史上最大キャパの新木場STUDIO COAST公演を観た。
すごく乱暴な言い方をすると、雨パレはロックとダンスミュージックの境界線を溶かしたサカナクションや、エレクトロをベースにしたインディーR&Bでありつつ、バンド形態をとるThe xxら、先人が持つ要素の編集力がすこぶる高い。邦楽/洋楽両方のセンスを吸収・回収しつつ、福永浩平(Vo)の歌詞世界は「最近思っていることを書きました」と言われても驚かないほど、先鋭的なサウンドデザインに対して構えることなく「自分に向けられた音楽である」ことを自然と認識させる。実はこんな音楽に出会いたかったんだ、そんなオーディエンスの欲望が可視化された思いだ。
雨のパレード 2017.9.24 新木場STUDIO COAST 撮影=後藤壮太郎
ステージ前方にかけられた紗幕に映し出された、ニューシングル「Shoes」も想起させるスニーカー、そして風景などのモノクロの映像が降りしきる雨に変わり、英単語が断片的に投影された後、ツアータイトルとバンド名に至ると期待に溢れた拍手が起こる。静かに息をするようなイントロを持ち、バンドの宣誓めいた「new place」でスタート。福永のスムーズで少し甘いボーカルが疾走感を増すビートに乗り夜に駆け出すようだ。山崎康介(Gt/Syn)のファンクネス溢れるカッティングとクールなベースラインの「1969」や、ベースミュージック的なクールさに乗る生々しいベースソロも際立った「Focus」など、序盤からすでに冷静にコントロールされつつ、エモーションも自然に湧き上がるステージングを見せている。
雨のパレード 2017.9.24 新木場STUDIO COAST 撮影=後藤壮太郎
最初のMCで福永はツアータイトルの「Untraveled」を“旅をしたことがない”という意味だと説明。自分たちが、みんなを旅に連れていく——という趣旨の発言をした上で、新たなアプローチを行なった新曲「Shoes」を披露。大澤実音穂(Dr)の生ドラムと80s的なシンセの和音、青春感が立ち上がる歌詞がどこか懐かしく、同時にメロディの強さを実感する場面だった。そのまま続けてシングルの曲順通り「Thunder bird」「Voice」と、削ぎ落としたアンサンブルと持ち味である空間系のギターやテクノ的なビートが鳴らされ、少々の苛立ちや正義感、常識への疑いが世代や時代を超えたニュアンスのあるメロディで歌われていることが、ライブでもクリアに伝わってきた。
雨のパレード 2017.9.24 新木場STUDIO COAST 撮影=後藤壮太郎
中盤には山崎のアコギと福永のボーカルのみで「You」を披露する場面も。福永自身の経験に基づいて書かれたこの歌にある、そばにいてくれる人のことすら目に入らず、理解できないものは怖いと思う気持ち、時を経て自分の状態を理解できたとき、自分が助ける人は——という非常にストレートな内容が、シンプルなセットから水を飲むように心に入って来るのを感じた。ライブでの表現のしなやかさはこうしたところにも見て取れる。
雨のパレード 2017.9.24 新木場STUDIO COAST 撮影=後藤壮太郎
インタールードでは大澤がマレットに持ち替え、どこか密教的なドラムソロを披露。そのニュアンスはテクニカルなドラムソロというより、パーカッショニストが打楽器のみで音楽を表現するスタイルに近かった。そこにスラップなどパーカッシブな是永亮祐(Ba)のフレーズも乗り、明度の高いインディポップ・テイストの「Hey Boy,」、そしてタイトな四つ打ちと浮遊感のある上物が並走するようにステージ上とフロア双方の熱量を上げていく「Change your mind」が放たれる。一切の煽りもコール&レスポンスもなくとも、福永の自然な動きと演奏の生み出すグルーヴで求心力を増していく様子は、なかなか他のバンドでは見られない。膨張と収縮を繰り返すシーケンスが止まると同時に驚くほどの歓声が上がる。
雨のパレード 2017.9.24 新木場STUDIO COAST 撮影=後藤壮太郎
本編ラストは人力ダブステップなビートにディレイが美しいギターのリフレインが映える「stage」。徐々に熱量を上げていくサビでも、どこか意識が遠ざかるようなサウンドスケープを崩さない彼らの美学。ステージに立つことの意義を、今ステージに立っている人から直接受け取るこの曲。途中からフロア上部のライティングが閃光のように瞬き、静かに降りてきて、ミラーボールの輝きも相まって、会場全体がステージとシームレスな空間に見える演出がなされていた。ほぼバックライト中心でフォギーな演出を貫く彼らのアーティスティックな表現がむしろ生きる、ラストの鮮やかさだった。
雨のパレード 2017.9.24 新木場STUDIO COAST 撮影=後藤壮太郎
アンコールでは「やっとコーストにたどり着いたんですけど、やればやるほど、まだまだやりたいなと思います」と福永が素直な心情を述べた。バンドの意思をうかがわせる人気曲「Tokyo」、そして「Perichor」で、静かに熱い余韻を残して4人はステージを後にした。
洋楽追従という時代でももはやない。そして影響元は音楽だけじゃない。こうして支持するオーディエンスと直接触れ合いながら、雨のパレードは新しい価値を生んでいくに違いない。
取材・文=石角友香 撮影=後藤壮太郎
雨のパレード 2017.9.24 新木場STUDIO COAST 撮影=後藤壮太郎
2017.10.22(日)山口・周南RISING HALL『yonige ALBUM TOUR「girls like girls tour」』
2017.10.29(日)THE WALL TAIPEI (台湾)『One man Tour 2017 “Untraveled” in Taipei』
2017.11.04(土)学習院大学 百周年記念講堂『学習院大学 桜凛祭 GAKUSHUIN SPECIAL LIVE』
2017年8月23日発売
初回限定盤(CD+DVD) VIZL-1215 ¥2,000(+tax)
通常盤(CD)VICL-37308 ¥1,200(+tax)