新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』、注目の木村&渡邊ペアがいよいよ古典の真髄を踊る

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2018.4.28
木村優里、渡辺峻郁 「こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』」より  ©瀬戸秀美

木村優里、渡辺峻郁 「こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』」より ©瀬戸秀美

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4月30日から新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』が開幕する。「バレエ」と聞いて誰もがまず思い浮かべるこの古典の名作だ。同バレエ団では1998年に初演、以来主要レパートリーとして繰り返し上演されている。主演をはじめ登場人物の隅々に至るまで、ダンサー達がそれぞれに自らの役を深く掘り下げ演じ上げるこのプロダクションは、カンパニーが誇るコールドバレエの美しさ共々、濃厚な物語世界をみせてくれる。

今回は主演を務める木村優里と渡邊峻郁のリハーサル現場を見学、話を聞いた。2016年に「こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』」で初めてペアを組み、2017年「ジゼル」で共演し絶賛を浴び、続く「くるみ割り人形」でも好演した注目のペアだ。

2幕の「出会い」を入念に。大原&菅野のダブル体制で細部まで指導

この日のリハーサルは2幕、湖でのオデットと王子の出会いから互いに愛を確認し、別れて行く一連の流れが行われた。木村、渡邊ともにすらりとした長身で手足が長く、リハーサル室でも実に絵になる。それを眺めているだけでもため息が出そうなのだが、リハーサルはリハーサル。試行錯誤しつつ、という雰囲気でピアノにのせて互いの動きを確認していく。

2人を見守る大原芸術監督と菅野英男バレエマスターの視線と指導は厳しい。「目で見ない、身体で見るの!」という大原監督の声が飛ぶ。オデットと王子の心の動きや表情など、リアリティは大事だがそれだけでは「バレエ」にはならない、と。弓を持って湖を訪れた王子が白鳥から人に変わるオデットに出会うシーンも、「オデットと出会った王子は、どういう気持ちになって弓を置きに行くのか」「鳥から人に変わったオデットは、そもそも何に驚くのか」といった、本番であれば僅か数秒の心情に対し、足の出し方や腕の動き、目線、表情などを細かく指導する。

さらにアダージョのパ・ド・ドゥも、菅野バレエマスターが時には王子に、時にはオデットとして、木村・渡邊のそれぞれと組み動きを教え、2人はそれを真剣に見て聴き入る。本番の舞台で我々が見る世界は、試行錯誤を重ね練り込んだ数秒のシーンの積み重ねであることを、改めて思い知らされた。

子供のための「白鳥の湖」からいよいよ本公演へ

リハーサル後に、木村・渡辺両名に話を聞いた。

――お疲れ様です。お二人はこども向けの「白鳥の湖」(2016年7月)で組まれましたが、今回はいよいよ本公演になりますね。こどもの「白鳥」とはやはり全然違うと思いますがいかがでしょう。

木村 こどもの公演は構成が違い、時間が短いので切り替えが大変でした。例えば32回のグランフェッテを踊り心拍数も上がって身体が細胞レベルで黒鳥になっているところを鎮め、呼吸の仕方や筋肉の使い方を白鳥に整えなければならなかった。本公演は休憩が入りますので、白鳥と黒鳥の切り替えの点では余裕があるのではないかと思います。

木村優里 「こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』」より  ©瀬戸秀美

木村優里 「こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』」より ©瀬戸秀美

――細胞レベル! 白鳥と黒鳥は身も心も文字通り別物になってしまうんですね。渡邊さんはいかがでしょう。

渡邊 優里ちゃんも言ったように、構成が完全に違います。こどもの「白鳥」は上演時間が短いので、王子としては駆け抜ける感じです。またあの当時の公演は僕にとっては新国でのデビュー作でもあったので、プレッシャーもありました。今回はリハーサルを通して、大原先生やバレエマスターの菅野さんに表現の細かいところを見ていただいているので、王子の心の変化を出していきたいと思います。

――木村さんは「白鳥」の全幕は初めてですね。渡邊さんは全幕のご経験は。

渡邊 今回が初めてです。以前所属していたカンパニーにはプロダクション自体がなかったので。僕は白鳥の音楽自体が好きで、とくに4幕のグランジュテで王子が登場する時の音楽は見ていても感動する部分なので憧れていたし、やりたい役でした。でもやる上ではすごく難しい。解釈の違いで全然違うものに見えてしまったりするし、オディールに対しても普通に騙されたのか、「この人は違う」とわかっていても惹かれ、騙されてしまうのかで変わってくる。今それをどうしようか、探っているところです。

王子の心の移り変わりとオデット・オディールの違いを明確に

――お二人が組んだ昨年の「ジゼル」は感動的で素晴らしいものでした。お客様の期待も大きいと思いますが、「白鳥」についてはどのように考えていますか。

木村 「白鳥」は三大バレエで一番ドラマチックな作品だと思います。女性はオデットとオディールの2役を踊り、ストーリーは王子の成長物語を中心に展開していく。女性だけじゃなく、男性も重要な作品です。

渡邊 うん。「くるみ」は完全におとぎ話だし、「眠り」はオーロラの成長だけれど、「白鳥」は王子も同じくらい大事。

木村 おとぎ話の王子は完璧な王子なんですが、「白鳥」の王子は人間の弱い部分や内面の未熟さ、プレッシャーを抱えている。

渡邊峻郁 「こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』」より  ©瀬戸秀美

渡邊峻郁 「こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』」より ©瀬戸秀美

渡邊 王子は物語の過程でいろんなことを知っていく。結婚して国を治めるという役割への憂い、本当に愛する人に出会い、でも裏切ってしまうなど、いろいろなことを経験して、最終的に人として成長していくんですよね。
僕たちは、とくに2幕に重点を置いてリハーサルをしているんです。出会いからパ・ド・ドゥ――2人が恋に落ちるまでがすごく大事だと思っていて。恋に落ちる瞬間がはっきり見えれば、そのあとのストーリーがより明確になると思うんです。そこは踊りであって踊りじゃない、目線や表現の問題で、同時に一番難しいところだと思いますが。白鳥から人間に変わるオデットを見た王子の驚きがあり、オデットも驚く。そこからお互いに知っていき、オデットは「この人は大丈夫なのだ」とわかっていく。その心の移り変わりを見せるのが難しいと思いますが。

木村 オデットが王子にどう心を開くのかは組によって解釈が違うと思うんですが、私は早々に心を開くわけではないと思うんです。最初の出会いでは彼を信頼しきれず、愛が芽生える過程がアダージョのところではないかなと。

――アダージョの部分は、リハーサルでも繰り返しやられていましたね。そしてその後黒鳥になるわけですが、その演じ分けについてはどう考えていますか。

木村 「鳥と人」「善と悪」「オデットとオディール」それぞれの二面性は作品の醍醐味だと思います。人間はみんな光と影、陰陽が絶対あると思うんです。そしてどちらかが存在するためには、必ずどちらかが必要で。だから白鳥・黒鳥の違った人格を踊るのはできないことはないと思います。曖昧にならないように、手を出す動きひとつにしてもオデットとオディールの違いをはっきりと出していこうと思います。

踊れば踊るほど内面が滲み出てくる「白鳥」。より深い物語世界を伝えたい

――解釈についての話し合いはずいぶんとされているのでしょうか。

渡邊 リハーサルが始まる前や、先輩方のリハーサルを見ながら「僕たちはこうしたいよね」など話し合っています。

木村 なんだかんだでずーっと話していますよね(笑)。こういうドラマチックなバレエって、自分がどう思っているかをお互い伝え合わないと成り立たないなと、最近改めて強く感じています。

――本番に向けて取り組んでいること、見せたいことなどを聞かせてください。

渡邊 今回は今まで意識していなかったことを意識してリハーサルやレッスンをしているんです。例えばちょっとした所作や足の一歩の踏み出し方、手の使い方、また僕は表情が出過ぎるところがあるので、身体の奥の胸の内側から感情を出すといったことなどです。それが上手くできれば、パートナーとの相乗効果も含めて素敵なものが生まれるのではないかと。

また大原先生から「バレエはどのポジションも曲線を作らなきゃいけない」と指導を受けます。つまり身体は伸びきってはいても曲線を保つ、ポーズをとっていても指先などはさらに先に延ばす感覚というのでしょうか。それによってラインの見え方も、空間の使い方も全然違ってくるし、お客様が感じるもの、伝わるものも多くなると思います。本番までにそれを仕上げて、物語を伝えられればと思います。

――より物語世界が深まる見せ方を、ということですね。木村さんはいかがでしょう。

木村 私も物語をお客様に伝えるということを一番大切にして踊るように心がけているんですが、「白鳥」の場合、お芝居がバレエのマイムという、決まった型の中に入っている。その型を通して私ならではのオデットの感情を出していきたいなと。先輩方の踊りを見ていても、それぞれ違いがあって勉強になります。「白鳥」って本当に外から飾るものではなく、踊れば踊るほど内面が滲み出てくる、そういう踊りなんですよね。自然とその人らしさ、オデットらしさが出てくるんです。オデットの愛と決意が伝わる踊りを目指していきたいと思います。

――「白鳥の湖」が永遠の古典であり真髄と言われるゆえんの一端を、お話を伺っていて感じました。本番を楽しみにしています。ありがとうございました。

取材・文=西原朋未

公演情報

■新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」

日時・キャスト:
4月30日(月・休)14:00  米沢 唯(オデット/オディール)、井澤 駿(ジークフリード王子)
5月1日(火)12:30  木村優里(オデット/オディール)、渡邊峻郁(ジークフリード王子) ※貸し切り公演
5月3日(木・祝)13:00  米沢 唯(オデット/オディール)井澤 駿(ジークフリード王子)
5月3日(木・祝)18:00  小野絢子(オデット/オディール)、福岡雄大(ジークフリード王子)
5月4日(金・祝)14:00  木村優里(オデット/オディール)、渡邊峻郁(ジークフリード王子)
5月5日(土・祝)14:00  柴山紗帆(オデット/オディール)、奥村康祐(ジークフリード王子)
5月6日(日)14:00  小野絢子(オデット/オディール)、福岡雄大(ジークフリード王子)
新国立劇場バレエ団

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