最愛のオペラとの再会! 園田隆一郎が大阪国際フェスティバルで指揮するロッシーニ『チェネレントラ』
園田 隆一郎
2018年5月12日(土)にフェスティバルホールで上演されるロッシーニの傑作オペラ『チェネレントラ』。イタリア風のシンデレラ(チェネレントラ)・ストーリーを、ロッシーニのエキスパートとして知られる園田隆一郎が指揮する。今年、園田は第16回齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞したが、その理由としてイタリア・オペラ、特にその中でもロッシーニ・オペラの指揮で注目されていることが挙げられていた。
藝大時代に出会った運命のオペラ
「『チェネレントラ』は僕にとっては初恋の相手のようなオペラなんです。初めて聴いて、初めて勉強したときからのめり込んだ大好きなオペラです。藝大の指揮科に入学した時には、普通に、ベートーヴェンやブラームスの交響曲を指揮できる指揮者になりたい、と思っていました。ところが大学で色々な作曲家の曲が演奏されるのを聴くうちに、なぜかロッシーニが気になるようになって。 ― ロッシーニの演奏ってもっと違うものなんじゃないか? ― なぜか自分はこの作曲家に対して、こう演奏したい!という気持ちがすごくある、と気がついたんです。ちょうどその頃、新入生歓迎のコンサートで『チェネレントラ』第一幕フィナーレの重唱を演奏する機会があり、そこで初めてこのオペラを知ってすっかりはまってしまいました。すぐに全曲の楽譜を買って、大学の図書館でクラウディオ・アバド指揮、ポネル演出の映像を、もう、それこそ100回くらいは観たと思います(笑)」
「そのうちに『チェネレントラ』が好きすぎて、ついに大学内で有志を集めて自主公演を企画するところまで行ってしまって。藝大奏楽堂でダブル・キャストで2回公演を指揮したんです。当時一緒に演奏した仲間たちは、今、音楽界で活躍している人も多くいます」
園田にとって今回の『チェネレントラ』(東京では同プロダクションを藤原歌劇団が上演する)は、その藝大での公演以来、このオペラを初めて指揮する機会だという。
「何で依頼がこないんだろう?ってずっと思っていました(笑)。なかなか上演されない演目ということもあるんですが。『チェネレントラ』は今でも一番好きなオペラです。そして自分の中で、自分に一番合っている、やりたい曲だ、という思いがあります」
園田 隆一郎
楽しくて、しかもロマンチックな『チェネレントラ』の音楽
ロッシーニといえば一番良く知られているのが『セビリャの理髪師』である。『チェネレントラ』は『セビリャの理髪師』の翌年に同じローマで初演された。その時ロッシーニはまだ24歳。だが、天才作曲家としてすでにオペラ界の頂点にあった。『チェネレントラ』は『セビリャの理髪師』のようなコミカルな部分に加えて、シリアスな内容が同じ位の重要度を持つ作品である。
「主人公のチェネレントラ(灰かぶり娘という意味)とラミーロ王子のすごくロマンチックな音楽は普通のオペラ・ブッファには無い種類のものなんです。軽快なアンサンブルの曲のなかにもチェネレントラが悲しんでいる音楽、喜びをしっとり歌い上げる音楽などが挿入されていて、ワンパターンにならない様々な面を持っている。ロッシーニのオペラの中で『セミラーミデ』や『ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)』なども素晴らしいですが、これらは後期の作品でドラマチックな、劇的な色合いが強いんですね。一方、彼の若い頃の作品の中では『チェネレントラ』が音楽的な充実から言っても随一の素晴らしさを持っていると思います」
園田 隆一郎
ロッシーニ歌手たちが集結する貴重な公演
『チェネレントラ』のタイトルロール、主人公のアンジェリーナを歌うのは脇園彩。今、世界が注目する日本のメッゾソプラノだ。ロッシーニ演奏の最高峰であるペーザロ(イタリア)のロッシーニ・オペラ・フェスティバルやミラノ・スカラ座でロッシーニを歌っている歌手である。
「彼女はロッシーニ・オペラ・フェスティバルのアカデミーで学び、そこの劇場で上演された『ランスヘの旅』でメリベーア侯爵夫人という役を初めて歌った日本人なんです。堂々とした声、そして舞台での存在感。メッゾソプラノやアルトがヒロイン役を務めることが多いロッシーニのオペラを歌うのに必要な声を持っている方。音域も広く、中低音から高音までムラなく声を出せることも特徴です」
「それから彼女は人間的な魅力も大きく、明るさ、強さを出せる表現力があります。そして最後には、コロラトゥーラ(歌の装飾的な技巧)のテクニックが本当に素晴らしい。ロッシーニのコロラトゥーラは一色ではないんです。登場人物達はコロラトゥーラで喜びや、哀しみ、怒りなどを表現する。細かい音の連なりを早く歌うという、ある程度、決められた型の中で強烈な感情を表現するところに美しさがあります。その意味では歌舞伎やクラシック・バレエの表現にも共通する部分があると思うのですが、その表現がアーティストの腕の見せ所になるわけなんです」
今回の『チェネレントラ』上演は、脇園以外にもラミーロ王子役を歌う小堀勇介(テノール)、いじわるな継父ドン・マニフィコ役の谷友博(バリトン)、義姉役の光岡暁恵(ソプラノ)、そしてラミーロ王子の家庭教師アリドーロ役の伊藤貴之(バス)など、ロッシーニの歌唱に定評のある歌手が揃っている。
「小堀さんは、脇園さんと同じくロッシーニ・オペラ・フェスティバルの『ランスヘの旅』に出演し、リーベンスコフ伯爵というテノールの難しい役を歌っています。彼とはびわ湖ホールで上演された『連隊の娘』他、共演の機会も多いのですが、今後、ベルカント・オペラの軽めの声が必要な作品では欠かせない存在となっていくでしょう。ドン・マニフィコ役の谷さんはイタリア・オペラのスペシャリストで早口言葉も素晴らしいです。家庭教師アリドーロはバスなのに高音とコロラトゥーラが必要な技巧的なアリアがある難役ですが、今の伊藤さんの声にはぴったりだと思います。そして、義姉役の光岡さんは藤原歌劇団のプリマドンナで、普段はドニゼッティの『ランメルモールのルチア』のような悲劇のヒロインを歌われる素晴らしい歌手ですが、今回はコメディエンヌとしての才能を発揮してもらえると思いますし、アンサンブルをリードするソプラノ・パートを担います。他のキャストの皆さんとは初共演になりますがとても楽しみです」
フェスティバルホールのピットに入るのは日本センチュリー交響楽団だ。
「日本センチュリーさんとは僕がデビューした頃からのお付き合いです。オペラやコンサートで何度もご一緒しています。このオーケストラの特徴は、透明感のある明るい音色で、繊細な表現が可能なこと。それに現場の雰囲気がとても楽しいんですね。イタリア・オペラを一緒に演奏する環境としてはまさに理想的なんです。ロッシーニの軽快な、透明感のある音楽を奏でるのにピッタリなオーケストラだと思っています。彼らと演奏出来て嬉しいです」
園田隆一郎&センチュリー響首席チェロ奏者・北口大輔 対談動画
師であるマエストロ・ゼッダから受け取ったもの
ロッシーニの神様と言われた指揮者アルベルト・ゼッダが2015年の春に大阪国際フェスティバルで『ランスヘの旅』を指揮した時に、彼の愛弟子でもあった園田はアシスタントを務めた。今回、同じ音楽祭で『チェネレントラ』を指揮するにあたっての抱負を聞いた。
「『ランスヘの旅』のアシスタントを務めさせて頂いて、彼の音楽へのこだわり、主張、そして魔法のような指揮棒と表情を一番近くから見せてもらいました。その同じ場所で、今度は自分が『チェネレントラ』を指揮する、ということに強い縁を感じています。マエストロ・ゼッダと同じようには出来ないし、全然敵わないけれど、あの時に受け取ったものを発揮して、皆さんにお届け出来たらいいな、と思っています」
園田隆一郎は、すでにボローニャ歌劇場、トリエステ歌劇場などを指揮し、国際的な活動を展開する気鋭の指揮者。オペラ、シンフォニーの両分野での活躍が期待されている指揮者の一人である。
2006年、シエナのキジアーナ夏季音楽週間『トスカ』を指揮してデビュー。翌年、藤原歌劇団『ラ・ボエーム』を指揮して日本デビューを果たす。同年夏にはペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル『ランスへの旅』の他、フィレンツェのトスカーナ管弦楽団との演奏会、カターニアのベッリーニ大劇場管弦楽団の演奏会を指揮した。その後国内外のオペラへの出演、オーケストラとの出演を重ねている。
近年では、日本フィルハーモニー交響楽団定期演奏会、読売日本交響楽団演奏会、アルベルト・ゼッダ氏の代役で急遽出演した東京フィルハーモニー交響楽団定期演奏会のほか、15年11月にフランダース・オペラでのロッシーニ『アルミーダ』、12月にはトリエステ歌劇場でのドニゼッティ『愛の妙薬』およびクリスマス・コンサートに出演し好評を博した。16年は日生劇場『セビリアの理髪師』、藤原歌劇団『蝶々夫人』『愛の妙薬』などの各公演への出演および国内外のオーケストラとの共演が決定しており、交響曲とオペラの両分野で今後の活躍が期待されている指揮者の一人である。
東京藝術大学音楽学部指揮科、同大学大学院を修了。故遠藤雅古、故佐藤功太郎、ジェイムズ・ロックハートの各氏に師事。その後イタリア、シエナのキジアーナ音楽院にてジャンルイジ・ジェルメッティ氏に師事。2002年より文化庁在外派遣研修員、野村国際文化財団、五島記念文化財団の奨学生としてローマに留学。この間、ローマ歌劇場やマドリード王立歌劇場など、多くのプロダクションでジェルメッティ
氏のアシスタントとして研鑽を積んだ。また ロッシーニの権威アルベルト・ゼッダ氏との交友も深く、ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルで師事したのをきっかけにその後ヨーロッパ各地で数々の作品を学ぶ。04年にシエナ・ロータリークラブ「カルロ・コルシーニ音楽賞」を受賞。05年第16回五島記念文化賞 オペラ新人賞を受賞。15年4月より藤沢市民オペラ芸術監督。
園田 隆一郎 (C)Fabio Parenzan
取材・文=井内美香
公演情報
大阪国際フェスティバル×藤原歌劇団×日本センチェリー交響楽団
ロッシーニ作曲 オペラ『チェネレントラ』
全2幕/原語(イタリア語)上演・日本語字幕付き
※2008年 伊ベルガモ・ドニゼッティ歌劇場"La Piccola Cenerentola"のプロダクション(フル・バージョン改訂)
■日時:2018年5月12日(土) 14:00開演(13:00開場)※上演時間約3時間
■会場:フェスティバルホール(大阪府)
■台本:ヤーコポ・フェッレッティ
■音楽:ジョアキーノ・ロッシーニ
■指揮:園田隆一郎
■演出:フランチェスコ・ベッロット
■演出補:ピエーラ・ラヴァージオ
■舞台美術:アンジェロ・サーラ
■舞台美術補・衣裳:アルフレード・コルノ
■照明:クラウディオ・シュミット
■管弦楽:日本センチュリー交響楽団
■合唱:藤原歌劇団合唱部
■キャスト:
〈チェネレントラ・灰かぶり娘〉アンジェリーナ:脇園 彩
〈王子〉ラミーロ:小堀 勇介
〈従者〉ダンディーニ:押川 浩士
〈男爵〉ドン・マニフィコ:谷 友博
〈姉〉クロリンダ:光岡 暁恵
〈姉〉ティズベ:米谷 朋子
〈家庭教師〉アリドーロ:伊藤 貴之
■料金:
S席12,000円、A席8,000円、B席6,000円、BOX席16,000円、
バルコニーBOX席(2席セット)24,000円 学生席1,000円
母の日(S席ペア券)24,000円/ビュッフェ・コーナーで利用できるご飲食券1,000円×2枚付き(公演当日のみ有効)。
※未就学児童入場不可
※全席指定・税込
※バルコニーBOX席はフェスティバルホール センター(電話予約)のみの販売
※母の日はフェスティバルホール センターの電話予約&窓口販売のみ
※学生席はフェスティバルホール センターのみの販売(限定100席/25歳以下/学生本人の名前で予約のこと。当日座席指定券と引き換え/要学生証提示)
※やむを得ない事情により曲目、出演者等が一部変更になる場合がございます。
※公演中止の場合を除き、の変更・払い戻しはできません。予めご了承ください。
■主催:朝日新聞文化財団、朝日新聞社、大阪国際フェスティバル協会、日本オペラ振興会、
■日本センチュリー交響楽団、フェスティバルホール
■後援:イタリア文化会館-大阪、日本ロッシーニ協会
■協力:大阪芸術大学
■問い合わせ先:フェスティバルホール 06-6231-2236
■公式サイト:http://www.festivalhall.jp
【あらすじ】
ドン・マニフィコ男爵の城。クロリンダとティズベの姉妹は、継子のチェネレントラ(灰かぶり娘)ことアンジェリーナをこき使う毎日。城に物乞いの老人(ラミーロ王子の家庭教師アリドーロ。王子の花嫁候補を探すために変装している)が現れると、チェネレントラは食べ物を差し出すが、姉妹は冷たい。ラミーロ王子が従者に変装して登場、チェネレントラと出会い、二人は恋に落ちる。王子に変装した従者ダンディーニが現れ、王子の花嫁選びのため宮殿の舞踏会へ男爵家を招待する。アリドーロは留守番のチェネレントラを宮殿へ送り出す。宮殿に突如現れた美女。だが皆はチェネレントラだと気づかない。チェネレントラは偽王子ダンディ―ニに「従者(実は王子)を愛しています」と告げ、片方の腕輪を渡して立ち去る。物陰でそれを聞いた王子は喜び、チェネレントラを探す。そしてついに二人は……。