『視線』ツアー・ファイナルでodolが見せた、映像喚起力に溢れる新たなアンサンブル

レポート
音楽
2017.11.29
odol  撮影=今井駿介

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odol TOUR 2017 “視線”  2017.11.26  東京・渋谷WWW

名古屋、福岡と1stEP『視線』を携えたツアーを行ってきたodolが最終地点の東京で見せた最新のステージは、新作で到達したバンドの自由度をもって過去の楽曲も同じ表現の地平に乗せた、一つの物語性を感じるものになった。

odol  撮影=今井駿介

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入念なサウンドチェックを済ませたのち、遠雷のようなSEとともに6人が登場。森山公稀(Pf、Syn)のロングトーンと井上拓哉(Gt)のフィードバックノイズに導かれるように「あの頃」から、まるで記憶をたぐり寄せるようにライブが始まる。odol流のウォール・オブ・サウンドなのだが不思議と圧がなく、音という空気の振動に包まれるように「退屈」、そして「綺麗な人」へ。アルバム・リリース当初の疾走感のあるギターロックバンドのアレンジからは随分変わり、井上も早川知輝(Gt)もコードより単音を選りすぐって鳴らしている印象だ。序盤は重低音が良く出るWWWのサウンドシステムのバランスが難しそうだったが、バランスが整い、ミゾべリョウ(Vo、Gt)の声や全体的な音像が柔らかく聴こえたのは、4曲目の「君は、笑う」から。森山以外の4人が重ねる「変わらないでいて」のコーラスには、どこか10年代初頭のグリズリー・ベアやダーティー・プロジェクターズにも似た匂いを感じる。

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森山の今日この日このステージに立てたことを感謝する短い挨拶を挟み、さらに初期のナンバー(初期と言っても2015~2016年リリースだが)が現体制によって磨き上げられたことを実感するブロックへ。規則的なピアノリフの印象が強かった「17」は、2本のギターの単音リフと、メロディアスなベースラインによってガラッとイメージが変化していたし、エンディングに向かうジャムバンド的な抜き差しは、メンバーがそもそも持っていたであろう現代的なジャズやフュージョンの音階とシューゲイザーの音像が矛盾しないことを印象付けた。タイダルなグルーヴのある「愛している」では6人の演奏も没入感が増し、再び緩やかにスローテンポのビートが刻まれる「飾りすぎていた」のAメロで一旦、平熱に戻ったと思ったらまたノイジーなギターが切り込んでくる。続くジャジーな歌メロの「逃げてしまおう」、素朴な「years」――いつも思うことだが、odolのスローナンバーの映像喚起力は凄まじい。WWWが元映画館であるというシチュエーションも相まって、オーディエンスの脳内に各々の記憶や匂いが投影されていたんじゃないか?と思うほどの5曲のブロックだった。オーディエンスの集中力も高く、一瞬こちらの世界に戻ってくるのを忘れるかのように、拍手までのタイムラグがあるほどだ。

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中盤以降、ようやく『視線』からのナンバーを披露し始め、ミゾべに赤いスポットがあたる演出も効果的だったのは「狭い部屋」。早川のイマジネーションに富むフレーズと井上の歪み系のコントラストが際立つ。Shaikh Sofian(Ba)の音の置きどころが絶妙でベースが耳に残る「ベッドと天井」を経て、「その向こう側」へ。ポップなメロディを持ちつつ、バンドの音像が一瞬抽象度を増すのも面白い。演奏を全身で追って楽しんでいると、足踏みというか軍靴のようなザクザクとしたSEが流れ、ミゾべが『視線』について“自分たちにとってとても大きな作品になった”と述べたあと、森山が新作にも参加したバイオリンの山本理紗とチェロの関口将史を呼び込む。打ち込み主体の「またあした」は、弦が効果音的に入ることで新たなライブアレンジになり、生音ダブステップ的なニュアンスを垣守翔真(Dr)が確かにキープする「私」では、弦がもっとも鮮やかなアンサンブルを聴かせた。また、odolのレパートリーの中でもっとも広く誰にでも伝わる感情と感覚を描いた「GREEN」は、音源に比べると弦の存在感が大きすぎる箇所もあり、そのバランスの難しさも含め、本当に守れるもの、守りたいものは目の前の人であり、しかしながら世の中で起こっている大きな破綻は胸の中でどす黒く沈殿している――そんなリアリティを持つこの曲は、まだまだこれからライブで育っていくのだろうという予感も持った。

odol  撮影=今井駿介

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弦の2人がはけ、これまではラストナンバーにセットされていた「夜を抜ければ」が静かに始まると、再びウォール・オブ・サウンドが醸成され、ラストは『視線』のラストナンバーでもある「虹の端」。ピアノ、3本のギター、ベースが会話をするように音の交信をし、垣守も含めた全員でサビを合唱する。その一節、「ねぇ  歌って  リズム乗って  風に乗せて  何度だって~音楽ってこんなかんじ?」――ああ、まさにそんな風に生まれてきた音楽を6人は、試行を加えながらも新鮮なまま届けようとしているのだと思った。多様だけど、この6人だからこそ共振するポイントで射止めていく。この日の最終曲は、改めて音楽に向かう今の6人の意思がそのまま演奏になっていた。

odol  撮影=今井駿介

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初めてアンコールに応えて登場したのは、結成メンバーであるミゾべと森山の2人だけ。ピアノと歌だけで、昨年の初ワンマンで配信コードが来場者のみに配布された「時間と距離と僕らの旅」を披露して、odol第二章と呼ぶべきツアーの幕は閉じた。


取材・文=石角友香   撮影=今井駿介

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セットリスト
odol TOUR 2017 “視線”  2017.11.26  東京・渋谷WWW​
1. あの頃
2. 退屈
3. 綺麗な人
4. 君は、笑う
5. 17
6. 愛している
7. 飾りすぎていた
8. 逃げてしまおう
9. years
10. 狭い部屋
11. ベッドと天井
12. その向こう側
13. またあした
14. 私
15. 生活
16. GREEN
17. 夜を抜ければ
18. 虹の端
[ENCORE]
19. 時間と距離と僕らの旅

 

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