世界的パーカッショニスト 池上英樹が語る<MOSAIC-モザイク>―打楽器・踊り・歌を融合させた一人舞台で魅せる世界観

2018.5.14
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クラシック

池上英機

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世界的権威を誇るミュンヘン国際音楽コンクール打楽器部門(第46回)での最高位入賞以来、数々の賞に輝き、高い技巧と深い音楽性で国際的な評価の高いパーカッショニスト、池上英樹(いけがみ ひでき)。ソロや室内楽といった幅広い音楽活動を展開する傍ら、打楽器の新しい可能性を切り拓いてきた。中でも、2014年から続く自作自演の一人舞台<MOSAIC-モザイク>は、彼が最も力を注いできたもののひとつ。打楽器と踊り、歌を融合させた独創的なパフォーマンスだ。その最新作が、来る6月25日、座・高円寺2にて披露される。旋律を紡ぐような色彩感あふれる打楽器の演奏と、身体表現、そして声音が織りなす世界観が魅力的で、池上自らは「モノ・オペラを見るように楽しんでほしい」と語る。池上は、今回、何を見せてくれるのだろうか?<MOSAIC-モザイク>を始めるまでの軌跡と、寄せる想いを訊いた。

超絶技巧の先に――<MOSAIC-モザイク>への想い 

――打楽器と踊り、そして歌を融合させた<MOSAIC-モザイク>を最初に発表したのが2014年ですね。始められたきっかけは、一体、何だったのでしょうか。

それまで、長らく現代音楽を初演してきましたが、15年位前に、僕のために動きがある作品を作って頂いたことがあり、初演を務めました。作曲家が読み違えたのか……、とにかく僕の体つきを見て、「踊れる人だ」と思ってくれたようです。楽譜には、動作の指示もあったのですが、「歩く」という動き一つとっても難しいと感じました。その時の作曲家から頂いたのが、アントニオ・ガデスの《カルメン》という映画のビデオ。それに強い衝撃を受け、フラメンコを習い始めたんです。一時は「打楽器を止めて、ダンサーになろうかな」と思ったくらいにのめり込みました

―ーフラメンコとは意外でした!<MOSAIC-モザイク>の発想はそこからですか。

打楽器奏者は、新作を演奏する場合、作曲家から指示があれば何でもやります。「声を出す」、「手を挙げる」、「歩きまわる」とかね。でも、ダンサーではないので、どうしても超えられない壁がある。両方やりたかったので、改めて体作りからスタートして、2014年に<MOSAIC-モザイク>の最初の公演を行いました​。

――<MOSAIC-モザイク>というタイトルに込められた意味は、どういったものなのでしょうか。

昔から、イスラムのタイルによる壁面装飾が好きで、そこから着想を得ました。『パリ・ジュテーム』という映画からもインスピレーションをもらいました。パリにある20区の中から、18区を舞台に、一つひとつ違う監督が撮った短編のオムニバス映画です。

クラシック音楽のコンサートでは、例えば、フランスやドイツといった国別や、バッハから現代といった具合にテーマが設定できます。しかし、オリジナルが現代音楽のみの打楽器では難しい。「打楽器でどうお客様を楽しませられるか、何ができるのか」を考える中で、結局は自分の本当に好きなものを並べるが一番だと感じています​。

――今回は全曲オリジナル作品ですね。選曲に当たって大切にされたことをお聞かせください。

当初は他の作曲家の手による作品とオリジナル曲とを織り交ぜていたのですが、次第にオリジナル曲の占める割合が大きくなっていきました。全曲オリジナル作品を並べた<MOSAIC-モザイク>は、今回が二回目です。

この一年で作ってきた作品と過去に演奏して評判の良かったものを中心に、「調和」を意識して全12曲を選びました。一つひとつの作品を個別に見れば「欠片」に見えるかもしれないけれど、引いて全体を眺めると調和している。この点が、壁面装飾の「モザイク」に通じる部分です。

――プログラムを拝見して、本当に様々な楽器が使われることに驚かされました。コップや空気入れまで登場しますね。一体、どんな舞台になるのでしょうか。

どんなものであっても叩けば、打楽器になります。ただ、その組み合わせは、じっくりと吟味してきました。舞台上にオブジェのように沢山の楽器を並べます。70分間、休憩なしで全12曲を聴いていただく。そうすることで、世界観を感じていただけるのではないかと期待しています​。

――見どころ、聴きどころを教えていただけますか。

小太鼓が出てくると多くの方はマーチを連想しますが、ここでは、そういった、楽器のステレオタイプな取り扱いはしません。例えば、≪ラムル≫という作品ではスネア・ドラムを演奏しますが、銃が降り注ぐようなイメージから始まり、最後は、「バンッ」と撃たれて終わるといった使い方をしています。「ラムル」はアラビア語だと「砂」を意味し、フランス語では「愛」を意味しますが、打楽器の音自体がリズムだけではなく、何らかのイメージを喚起するような作品にしたいと思っています。打楽器の演奏と共に、踊りのシーンもあります。例えば、最後を締めくくる≪大地を叩け≫という作品。これは床を「打楽器」として用い、音と動きで聴かせる作品です

打楽器では扱われてこなかったテーマに、打楽器の音でどこまで迫れるのかを追求してきました。現代音楽では、いわゆる超絶技巧を披露してきましたが、その先、何を深めていけるのかをずっと追い求めていった結果が、<MOSAIC-モザイク>ですね。

【動画】モザイク映像


 

「歌」のような表現を求めて

――楽器の演奏と踊ること。それぞれに共通するものがあるのでしょうか?

究極的には、同じところを目指しているのだと思っています。クラシック音楽には理想とする音があり、クラシックバレエにも理想的な体のポジションがある。散々トレーニングを積むわけですが、結果としてどこに到達したいかといえば、僕は、「どこにでもいる人みたい」なところに行きたいのかなと思っています。ロマの人が遊びで弾いているみたいな、素朴で自然な演奏が目指すところだということです。晩年のピカソも子供が書いたような絵を描きました。精緻で複雑な洗練されたものを超えたと先には、根源的な何かがあると感じます。打楽器は元々根源的と言われていますが、歌や表現のトレーニングをさんざんやって、またここに立ち返ってきました

――民族音楽の中で、打楽器と踊りは共に、生命の躍動を表現するためにも用いられますね。

旋律楽器が入ると、打楽器はリズム伴奏へと回るのが常です。しかし、僕はソリストとしての演奏を実践してきました。「旋律を奏でている」というイメージをもって、微細なニュアンスや間、色彩のある表現を目指してきたわけです。だから、打楽器で「歌」みたいなことを表現していきたいと思っています。

――それは、オペラ歌手に師事された経験から培われてきたことなのでしょうか。ベルカント唱法を基盤にしたテクニックを打楽器に応用しているとも伺っています。

パリに留学していた頃、歌の先生のところに、楽器を持ち込んで指導していただきました。楽器の演奏を聴いてもらい、「この旋律を歌う場合、そのブレスで行ける?」とか、「ここの音程がとりにくい」といった声楽家ならではのアドバイスをいただきました。楽器こそ違えど、音楽的なことの全ては一緒じゃないですか。そういうことを意識することで、打楽器の概念も演奏も変わっていくということです

――<MOSAIC-モザイク>の今後も楽しみですね。今、考えている展望を教えていただけますか。

今は一人ですが、共演者が出てきてくれると嬉しいですね。<MOSAIC-モザイク>というタイトルの中にも、作曲家を含めて色々な人が入ってきてくれると、もっと大きく、楽しくなるなぁという期待を込めています。今回は、その手始めといった意味合いもあります。

――最後に、読者のみなさんに公演に向けてのメッセージをいただけますか。

元々、打楽器が好きな方でも、「こんな世界があるのか」と思っていただけると思っています。パリにいたころからずっと変わらない想いがあります。それは、オペラみたいなことをやってみたいということです。プッチーニのオペラ≪ラ・ボエーム≫の2幕で、鼓笛隊が登場するシーンがありますが、ああいうことがしたい!打楽器でも出来るんじゃないかと信じています。ただ難しく演奏を聴かせるのではなく、照明やエフェクトも駆使し、モノ・オペラのような舞台をお届けしますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。

取材・文=大野 はな恵  写真=荒川 潤

公演情報

池上英樹 MOSAIC-モザイク ソロパーカッション パフォーマンス
 
■会場:座・高円寺2 (東京都)
■日時:2018年6月25日(月)19時開演
 
■出演:池上英樹 (作・打楽器・マリンバ・パフォーマンス) 
■曲目・演目:
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オープニング
ラムル
間 Interlude1
loin de…
間 Interlude2
Mosaic
間 Interlude3
間 Interlude4
無題曲
Can you beat it?!
大地を叩け
■公式サイト:http://www.ikegamihideki.com/
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