PAELLAS 夢と現実の境で見た“PAELLASの空間” ツアーファイナルであり記念すべき初のワンマンをレポート

2018.3.30
レポート
音楽

PAELLAS  撮影=Kodai Kobayashi

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PAELLAS『Yours Tour 2018』
2018.3.24 渋谷WWW X

レッド・ライト、オレンジ・ライト、グリーン・ライト……。目をつぶれば音と共にあのいくつかのライトの色がフラッシュバックする。とりわけグリーン・ライトとPAELLASの音楽の相性はこの上なく良いもので、“合っていた”というよりは“ひとつになっていた”。また、そのライトの色と当たり方によって、吊るされたフラワーボール(花のオブジェ)も見え方が変化する。何か特別な趣向を凝らすわけでもなく、MCが多いわけでもなく、ただただ曲を続けて聴かせるだけの潔いライブのあり方なのだが、だからこそライトの色と何かを象徴するようなフラワーボールの鮮やかさが音とひとつになって脳裏に焼き付いた。照明スタッフや美術のスタッフと連携がとれているのだろう。そこは“PAELLASの空間”としか言いようのないものだった。

音と声を聴きながら、自分は深海にいる感覚に陥った。海の底をユラユラと漂っている、そんな感覚。深海を宇宙と置き換えてもいい。“漂う”とか。“揺らめく”とか。PAELLASの音をナマで聴いているその状態に合うのはそんな言葉だ。つまり白昼夢のようなもの。夢と現実の境にいる感覚。それはヨダレがたれそうになるほどに気持ちがよく、浸りきると戻ってこれなくなるんじゃないかと思える危なさすらある。端的に言うなら麻薬的な成分が音楽に含まれているということだ。

PAELLAS  撮影=Kodai Kobayashi

3月7日にミニアルバム『Yours』をリリースし、それを携えたツアーで主要都市をまわったPAELLAS。札幌から仙台までの5ヶ所はツーマンだったが、最終公演となる渋谷WWW Xはワンマン。そう、キャリア初の記念すべきワンマンだ。ということはどういうことかというと、この会場に集まっているのはみなPAELLASの音楽が好きで、それだけを浴びたくて来ている人たちだということ。だから彼らも少しの遠慮も躊躇もなくそこを“PAELLASの空間”にすることができるわけで、つまりはロングセットでのライブができるわけだ。ロングセットのライブができるということは、曲の連なりでひとつの大きなストーリーを作ることもできるということで、この日の彼らはまさにそれをした。そういう2時間弱を体験し、PAELLASとはワンマンでこそ本領を発揮する、またはワンマンでこそ本来のありようがわかるバンドだなと自分は強く思ったのだった。

PAELLAS  撮影=Kodai Kobayashi

開演時間が過ぎて照明が落ちると、闇のなかにSatoshi Anan(Gt)、bisshi(Ba)、Ryosuke Takahashi (Dr)の3人が現れ、少しの時間差で最後にMATTON(Vo)がスッと登場。オープナーはなんと「Echo」だった。そう、新作『Yours』のリード曲で、この曲をラジオで聴くなりMVを見るなりしてPAELLASを好きになったという人は少なくなかったはずだ。言うなれば現在のバンドのありようを最もわかりやすく表している1曲。「これを聴きたくて来たんだ」という人だっていただろうに、彼らはそれを終盤にもってくるわけじゃなく、オープナーにもってくる。まるで、いい曲はほかにもいくらだってあるのだからとでも言うように。その自信というか、ある種のふてぶてしさが、いい。それに「Echo」のあのド頭のドゥン・ドゥン・ドゥンというキック音から“もっていかれる”感覚が確かにあった(実際、あの音が鳴った瞬間、前のほうで歓声があがった)。続く2曲目も同じく『Yours』の2曲目「Miami Vice」。『Yours』を繰り返し聴いている者としては、この繋がりは最早刷り込まれてもいるわけで、だからイントロのAnanのギターカッティングから曲の世界観に没入することになる。この新作『Yours』の頭2曲による引き込み力は相当のものだ。そして3曲目は昨年のミニアルバム『D.R.E.A.M.』に収録された「Fade」だったが、やはりスペーシーなイントロからつかまれる。PAELLASの曲はイントロの鮮やかなものが多い。換言するなら、イントロから瞬時につかまれるようにできている。ライブだとそれがよくわかる。

PAELLAS  撮影=Kodai Kobayashi

「初めてのワンマンです。めっちゃ気持ち入ってんねんけど、それでもみんなの力が必要なので……。ステキな夜にしましょう」
MATTONのその挨拶を挿んで「Fever」「Pears」「MOTN」と進み、インタールードのあとさらに「Lying」「Take Baby Steps」「daydream boat」へと続いていく。徹頭徹尾、夜のムード。これほどまでに夜のムードで場を覆うバンドはそうそうない。但し、夜を軽やかにステップする感覚のものもあるし、夜にカラダが沈み込む感覚のものもある。夜中の深みを感じさせる曲もあるし、空が藍色に染まっていく時間帯をイメージさせる曲もある。そうした景色や時間帯の変化する感覚は主にプリセットされたシンセ(同期の操作はRyosukeが担当)のトーンとリズムの変化によって得られるもの。特にリズム隊の音の作り方で変化するところが大きく、Ryosukeの狂いのないビートに合わせつつ、bisshiのベースは軽やかに行きもすれば重厚に行きもする。曲によってロックバンド的なリズム隊にもなるし、モダンR&Bを演奏するバンドのリズム隊にもなるといった感じか。さらにはダブ的な響きを持たせることもあり、その際のビリビリとカラダの奥に伝わる振動がまたたまらない。

Ananは単音のギターでメロディラインを奏でもすれば、連続するカッティングで昂揚感を現出させることもあり、ある種の抒情性を立ち表せもすれば、理屈なしの気持ちよさを聴く者に与えもする。そしてその上でカラダをくねらせ、泳ぐように腕を動かして歌うMATTONは、エモーショナルに行き過ぎないところでの抑揚のつけ方に“バンドのボーカリスト”としての意識、もっと言うなら矜持のようなものが現れる。我を出さず、あくまでも楽曲の構成要素のひとつとして自身の声という楽器があるのだという、そんな意識だ。そのコントロール力はかなりのもので、ウィスパーもファルセットも加減を巧みに操っているわけだが、それでもそのバランスからはみ出してエモーションが零れ落ちる瞬間がほんの時折あり、聴いている側としてはそこにグッときたりもする。基本は甘噛み系のボーカルなのだが、ときどき強く噛まれてドキッとするといった感触か。

PAELLAS  撮影=Kodai Kobayashi

4人のアンサンブルには目を見張るものがあった。昨年、『D.R.E.A.M.』の発表タイミングで行われたWWW公演を観たときはまだバンドは5人編成だったわけだが、これ以上誰かひとりでも欠けたら成り立たないという意味でアンサンブルの強度は今回さらに増していた。各自が必要最小限の鳴らすべき音だけを鳴らしているのだが、その絶妙な(計算されつくした)重なり具合で音空間が膨らみを見せる。「daydream boat」などは最たる例で、ミニマルな音構成であるからこそメロディの動きとMATTONの声に含まれる“哀しみの美しさ”といったものが際立っていた。

9曲歌い終わったところで、MATTONがこう話し始める。
「僕ら、全員じゃないですけど、大阪から東京にやってきまして。2~3年前はこんな景色は想像してませんでした。ありがとう。頑張るから。これからもそばにおってください。東京って街に住んで、僕らもみんなと同じように日々を過ごし、人と出会ったり、別れたり、メンバーが減ったりとかもして……。次の歌はそういう歌です。聴いてください」
そうして歌われたのが「Darlin’ Song」。もとは2016年の『Pressure』に英語詞曲として収められていたが、新作『Yours』で日本語詞に変えてアレンジも新たに再録音(「Darlin’ Song(Reprise)」)。今回も日本語詞で歌われたことで雨とアスファルトのあの匂いが伝わり、MATTONのMCのあとだっただけに尚更<声にしなくていい 何度も手も振らなくていい>という歌詞の一節が切なさを伴って胸に沁みた。

PAELLAS  撮影=Kodai Kobayashi

そこから「Together」「Pray For Nothing」「Fire」と曲を続け、「あと2曲です。ビックリした。早いな、本当に」という名残惜しさを滲ませたMATTONの言葉を挿んで「Body」、そして「Over The Night」まで。『Pressure』収録の「Fire」はこれもまた英語詞から日本語詞となり、MATTONのセンシュアルなファルセットは揺らめく炎のような静かなる熱さをたたえていた。それに「Body」。輪郭を描くようなAnanのギターに導かれて進むスローなこの曲は、しかし途中からビートが加わると膨らみを持ち始め、同時にMATTONのボーカルも淡々としたトーンから変化を見せてハッキリと前に出てくる強いものに。曲の終盤に至ってはギター音もベース音も荒々しさをもって激しく放出され、シューゲイザーと呼ばれる音楽にも似たウォール・オブ・サウンド感がそこに現出。音源とはまったく異なるこの曲「Body」のライブ・アプローチに自分はかなり驚かされたし、興奮もさせられた。
もうずいぶん前だがPAELLASはUKロックからの影響を形にしていた時期もあり、そうしたものを過去に置き去りにするのではなく、インディーR&Bが血となった今また新たな方法で奪胎するあたりが頼もしい。思えばPAELLASはザックリとUKロック~サイケデリック的な音の時期からハウス傾倒期を経てインディーR&B方向の音へと変化しつつ進んできたわけで、こちらとしても時期によって音の傾向を変えるバンドという認識がこれまではあったが、今回のライブを観てその時期その時期に吸収したものは全てバンドの引き出しに残され、表現したいストーリーに沿ってそれらを現行のサウンドにミックスさせることができるのだとわかった。基盤が整い、表現の核となるものがしかとあるゆえ、サイケデリックもハウスもダブもモダンR&Bもどれもストーリーを描くための絵の具として用いることができるわけだ。

PAELLAS  撮影=Kodai Kobayashi

タイトルの通り夜を越えていこうとする「Over The Night」で明日へと繋がる希望に似た思いを聴く者たちとも共有し(そう、確かにそれを共有できたという実感があった)、夜明けの風景を見たような感覚で本編が終了したあと、鳴りやまない拍手に応えてアンコールへ。飛翔のきっかけとなった「Shooting Star」と、『Pressure』からの1曲「Anna」。さらに再びのアンコールでは同じく『Pressure』から「The stranger」。本編途中まで微熱がずっと続いている感覚があり、それがこのバンドのライブの魅力のようにも感じていたのだが、終盤からアンコールに至って MATTONのボーカルは確かに温度があがり、個の意識や思いであってもそこにいる人々と共有することができる――そういう喜びが内に広がって歌にも表れているように感じたのは自分だけじゃないだろう。わかりやすい盛り上がりや一体感とはまったくもって別種だか、しかし優雅さや洗練さだけでは決してない高い熱量があり、終わってからもしばらく体内に熱が残り続けるライブだった。こういう種類の快楽が得られるライブをしているバンドがこうして存在することにもっと多くの人が気づいたら、シーンの面白みもまた変わっていくことだろう。


取材・文=内本順一 撮影=Kodai Kobayashi

セットリスト

PAELLAS『Yours Tour 2018』
2018.3.24 渋谷WWW X

1. Echo
2. Miami Vice
3. Fade
4. Fever
5. Pears
6. MOTN
7. Lying
8. Take Baby Steps
9. daydream boat
10. Darlin Song(Reprise)
11. Together
12. Pray For Nothing
13. Fire
14. Body
15. Over The Night
[ENCORE]
16. Shooting Star
17. Anna
18. The stranger
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