アトム役・森山未來がPepperに「ロボットとしてどちらが勝つのか、競争したい」舞台『プルートゥ PLUTO』が開幕

2018年1月6日（土）、東京・Bunkamuraシアターコクーンにて舞台『プルートゥ PLUTO』が初日を迎えた。3年ぶりの再演となる本作のゲネプロが1月5日（金）に同劇場にて行われ、出演する森山未來、土屋太鳳、大東駿介、吉見一豊、吹越満、柄本明らが作品の一部を披露した。

この舞台の原作は「ビッグコミックオリジナル」（小学館）にて2003年から2009年まで連載された漫画「PLUTO」。手塚治虫の鉄腕アトム「地上最大のロボット」のリメイクを、共に手塚の熱烈なファンである漫画家・浦沢直樹とストーリー共同制作者・長崎尚志が切望し、手塚プロダクションの許諾と手塚眞監修のもと、誕生させた作品だ。2015年に初めて舞台化された時は、上演台本を谷賢一が手掛け、演出・振付をシディ・ラルビ・シェルカウイが務め、主人公の「アトム」役を森山が演じた。公演が始まるや否や作品に込められた強いメッセージと、独創的な表現方法と大きな話題を呼んだ。

再演では「アトム」役を再び森山が演じ、アトムの妹「ウラン」とゲジヒトの妻「ヘレナ」の二役に舞台初出演の土屋が挑む。また「ゲジヒト」役を大東、「お茶の水博士」役を吉見、物語のキーパーソンとなる天才科学者「アブラー」役を吹越、アトムの生みの親「天馬博士」役を柄本が演じる。吉見と柄本は前回も出演し、大東と吹越は再演からの参加となる。

ゲネプロでは、アトムとゲジヒトの出会い、破壊され懸命に修理されるアトムと、兄を心配するウラン、そしてアトムを作った天馬博士とウランを作ったお茶の水博士とのやり取りなどが披露された。

アトムやウラン、ゲジヒトという“ロボット”が、何かを考え、動き、話すたびに、アトムたちの脳内の動きを数名のダンサーたちが全身を使って表現する。まるでダンサー一人一人がアトムたちの細胞や神経の動きをダイレクトに見せているようだった。と同時に、ダンサーたちの表現の「出口」となる、森山、土屋、大東はいずれも自身が演じるキャラクターを見事に表現していた。人間の少年のようなアトムを演じる森山は、表情や立ち振る舞いに人間でない「何か」を感じさせる。土屋はさらに人間くさく、感情豊かにウランを演じ、子どものようなわがままや動きを見せ、アトムとは作り手が違うことを暗に示しているうようだった。

囲み会見にはメインキャスト6人とシェルカウイが登壇し現在の心境を語った。シェルカウイは「初演から3年経って作品も大きく成長しましたが、世界も大きく変化し、この作品から世の中に響くものがさらに変わりました。どの時間においても、我々はその“響き”を大事にしたいと思っています」と語り、キャストについては、「ニューフェイスの方とオールドフェイスの方とお仕事ができることを楽しみにしています」とコメント。シェルカウイが口にした “オールドフェイス”という言葉に、初演から出演する森山や吉見、柄本が思わず笑顔になっていた。

今回イギリス、オランダ、ベルギーでも上演される本作。シェルカウイと森山は初演の頃から海外ツアーを意識していたと語り「人間であるということは何なのか、という普遍的かつ世界共通のテーマは、言葉の垣根を超えて伝わっていくと思います。この作品は人を動かす力を持っていますから」と力を込めた。

森山は「原作を大事にしつつ、再演に向け、初演版を再構築しブラッシュアップしていく作業を皆で進めました。最初の本読みで初演の台本を読んだ時、3年前には感じなかったことがどんどん胸に突き刺さりました。この3年間で世界ではいろんなことが起き、より混沌としています。最初の本読みで受けた新たな感覚を大事にしながら演じていきたいです。3年前にこの舞台を観た方も今回初めて観る方も新たな衝撃を感じると思います」と語る。

土屋は、緊張と興奮に満ちた表情で「舞台はすごいです。宇宙の様でした。この宇宙にこれからたくさんのお客様がいらっしゃるので皆さんの心を感じながらウランとヘレナをしっかり演じたいと思います」と挨拶。「でも、こういう初日前の囲み取材はTVで観ていて憧れだったんですが、今は緊張で幽体離脱しそうです」と正直に語り、場をなごませていた。

大東は3年前の初演を観劇したと話し、その時の印象を「本当に圧倒されました。同時にこんな舞台をやれたら･･･とも思っていました。今、その舞台に出ることになり、この場にいることができて光栄に思います」とコメント。本作の稽古中には「朝、ダンサーさんたちと一緒に身体を動かすことから始まるんですが、彼らの動きを見ているといかに自分の身体が不自由で、どれだけ自分の身体を理解していないのか、気づかされました。『こんな所に関節があったんや！』とか。今年は『自分の身体と仲良くなる』を目標にします」と主張した。

吉見は「再演とは思えない大変さを感じながら稽古をしてきました。特に前列の方々の大変さは想像を絶するものだと思っています」と森山、土屋、大東をねぎらった。また自分自身については「役者として30年くらいやってきましたが、初めて海外で舞台をすることができます。ありがとうございます。本当に楽しみで仕方がないです」と嬉しそう。

吹越は「僕の役は人間だかロボットだか分からないアブラーという役です。20年くらい前にヘルメットを被ってロボットみたいなことをやっていた頃（※かつて“ロボコップ演芸”というネタを披露していた）とは違って、大きなテーマを抱えた本作でがんばろうと思います」とやや照れながら意気込んだ。続けて「稽古場では初演キャストやスタッフの足を引っ張らないよう、またラルビさんの脚本の解釈や細かい演出に助けられながら、稽古を終えることができました」とコメントした。

柄本は「ラルビさんも、ラルビさんの周りのスタッフも英語で話しているので、この際だから自分も英語を話せるようになりたいと思い、NHKの“おと基礎”（『おとなの基礎英語』）に挑戦してみたが…上手くいかなかったですね」と苦笑い。柄本からの予想外の発言にキャストたちが目を丸くしていた。続けて柄本は「世界もいろいろ混沌としてます。そういう意味ではタイムリーな作品だと思います。海外の方々もこの作品を観ていろいろ考える機会になればと思います」と真面目に締めていた。

会見後半には、初演時にも出演していたヒト型ロボットのPepperが登場。Pepperに対するコメントを求められた森山は「3年前から彼がすごく成長し、演技力もアップし、身体の動きやボキャブラリーも増えてて、『プルートゥ』に出るためにすごく勉強してきてくれたんだなあと思います」と笑顔を見せる。だが、「僕は結構高性能ロボットなので、どちらが勝つのか、これから競争していきたいです」と役の設定を踏まえてわざと対決姿勢を見せ、笑いを誘った森山だった。

※手塚治虫の「塚」は、つくりに１本線の入る旧字体が正式表記

（C）原作：『PLUTO』（浦沢直樹×手塚治虫 長崎尚志プロデュース 監修/手塚眞 協力/手塚プロダクション）
イラスト（C）浦沢直樹 スタジオ・ナッツ 長崎尚志 手塚プロダクション／小学館

取材・文・撮影＝こむらさき