羽田美智子「自分の殻を破りたい」12年ぶりの舞台!劇団ONEOR8 『グレーのこと』インタビュー

2017.11.27
インタビュー
舞台

羽田美智子

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『警視庁捜査一課9係』や『花嫁のれん』など多数の人気ドラマで活躍する女優の羽田美智子。長らく映像作品を主戦場としてきた実力派が、12年ぶりに舞台出演を果たす。しかもそれが、人間の機微を描き出す作風に定評のある田村孝裕率いる劇団ONEOR8とのコラボレーションとなれば、俄然興味が高まるというものだろう。

そんな12年ぶりの舞台、劇団ONEOR8『グレーのこと』は、とある会議室が舞台。そこでは、死者の来世を決める会議が開かれていた。日頃の行いが良ければ人間へ、悪ければ下等動物へ…。現世とあの世の間にあるグレーな世界で裁かれる、白とも黒ともつかないグレーな問題。

はたして羽田美智子はこの摩訶不思議な世界でどんな新しい顔を見せてくれるのだろうか。

みんなでゼロから作品をつくる楽しさを実感しています

――羽田さんと言えばやはりドラマの印象が強いですが、舞台は何と12年ぶりということで。

前回、舞台をやらせていただいたときに、私は舞台の人間じゃないんだなということを痛感して。それからご縁がなかったというのもあって、ずっと映像を中心にお仕事をさせていただいていたんですね。ただ、ここ数年、私自身がいち観客として舞台の面白さに目覚めて。いろんな舞台に足を運んで、いろんな人がプレイするのを見るたびに、羨ましいなと思うようになりました。それで、ふっと「また舞台をやってみたいな」と周囲に漏らすようになって。そこから3年越しでようやく叶ったのが今回の舞台。私にとってはチャレンジとなる作品です。自分の殻を破りたいなという気持ちで稽古に臨んでいます。

――12年ぶりの舞台の稽古。いち演技者として変化や成長を感じるところはありますか?

12年前はチンプンカンプンだったことが、今はなるほどなと思えたりとか。そういう意味では、今まで一生懸命生きてきた証が、ちゃんと自分の中で蓄積されていたんだなと再確認することができたとは思います。共演の方たちは、みなさん正真正銘の舞台人。舞台一筋で歩んでこられた方たちのお芝居はやっぱり違います。一瞬の破壊力というか、パンチ力がすごいですね。自分にめがけて投げかけてくださるパッションがとっても濃厚。それを日々受け止めてお芝居ができるという経験は、自分の肉になるし栄養になる。毎日みなさんにたくさんの刺激をいただいています。

――ONEOR8のみなさんの印象は?

優しくて面倒見が良くて、本当に素晴らしい方ばかり。もちろん映像のお仕事も大好きなのですが、映像のお芝居って時々個人プレイなのかなと感じる瞬間があるんです。でも舞台は違う。舞台は、完全なチームプレイ。今回、稽古初日は、みんなで集まって概要を聞いて、そこからは飲み会ということで、お酒を飲みながらいろんなお話を伺うことができました。そうやってみんなで手探りでひとつのものをつくれるところが、舞台ならではの面白さであり、そこに喜びを感じています。

ごく普通の女性が罪を犯す。その過程をきちんと演じたい

――作・演出の田村さんはいかがでしょう?

今回、田村さんとご一緒させていただくことを先輩の女優さんたちにお話ししたら、みなさんから「羨ましい。私もやりたい」って絶大な支持があって。その理由が、現場に入ってよくわかりました。田村さんは、すごい才能をお持ちだし、人柄的にもとても穏やか。現場で声を荒げることもないし、誰に対しても丁寧に接してくださるんですね。もちろん作品も面白いし、つくり方が決して下品じゃない。女優を汚くしないんです。もちろん汚れ役が嫌だということはありません。作品のためなら喜んでお受けします。だけど、中には意味もなく汚されてしまうときもある。田村さんには、そういったところがまったくないので、とてもやりやすいし、信頼できる方だなと思います。

――田村さんの作品は人間のシビアな部分をえぐりつつ、そこに一定の優しさと温もりがありますね。

すごくいい表現! まさにその通りで、一定の温もりと優しさが根底にあって。人って最終的には意地悪にもなれなければ、鬼にもなれないんだなっていうことが伝わってくる。だけど、そんな人が鬼になる瞬間があるのも確かで、田村さんはそこを決して誤魔化したりしない。陰と陽の両面をしっかり描くところがすごく好きです。

――今回の設定も非常に面白そうです。

私もあらすじを読んだ瞬間に面白いなと思いました。ポスター撮影のときに「学校の先生に見える洋服を持ってきてください」とだけ伺って。一体どんな役を演じるんだろうと楽しみにしていたら、学校の先生でもなければ裁判官でもなく、犯罪者だったんです。それもすごい犯罪を犯した女性。彼女が裁判員たちによって裁かれるんです。

――犯罪者の役ですか。これまた普段の羽田さんの演じる役のイメージとは違って新鮮です。お話しできる範囲で役についての印象を聞かせていただけますか。

人間って、すごく孤独で、悲しい生き物だということ。でもだからこそ人と集うんだなということを感じさせてくれる役ですね。人間は一人では生きていけないんだけど、時に一人になりたいこともある。そんな誰しもが抱える矛盾を描いている作品だと思います。犯罪者の役と言いましたが、彼女もまた一生懸命生きていたごく普通の女性です。それが、周りとの関係性や影響によって徐々に変わっていってしまった。その過程をきちんと演じることが、今回の合格ラインなのかなと思っています。

――タイトルの『グレーのこと』というのがいいですね。

そうですね。田村さんの描きたいことは決して勧善懲悪ではない。みんな最善を尽くして生きてるけれど、時にその最善が人によっては妬ましいことだったり疎ましいことだったり、悪だと感じる場合があって。それがこの人間社会なんじゃないかということを感じさせてくれます。そんな矛盾をたくさん抱える人が、本当に人を裁けるのかというのが今回のテーマ。きっと観た方の心に「人って何?」「人に生まれ変わるのって本当に幸せなの?」という問いを投げかけてくれると思います。

すぐに他人との間に優劣をつけて、他者との比較を通じて自分の正当性を見出してしまうのが人間の悲しいところですが、そもそも本当に優劣なんてあるのかと言ったら、誰も答えることはできない。私自身もとても興味のあるテーマなので、どんな結末を迎えるのか、とても楽しみです。

きっとこの作品が、私の転換期になる

――ここからは少し羽田さんの横顔を伺えるお話を聞かせてください。まず今回の劇場は、オープン間もない浅草九劇です。羽田さんの浅草にまつわる想い出は?

伊東四朗さんとドラマのロケで伺ったことがあるのですが、そのときの印象が強いですね。朝7時くらいだったんですけど、これは朝から飲んでいるのか、それとも昨日の夜からずっと飲み続けているのかわからないくらい酔っ払っている方がたくさんいました(笑)。道行くおばあちゃんの恰好も、ボーダーのジャケットに花柄パンツ、真っ赤なレッグウォーマーと、すごくインパクトがあって。伊東さんはそんな浅草の光景を見ながら「面白い街だろ」と嬉しそうにおっしゃっていました。今は外国の方も多いですし、浅草には老若男女を包みこむ器の大きさを感じますね。

伊東さんご自身も浅草のご出身で、浅草の演芸場でずっとやってこられた方。他にもビートたけしさんとか、素晴らしい方を輩出した芸能の街ですよね。きっと浅草には芸能の神様がいらっしゃる。そこに参加できるというのは、とても光栄な気持ちです。

今回、このお仕事が発表になってから、ファンの方が手づくりの観光マップを送ってくださったんですね。「このお店のわらび餅は美味しいですよ」とか、いろいろ耳寄りな情報がつまっていて。公演中は私もこの地図を片手にまだ知らない浅草の魅力をいろいろ発掘したいなと思います。

――では、輪廻転生が題材のお話ですが、羽田さんが生まれ変わるなら来世は何になりたいですか?

生まれ変わるならやっぱり人が良いですね。職業は歌手になりたいです。歌い手さんには、聴く人を圧倒的にシフトチェンジさせる力がある。やっぱりそれは同じ表現をする人間として羨ましいなと思います。あと、単純に結婚式に呼ばれたときに、歌ってあげられるじゃないですか。女優の場合、何かしてあげたくてもひとりで演劇をするわけにもいかないし、ツブシがきかないんです(笑)。そこも羨ましいポイントのひとつですね。

――なるほど(笑)。では、締め括りに本番に向けて意気込みをいただければ。

今は稽古を通じて、お芝居の楽しさを実感している真っ最中です。ひとつの場面を繰り返し何度も丁寧に通していくことで、普段なら読み流してしまうような些細な一言にも意味を感じられるのが、舞台の面白さ。改めてお芝居ってこうだったということを学ばせていただいています。今までとまた違うステージに立っている感覚がありますし、きっとこの経験を映像の世界に持ち帰ったときに、また私自身が変われる予感もある。

おかげさまで、いよいよ来年で50歳の大台を迎えます。きっと、今が私の転換期。50歳を迎えるまでに、たくさんチャレンジをして、もっと幅を広げることができればと思っています。

取材・文・撮影=横川良明

公演情報
劇団ONEOR8 新作公演『グレーのこと』
 
■日程:2017年11月29日(水)~12月10日(日)
■会場:浅草九劇(東京都台東区浅草2-16-2浅草九倶楽部2階)
■作・演出:田村孝裕
■出演:恩田隆一、冨田直美、伊藤俊輔、山口森広 / 関口敦史、松本亮、長尾純子 / 山野史人、阿知波悟美、羽田美智子
■公式サイト:http://oneor8.net/

 

<あらすじ>
どこかの会議室。そこに集まるスーツに身を固めた人々。
どうも裁判員制度で呼ばれた裁判官たちが、とある事件について議論しているように見える。だが、議論が進むにつれ、どうも様子がおかしいことが伺えた。
裁判官たちは死者について話している。死者が生前おこした事件について。
すると議論を黙って聞いていた裁判長が判決を下す。
「彼の来世は“ミジンコ”である」
スーツの人々は裁判官ではなかった。言うなれば閻魔のような存在で、死者が来世、何に生まれ変わるべきかを話す会議だったのだ。日頃の行いが良ければ人間へ、悪ければ下等動物へと輪廻を遂げる仕組みらしい。
ある日、とある死者について議論が割れた。それは善とも悪とも取れる行いで人間へと輪廻させるかどうかの判断が下せないでいる。間違って独裁者や凶悪犯を生めば彼(女)らはクビを宣告され、神様になる道を閉ざされるからだ。
そのとき、まだ閻魔となって間もない女が根底を覆すような言葉を口にする。
「そもそも、人間に生まれ変わることって幸せなんですか?」
現世とあの世の間にあるグレーな世界。
白か黒か、はっきりと解決できないグレーな問題。
あいまいなこと、グレーなこと。それはきっと、大切なこと……。
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