ひたすら文房具を語る! ヨーロッパ企画『遊星ブンボーグの接近』

2015.9.29
レポート
舞台

撮影:清水俊洋

デジタル&アナログの両刀使いで、2時間文房具を語りつくす。

ヨーロッパ企画の新作『遊星ブンボーグの接近』の全国ツアーが、9月10日(木)の京都公演を皮切りにスタート。すでに公演が終了した京都・名古屋の観客からは、SNSを見る限り「すごくかわいい!」「文房具が愛しくなった」などの好意的な感想が圧倒的多数で、上々の滑り出しを見せている。

ヨーロッパ企画の強みは「今回はこれ」と決めたテーマを、徹頭徹尾ブレさせないことだろう。たとえば前作『ビルのゲーツ』は、上演時間の9割強をただただIDカード式ゲートを開け続けることに費やすという、バカバカしいほどの熱意を見事に結実させた世界だった。今回もまた「2時間ひたすら文房具について語る」これだけですべてを説明できる作品だ。

とはいえ普段身近にあり過ぎて、じっくり語るのも今さら感がある文房具。この呼び水となるような仕掛けとして、作・演出の上田誠が繰り出したウルトラCは、文房具になじみがない宇宙人たちを登場させることだった! 添乗員に連れられた宇宙人の旅行者たちが、文房具のインストラクターの案内の元、ホチキスやカッターなどのポピュラーな文房具を見て回る。針を閉じる感触に感動したり、危険性の高さにおよび腰になったり、その存在価値に首をかしげたり…。文房具を知らない者、逆に知識だけは豊富な者、堂々と間違った使い方をしていた者など、多様かつ新鮮な視点で文房具のあれこれが語られる。ヨーロッパ企画ならではのなごやかなムードも相乗効果となって、思わず頬がゆるんでしまう光景だ。

撮影:清水俊洋

しかし途中で、上田いわく「今回一番のジャンプアップポイント」と言う、ある映像の仕掛けが働くと、文房具を語る視線はさらなる広がりを見せる。これがどんなものかは重大なネタバレになるので口を閉ざしておくが、演劇の中での映像の使い方としては、ありそうで意外となかった手法だろう。そんなハイテクな技法を大胆に使う一方で、クライマックスでは超アナログな大仕掛けも登場。これが毎回上手くいくかどうか、かなりハラハラなものなのだが、これこそライブな出来事を役者と観客が一緒に共有することで盛り上がる、生の舞台ならではの楽しみ方だろう。

「キャスティングをいつもとガラッと変えたり、昔はやれなかった映像の使い方をしたりと、結構初挑戦の技をいろいろ入れた舞台になりました。文房具についてここまで徹底的に語った劇はあまりないと思うので、“文房具の演劇”を観たい方はぜひとも来てほしいです」と上田。この後は東京、大阪、高知、広島、福岡、横浜を回るけど、特に高知は劇団の四国初上陸となる記念すべき公演。実験的だけど気楽に楽しめる、王道のコメディのようで実はすごく珍しい世界を作る彼らの魅力がしっかり詰まったこの作品で、ぜひ良き出会いを果たしてほしい。

公演情報
ヨーロッパ企画第34回公演「遊星ブンボーグの接近」

東京公演:上演中~10月4日(日)◎本多劇場
大阪公演:10月10日(土)~10月15日(木)◎ナレッジシアター
高知公演:10月24日(土)◎高知県立県民文化ホール グリーンホール
広島公演:10月29日(木)◎JMSアステールプラザ 中ホール
福岡公演:10月31日(土)・11月1日(日)◎西鉄ホール
横浜公演:11月5日(木)~11月8日(日)◎KAAT 神奈川芸術劇場大スタジオ

出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力/岡嶋秀昭、中西ちさと、吉川莉早、川岡大次郎
『遊星ブンボーグの接近』特設サイト:http://www.europe-kikaku.com/projects/e34/