画家たちがたどり着いた“新しい時代の表現”とは 『カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち』展をレポート

レポート
アート
2017.10.24
『表現への情熱 カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち』展覧会入口

『表現への情熱 カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち』展覧会入口

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抽象絵画の創始者カンディンスキーと、20世紀フランス最大の宗教画家ルオー。作風の大きく異なる巨匠二人だが、実は活躍の場を共にした時期があった。ドイツ表現主義とルオーの共鳴を探る初の試みとなる展覧会『表現への情熱 カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち』が、パナソニック汐留ミュージアムで10月17日、開催となった。プレス内覧会よりその内容をご紹介しよう。

本展担当・富安玲子学芸員

本展担当・富安玲子学芸員

新しい時代の表現をもとめた、画家たちの冒険

本展のみどころ1つ目は、カンディンスキー、ルオー、そしてドイツ表現主義の画家たちの豪華共演だ。さまざまな画家たちに共通するモティーフや色彩からは、背景の異なる文化を超えた同時代的な親和性が感じられる。

2つ目は、カンディンスキーの表現の移り変わりを語る上で重要な3作品が揃うこと。特に初期作品《商人たちの到着》が東京で公開されるのは30年ぶりとなる。

3つ目は、貴重なルオーの作品約40点がパリから来日するということ。パリのジョルジュ・ルオー財団の協力により、そのうち約20点が初来日となる。

本展は、色彩の探求によって新しい時代の表現を追い求めた画家たちの冒険の軌跡を、時系列の3つの章に分けて紹介している。

ルオーとカンディンスキー
2人の交錯

第1章「カンディンスキーとルオーの交差点」では、ルオーとカンディンスキーの初期の作品が並ぶ。フランス・パリの展覧会「サロン・ドートンヌ」へ共に出品し、その後活躍の場を広げていった2人。その貴重な出品作を揃って鑑賞できる。

カンディンスキーの《商人たちの到着》は“ロシア固有の音楽的な要素”が色彩化されているという。テンペラによる鮮やかな点描により描かれた本作は、故郷ロシアの伝統的な風景を題材としながらも、色彩による様々な効果を実験している。この作品がのちのカンディンスキーの抽象絵画への、重要な過程となったといわれている。

ヴァシリー・カンディンスキー《商人たちの到着》1905年 宮城県立美術館蔵

ヴァシリー・カンディンスキー《商人たちの到着》1905年 宮城県立美術館蔵

一方、ルオーは《後ろ向きの娼婦》や《法廷》において、人間の悲哀や矛盾を描いている。曝け出された肉感や歪んだ表情に目が奪われるが、どちらも感情を滲ませたような強い赤が印象的だ。こうした大胆な筆致と色彩で、マティスを中心とした「フォーヴィスム(野獣派)」の一員として名を知られるようになっていく。

なお、ルオーの作品は著作権保護期間内にあり撮影不可のため、残念ながらお見せすることができない。ぜひとも本物を間近で鑑賞していただきたい。

抽象絵画の誕生へ

第2章「色の冒険者たちの共鳴」では、カンディンスキーが率いたドイツ表現主義の画家たちとルオーが共有していた感覚を、色彩やモティーフから感じ取ることができる。

パリでフォーヴィスムが誕生した頃、ドイツ・ドレスデンではアフリカなどの非西欧文化に触発されたグループ「ブリュッケ」が結成される。画家たちは原始的な表現や、失われた中世や古代を理想化した表現を多く取り入れた。特に、美の象徴としてではなく、生命力の象徴として描いたヌード作品の数々は、自由な色彩が輝きを放っているように感じられる。

(手前)ハインリヒ・カンペンドンク《少女と白鳥》1919年 高知県立美術館蔵

(手前)ハインリヒ・カンペンドンク《少女と白鳥》1919年 高知県立美術館蔵

また、カンディンスキーは「内的必然性」を重視し、自らの内なる声を色とかたちの純粋な構成によって表現していく。《「E.R.キャンベルのための壁画No.4」の習作(カーニバル・冬)》では、もはや色とかたちは溶け合い、画面上で踊っているかのようだ。ちなみに、隣に並ぶ作品《抽象的コンポジション》を描いたガブリエーレ・ミュンターはかつての恋人。カンディンスキーの影響も多く見て取れる。

(左)ヴァシリー・カンディンスキー《「E.R.キャンベルのための壁画No.4」の習作(カーニバル・冬)》1914年 宮城県美術館蔵 (右)ガブリエーレ・ミュンター《抽象的コンポジション》1917年 横浜美術館蔵

(左)ヴァシリー・カンディンスキー《「E.R.キャンベルのための壁画No.4」の習作(カーニバル・冬)》1914年 宮城県美術館蔵 (右)ガブリエーレ・ミュンター《抽象的コンポジション》1917年 横浜美術館蔵

画家たちがたどり着いた表現

第3章「カンディンスキー、クレー、ルオー それぞれの飛翔」では、画家たちがたどり着いた新しい時代の表現作品が並ぶ。カンディンスキーと交流を深め、バウハウス美術学校では共に教鞭もとったパウル・クレーの、独特な抽象作品も多数見ることができる。《橋の傍らの三軒の家》では、水彩による色のにじみの効果を使って、加熱の橙色と、冷却の水色を組み合わせ、揺らめくような画面を構成している。

(手前)パウル・クレー《橋の傍らの三軒の家》1922年 宮城県美術館蔵

(手前)パウル・クレー《橋の傍らの三軒の家》1922年 宮城県美術館蔵

カンディンスキーは現実の世界から解放された色彩とかたち、線を使って、まるで音楽が響いてくるようなリズミカルな抽象絵画の世界へと到達した。《活気ある安定》では、それぞれの色やかたちが考え抜かれた配置で組み合わされ、緊張感と共に安定感と活気をもたらしている。

(手前)ヴァシリー・カンディンスキー《活気ある安定》1937年 宮城県美術館蔵

(手前)ヴァシリー・カンディンスキー《活気ある安定》1937年 宮城県美術館蔵

そしてルオーは、キリスト教の信仰に根差した深い精神性をたたえた、宗教絵画へとたどり着く。さまざまな色彩とかたち、国境を超えたそれまでの制作は、世界的な文脈を感じる宗教画へと結実した。晩年の色を厚く重ねて描かれた作品からは、神々しいまでの光を感じる。

冒険の記念は、最新の自撮りシステムで

本展の最後には、パナソニックの最新の技術を搭載した自撮りシステム「PaN」が待っている。カンディンスキーの作品《商人の到着》のパネルを背景に、自動で綺麗な自撮り写真が撮れるうえに、後でゆっくりとダウンロードできる、お一人様に優しいサービスだ(筆者もありがたく撮らせていただいた)。なお、サービスは無料だがダウンロードは当日中となっているので、早めに手に入れておこう。

パナソニックの最新の技術を搭載した自撮りシステム「PaN」

パナソニックの最新の技術を搭載した自撮りシステム「PaN」

新しい表現を追い求めた画家たちによる色の冒険を、間近で追うことのできる本展。その情熱をぜひ感じ取っていただきたい。

イベント情報
表現への情熱 カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち

開館期間:2017年10月17日(火)~12月20日(水)
開館時間:午前10時より午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
休館日:水曜日(ただし12/6、13、20は開館)
入館料:一般/1000円、65歳以上/900円、大学生/700円、中・高校生/500円 小学生以下無料
20名以上の団体は100円割引。
障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。
展覧会公式サイト:https://panasonic.co.jp/es/museum/
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