髭 × 夜の本気ダンス 東名阪での対バンツアーを前にまずはウェブ上で前哨戦
-
ポスト -
シェア - 送る
髭 / 夜の本気ダンス 撮影=風間大洋
6月に名古屋、大阪、東京でツーマンツアー『髭と夜の本気ダンスがやります。』を開催する、髭と夜の本気ダンス。世代を超えてリスペクトし合っている両者のツアーの前哨戦として、髭の須藤寿(Vo/Gt)、斉藤祐樹(Gt)、夜の本気ダンスの米田貴紀(Vo/Gt)、鈴鹿秋斗(Dr)の座談会が実現。今このタイミングでの対バンに至った経緯は何なのかを紐解くべく、お互いのバンドの印象から出会い、ルーツや曲作りのやり方に至るまで、たっぷり語ってもらった。
「これは早めに潰さないとやばいな」って思いました
須藤:けっこう前だよね?
鈴鹿:初めて挨拶させてもらったのは、2015年の『MINAMI WHEEL』のときですね。
須藤:あ、まだ3年くらいか。そのときのこと、覚えてるよ。鈴鹿に「髭、切ったほうがいいよ」って言ったんだけど、まだ剃ってないね(笑)。
鈴鹿:そうですね(笑)。
須藤:その後、FM802のイベントで俺が彼らのライブにゲストボーカルとして参加したんですよ。
米田:髭の「ボニー&クライド」と僕らの「Dookie Man」を一緒にやってもらって。
鈴鹿:めちゃくちゃ狭いリハスタに須藤さんに来てもらったんですよ。その後、居酒屋でごはんを食べて。そのあたりからですね、仲良くさせてもらうようになったのは。
――夜ダンの2人は以前から髭に対するリスペクトを公言してますよね。
鈴鹿:そうですね。高校生のときに行った『RUSH BALL』で初めて髭のライブを観たんですよ。銀杏BOYZを最前列で観たくて、ずっと前方にいたんですけど、2番目くらいに出て来た髭に思い切り喰らってしまって。それが2006年ですね。
須藤:12年前か。
斉藤:やばいね(笑)。
鈴鹿:トリがBUMP OF CHICKENで、ミドリとかも出てて。
須藤:後藤まりこさんだね。そのときのライブもよく覚えてるよ。
斉藤:「どうやって爪痕を残すか」ということしか考えてなかった時期ですね。そのあたりにあるものを集めて「どれを持って登場したら、いちばん派手に見えるか?」っていう(笑)。
鈴鹿:(笑)。ガッツリ傷を残されましたよ。そこからずっと髭の曲を聴いてましたし、カラオケで「黒にそめろ」とか歌って。須藤さんのマネして歌ったら、すぐに喉をやられちゃうんですよ。
須藤:よく言われるんだけど、俺はもともとこういう声だから(笑)。
米田:僕は何かのタイミングで「ブラッディーマリー、気をつけろ!」を聴いたのがきっかけですね。その後『NANO-MUGEN FES.』の映像で髭のライブを初めて観て、「カッコいい」と思って。
須藤:それも2006年だよね。
――髭のお2人は、夜ダンに対してどんな印象を持っていたんですか?
須藤:いいバンドだっていう噂はかなり前から耳に入っていて。ライブはすごく肉体的だったというか、とにかく踊らせるのが上手いなって思ったかな。
斉藤:以前から映像でチェックしてたんだけど、実際にライブを観たのは2016年に代官山UNITで対バンしたときなんですよ。そのときは「これは早めに潰さないとやばいな」って思いましたね。
米田・鈴鹿:ははははは!
斉藤:もちろん冗談だけど(笑)、「これはヤバいな」って思わせてくれるバンドってなかなかいないんですよ。熱量もすごかったし、踊りやすくて。あと、どこかヘンなところも良かったです。
自分たちを高めてくれるバンド名
須藤:確かに。ところで、どうして“夜の本気ダンス”なの?
鈴鹿:それを聞かれるとは思ってなかった(笑)。バンド名を決めたのは僕なんですけど……客としてフェスに行ったとき、日本語のバンド名ってパン!と目に入ってきたんですよね。「え、髭?」みたいな。
米田:確かに。最初は「髭って何?」って思いましたね(笑)。
鈴鹿:だからバンドを始めたときも「まずはバンド名でインパクトを残したい」と思って。最初に組んだバンドは女の子ボーカルだったんですけど――
斉藤:え、そうなの?
鈴鹿:はい。その子の家に集まったときに、なぜかホワイトボードに「夜の本気ダンス」という見出しの新聞記事が貼ってあったんです。
須藤:どういう記事なの、それ?
鈴鹿:夜の公園でダンスの練習をしている人たちを取り上げた記事だったんですけど、その見出しを見たときに「これや!」と思って。
――バンド名について、米田さんはどう思ってたんですか?
米田:どうやったかな? 僕は後からバンドに入ったから、「変えよう」というのも違うかなと。
須藤:そういうところに違いが出るよね。俺も後から入ったんだけど、バンド名を変えちゃったから。
鈴鹿:え、そうなんですか?
須藤:うん。俺が入ったときのバンド名は“Clockwork Orange”だったんだよ。スタンリー・キューブリックの映画(『時計仕掛けのオレンジ』)の原題なんだけど、当時の俺は“中途半端にカッコいいバンド名って、ダサいんじゃね?”系で。
米田:なるほど(笑)。
須藤:引っかかりがないし、ただカッコいいだけじゃないの?っていう。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンみたいにポリティカルな意味があるわけでもないし、月曜日のブッキングライブの2番目くらいにいそうなバンド名というか(笑)。で「バンド名を考えていい?」って提案して、1週間後に持っていったのが“髭”だったっていう。
鈴鹿:ずいぶん振り切りましたね(笑)。
須藤:斉藤くん、動きが止まってたよね。
斉藤:だって、まったく意味がわからないから(笑)。何を基準に考えればいいかもわからないし、いろいろ頭のなかで崩壊しちゃって。「考えるから、1週間くれる?」って言いました。
須藤:プリンスがさ、アーティスト名をシンボルマークにした時期があったでしょ。そのイメージもあったんだよね、“髭”には。それ自体がロゴになってるというか。まあ、意味はないんだけど。
――“夜の本気ダンス”にも特別な意味はなかったんですか?
鈴鹿:最初はなかったんですけど、バンドをやってるうちに意味が出て来たんですよね。京都のお客さんはちょっとおとなしくて、なかなか踊ってくれなかったりするんですよ。そのうちに「夜の本気ダンスっていう名前なんだから、もっと踊らせたい」と思うようになって。自分たちを高めてくれるバンド名でしたね。
斉藤:なるほど。俺らはツアーをやるようになって初めて京都に行ったんだけど、京都の音楽シーンってどんな感じなの?
鈴鹿:どんな感じやろう? まず、シーンみたいなものはないんですよ。
須藤:中心はやっぱりMOJOとか磔磔?
鈴鹿:そうですね。僕らはMOJOに出ていたんです。磔磔には実は出たことがなくて、そっちはまた別の流れがあるんですよ。
米田:全然違いますよね、そこは。MOJOは雑多というか、いろんなタイプのバンドが出演してたんです。そのなかで、まずは自分たちだけでがんばってライブを続けて。
須藤:そうなんだ。MOJOってさ、ガムテープで作ったヘンな人形が置いてあるよね。
斉藤:あれ、怖いよね。最初に見たとき、ちょっと引いた(笑)。
鈴鹿:わかります(笑)。別にアングラなハコではないんですけどね。
米田:うん、どんなバンドでも受け入れてくれるので。
須藤:あと、MOJOと言えば藤本浩史さんだよね。彼の企画で呼んでもらったときに初めて会ったんだけど、ちょっと挙動不審なんだよ(笑)。しかも「僕がライブの司会をやりますから」って。よくわからないけど「どうぞ。君の企画なんだから」って言ったら、ステージに出てた瞬間、「はい、どうもー!!」ってめちゃくちゃテンション高くて(笑)。
米田:藤本さんの前説、けっこう恒例なんですよ(笑)。藤本さんには僕らもすごくお世話になったし、ずっと推してもらってんたんです。
須藤:俺らもそう。藤本さんがずっと髭のことを気にかけてくれて、丹念に呼んでくれて。そこも共通点かもね。
斉藤:そうだね。
須藤:そういえば、MOJOで夜ダンの昔の写真を見たことあるよ。まだ、全然カッコ良くないんだけど、それをスマフォで撮って「Twitterに上げていいですか?」ってマネージメントの人に連絡したら、「やめてください」って(笑)。
米田・鈴鹿:ハハハハハ!
夜の本気ダンス・米田貴紀 撮影=風間大洋
お互いに「俺たちはこういうバンドなんだ」という確固たるものを持っている
――音楽の話をすることはないんですか?
斉藤:そこまでゆっくり話したことはないかな。
鈴鹿:さっき話に出てた代官山UNITのライブのとき、打ち上げで斉藤さんが音楽を流していたのはよく覚えてますけどね。
斉藤:あ、そうだね。当時のUNITの店長にスピーカーを持ってきてもらって、爆音で好きな曲をかけてたんです(笑)。
米田:あれはめっちゃ楽しかった。知らない曲もけっこうあって「これ、カッコいいですね。誰ですか?」みたいなことも聞いて。
須藤:最後はやっぱりテクノになんだけどね。
斉藤:そうだね。いま思い出したけど、酔っぱらって「どっちが本気ダンスか決めよう」って言ってたね、俺(笑)。
須藤:そのフレーズ、今回の対バンツアーでも絶対言うヤツだろうね(笑)。
斉藤:そのときから「仲良くなれそうだな」という感じはあったかも。いい意味でユルいというか、おもしろそうな人たちだなって。
鈴鹿:良かったです(笑)。
須藤:自分のバンドに対する矜持というか、お互いに「俺たちはこういうバンドなんだ」という確固たるものを持っていると思うんですよ。それがあるからこそ、本当の意味でつながれるんじゃないかな。
――結成やデビューの時期は違いますけど、髭と夜ダンにはいろいろと共通点があると思っていて。まず、どちらのバンドもルーツは洋楽ですよね。
米田:そうですね。
鈴鹿:うん。
斉藤:俺らは2002年結成なんだけど、そのちょっと前にザ・ストロークスが出て来て。そのあたりも聴いてた?
米田:はい。ロックンロール・リバイバルと言われてたバンドも好きだったので。あとはフランツ・フェルディナンドとか、ブロック・パーティとか。その時期のバンドがルーツだと思います。
須藤:2000年代前半か。
斉藤:その頃のロックDJもよくかけてたし、盛り上がってたよね。
米田:洋楽が中心ですけど、僕らの場合は、髭もルーツの一つだと思っていて。
須藤:わ、嬉しい。今日、ここに来るときに夜ダンの「INTELLIGENCE」を聴いてたんだけど、すごく良かったよ。まず、曲の展開がすごいんだよね。「俺がサビだと思っていたこのメロディは、前フリだったのか!」みたいな。俺はもっとシンプルに作ることが多いし、サビの後に大サビが来るみたいな曲は書けないんだよね。「Bye Bye My Sadness」「BIAS」もそう。俺だったら、夜ダンの1曲で3曲くらい作っちゃうだろうな(笑)。
斉藤:分解してね(笑)。
須藤:要素が詰まってるんだけど、それがきれいにつながっていて。素晴らしいソングライティングだなと思った。「Dookie Man」あたりの初期の頃の書き方とは違ってきてるんだなって。
米田:いま須藤さんが言ってくださった通り、そこは意識して変えたんです。「Dookie Man」みたいに一つにアイデアを曲にするスタイルも自分たちの強味として残しつつ、いろんなことをやれるバンドになりたいので。
斉藤:なるほど。
髭・斉藤祐樹 撮影=風間大洋
少ない音で尖ってるほうがパンキッシュだなと感じるようになった
米田:僕らもここに来るときに髭の一番新しいアルバム(『すげーすげー』)を聴いてきたんですけど、めちゃくちゃカッコ良くて。特に「TOMATO」が好きですね。
須藤:ありがとう。
米田:そのときのインタビューも読んでたんですけど――
須藤:意味ありげに喋ってるけど、結局、何も言ってなかったでしょ?
米田:(笑)。須藤さんが“ギターの音を抜いた”みたいなことを言ってて、“どの曲やろう?”って気になりました。
須藤:曲を作ってると、どんどんアイデアを詰め込みたくなって、情報過多になりがちなんだよね。それがどうも納得いかないというか、「すき間から聴こえてくるものもあるよな」と思うようになって。もともと髭って、1曲のなかにいろんな音が入ってたんだよ。
米田:確かに髭は音数が多いイメージでした。
須藤:でしょ? でも、最近は「音数が少ないほうが、一つ一つの音が尖ってくる」ということに気付いて。テクノなんて、まさにそうだよね。ほぼキックしか鳴ってないんだから、尖った音になるのは当たり前というか。パンクロックもそう。昔はたくさんの音がガーッと鳴ってるのが自分の中のパンクだったけど、少ない音で尖ってるほうがパンキッシュだなと感じるようになったので。もちろん髭のイメージもあるから、バランスを取ることも必要なんだけど。ライブも変わってきたと思いますね。静かなところから、少しずつピークに持っていくというか。
――3月に行われた『LOVE LOVE LOVE』『Hello! My Friends』の再現ライブも、まさにそういうイメージでしたよね。
須藤:そうですよね。あのライブは2003年に発表した曲を再現する企画だったんだけど、全部で15曲しかないから、1曲を引っ張ったんですよ。3分くらいの曲を15分くらいやったり。
鈴鹿:それも極端ですね(笑)。
斉藤:途中で「いま、どこを演奏してるんだ?」って行方不明になりそうだったけどね(笑)。何も音が鳴っていない瞬間もあって、「そろそろ弾こうかな」とか。そういうのも楽しいんだけど、そればっかりやってるとお客さんが減るだろうね。
須藤:そうだね(笑)。
斉藤:そういうスタイルもあるし、3分ポップのカッコ良さもあって。両方できるのがいいのかなと。
夜の本気ダンス・鈴鹿秋斗 撮影=風間大洋
40才なんて曲でいうとBメロあたりで、これから大サビに進んでいく時期
――髭と夜ダンの対バンツアーでも、お互いの最新モードが体験できそうですね。
斉藤:そうですね。夜の本気ダンスのいまのモードもあるだろうし。「髭とやるんだったら、こういうことやりたい」みたいなことって考えてる?
鈴鹿:せっかく3か所回れるから、一緒に何かやれたらいいなと思ってます。
米田:2マンで東名阪って、最近はほとんどなくて。楽しいことをやれたらいいですよね。
須藤:いいね。対バンツアーの前に飲みに行きたいなと思ってたんだよね。そういう場で適当な話をしてるうちに、何かいいアイデアが出て来ることもあるだろうから。事務所を通して「1曲、一緒にやりましょう」みたいな感じだとつまらないし、ありきたりになっちゃうから。
鈴鹿:ぜひお願いします! 髭のお客さんは音楽好きな人が多いと思うんですけど、僕らのライブを観てもらって「ホントに髭が好きなんだな」ということが伝われば、きっと受け入れてもらえると思っていて。爪痕を残すというより、髭に対する愛情を感じてもらえるようなライブをやりたいですね。
須藤:それは俺らも同じですね。髭のファンには夜ダンを、夜ダンのファンには髭を好きになってほしいので。それは本当の成功だと思うし、きっとそういうツアーになるだろうなって。
斉藤:うん。お客さんに「どっちのバンドもすごい。化学反応が起きちゃってるじゃん」と思ってもらうことも大事なんだけど、俺たち自身も「夜ダンと一緒に回れて良かった」と思える気がしていて。それと汗でグシャグシャになるだろうから、着替えのTシャツを持ってライブハウスに来てほしいですね。
――夜ダンも髭も、いま絶好調ですからね。さっき話に出ていた髭の再現ライブも最高だったので。
須藤:15年前の曲だけをやるって、かなり不思議でしたけどね。10周年の頃は(2003年に発表した曲を演奏しても)「うん、わかるわかる」という感じだったんですよ。でも、15年も経つと、「この歌詞、何? こいつ、何言ってんの?」という感じになっちゃって。
鈴鹿:マジですか?(笑)
須藤:本当にそうなんだよ。歌ってても「は?」ってデッカイ“?”が頭の上に浮かんで(笑)。「考えるな、ライブ中だぞ」と思いながらやってた。
米田:それは未知のゾーンですね(笑)。
須藤:そのうちわかるかもよ。そういえばこの前、イギ―・ポップのドキュメンタリー映画(イギ―・ポップの最新アルバム『Post Pop Depression』を巡るドキュメンタリー映画『アメリカン・ヴァルハラ』)についてインタビューを受けたんだけど、イギ―は71才になっても20才くらいのときの曲を歌ってるんだよ。
斉藤:そうだね(笑)。
須藤:いまだにムキムキの細マッチョで、ステージを走り回って、客に向かって中指立てたり。「そういうの、もうよくない?」って思わなくもないんだけど、すごくパワフル。いまだに「Lust For Life」や「I Wanna Be Your Dog」を歌ってる姿を見ると、40才なんて子供だなって思うんだよね。曲でいうとBメロあたりで、これから大サビに進んでいく時期というか。夜ダンなんて、まだAメロでしょ?
鈴鹿:そうかも(笑)。
須藤:日本のミュージシャンもそうだよね。俺の場合は奥田民生さんなんだけど、いまもガンガン現役だし、声だってめちゃくちゃ出てる。そう考えると、まだまだ先は長いよね。
米田:そうですね。もちろん髭もそうですけど、僕らより上の世代のバンドがカッコいいライブをやってると「自分たちもああいう活動ができるように、しっかりステップを上がっていこう」という気持ちになれるので。希望の存在なんですよね、僕らにとっては。
須藤:そう言ってもらえると嬉しい。ホントにさ、ツアー前にゴハン行こうよ。いまは東京に住んでるんでしょ?
鈴鹿:いえ、いまも京都なんですよ。
須藤:え、そうなの? いつだったか、R246沿いでバッタリ会ったから「近所なのかな」って思ってたんだけど。
鈴鹿:あのときはレコーディングのためにこっちに来てたんですよ。逆に京都に来るタイミングってないですか?
斉藤:いいね。そのタイミング、作ろうかな(笑)。
取材・文=森朋之 撮影=風間大洋
ライブ情報
リリース情報
発売中
DVD+CD
発売日:2018/03/28
価格:¥4,500+税
品番:VIZL-1344
通常盤
DVD
発売日:2018/03/28
価格:¥3,800+税
品番:VIBL-878