10周年イヤーに放つ4枚目のフルアルバムにみた、テスラは泣かない。の音楽がこれからも鳴り続ける理由
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テスラは泣かない。 撮影=風間大洋
“テスラは泣かない。”の音楽はなくならない。価格0円スペシャルシングル「ダーウィン」のリリース、4thフルアルバム『偶然とか運命とか』の制作、そしてリリースツアーという一連の流れを踏まえ、結成から10年活動してきた彼らだからこそ今できること、そしてやりたいことを聞いた。彼らの音楽がこれからも鳴り続ける理由がそこにある。
――結成10周年ということで。おめでとうございます。
メンバー一同:ありがとうございます。
――バンドを始めた時と、10年やってきた今とで何か変わったことはありますか?
村上学(Vo/Gt):いろいろな面で変わっていることもあるんですが、音楽に向かう気持ちは最初の頃と全く変わってないですね。
――まず10周年イヤーに、世の中に対して色々アプローチしていく中の一つに「価格0円スペシャルシングル」がありました。0円シングルはどれくらいのお客さんの手に届いたのでしょうか?
村上:有り難いことに一週間足らずで3~4000枚がお客さんの手元に届きました。自分たちが想像する以上のリアクションがあり、とても嬉しかったです。
――おお! ただ、0円で出してしまうということは赤字になるわけで、それでもなぜその方法をとったんでしょうか。
村上:新曲の「ダーウィン」、バンドの転機になった曲「アンダーソン」、ベース吉牟田が活動を一時休むことになった時に作った曲「Like a swallow」。10年の活動の転機になった曲や、代表曲を集めたCDで、昔を知ってて最近ライブに来なくなった人にも、最近の曲の感じが好きという人にも、これから出会う人にも、バンド名は知ってるけど食わず嫌いしてる人にも届いて欲しいと思って作りました。
YouTubeなどでいろんな曲を聴ける中で、しっかりとバンドの名前が入ったCDを店頭に並べることがバンドとリスナーの距離縮めるのに一番いい方法だと思うので、遠回りではありますが、結果としてはテスラの音楽への入り口としてしっかり機能したし、“テスラは泣かない。”というバンドが10周年ということ、そして今の音楽を知ってもらったと思います。そもそも僕は店頭でCDを手に取ることにロマンを感じていて。
テスラは泣かない。 撮影=風間大洋
――CDへのこだわりが強い?
村上:CDは好きです。パッケージから出して、CDプレイヤーに入れて、音が流れるまでの時間がバンドと離れてる人とのコミュニケーションだと思っていますし、忘れてはいけないものだと思います。
――だからこそ、CDを聴くためのツールすらなくなりつつある時代に、敢えてCDを手に取らせたんですね?
村上:その通りです。CDを売るバンドでありたいという想いがあります。
――アイデア自体はどこからきたのですか?
村上:2016年に会場限定CD『MARCH OUR CELL E.P』を販売したことが、CDへのロマンを思い出させてくれました。ベース吉牟田が休んでる期間は、流通させたリリースができなかったので、ジャケットや梱包から全部手作りで会場限定CDを販売していたんですけど、それがとても喜んでもらえて。ただ音楽をパッケージングしたものではなく、商品の形としてもとても良いことを改めて感じました。YouTubeにMVをアップすることでも曲は届くし、よりたくさんの人に届くことも知っていますけど、お互いのコミュニケーションにしたくてCDの形にしました。手がかかればかかるほど、届くものが違うと思います。
――ライブが良かったときとか、お客さんに音楽が届いたときは物販でのCDの売れ行きに反映されますか?
飯野桃子(Pf):顕著に出ますね。
吉牟田直和(Ba):元々テスラは、アマチュア時代に自主で作っていたCDがお客さん伝いで残響ショップに置かれることになって、それを今の事務所の人が聴いてくれたことで現在に繋がっているんです。だからCDショップは大切な場所だし、CDショップから縁が繋がることを経験してきた世代だからこそ、CDにこだわったのもあります。
村上:瓶に手紙を入れて海に流して、誰かに届く――みたいなロマンを夢見ているバンドです(笑)。
――10年やってきたからこそ感じられるロマンだと思います。
吉牟田:CDショップの店員さんに「大学生の頃よく聴いてました」という方もいたりして、そういう方が応援してくれるからこそ、売上にならない0円のシングルを世に出せたので。本当にありがたいです。
テスラは泣かない。 撮影=風間大洋
――それを経て、5月23日に4枚目のフルアルバム『偶然とか運命とか』がリリースされますが、全曲聴いた印象としては、「攻め」の感じですね。元々もっていたテスラの音楽の印象は、内向きにエネルギーを発散させたものが溢れ出ることで、それが周りに伝染するというイメージでしたが、今回は外に向かってる感じがします。
村上:デビューしたての頃は内向きで、心に鍵をかけまくっていたと思います(笑)。でもそんな僕の鍵を全部ぶっ壊してくれる人達との出会いもあったりして今がありますね。
――初期の頃からずっと聴いていて、ライブも観てきて、吉牟田くんが休んでる期間のサポートベーシストでのライブも観てきた立場からすると、やっぱり音だけで“テスラは泣かない。”だなってすぐわかるくらい、特徴がありますよね。それはスネアの音色であったり、ベースのノリという点であったり。
村上:自分でもこの4人は特殊だと思います。みんながなんでも器用にできて、僕がああしたいこうしたいっていうのを全部そのままやってたら、「村上学バンド」になってしまう。それぞれの個性が強いから、バンドっぽいんだと思います。
――活動10年で、4枚目のアルバム。音楽を「届けたい相手」というのは変わってきましたか?
村上:正直に言って、音楽を作るときに届ける相手のことはあまり想像はしてません。もちろん目的があって――感動させたい、グッとさせたい、テンション上げたい、気持ちよくさせたい、いろいろあって音楽を作るんですが、作るときは研究室にいるイメージなんです。目的に向かって自分の中で実験を繰り返して、トライアンドエラーをたくさん経て一つの楽曲が生まれる。それをしっかり形にするのが自分の役目で、それを届ける方法はメンバーやスタッフと一緒に考えていこうというスタンスです。
研究者が技術を開発するのと、それを商品にしてたくさんの人に届けるので仕事が違うように、音楽制作とそれを届けることは分けて考えていて。もちろん誰かのために作られた曲の良さも知っているし、そういう曲に自分も救われてきたこともたくさんありますけど、自分が音楽を作るときのやり方は10年変わらずです。
テスラは泣かない。 撮影=風間大洋
――それでは、それを受けてメンバーの皆さんはその生み出されたものをどう届けますか?
吉牟田:村上が言っていたようにそれぞれを補い合うのがバンドだと思っていて、今は無意識にそれができています。アーティスト写真の衣装とかを考える役目もいれば、物販で販売するグッズのことを担当する人もいるし、ホームページから情報を発信する役目もいて、助け合っています。でもそれは10年やってきているからこそ、無意識にできていますね。
飯野:鹿児島にいるときは届けるところまで考えられていなくて。一緒の研究室にいて音楽を生み出して、それがどこに届くんだろう?という感じでしたけど、デビューしてから届けることへの意識が生まれました。届けるために最初は無理してる部分もあったんですけど、最近は自然体でその役目をできているし、自然にできることじゃないと伝わらないということも活動の中でわかってきました。今、届けるためにできることを無理せず分担できているのは培ってきたものがあるからこそだと思います。
實吉祐一(Dr):たくさんの人に音楽を伝えたいという前提があってずっとやっていますけど、最初はガムシャラにやるしかできなくて。でもいろんな音楽を知り、いろんな人と出会って活動していく中で、いろんなやり方があることがわかりました。ガムシャラにやって伝わることもあれば、伝わらないこともあると知ったので、今では抜き差しができるようになりましたね。それは音楽的なことも含めて。
――続けてきたからこそ、今の形に落ち着いたということですか?
村上:落ち着いたというか、まとまったという印象です。10周年でテスラは泣かない。のアイデンティが揃った感じです。
――4枚目を作るタイミングとしては最高ですね。
村上:できるべくしてできた作品だと思います。
――アルバムを作るタイミングなどは自分たちで決めてるんですか?
村上:10周年の時にフルアルバムを作るということは7~8年前から決めてました。アルバムの曲の中には昔から作っていた曲も入っているし、温めてきた曲のパーツをもう一度作り込んで曲にしたものもあるので、自分的ベストアルバムのようなイメージです。
テスラは泣かない。 撮影=風間大洋
――せっかく今回インタビューをさせてもらってるので、このインタビューを読んだ方がテスラは泣かない。の音楽に興味を持って、アルバムを手に取ってくれたらいいなと思ってるんですが、私が考えるテスラの武器を述べてもいいですか?
村上:はい。是非!(笑)
――村上くんと吉牟田くんが医学部出身だというところが大きいと思います。村上くんにいたっては、研修医をやめて音楽の道に進んだらしいですけど、それもひっくるめてミュージシャンの個性だし、バンドの個性だと思うんです。テスラは泣かない。の存在を知ってるけど音楽を聴いてないという人に、そういった経歴も含めて聴いてもらえたら、もっと聴こえ方は変わるんじゃないかと思っているんですが、どうでしょうか。
村上:確かにメジャーレーベルでやらせてもらってたときは、プロモーションとして「独特の死生観」とか「異例の経歴」などと言ってもらってました。だから自分もそういう詞を書かなきゃなとかプレッシャーがありましたけど、そこを離れて今のレーベルで自由にやらせてもらうようになって改めて考えてみると、やっぱり自分が医療の現場で見てきたもの――人が生まれたり、死んだり、生きたいのに生きれなかったり、逆に生きたくない人もいたり――といったことが心の中に残像として残っていて、それが言葉に出てきているのは感じます。そういった自分のキャリアも、今やっている音楽の中の言葉も、全部含めて納得してもらえるような一本筋が通っていたら無駄じゃなかったと思えます。
――それは無駄どころか、完全に武器だと思います。本人的にはそういう感じではないんですか?
村上:もっと頭悪いことをいっぱいしたいので(笑)、そういう点ではちょっと邪魔に感じるときもあります。お行儀のいいライブをしてるわけじゃないし、年取ってもそういうライブを続けたいので、医者=上品みたいなイメージは邪魔だったこともありました。
――未だに邪魔な感じはありますか?
村上:今はもうないです。そういったものも全部ひっくるめて自分だし、自分のものの見方とか作るものが周りの人と違うと言われるところは、良いとも悪いともなく受け入れているという感じです。
――そこが個性だと思うし、そんな個性を持った村上くんが研究室にこもるようにして自分の中から出てくるものと真正面から向き合っている限り、“テスラは泣かない。”の音楽はこの先もなくならないだろうなという印象を、この4枚目のアルバムから受けました。もうひとつ、音楽を作る際に「自分がやりたいこと」と「伝えるためにわかりやすくすること」の配分をうかがってもいいですか?
村上:円グラフで表せる感じではないですね。フィギュアスケートの羽生結弦さんがおっしゃってたんですが、「芸術」は確固たる「技術」があって初めて表現できるものだと。それにすごく納得していて。お金を払ってCDを買ってもらう以上、伝えるためにわかりやすくすること、そのための技術は土台として当たり前にもっていなければいけないもので、その上に芸術として何をしようかという発想ができると思います。なので、僕は全力でわかりやすくします。その上で芸術として表現したいものをどう表現するかという考え方ですね。
――村上くんは歌詞とメロディという、聴いている人がわかりやすい部分の表現を担当されています。他の部分、楽器の演奏で「自分のやりたいこと」と「伝えるためにわかりやすくすること」の配分はどうですか?
吉牟田:例えば、自分のこだわりのベースラインができたとして、「これをやりたい」というアイディアがあれば村上に一回投げます。でもそれを採用するかどうかの判断は村上に委ねてます。
――自分の中から生み出した「表現したいもの」がしっかりある人の判断であれば納得すると。
村上:僕にもめちゃくちゃかっこいいベースラインとかを入れたいという想いはあったりします。でも10年やってきて変わった点として、届けたい音楽をどの角度から聴いて判断するかという「客観の目」というか「視点の多さ」は確実に変わったと思います。多くの人は歌を主に聴いていると思うんですよ。でも僕の場合は自分が作った曲だし、その歌の後ろで鳴っている楽器の全ての音を知ってしまっている。なので、リスナーと完全に同じ立場では聴くことは不可能だとは思っているんです。それでも曲をなるべくいろんな角度から見て、一番いい形を探そうとはしていて、舞台で例えるなら、ちゃんと登場人物がいて、ストーリーがあって、それを一番伝えるために、いらないものはいらないんじゃないか?という判断ができるようになりました。
――それもやっぱり10年やってきたからこそできることですね。
吉牟田:今回の作品では特にその判断がたくさんありました。
村上:バンドの共通認識として歌が主人公なので、そこがブレなければ良いなと思えるようになりました。制作中の揉め事は少なくなりましたね。
飯野:ピアノに関しては一番揉めることが多いんです。学さんがピアノで表現したいものがあるけど、学さん本人は弾けない。だから私が代わりにやるんですけど、ピアニスト的にはこうした方がいいという意見と、学さんはこうしたいという意見がぶつかることはたくさんありました。細かいところですけど。でも最近は減りました。
村上:今までは一つの視点しかもっていなかったので、自分がこうしたいと思ったらそれが正解だったんです。でもいろんな視点を持てるようになって、改めて曲を聴いていると、そんな細かいところは問題じゃない。もっと大事なところは他にあるって思えるようになりました。
吉牟田:今回の制作で揉め事が少なかったのは、あがってきたデモの段階で「メロディがすごくいい」というのがバンドの中で共通認識としてあったからだと思います。だからあまり揉める必要がなかったのかもしれない。
――メロディがよかったから、そこに向かっていこうと。演出プランがわかりやすかったということなんですね。
飯野:曲作りのとき、学さんが客観的な目線に立って考えているときは、いい意味で私たちメンバーのことが目に入ってない感じなんですよ。頭の中でいろんな目線に立って判断を繰り返しているときは触れられないくらいですね。
吉牟田:その間はメンバー休憩、みたいになります(笑)。
――過去の経歴も、音楽の作り方も伝え方も全部ひっくるめて、ちゃんと人間が作ってきたということだし、それも踏まえてCDを聴いて欲しいですね。
村上:逆に質問してもいいですか? 僕らのことを全く知らない人がこのアルバムを聴いたとして、どんな印象を受けるのか。僕らのことをよく知ってる人から見て、音楽から受ける印象と実際にあって話してる時の印象と、結構違いますか?
――違いますね。音楽だけ聴くと、歌詞から滲み出るインテリな感じがあって、ちょっととっつきにくいと感じる人もいそうです。村上くんが歌詞に使っている言葉は、村上くんは学校で習ったり勉強して当たり前に使ってるけど、リスナーの方にとっては当たり前ではない言葉も多い感じがして。その反面、誰でも知ってるような言葉のフレーズを入れたりして中和してるのかなと。ただ、実際会って話してみるとそんなに頭でっかちではないし、堅物ではないし、気さくなお兄ちゃんっていう印象を受けるから、ライブに来てどんな人かを知ってもらいたいですね。そしたらもっとテスラは泣かない。」の音楽が楽しく聴けそうだなと思います。
村上:これからツアーが始まりますし。
――対バンもあればワンマンもある過去最多本数の全17公演。僕の印象ではテスラのライブは対バンでもワンマンでもスタイルが変わりません。今回も貫き通す感じでやるんですね?
村上:貫くというか、僕ら不器用なんでそれしかできないというか(笑)。
――でもそのライブのやり方がテスラのいいところだと思うし、どんな会場でもどんな対バンでもテスラのやりたいことを100%出して、いいツアーになることを願っています。本日はありがとうございました。
メンバー一同:ありがとうございました!