夢のように渦巻く砂嵐の中へ 【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.8 和田永(アーティスト)

コラム
音楽
アート
2017.11.28
撮影=Mao Yamamoto

撮影=Mao Yamamoto

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美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、アーティストの和田永さんが、ご自身が主催された『電磁盆踊り大会』について語ってくださっています。

中央に巨大五角形やぐらがそびえ立ち、提灯の代わりに取りつけられた換気扇は、回転によって音を鳴らすシンセサイザー「換気扇サイザー」となって爆音を鳴らす。やぐらの上には大型ブラウン管テレビが「ブラウン管大太鼓」となって鎮座し、演奏者は画面から出る電磁波をアンテナとなったバチでキャッチしながら、ドーンと低音を打ち鳴らす。非常ベルをジリリと鳴らして祭り囃子をもり立てる「非常カンチキ」演奏者に、ギターアンプから歪んだメロディを奏でる扇風機による楽器「扇風琴(せんぷうきん)」演奏者。「ブラウン管ガムラン」演奏者たちは、ブラウン管テレビから出る静電気を手でキャッチしながら音に変えてリズムを打ち鳴らし、「ストロボ鑼(ら)」演奏者はストロボの発光とともに放出される電磁波を、ラジオを通して会場に轟かせる。レーザーに彩られながら、高野山の住職が捨てられゆく電化製品への弔いのお経を唱え、民謡歌手が家電の変遷を歌い、やぐらの周りでは人々が電子や惑星の回転の如く踊り狂う……。


撮影=Mao Yamamoto

撮影=Mao Yamamoto

はじめまして。去る2017年11月5日、東京タワー直下のスタジオで開催された『電磁盆踊り大会』の首謀者で、音楽家/美術家の和田永です。カセットテープよりも前の録音機であるオープンリールテープレコーダーを駆使して音楽を演奏するグループ「Open Reel Ensemble」としても活動する傍ら、2015年からは、あらゆる人々を巻き込みながら、様々な役割を終えた家電を電子楽器として蘇生させ、合奏する祭典をつくるプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」を始動させて、取り組んでいます。つい先日、このプロジェクトが「本祭I」と銘打ち、執り行ったのが『電磁盆踊り大会』でした。

祭り囃子は、すべて古家電による珍妙な楽器を用いた生演奏。そして歌い盆踊ることで、眠りゆくテクノロジーの供養と蘇生祭の片鱗が姿を現す一夜となりました。

撮影=Mao Yamamoto

撮影=Mao Yamamoto

テクノロジーの供養と蘇生祭『電磁盆踊り大会』

本来の役目を果たす場を失ってしまった電化製品達が、現代の妖怪となって雄叫びを上げはじめる……。そんな妄想を抱き続けてプロジェクトを立ち上げた2015年から約3年。クラウド・ファンディングで資金を集めながら、さらにエンジニアやデザイナー、ミュージシャン、ものづくり好き、音楽好き、祭り好きなど、様々なバックボーンを持つ人々が集い、日々アイディアを膨らませながらそれらを実際にカタチにしていくことで、『電磁盆踊り大会』は実体化へと繋がっていきました。

撮影=Mao Yamamoto

撮影=Mao Yamamoto

2011年の地デジ化によって、地平線の向こうまで積み上げられたブラウン管テレビの写真は、テクノロジーが辿るひとつの未来の姿を映していました。しかし、かつての電化製品を発掘してひとたび開けてみれば、そこには先人達の知恵と工夫が凝縮されていることに気づかされます。そこに積極的な誤読を加え、楽器としての道を見出した時、あるいは本来とは異なった“生かし方”を見つけた時、かつての電化製品が思わぬ装置として蘇り煌めきはじめることに、実験を繰り返す中で気づかされたのです。そしていつしか脳裏には、それらを奏で盆踊る架空の部族が現れはじめました。そんなファンタジーが今も広がり続けています。

撮影=Mao Yamamoto

撮影=Mao Yamamoto

そして長い時間をかけて実体化した奇祭。ここで生まれた「電電音頭」は、《A面B面ひっくり返す》《砂嵐》《3倍モード》といった家電にまつわる“死語”をちりばめ、歌や踊りへと変換していくオリジナル音頭です。やがてテンポが加速していくと、「AI節」へと突入し、来る人工知能時代の希望と混乱が歌われます。電磁音が飛び交う空間で、そこにいる全員が汗だくで踊るという謎の一夜となりました。人間が自然界から授かり生み出したテクノロジーにも、あの世とこの世があるならば、その間を取り繋いだ奇祭だったのではないかと思います。

扇風機に宿る森羅万象

撮影=Mao Yamamoto

撮影=Mao Yamamoto

ここで奏でた楽器のひとつ「扇風琴」は、扇風機に穴の開いたオリジナル円盤と電球をとりつけ、回転によって起こる光の点滅を拾って電気の波をつくり出し、スピーカーが震えることで音を鳴らします。この円盤に開ける穴の数を計算していくことで、試行錯誤を重ねながら音程と音階をつくり出してきました。さらに、弱・中・強風のスイッチでも音程が変わり、ある日を境に扇風機が鳴き声をあげはじめたのです。

そこから鳴るいかにも電気的な音には、エレキギターの神様、ジミ・ヘンドリックスが搔き鳴らす音にも通じる音の快感が宿っていました。さらには、どこか知らない国の民族音楽と出会った時のような“異国情緒”、あるいはここではない別の世界を覗くような“異界情緒”ともいうべき音の感覚がありました。「首を振るのはもはや扇風機ではない、演奏者の方だ!」。そう、確信したのです。かくして、ギラついたヴィンテージの扇風機は、逆さ向きに担いで演奏する電鳴楽器へと転生を遂げていきました。

「音楽ってこんな風に生まれたんじゃないだろうか?」

人間が道具を生み出し発展させてきた歴史も、中学生の頃に初めてバンドをやった時のあの感覚も、扇風機を通してグルグルと追体験しているような感覚に襲われました。そして、“光と影”、“有と無”が繰り返される中で、初めて振動が生まれ得ること、そこに森羅万象が宿っているように感じざるを得なかったのです。

覗き見よ!

あるテクノロジーが、本来的な意味においてはまったく役立たずでありながら、大いなる無駄を楽しむ装置にもなり得ること。自然界や、先人たちや未来に生きる人々、あるいは見えない異界との通信装置になり得ること。これらは取扱説明書には載っていない使い方です。しかし、テクノロジーを用いたアート表現には、あるつくり手の内なる衝動や妄想、様々な気づきやひらめきによって、時に思いもよらない使い方や驚きを示してくれるものが沢山あります。それは想像の“異国”における知られざる取扱説明書・活用法・楽しみ方かもしれません。そんな“異国”や“非日常”への往来から、新たな視座や刺激を得ることができるかもしれません。チャンスあらば、覗き見よ!

イベント情報
TOKYO DANCE MUSIC EVENT(東京ダンス・ミュージック・イベント)

 日時:2017年11月30日(木)・12月1日(金)・2日(土) 各日11:00–19:00
    (※Open Reel Ensemble出演日は12月1日)
 会場:渋谷ヒカリエ ホールAとB
 公式ウェブサイト:http://tdme.com/ja/

 

 

イベント情報
和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」
~ブラウン管テレビや扇風機が楽器になる!?~


 日時:12月17日(日)、開場11:00、体験会11:00~、ワークショップ13:00~15:00、ミニライブ15:30~
 会場:日立シビックセンター多用途ホール
 料金:無料
 公式ウェブサイト:http://www.city.hitachi.lg.jp/event/009/p063991.html
 
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