BIGMAMA、華麗に誠実に10年間の“序章”完結――初の武道館ワンマンを観た
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BIGMAMA 撮影=AZUSA TAKADA
BIGMAMA in BUDOKAN 2017.10.15 日本武道館
“バンド×バイオリン”“ロック×クラシカル”的な編成そのものの特異性に甘んじることなく、また同時にそのアイデンティティがもたらす可能性の追求を怠ることもなく、この10年間、前人未踏の道を歩んできたBIGMAMA。アニバーサリーのタイミングで迎えた初の武道館公演は、そうして“一番誠実であれる方法”を模索してきたメンバー5人と、彼らの音楽を慕う聴き手が抱くBIGMAMAへの愛情が結実したような、そんな夜だった。
『THE BEGINNING 2007.02.10』で“ささやかなお知らせ”として開催を発表してから早8ヶ月。『BIGMAMA in BUDOKAN』、ついにその日はやってきた。普段の彼らのワンマンと同様、開演数分前になると影アナがユーモアを交えつつ注意事項をアナウンスし始めるが、いつもと違っていたのは、タオルの使用方法の指南があったこと。実際にBIGMAMAのライブに足を運んだことがある方はもちろん、ライブ映像や写真などを通してご存知の方もいるかと思うが、「until the blouse is buttoned up」という曲が産み落とされた2012年以降、BIGMAMAのライブでは、オーディエンスが両手で広げたタオルを高く掲げる光景がすっかりおなじみになっている。ということで、バンドにとって記念すべき一日になるであろうこの日は、開演前のアナウンス、加えて入場時に一人ひとりへ手渡しされた“秘密のお手紙”によって、スタッフからオーディエンスへ、“客席目一杯をBIGMAMAタオルで埋め尽くし、メンバー5人をお迎えしませんか?”という提案がなされていたのだ。
快くそれに賛同した人々が両手をピンと伸ばし、5人の登場を今か今かと待ち構える。そうしているうちに場内が暗転。カチ、カチ、と瞬きのようにステージ上のライトが点滅したのち、SEの「交響曲第九番」(ベートーヴェン)をバックにメンバーが姿を見せた。1曲目はもちろん「No.9」。「『BIGMAMA in BUDOKAN』へようこそ。みなさん準備はいいですか?」と金井政人(Vo/Gt)が語りかけると、場内が明転。歓びのアンサンブルがオーディエンスを歓迎すると同時に、BIGMAMAのライブの代名詞ともいえるあの景色が、5人を迎え入れることとなった。
BIGMAMA 撮影=AZUSA TAKADA
ステージの前方からU字型の花道が伸びていて、その内側に設けられたオーケストラピットのようなスペースには、ダブルカルテットのストリングス隊がスタンバイしている。この日は曲によってメンバー5名+ストリングス8名=総勢13名の編成で演奏。冒頭からシンフォニックな響きでオーディエンスを魅了していったが、「踊ろうよ、武道館!」(金井)とサビへ突入したのを機にサウンドは一気に躍動的に。マレットからスティックに持ち替えたリアド偉武(Dr)による芯のあるビート、聴き手の鼓動を高鳴らせる安井英人(Ba)のベースライン、上手/下手の花道へ躍り出た柿沼広也(Gt/Vo)と東出真緒(Vn)による華やかな旋律、そしてオーディエンスによるシンガロング。<愛する人々を愛せる歓びを/あの手この手四十八手/尽くして確かめ合う>〉。曲の終盤、抑えきれずに笑みを漏らす金井のその表情を、大きなスクリーンが捉えた。
BIGMAMA 撮影=AZUSA TAKADA
唄い出しから大きな歓声が起きた「the cookie crumbles」、歌詞に因み数字を用いた映像とともに演奏された「#DIV/0!」、そこから間髪入れずに「Paper-craft」、ストリングスを迎え入れた「Make Up Your Mind」へ。この日のセットリストは9月に発売したベストアルバムからの選曲も多く、現時点での集大成的な内容に。バンドの鍵となった曲の生まれた時期に偏りがないということもBIGMAMAのすごさの一つだが、大きな会場で鳴らすことをイメージして作られたというここ数年の曲も、BIGMAMAの輪郭を形成した初期の頃に生まれた曲も、広大な会場を等しく満たしていて、“鳴るべき場所でいよいよ鳴った”感じだったように思える。ステージ上のミラーボールが光を散らし、八角形の天井を星空へと変貌させた「ダイヤモンドリング」を終えたのち、「(武道館)似合うでしょ」と照れ笑いした金井は、こう付け足す。「でもこう、いきなり今日があるわけじゃなくて、10年間いろいろなライブをしてきて。(客席が)ガラガラな時もありましたよね? でもその一本一本手を抜いたことはなかったし、自分たちの音楽を信じなかった日はなかったです」。
BIGMAMA 撮影=AZUSA TAKADA
「10年間で一番デカい声聞かせて!」(金井)という言葉にオーディエンスが応えた、「alongside」での花束のようなシンガロング。1stアルバム収録曲「Neverland」と最新曲「(50)days of flower」に共通して流れるメロコアスピリットが導く熱狂――5人が自然体で武道館を震わせることができたのは、積み重ねた歳月に基づくバンド自身の矜持が、そのサウンドに滲み出ていたからであろう。そして客席には、その誇りに共鳴した者が大いに唄い、飛び跳ね、泣き笑いしながら表情を崩す姿がある。そんな中、「会場にいる一人ひとりに捧げます」と金井が客席に向けて両手を広げてから唄い始めた「SPECIALS」では、曲に込めたメッセージをより明確に伝えるためか、スクリーン上に歌詞が映された。<僕の一番の被害者で/お互いが常にアリバイ/でも僕らは最高の共犯者>という、正直にねじれた愛情表現こそがこのバンドにとっての誠意の証。続く「CRYSTAL CLEAR」の清廉な響きは、そんなことを物語っているかのようだった。
BIGMAMA 撮影=YUKI KAWAMOTO
以心伝心。音楽を介したコミュニケーションで以って気持ちを通わせ合うこの空間には、余計な言葉など必要ない。「『せっかくの武道館だから喋る?』って訊いたら、みんな、『いや、いい』って(笑)。でもそれが正しいと思います。それよりも曲をやりたいというバンドの気持ちを、どうか汲んでください。言いたいことは曲に入っています」という金井の言葉通り、これ以降も絶え間なく演奏は続いた。ストリングスを迎え一段と重厚になった「荒狂曲“シンセカイ”」、その緊迫感を引き継いだ「BLINKSTONEの真実を」、そして一対一の糸を強く結びなおすように「秘密」を演奏したあと、ストリングスによるインターリュードを挟んで鳴らされたのは――「僕たち5人の始まりの曲を、「CPX」!」(金井)。13人編成で再構築、新たな響きとともに10年越しに“始まりの曲”を炸裂させた場面は、間違いなくこの日のハイライトの一つであった。
しかし、まだまだこれから。「さあ、ここからがクライマックスです」という金井の不敵な宣言が導くは、最新アルバム『Fabula Fibula』収録の「ファビュラ・フィビュラ」である。地を唸らせるメタリックなサウンドと、雄叫びに近いオーディエンスのシンガロング。バンドが描く景色をムクムクと肥大させていく同曲は、7月まで続いた全国ツアーの段階から可能性の片鱗を覗かせていたが、この広い会場で鳴らされたことによっていよいよ本領を発揮したような印象だ。そうして生み出した新たな景色の先、「Sweet Dreams」~「MUTOPIA」という鉄板の流れでさらなるシンガロングを巻き起こしていく。
BIGMAMA 撮影=AZUSA TAKADA
「愛はハリネズミのように」で本編を終え、ここまで25曲。MCがなくても伝わってくる部分は十分あったが、それでもやはり自身を曝け出し、今現在の言葉で改めて伝えることを彼は選んだのだろう。アンコールは金井による約20分の独白から始まった。父から言われた「お前が巻き込んだ人を絶対に不幸するな」という言葉がバンド人生の支えになっていたこと。全員を幸せにすることはできないけど、“不幸から遠ざける”ことぐらいなら自分にもできそうだと思えたこと。そのために自分に何ができるかを考えた結果、見出した答えが二つあって、その一つがこの5人で信じた音楽を鳴らすことであり、もう一つが“後悔だらけ、欠陥だらけ”な自分の人生と同じような失敗をみんながしないよう、自身の葛藤を歌詞の中に散りばめることだった、ということ。
10年前に書いた曲だけど今の自分の気持ちと一致する、と前置きし、アンコール1曲目に届けたのは「We have no doubt」。結成当初は「友達っぽい人と一緒にいる唯一の方法」だったバンドにすがっていたという金井だが、今の彼にとってBIGMAMAはきっとそういう場所ではない。10年間BIGMAMAの核を担ってきたのは、「どうしようもない嘘をついてしまうこと」をコンプレックスに思う彼がメンバーとともに必死で手繰り寄せた、“誠実であれる方法”。5人で鳴らしたい音楽に、素直であれ。今語りたいと思った感情に、正直であれ。このバンドが私たちに“共に唄うこと”を促し、幸福なシンガロングを生み出すことができるのは、「いつかあなたが大切な人に出会えたとき、“それから”ではもう遅い」という想い、だからこそ自分の喉は自分の意志で震わせてほしいんだ、という願いが根底にあるからなのかもしれない。
BIGMAMA 撮影=AZUSA TAKADA
オーディエンスの掲げるタオルが武道館をBIGMAMA色に染めた「until the blouse is buttoned up」。ダブルアンコールで急遽披露されたのは、まだ作りかけだという新曲。そしてオーディエンスとともに唄い上げた「I Don’t Need a Time Machine」。数ヶ月前の金井の言葉を借りるならば、ここでBIGMAMAの序章は終了した。今現在の自分たちの在り方を確かめるようなライブを行ったのは、来年以降、思いっきり“その先”へと駆け出すためであろう。アンコール中、再びの“ささやかなお知らせ”として金井が「2018年、BIGMAMA、引っ越します。下北沢から青山に。ユニバーサルミュージックにお世話になります」と発表したように、来年、BIGMAMAはメジャーデビューする。11年目に差し掛かるこのタイミングで新たな環境に身を移すことは容易なことではないし、メンバー自身にもそれ相応の覚悟があるということだろう。信じるものはその胸に。2月からのツアーを皮切りに次章へ突入する5人の道を、これからも追いかけていたい。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=AZUSA TAKADA、YUKI KAWAMOTO
2月14日(水) 恵比寿LIQUIDROOM(バレンタインデー)
3月29日(木) 福岡DRUM Be-1
3月30日(金) 広島CLUB QUATTRO
4月 1日(日) 高松MONSTER
4月 7日(土) 札幌PENNYLANE 24
4月14日(土) 仙台CLUB JUNK BOX
4月15日(日) 新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
4月26日(木) 大阪BIGCAT
4月27日(金) 名古屋THE BOTTOM LINE
5月13日(日) Zepp Tokyo(母の日)