日本劇作家協会東海支部、第3回【俳優A賞】の栄冠は、佃典彦の手に!

レポート
舞台
2018.1.17
 第3回【俳優A賞】を受賞した佃典彦

第3回【俳優A賞】を受賞した佃典彦

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岸田戯曲賞作家・佃典彦。俳優としても威信をかけた闘いに、見事勝利する

日本劇作家協会東海支部(以下、東海支部)の新年会イベントとして、一般客も招いて去る1月8日に名古屋・天白の「ナビロフト」で行われた、『お正月に演劇のことで飲んだり話したりして盛り上がる会』。その中で第3回【俳優A賞】の結果発表と講評が行われ、佃典彦(劇団B級遊撃隊主宰・劇作家・演出家・俳優)が受賞を手にした。

東海支部が独自に主催する【俳優A賞】は、「舞台俳優を応援する」目的で2015年に設立された賞で、受賞者1名には賞状とトロフィー、賞金5万円が授与される。毎年、9月1日~12月31日の間に東海三県(愛知、岐阜、三重)で行われる舞台(有料公演に限る)を対象として団体ごとにエントリーを募る形式で、3回目となる今年は、東海支部員のはせひろいち(初代支部長)と佃典彦(二代目支部長)、加藤智宏(演出家・perky pat presents主宰)、木村繁(演出家)、西本ゆか(朝日新聞社会部記者)、ノグチミカ(演劇ファン)、筆者(編集者・ライター)の7名が審査にあたり、オブザーバーを演劇評論家の安住恭子が務めた。

審査会は、今回エントリーした全13団体の公演が終了した昨年末に実施。まずは各審査員が全作品の中から良かったと思う俳優を3名ずつ挙げ、その結果から12名の候補者を選出。ノミネート俳優は以下の通りだ。


第3回【俳優A賞】ノミネート俳優  ※( )内は所属劇団、下段は出演作品

・伊藤文乃(いとうふみの/オレンヂスタ)
 廃墟文藝部『アナウメ』  作・演出:後藤章大
・おぐりまさこ(空宙空地)
 空宙空地『ふたり、目玉焼き、その他のささいな日常』  作・演出:関戸哲也
・空沢しんか(からさわしんか/劇団ジャブジャブサーキット)
 水没都市『灰の糸』 作・演出:伊藤翔大
・関戸哲也(せきどてつや/スクイジーズ、空宙空地)
 空宙空地『ふたり、目玉焼き、その他のささいな日常』  作・演出:関戸哲也
・立川日向子(たちかわひなこ/演劇ニッケル)
 演劇ニッケル『ライラックライク』  作・演出:西野勇仁
・佃典彦(つくだのりひこ/劇団B級遊撃隊)
 劇団B級遊撃隊『不都合な王子』  作・佃典彦 演出:神谷尚吾
・二宮信也(にのみやしんや/スクイジーズ)
 星の女子さん『ハワイアン』  作・演出:渡山博崇
・二瓶翔輔(にへいしょうすけ/フリー)
 劇団蒼天の猫標識『私のペットは食用牛』、水没都市『灰の糸』
・まどか園太夫(まどかえんだゆう/劇団B級遊撃隊)
 劇団B級遊撃隊『不都合な王子』  作・佃典彦 演出:神谷尚吾
・三井田明日香(みいだあすか/劇団B級遊撃隊)
 劇団B級遊撃隊『不都合な王子』  作・佃典彦 演出:神谷尚吾
・山口未知(やまぐちみち/劇団B級遊撃隊)
 劇団B級遊撃隊『不都合な王子』  作・佃典彦 演出:神谷尚吾
・吉見茉莉奈(よしみまりな/フリー)
 劇団蒼天の猫標識『私のペットは食用牛』  作・演出:いば正人

 
ノミネート俳優の皆さん。左から・伊藤文乃、おぐりまさこ、空沢しんか、関戸哲也、立川日向子、二宮信也、二瓶翔輔、まどか園太夫、三井田明日香、山口未知、吉見茉莉奈。今年は名前の挙がった全員が顔を揃えた

ノミネート俳優の皆さん。左から・伊藤文乃、おぐりまさこ、空沢しんか、関戸哲也、立川日向子、二宮信也、二瓶翔輔、まどか園太夫、三井田明日香、山口未知、吉見茉莉奈。今年は名前の挙がった全員が顔を揃えた

この一次審査の時点で審査員でもある佃典彦の名前が挙がったため、佃自身が推薦した3名の意見を聞いた後、佃は一時退席。そこから審査員とオブザーバーで長時間に渡って議論を重ね、審査員が受賞することについても討議されたが、今後も今回のような可能性があることや、佃と同じB級遊撃隊から他にも3名がノミネートされるなど作品自体も優れていた点、そして審査員であるなしに関わらず、やはり純粋に演技の優れていた俳優を選出すべきだという意見から、佃の受賞が決定。受賞者発表の際には、この経緯についてもオブザーバーから説明がなされた。

佃がその演技力を讃えられた劇団B級遊撃隊の『不都合な王子』は、オスカー・ワイルダーの「幸福の王子」と、森昌子の名曲「越冬つばめ」をモチーフとして佃自身がホンを書き、神谷尚吾が演出した作品だ(詳細はこちらの記事を参照 )。戦後間もない頃と現代が交錯するこの物語で佃は、終戦後にある男から受け継いだ〈鉛の心臓〉を引き継いでくれる人物と、サファイヤを手渡す〈本当に不幸な人〉を探しながら、紙芝居屋として流浪する男を演じた。
彼の主な受賞理由は以下の通りである。

・流浪の紙芝居屋という最低限の暮らしをしながら、幸福の王子の遣いとして〈本当に不幸な人〉に宝石を手渡すという役割を担っている。佃さんには、その聖性と俗性を併せ持った男のリアリティがあった。そして、その仕事を永遠に続けなければいけないその男こそが、〈本当に不幸な人〉なのだと、リアカーを引く背中に感じさせた。つまり彼は幸福の王子そのものだったわけで、それが高い台の上にしっかりと立つ、最初の登場シーンの姿から予感させた。

・近年の同劇団の芝居では見られない、いわゆる懐かしき「アングラテイスト」を、身を持って再現させた、力強くぶれない演技構成。今までも「何でもこなす器用さ」を持っていた同氏だが、終戦を挟んだ「彼」の意思変化の場面などに、重さと軽さを兼ね添えた、新しい表現の基軸を垣間見た。

・紙芝居に子ども達を呼び集める軽妙な語り口から一転、話を聞かない子どもに突然拳銃をぶっ放す狂気じみた人物への豹変ぶりや、燕尾服を身にまとって石ころを売りつける、いかにもインチキな人格表現が見事。その一方で、行動を共にする女1(まどか園太夫)とのやりとりでは、ぶっきらぼうながら温かい心の一面を絶妙な匙加減で垣間見せた。怖いのにどこか気になって近づきたくなる、一級の人さらいのごとき雰囲気を備えたおっちゃんの人物像を巧みに演じていた。

・死を目前にしながら、自分が引き継いだ〈鉛の心臓〉を別の誰かに託そうとする、一見よくわからない情熱に人生を捧げた男の不思議な魅力と切なさが見事に体現されていた。

・あくまで結果論的な余談だが、この【俳優A賞】が、決して若手発掘の賞でなく、その年の幅広い俳優の活躍や、演技を讃えていく、という基本方針が再確認された意義は深いと思う。
 

オブザーバーの安住恭子より賞状を受け取る佃典彦

オブザーバーの安住恭子より賞状を受け取る佃典彦

《受賞のことば》
「この『不都合な王子』をエントリーした時点から、今回の【俳優A賞】は絶対にとるぞ! と狙っていました。第1回でエントリーしたエス・エー企画の『ある男、ある夏』という作品で出演した時は、ノミネートすらされなかったので。今回、うちの劇団から僕を含め4人もノミネートしてもらえたのは、演出の神谷のおかげだと思っています。この作品は、日本演出者協会が主催する「若手演出家コンクール2017」の優秀賞にも選ばれて、3月に東京で行われる最終審査(3月6日~11日に下北沢で開催予定)での上演準備を今しているところです。【俳優A賞】が受賞できて本当に嬉しいです」


この【俳優A賞】、公演地は東海三県に限っているが、9月~12月の間に当地で上演を行う団体であれば全国各地から参加可能なので、この期間に東海エリアでのツアー公演を予定している団体もぜひ、ふるってご参加を! 応募は毎年6月~7月に東海支部公式サイトのエントリーフォームより受付を行うので、お見逃しなく。

また、今回のイベントでは平塚直隆(オイスターズ主宰・劇作家・演出家・俳優)から鹿目由紀(劇団あおきりみかん主宰・劇作家・演出家・俳優)への東海支部長引き継ぎも発表。鹿目が4代目支部長に就任した。

■問い合わせ:日本劇作家協会東海支部 http://jpatokai.php.xdomain.jp/inqui  
■公式サイト:日本劇作家協会東海支部 http://jpatokai.php.xdomain.jp

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