ジル・ロマン「生前のベジャールを知らなくてもぜひ劇場へ」~〈ベジャール・セレブレーション〉リハーサルレポート~

2017.11.17
レポート
舞台

photo : Kiyonori Hasegawa

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20世紀最大の巨匠と謳われる天才振付家、モーリス・ベジャールの逝去から10年。命日にあたる11月22日を含む2日間、“本家”モーリス・ベジャール・バレエ団(以下BBL)と“兄弟カンパニー”東京バレエ団による追悼ガラ公演、〈ベジャール・セレブレーション〉がここ日本で開催される。11月14日、東京バレエ団のスタジオにてリハーサルが公開され、その後ベジャール亡きあとのBBLを率いる芸術監督、ジル・ロマンが取材に応じた。没後10年の記念公演と聞くと、生前のベジャールをよく知るファンのために開かれるような印象もあるかもしれないが、ジル・ロマン曰く、「私たちは常にオープン」だ。

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天才の名作を名ダンサーたちが踊り継ぐアンソロジー

公演は、BBLによる〈テム・エ・ヴァリアシオン〉と、両バレエ団が共演する〈ベジャール・セレブレーション〉の二部構成。前者はジル・ロマンによる創作、後者はベジャールの名作の数々からジル・ロマンが抜粋して組曲に仕立てた作品で、どちらも昨年末、BBLの本拠地であるローザンヌで初演されている。このうち、公開されたのは〈ベジャール・セレブレーション〉。東京バレエ団のダンサーに合わせて、初演とは少し異なる形で構成された特別バージョンだ。ジル・ロマンがほんの時折、指をパチンと慣らして気になった箇所を短く指摘する以外、本番さながらの通しリハーサルが繰り広げられた。

photo : Kiyonori Hasegawa

1960年代から90年代にわたって振付けられた、幅広いベジャール作品のアンソロジーを観ていて改めて感じ入るのは、選曲の多様さだ。ベートーヴェンの交響曲から世界各地の伝統音楽、デューク・エリントンに映画音楽まで。そのすべてを、それぞれに深く理解した上で、そこにベジャール印とでもいうべき独特の振付を施す。知識と独創性を兼ね備えた人間を真の天才と呼ぶならば、やはりベジャールほどこの称号が似合う人はいないのではないだろうか。そして、そんな彼の才を私たちが目の当たりにできるのはもちろん、相応しいダンサーの身体があってこそ。エリザベット・ロス&ジュリアン・ファヴロー、上野水香&柄本弾という、『ボレロ』の“メロディ”を踊ることが許された数少ないダンサー同士のパ・ド・ドゥが一度に二組も観られる、というこの公演の贅沢にも感じ入らざるを得なかった。

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天才の作品は、観る側にも見識があれば、きっとより味わい深くなるのだろう。だが何も知らず、何も考えずに観ている客にさえ「なんか、イイ…!」と感じさせてしまうところが、ベジャール作品の懐の深さでもある。今回もクライマックスでまさにそんな瞬間があり、リハーサルだというのにジンワリきてしまった。ダンサー各々の踊りがいっそう緻密になり、そこに衣装と照明が加わり――そして恐らく、ベジャール本人の魂も降りてくるであろう本番は、さらに感動的な幕切れとなるに違いない。

「私はベジャール作品を継承するためにいる」

――膨大なベジャール作品の中から、何を基準に選んでこの〈ベジャール・セレブレーション〉を構成されたのですか?

まずは、今いるダンサーに何が合っているか、ということです。加えて、全体のリズムや多様性も考えて選びました。今回は東京バレエ団のダンサーも出演しますので、ローザンヌでの初演にはなかった作品が加わっています。ですからこれは、日本のための特別なプログラム。お客様に喜んでいただくことを、第一の目的として考えています。

――ベートーヴェンの第一交響曲で始まり、第九交響曲で終わる構成にした意図は?

どちらもモーリスが1989年に創作した、『1789…そして私たち』からの抜粋です。ベートーヴェンの大きな交響曲を最初と最後に持ってくることで、プログラム全体の枠組みにできればと思って選びました。また、アンサンブルの動かし方という、モーリスの長けたところをぜひお見せしたかったこともありますね。最後の第九(第3楽章)は、カンパニーの力を見せる部分。今回は、二つのバレエ団が一緒になったカンパニーとしての力をお見せできるのではないかと思います。

photo : Kiyonori Hasegawa

――東京バレエ団のダンサーたちの印象をお聞かせください。

東京バレエ団とは長くお付き合いがあり、BBLにとって兄弟のようなカンパニーだと考えています。競争するような間柄ではなく、一緒に何かをしていく相手ということですね。東京バレエ団にもBBLと同じように、私にとって興味深いパーソナリティを持ったダンサーがたくさんいます。また、皆さん非常に真面目に取り組んでくださるので、一緒に仕事をしていてとても気持ちが良いとも感じています。

――没後10年ということで、生前のベジャールさんを知らない人も増えていると思います。そうした皆さんに伝えたいメッセージはありますか?

ぜひ劇場にいらしてください。モーリス・ベジャールは、観客と交感したいという思いから、振付家の枠組みを越えて様々な作品を創作した人物で、私たちも同じ思いで活動しているオープンなカンパニーです。観に来ていただければ、きっと何かを受け取ってもらえることでしょう。私たちは年間60~80の公演を行っていますが、ありがたいことに毎回たくさんのお客様が来てくださっていますので、足を運ぶ価値はあるのではないかと思います。私の師であり、偉大な天才の作品を、ぜひ多くの方にご覧いただきたいですね。

――ベジャールさんの振付の独特なニュアンスを若い世代に継承していく難しさ、やりがいについてはどのように感じていらっしゃいますか?

私は継承するためにいると考えているので、難しさは感じません。モーリスの作品を伝えていくだけでなく、自分自身の作品も発表することが、生前のモーリスとの約束でした。ですから、創作にももちろん面白さを感じてるのですが、やはり伝えていくことが、私にとっては大きな喜びなのです。伝えている時には、私自身も相手に教えるのと同じくらい、あるいはより多くのものを学んでいると感じます。難しさはもちろんあるのですが、愛するものに向き合っている時に時間を感じないのと同じで、難しいと感じないのでしょうね。

――11月22日の命日には、舞台上にベジャールさんの魂が降りてくるのでは…?

私は常に、モーリス・ベジャールは私と共にいて、守ってくれていると感じています。ですから11月22日にも、もちろん彼はいると思いますよ!

photo : Kiyonori Hasegawa

取材・文=町田麻子

公演情報
モーリス・ベジャール・バレエ団 東京バレエ団 特別合同ガラ〈ベジャール・セレブレーション〉
 
第一部 〈テム・エ・ヴァリアシオン〉t’M et variations…
■振付:ジル・ロマン
■音楽:シティ・パーカッション(Thierry Hochstätter & jB Meier)によるライブ演奏 、 ニック・ケイヴ&ウォーレン・エリスによるサウンドトラック
■衣裳:アンリ・ダヴィラ
■照明:ドミニク・ロマン

 
第二部 〈ベジャール・セレブレーション〉Béjart fête Maurice
■振付:モーリス・ベジャール
■演出:ジル・ロマン
■音楽:ベートーヴェン ウェーベルン ホイベルガー ザ・レジデンツ ローッシーニ デューク・エリントン ル・バール ユダヤ、インド、アフリカ、ピグミーの伝統音楽
■衣裳:アンリ・ダヴィラ
■照明:ドミニク・ロマン

 
■会場:東京文化会館
■日時:2017年11月22日(水)~11月23日(木・祝)
11月22日(水)19:00
11月23日(木・祝)14:00


モーリス・ベジャール・バレエ団
Aプロ ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの2幕のオペラ「魔笛」
■台本:エマニュエル・ヨハン・シカネーダー
■振付・演出:モーリス・ベジャール
<東京公演>
■会場:東京文化会館
■日時:2017年11月17日(金)~11月19日(日)
11月17日(金)18:30
11月18日(土)14:00
11月19日(日)14:00
<兵庫公演>
■会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
■日時:2017年11月28日(火)19:00

 
Bプロ
「ボレロ」
■振付:モーリス・ベジャール
■音楽:モーリス・ラヴェル
「ピアフ」
■振付:モーリス・ベジャール
■音楽:エディット・ピアフ
「アニマ・ブルース」
■振付:ジル・ロマン
■音楽:シティパーカッション(演奏:ティエリー・ホーシュテッター&jB メイアー)
「兄弟」
■振付:ジル・ロマン
■音楽:モーリス・ラヴェル、エリック・サティ、吉田兄弟、美空ひばり、シティパーカッション(ティエリー・ホーシュテッター&jB メイアー)

 
<東京公演>
■会場:東京文化会館
■日時:2017年11月25日(土)~11月26日(日)
11月25日(土)13:30
11月25日(土)18:00
11月26日(日)14:00

 
<兵庫公演>
※ガラ・パフォーマンス〜「ボレロ」ほか全4作品
■会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
■日時:2017年11月29日(水)19:00

 
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