黒人を特別視する?不可解な家族の深層心理にゾッとする 『ゲット・アウト』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第三十八回

2017.10.29
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(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

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TVアニメ『デート・ア・ライブ  DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス  怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。

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夏のイメージが強いホラー映画だが、この秋は前回紹介した『アナベル 死霊人形の誕生』、11月の『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』と、公開作が豊富。そしてその2作のちょうど間に、私の期待する作品が公開中だ。変顔ばりに恐怖におののく主人公のキービジュアルが印象深いスリラー、『ゲット・アウト』である。

ある週末、アフリカ系アメリカ人の写真家・クリスは、白人の彼女・ローズの実家へ招待される。ローズの家族に歓迎を受けるものの、使用人はすべて自分と同じ黒人ということに居心地の悪さを感じていた。翌日、クリスは白人ばかりのローズ邸でのパーティーで、黒人の若者を発見。、嬉しさのあまり、その若者を携帯で撮影する。しかし、フラッシュを焚いた瞬間、その若者は豹変し、鼻血を流しながら「出ていけ!」とクリスに襲い掛かってくるのだった。「何かがおかしい」と感じたクリスは、ローズと共に彼女の実家から出ようとするが……。
 

違和感が生み出す不気味な世界

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白人の彼女の両親に挨拶に行くというのは、黒人のクリスにとっては胃が痛くなるような話だろう。自分が黒人であることがローズの両親に知られていないとなると、なおさらだ。それこそ、「出て行け!」と締め出されるかも……本作は、主人公ともども、そんな不安な気持ちにさせられたままスタートする。クリスはローズの家族に手厚い歓待を受け、その不安は覆されるも、「黒人に生まれて良かったことはあるか」と訊かれたり、使用人は全員黒人だったりと、やはり違和感が拭いきれない。

その使用人たちも、夜中に庭を猛ダッシュしたり、ガラスに映る自分に見惚れていたりと、“ヤバい人”臭をぷんぷん漂わせている。さらに、ローズの母親も、「禁煙を成功させる」と言って、クリスに催眠術を掛けてくる。いくら恋人の親のすることとはいえ、初対面で催眠術はさすがに引いてしまうだろう。

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本作にはクリーチャーが襲いかかってくるような派手さはないものの、観ていると、考えの読めない人間と寝食を共にする厭な感覚をずっと覚えることになつ。ファンタジックなクリーチャーよりもリアリティと身近な恐ろしさを感じさせてくれると私は思う。

また、本作にはコメディアンでもある監督らしい笑いも盛り込まれている。中でも、クリスのファンキーな親友・ロッドは、笑いの要素を担う重要なキャラクターで、ここには書けないようなとんでもない単語を何度も発し、そのぶっ飛んだ発想には私も笑ってしまった。ロッドとの会話の場面は、本作で唯一肩の力を抜けるシーンなので、癒されてほしい。いわゆる“ホラーコメディ”としても、本作は完成されているのである。


黒人監督ならではの切り口

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本作の製作を務めたのは、『パラノーマル・アクティビティ』シリーズや『グリーン・インフェルノ』(13)、『スプリット』(17)など、数々のホラーやスリラー映画に携わり、ヒット作を生み出してきたジェイソン・ブラム。監督・脚本を務めたのは、アメリカで人気のコメディアン・キー&ピールの片割れで、本作で監督デビューを果たしたジョーダン・ピールだ。キー&ピールがお笑いのネタとして扱うテーマは、人種差別や社会問題など、世相を皮肉ったきわどいものばかり。さらに、アメリカ系アフリカ人の二人がそれをやってのける、ちょっとブラックなユーモアで支持されているそうだ。

彼らが主演し、ピールが脚本を書いたコメディ映画『キアヌ』(16)にも、黒人ギャングに潜入しなくちゃいけないのに、白人とのハーフだから黒人しゃべりができない!といった、実体験を盛り込んだネタがふんだんに使われていた。また、ピール自身も“黒人だから”という理由で理不尽な目に遭ったこともあるという。日本ではあまりピンとこない問題にも思えるかもしれないが、米大統領がトランプ氏である現在、レイシズムやマイノリティーに関するネタには、面白さを感じるだけではなく、考えさせられる部分もあるのではないだろうか。

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ところが、本作に登場するローズの家族は、黒人の使用人に乱暴に振る舞うでもなく、使用人たちも「ここでは家族のように扱われてとても幸せです」と言う。この一家は、なぜ“黒人”を特別視するかのような、不可解な行動をとるのか?その理由が明らかになるとき、あなたはきっと度肝を抜かれるに違いない。肌の色や身体的特徴のネタを、しっかり“エンタメ”として昇華するピール監督の手腕に拍手を送りたい。

『ゲット・アウト』は公開中。

作品情報
映画『ゲット・アウト』

原題:『GET OUT』
製作:ジェイソン・ブラム
監督・脚本:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ ブラッドリー・ウィットフォード、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、 キャサリン・キーナー
配給:東宝東和
公式サイト:http://getout.jp
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