本島美和&細田千晶、新国立劇場バレエ団の美女2人が語る『シンデレラ』とニューイヤー・バレエ『パ・ド・カトル』
-
ポスト -
シェア - 送る
撮影:瀬戸秀美
新国立劇場バレエ団では12月16~24日に「シンデレラ」を、ついで年明けの1月6・7日には「ニューイヤー・バレエ」を上演する。
そこで今回は「シンデレラ」では仙女役、そしてニューイヤー・バレエの「パ・ド・カトル」に出演する本島美和と細田千晶に、それぞれの作品の特徴や見どころを語ってもらった。
本島美和
細田千晶
■妖精たちを統べ、世界を俯瞰する。仙女ならではの特権も
撮影:瀬戸秀美
新国立劇場バレエ団のフレデリック・アシュトン振付による「シンデレラ」は、実に初演が1999年。以来ほぼ1年おきにクリスマスシーズンに上演される、同バレエ団の主要なレパートリーのひとつとなっている。団員にも愛されている、夢と笑いと幸せにあふれるバレエだ。
バレエ団の長い歴史の中で本島は星の精、秋の精、夏の精、シンデレラ、仙女を、細田は星の精、冬の精、春の精、仙女とこれまでの上演のなかで数々の役柄をこなしてきている。
今回2人が踊る仙女は1幕にシンデレラを舞踏会へと送り出す、重要な役割を担う。
本島が「1幕と3幕しか出ていないのに不思議な存在感がある」と言うとおり、仙女の魔法世界かもしれない2幕でも、ひょっとしたらどこかで見守っているのかもしれない。
踊る側としてはどういう存在だと考えているのだろう。
細田「四季の妖精や星の精たちの世界を統括しているのかな。ずっと湯川麻美子さんや川村真樹さん、本島さんの仙女を見てきたので、私に彼女らの貫禄を出せるのかなぁと心配でしたが(笑)」
しかし貫禄の絶対的存在を醸す本島仙女に対し、細田仙女も慈愛にあふれた独特の存在感がある。
仙女(本島美和) 撮影:瀬戸秀美
本島「私が最初に仙女を踊ったときは四季の精が西山裕子さん、西川貴子さんなど大先輩方ばかりで、“こんなすごい妖精達を束ねなきゃいけないのか”と(笑)。でも回数を重ねるうち、仙女の持つメッセージを考えるようになりました。“どうして12時に魔法が解けるようにしちゃったの?”と。仙女はシンデレラの亡き母の化身でもあるので“私にできるのはここまで。あとは自分の力でがんばりなさい。見守っていますよ”というメッセージがあるのかなと」
またアシュトン版「シンデレラ」屈指の感動的な場面の一つが3幕のクライマックス前、「スローワルツ」の曲とともに、暗闇に星明りがひとつひとつ灯っていくシーンだ。
細田「ここは観ていても踊っていても好き。幸せな気分になって、曲が流れるだけでウルウルします」
本島「この場面で最初仙女は立っているだけですが、実は客席がうっすら見えて客席の空気がひしひしと伝わってくるんですよね。星の明かりが灯るたびに客席もだんだん明るくなっていく。あれはなんとも言えない幸せな気持ちになります。仙女だけの特権かな(笑)」
なるほど、仙女は「世界」を統べ、俯瞰している。
■アシュトンならではのシャープな振付
それぞれに「シンデレラ」で様々な踊りをこなしてきた2人だが、アシュトン版「シンデレラ」は踊る上でも相当の苦労があるという。
本島「入団した年に秋の精と星の精の両方を踊り、ノイローゼになりそうなくらい大変でした(笑) とくに星の精は入る位置で踊りがそれぞれ違う。大変だけれど、それぞれの動きがかみ合った時、すごくカッコイイ。四季のヴァリエーションはもちろん古典バレエがベースにあるのですが、スタッカートの効いた独特の動きが求められる。アラベスクは一瞬で90度、シャープな動きで、とか。あんなに考え込まれたバレエはないですね」
冬の精(細田千晶) 撮影:瀬戸秀美
細田「ヴァリエーションは振りが音楽と一体化している。だから振りを正確に踊ればその役の表現につながる。春の精は“バッタのように踊るイメージ”と言われたのですが冬は“クールに”と。振りもパキパキというのか、バレエは普通柔らかく優雅に踊りますが、ヒジや指先もまっすぐピンと伸ばして、シャープな動きが多くあります。」
華麗に優雅に見える踊りには、実は古典バレエとは全く違ったテクニックが盛り込まれている。ぜひその動きも注意して観てみたい。
■その初演はセンセーショナル。静かに火花散る「4人の歴史的プリマ」
きびきびとしたアシュトン作品とは全く逆の、古典バレエならではの優雅な動きが求められるのが1月6日・7日に上演される「パ・ド・カトル」。バレエ団としては前回2014年に続いての上演となる(ただし、新国立劇場での上演は今回が初めてとなる)。
作品の初演は1845年。マリー・タリオーニ、カルロッタ・グリッジ、ルシール・グラーン、ファニー・チェリートの当代きっての4人のプリマが一堂に会して踊った。
タリオーニは初めてポワントを履き、シルフィードを踊った大御所。グリッジは「ジゼル」初演時(1841年)の主演であり、グラーンはデンマークで活躍しブルノンヴィル作品の数々の主演を踊った。チェリートはイタリア出身のダンサーで、華やかで快活な魅力で観客を魅了した。いずれも19世紀のバレエ史に名を刻む名バレリーナだ。バレエ団が上演するのは1941年にドーリンが復刻したもので、タリオーニを本島、グリジを木村優里、グラーンを寺田亜沙子、チェリートを細田が踊る予定だ。上演時はストーリーのないバレエではあったが、復刻され甦った現代では「4人の名バレリーナ」という登場人物が生まれる。
細田「4人のダンサーたちの違いと掛け合いが見どころでしょうか。コメディチックなところもあるんです。それぞれに上下関係があるけれど、誰もが“私が一番!”と思っている。華麗に優雅に踊るけれど、ひそかに火花が散っているんですよね」
本島「皆ライバルなんですよね。でも当時の大プリマ達はそのライバル感を楽しんでいたのかなとも思います。主演を踊るバレリーナって孤独じゃないですか。だからバチバチと火花を飛ばしながらも、“一緒に踊るのも悪くない”といったふうに」
聞けば2014年の公演の際に、英国のテレビで放映された古い映像を見たのだとか。
本島「大原先生が持っていた録画で、音もジージーいって、画像もザリザリと荒れたすさまじい映像で(笑) でもこの作品、一人が踊って引っ込むときに、次のダンサーに“次はあなたね、どうぞ”とやるんですが、その時客席から笑い声が起こるんですよ」
つまり当時の英国のお客様達は、タリオーニ、グラーン、グリッジ、チェリートがどんなキャラクターかが、ある程度分かっていたのかもしれない。
本島 「すごいなぁと思いました、その雰囲気が。日本でそういう笑いが起きるかどうかはわからないですが、4人のキャラクターの違いは出していければと思います」
古(いにしえ)の名プリマたちと、本島や細田をはじめとするダンサーたちの個性の融合で、新たな「華麗なる女の戦い」が見られるかもしれない。
いよいよ「シンデレラ」の本番が始まり、休むまもなく「ニューイヤー・バレエ」へ。
細田「「シンデレラ」はキラキラしていて、「くるみ割り人形」ともどもクリスマスらしい作品だと思います。ぜひ幸せな気持ちを持ち帰っていただきたいです。「ニューイヤー・バレエ」の「シンフォニー・インC」も楽しい作品です」
本島「同じ演目でもキャスト違いの面白さを楽しんでいただきたいと思います。踊る人が変わると全然違った世界が生まれたりします。ぜひ一度だけと言わずに、何度も劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。」
(文章中敬称略)
取材・文=西原朋未
■日程:12月16日(土)~24日(日)
■会場:新国立劇場オペラパレス
■出演:新国立劇場バレエ団
シンデレラ:米沢 唯
王子:井澤 駿
姉娘:菅野英男
妹娘:髙橋一輝
仙女:本島美和
春の精:柴山紗帆
夏の精:飯野萌子
秋の精:奥田花純
冬の精:細田千晶
シンデレラ:小野絢子
王子:福岡雄大
姉娘:古川和則
妹娘:小野寺 雄
仙女:細田千晶
春の精:五月女 遥
夏の精:渡辺与布
秋の精:池田理沙子
冬の精:寺田亜沙子
シンデレラ:柴山紗帆
王子:渡邊峻郁
姉娘:菅野英男
妹娘:髙橋一輝
仙女:木村優里
春の精:広瀬 碧
夏の精:飯野萌子
秋の精:奥田花純
冬の精:細田千晶
シンデレラ:小野絢子
王子:福岡雄大
姉娘:古川和則
妹娘:小野寺 雄
仙女:細田千晶
春の精:五月女 遥
夏の精:渡辺与布
秋の精:池田理沙子
冬の精:寺田亜沙子
シンデレラ:小野絢子
王子:福岡雄大
姉娘:古川和則
妹娘:小野寺 雄
仙女:細田千晶
春の精:五月女 遥
夏の精:渡辺与布
秋の精:池田理沙子
冬の精:寺田亜沙子
シンデレラ:米沢 唯
王子:井澤 駿
姉娘:菅野英男
妹娘:髙橋一輝
仙女:本島美和
春の精:広瀬 碧
夏の精:飯野萌子
秋の精:奥田花純
冬の精:細田千晶
シンデレラ:木村優里
王子:中家正博
姉娘:古川和則
妹娘:小野寺 雄
仙女:細田千晶
春の精:柴山紗帆
夏の精:渡辺与布
秋の精:奥田花純
冬の精:寺田亜沙子
シンデレラ:池田理沙子
王子:奥村康祐
姉娘:菅野英男
妹娘:髙橋一輝
仙女:木村優里
春の精:柴山紗帆
夏の精:飯野萌子
秋の精:奥田花純
冬の精:細田千晶
■会場:新国立劇場オペラパレス
■出演:新国立劇場バレエ団
『パ・ド・カトル』
本島美和 寺田亜沙子 木村優里 細田千晶
米沢 唯 奥村康祐
小野絢子 福岡雄大
第1楽章:米沢 唯、福岡雄大
第2楽章:小野絢子、菅野英男
第3楽章:池田理沙子、渡邊峻郁
第4楽章:木村優里、井澤 駿