鹿目由紀、ロンドン研修後初の書き下ろし作『鏡の星』を、名古屋、東京、北九州で発表。鹿目由紀&小林七緒インタビュー
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出演者一同と演出家。前列左から・真崎鈴子、大屋愉快、演出の小林七緒、鹿目由紀、山口眞梨、森岡光 後列左から・松井真人、大迫旭洋、篠原タイヨヲ、近藤彰吾
初の外部演出に流山児★事務所の小林七緒を招いて贈る、女性メンバーにスポットを当てた新作公演
劇団あおきりみかんを主宰する劇作家・演出家の鹿目由紀は、今年の3月から1ヶ月に渡り文化庁の新進芸術家海外研修制度でイギリス・ロンドンへ。その帰国後初となる新作公演『鏡の星』が、5月30日(水)から名古屋・伏見の「G/pit」で開幕。続いて東京、北九州とツアー公演を行う。
劇団あおきりみかん 其の参拾九『鏡の星』チラシ
今回の公演は、劇団結成19年目にして初の外部演出に流山児★事務所の小林七緒を招くほか、熊本の劇団・不思議少年の大迫旭洋と森岡光を客演として迎え、北九州市で初公演を行うなど、初の試みの多い作品となっている。
鹿目はこれまで流山児★事務所に戯曲提供もしているが(2010年『愛と嘘っぱち』、2012年『イロシマ』)、小林とは2009年に岐阜県中津川市で行われた日本演出者協会主催のイベント《演劇CAMP in 中津川》で初めて出会い、一緒に講座を担当したことをきっかけに親しくなって以降、交流が続いているという。
そんな中、鹿目の海外研修明けというタイミングで念願だった演出依頼が実現。演出家からの“お題”と、ロンドンで受けたカルチャーショックを元に書いたという今作の題材について、また演出プランについて、両者にお話を伺うべく稽古場へ足を運んだ。
── まずは鹿目さんにロンドン研修のことを伺いたいと思いますが、実際に行かれてみてどうでしたか?
鹿目 本当に行って良かったですし、1ヶ月はあっという間ではあったんですが、ものすごく濃密な時間で、まだ情報処理が追いついていない状態です。演出の研修だったので、自分の短編戯曲をエディンバラ在住の翻訳家に英訳してもらって、それをリハーサルして発表する、というのを受け入れ先の劇場の一角を借りてやらせてもらったんです。俳優を探すところから始めました。現地の方に紹介してもらった俳優に会って、その中から男女2人を決めて。20分ぐらいの短編なんですけど、ゲストも14~5人入れて上演して、終演後に感想も聞きました。
── どんな反応でしたか?
鹿目 それがものすごく好評だったんです。リーディングだったんですけど狭い稽古部屋だったので空間をどう使うか考えました。「ちゃんとルールを守る人」が主人公の話だったので、A4用紙を部屋に綺麗に敷き詰めて、歩いていくとズレていって最終的にグチャグチャになるという。内容的にも「ブラックなコメディで楽しめた」と言って結構喜んでくれて。「長い作品も観てみたい」とも言われて嬉しかったですね。
── イギリスという土地柄も考慮した作品にしたんですか?
鹿目 いや、何もなくて。ただもう、とにかく演出の時に英語が通じるかそれが一番心配で(笑)。頑張って英語で喋ったんですけど、途中から気付いたら日本語になっていたらしくて、周りの方たちが慌てて「由紀はこういうことを言っているよ」って翻訳を(笑)。自分が日本語を話していることに気付かないぐらい熱くなってしまって。この上演発表がメインだったんですけど、それだけじゃなくて芝居を20本ぐらい観たり、いろいろなところに行ったり、翻訳の仕方についてのワークショップに自分の戯曲を使ってもらったり、めちゃくちゃいろいろありました。
── かなり濃い1ヶ月だったんですね。
鹿目 濃かったです。しかも馴染むのも意外と早かったですよ。
小林 一人で行くと馴染むの早いよね。現地の人とコミュニケーション取るしかないから。
鹿目 そうですね。助けてもらえないから、やらざるを得ない。また行きたいです。
稽古風景より
── 演出の研修ということですが、他にも何か目標を立てていかれたんですか?
鹿目 行く前に七緒さんと今回の話を少ししたので、演出だけじゃなくてホンのことも考えながら行ったし、イギリスではどういう風に演劇が行われているのか、ということを知るのが一番大事だなと思ったので、普通に生活できたのが一番良かったと思います。生まれて初めての海外でいきなり1ヶ月滞在だったので、カルチャーショックが大きくて。本当に「ここは違う星だな」って思うくらい。
── 今作にはその体験が反映されているんですね。
鹿目 はい。周りの異世界ぶりというか文化の違いというか、そういうのは感じました。七緒さんから「こういうのできたらいいよね」っていうお題をもらって、それが頭の片隅にあって3日後ぐらいにロンドンに行ったんですよ。それがすごく良くて、行ったら異世界感を感じちゃったので、「あぁこれは」と思って大まかなあらすじを七緒さんにメールして、「こういうのを書きたいです」とやりとりして。
小林 それがロンドンに行ってわりと早い段階で送られてきたので、それはすごいカルチャーショックだったんだな、と思って。
鹿目 いや、ホントそうです。このことを書かずにはいられないだろう! と。
【あらすじ】2028年、地球とそっくりの星が見つかった。その星ではいろんなことが「逆」だ。その「ミラー星」を調査するために、国から探査隊に選ばれた女たち。辿り着いた場所で出会ったのは、自分たちとそっくりの顔で逆の性格をした女たちだった。「ミラー星」ってどんな星なの? 女たちは、そしてわが国はどうなっちゃうの?
── 小林さんは今作のお題として、「戯曲に社会的なことを入れてほしい」とリクエストされたとか。
小林 そうですね。字面にすると堅苦しいんですけど、自分の身の回りの小さい世界の話はもうお腹いっぱいだなと思っていて。昨今の社会事情もあり、もうちょっと演劇人も外に目を向けたほうがいいし、自分もそういうのをやりたいなと思っていた時期なので、鹿目さんならたぶん大きな話を書いてくれるだろうな、と思ってオーダーしました。あと、あおきりみかんの作品を10年ぐらいずっと観てきて、若手で入った子たちが中堅になって物語を引っ張るようになったり女優たちが着々と育っていくのがすごく面白かったので、「女優たちが頑張る話を書いて」と、その2つをお願いしたんです。
── 鹿目さんから送られてきたプロットをご覧になって、どう思われましたか?
小林 「え、星? 星の話?」って(笑)。広い話とは言ったが宇宙まで広げたか、とびっくりしたんですけど、すごく面白くて。いろんな現象が反転しているということは、「違う」という視点と嫌でも対面せざるを得ないじゃないですか。そうやって社会の出来事について考えていると、最終的に自分はどう考えるんだ、というところに戻って来ると思うんですよ。
稽古風景より。この日は客演の森岡光が中心となって、ダンスや身体表現の振りを考案。皆でアイデアを出し合い、最終的に森岡がまとめていくという
鹿目 そうですね、すごくそれを思って。やっぱりイギリスの人たちは概ね「自分がどう生きるか」とか、「どう演劇をやっているか」ということについてすごく考えていて、それを聞くことが多いし聞かれることも多い。社会情勢にもすごく興味を持っているし常に気にしていて、そういうダイレクトな言葉のやりとりは日本人にはあまりないなぁと。
小林 突っ込んでくるよね。私もカナダにいた時(2000年に文化庁在外研修員として1年間留学)ものすごく答えに困ったのが、「天皇と将軍はどう違うんだ」とか、「神をどう思う?」って聞かれたこと。考えたことがないことでもその場で考えて答えなきゃならない、しかも英語で。どう言えばちゃんと伝わるんだろう、みたいなことも考えざるを得ないので、自分の考えの核がはっきりしてくるんですよね、異文化と出会うと。そうするうちに、意外に「大事だな」と思うことや「面白いな」とか「ここは譲れないな」ということは、全世界変わんないぞって。
鹿目 それ、思いました。今まであまり自覚を持ってやってなかった自分のこだわりとか、自分はこういう芝居をやりたいと思っている、みたいな気持ちとかそこまで考えたことがなかったんだけど、向こうに行ったら考えざるを得なくて。そしたら、「良いものを創りたい」と思っている人の気持ちは共通で、こだわるところに使う時間も共通で。最初の5日間くらいは、ちょっと戸惑いながら暮らしていたんですよ。それで6日目に現場を見学させてもらうことになったんですけど、すごく居心地が良くて。
小林 ここは知ってる、って。
鹿目 そうそう。「ここだ、居場所は」みたいな。テクニカルなリハを横でずっと見ていただけなんですけど、超楽しくて。私と同じく海外研修中の照明家に連れて行ってもらったんですけど、途中から手伝ってました(笑)。
小林 そういう馴染んでいく感じとかも、どのエピソードがというわけじゃないんですけど、今回の話の中に練りこまれている感じがするんですよね。その馴染み方は、もしかしたら私たちがおばちゃんだからかもしれない。
鹿目 あ、それはあるかもしれない。
小林 おばちゃんは距離の詰め方が早いから。
── 確かにそうですね。初めての場所では若い時の方が阻害感のようなものを感じていたかも。
小林 おじさんが一番遅くて、次が若い男子で、若い女子とちょっとお兄さんが中間で、おばさんは圧倒的に早い。これがお婆さんになると、瞬殺ですよ(笑)。男性は生き物として社会性を背負わないといけないけど、女性はもうちょっと本能に近いですもんね。それがこのホンにもわりと入ってる気がするんです。
稽古風景より
── ロンドンに行く前と帰ってきてからで、ご自身の戯曲の書き方に変化はありましたか?
鹿目 書き方について変わった、ということはないんですけど、本当に自分のちょうどいいタイミングでいただけたお題だったので、書くことについての自覚そのものを考えるきっかけになりましたね。これからどういうものを書こうか、と思った時に、外に向けるのか内に籠るのかもわからないんですけど、自覚的にはなるかなと思いました。
── 今作を演出されるにあたって、ポイントにされたのはどんなところですか?
小林 演出をする時はいつもそうなんですけど、役者に自分で考えてもらう時間を極力長く作りたいと。あおきりの子たちは違いますけど、指示待ちの役者さんが多くて、それこそ「どこに立ったらいいですか?」レベルから聞いてくる。自分がなぜここに居て、誰と喋りたくて、どう思っているんだろう、みたいなことは自分で探してくれないと絶対見つけられないので、それを「考えて、考えて、自分たちで創って」って。そうすると、自分で見つけたものだからブレないんです。
それで、「こう思ってここに居るんだ」というのが見え始めてくると、いきなり集団のパワーが10倍、20倍になってくる。演出家一人で考えることはたかが知れているんですけど、10人の頭で考えてくれるとものすごく面白いことが出来る。素敵なのが、そのシーンに出ていない子たちからも意見が出てくるんです。もちろんね、大失敗も皆するんですよ。「違いました! 変えます!」って。でも失敗を怖がらなくなっているのがすごくいいなと思います。
── 劇団ではずっとご自身で演出されてきましたが、今回、小林さんの演出をご覧になって触発される部分はありましたか。
鹿目 ご覧になってというより、役者が本当に楽しくて(笑)。役者だけで参加できるのは客演に呼ばれた時くらいで数える程度なので、自分の劇団でガッツリ演出に見てもらえるなんて本当に新鮮です。元々受けてみたかった演出なので余計に。演出のことを考えてないわけじゃないと思うんですけど、役者やってる時は考えてないです(笑)。
小林 私が他の役者とセリフについて「これはこうしたらどうかな」って話してる時も完全に役者モードの顔してますね。私は作家がそこにいるからと思って、「鹿目ちゃん」って声掛けるんですけど、一瞬戻って来ないですからね。「え? あ、はい。どうぞ」って(笑)。役者としてかなり面白いです。はっちゃけぶりがスゴイ。
鹿目 自分じゃない何かになるのがとにかく楽しくて(笑)。自分で考えさせてもらえるという意味でいうと、七緒さんの演出は非常に懐が深いですね。参考になることはたくさんありますし、本当によく一緒に寄り添って考えてくれるので素晴らしいなと思います。
稽古風景より
── 役者に「こうしてください」みたいなことはあまり言われないんですか?
小林 役者から出してもらってからは言います。先に言うとそれに縛られるじゃないですか。もちろん持ってますよ、プランA、B、Cは。だけど、役者からバンってプランDが出てきてそっちが面白かったらこっちは全部捨てて、プランDを取ります。最終的に繋がっているかどうか考えるのは私の仕事なので、シーンとしては面白いけども前と繋がってないところはもう一回投げて調整してもらったり。
鹿目 なんかそれを見ていて、他現場では私、結構待てるんですよ。七緒さんと同じぐらいプランDを取れるタイプなんですけど、自分の劇団で演出をやる時はプランDまで行かない時があって、そこまで待ってもいいんだなと思ったので、それはすごい収穫です。
── ビジュアル面や音楽的なことはどんな感じになりそうですか?
小林 今回ね、オリジナルソングが2曲入ってるんですよ。あおきりで歌うの、珍しいんじゃない?
鹿目 珍しいですね。
小林 歌を入れたくて、流山児★事務所の諏訪創が音楽を創れるので作曲してもらって。私が演出する時はいつも諏訪に音楽を創ってもらうんですけど、今回もポイントになるところの何曲かと頭とラストの歌を創ってもらいました。シーンに音楽を当てようとする時に、音楽を先に決める人もいると思うんですけど、私は一回役者に立ってもらわないと決められないんです。こういう風に創るよねっていう自分の頭の中と、役者が自分たちで勝手にやったことが同じトーンの時にはパンって音楽が勝手に流れるから、今流れたものに近い音楽はどれだ~って、手持ちの中から探す。それがポンポン浮かんでくる作品は結構良い作品なることが多くて、今回は音楽が早く出てくるし、あまりブレないです。
── 舞台美術については、ホンの段階で設定が?
鹿目 いや、何も書いてないです。
小林 (ビル内の1室で劇場としては天井が低く、広いとは言えない)G/pitで、別の星に行くんですよね。どうしたことだろうって(笑)。美術もそうなんですけど、別の星はいろんなことが反転して自分とそっくりで逆の性格の人っていうのが出てきちゃうんです。もう一人の自分と会うんですよね。この作品は、どうしたことだろう合戦なんです(笑)。ホンにはしれっと書いてあるんですけどね。
鹿目 書きましたね(笑)。
戯曲上だけでなく、演出の小林七緒、客演の大迫旭洋と森岡光という具体的な外的要素の影響や初めての試みを通して起こったであろう、内部変革も舞台上にどう現れてくるのかが楽しみな本作。劇団としてもひとつの分岐点になり得る様相を呈しているだけに、これは見逃せない。
取材・文・撮影=望月勝美
公演情報
劇団あおきりみかん 其の参拾九『鏡の星』
■作:鹿目由紀■演出:小林七緒(流山児★事務所)
■出演:川本麻里那、森岡光(不思議少年)、山口眞梨、平林ももこ、真崎鈴子、鹿目由紀、大屋愉快(Wキャスト)、みちこ(Wキャスト)、松井真人、花村広大、カズ祥、大迫旭洋(不思議少年)、篠原タイヨヲ、近藤彰吾、正手道隆
【名古屋公演】
■日時:2018年5月30日(水)14:00・19:30、31日(木)14:00・19:30、6月1日(金)14:00・19:30、2日(土)11:00・15:00、3日(日)11:00・15:00、4日(月)11:00・15:00 ※6月3日(日)15:00の回終演後はアフタートークを開催
■会場:G/pit(名古屋市中区栄1-23-30 中京ビル1F)
■料金:前売3,000円 大学・専門学生1,800円 高校生以下1,200円 ※当日券は各500円増し
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、⑦番出口から南へ徒歩6分
【東京公演】
■日時:2018年6月8日(金)19:30、9日(土)14:00・19:00、10日(日)11:00・15:00 ※6月10日(日)15:00の回終演後はアフタートークを開催
■会場:池袋シアターグリーン BASE THEATER(東京都豊島区南池袋2-20-4)
■料金:前売3,500円 大学・専門学生1,800円 高校生以下1,200円 ※当日券は各500円増し
■アクセス:JR「池袋」駅南口改札より地下通路(西武デパート側)39番出口から徒歩2分、または「池袋」駅東口より地上路で徒歩6分
【北九州公演】
■日時:2018年6月15日(金)19:00、16日(土)14:00 ※16日(土)14:00の回終演後はアフタートークを開催
■会場:枝光本町商店街アイアンシアター(福岡県北九州市八幡東区枝光本町8-26)
■料金:前売2,300円 大学・専門学生1,800円 高校生以下1,200円 ※当日券は各500円増し
■アクセス:JR「枝光」駅から北へ徒歩10分
■問い合わせ:劇団あおきりみかん 090-8075-0683(10:00~22:00)
■公式:www.aokirimikan.net