英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2017/18『バーンスタイン・センテナリー』~巨匠生誕100周年に贈る珠玉の3作品

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2018.6.9
 © ROH, 2018. Photographed by Andrej Uspenski

© ROH, 2018. Photographed by Andrej Uspenski


英国ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)の舞台を映画館で楽しめる、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2017/18。6月8日から『バーンスタイン・センテナリー』の上映が始まった。

レナード・バーンスタイン(1918年8月25日~1990年10月14日)はピアニストでありアメリカで最初の国際的な指揮者。作曲家として『ウエストサイド・ストーリー』『交響曲2番』などクラシック、ミュージカルなど幅広いジャンルで名曲を生み出している。また札幌を中心に日本各地で開かれる国際教育音楽祭 パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)はバーンスタインが後進育成のために創設したものだ。

今回上映される『バーンスタイン・センテナリー』は、そのバーンスタイン生誕100周年を記念し、ROHゆかりの3人の振付家が巨匠の曲を用いて作った3作品によるトリプルビル。サラ・ラム、フェデリコ・ボネッリ、高田茜、平野亮一といったプリンシパルをはじめとするダンサー達が、個性的ゆたかな3作品を踊る。ROHのダンサー、オーケストラや合唱団に加え、英国を代表する陶芸家が舞台美術を、デザイナーが舞台衣装を担当するなど、この国の様々なジャンルのアーティストたちが制作に参加している点にも注目。英国の誇りと力を集結した総合芸術が晴れやかに巨匠の生誕100周年を祝う。

■賛歌×舞踊、舞台美術は陶芸家。柔軟なコラボレーションの『幽玄』

© ROH, 2018. Photographed by Andrej Uspenski

© ROH, 2018. Photographed by Andrej Uspenski

1作品目のマグレガー『幽玄』は、賛歌『チチェスター詩編』に振り付けられたもので、タイトルは日本語から取っている。

『チチェスター詩編』が作曲されたのは1965年。英国南部の町チチェスターで開かれる合唱祭に嘱託されたもので、ヘブライ語による賛歌だ。賛歌とバレエのコラボレーションに加え、舞台美術をエドマンド・ドゥ・ヴァールが初めて担当した。ドゥ・ヴァールは英国の著名な陶芸家で、もちろんバレエに関わるのは初めて。しかしこうしたある意味「異業種」といえる人材を躊躇なく起用するところに、最先端をゆくバレエ団の柔軟性が感じられる。ちなみにドゥ・ヴァールは先祖が保持していた日本の根付をもとに、一族の歩みを辿ったノンフィクション(邦訳『琥珀の眼の兎』・早川書房)を記しており、日本とは無縁ではない人物だ。

舞台に並ぶシンプルな長方体はドゥ・ヴァール曰く「パワースポット」。つまり教会や寺院、聖堂などに象徴されるもので、ラムとボネッリを中心に、そのスポットから出てきたダンサー達が荘厳な世界を醸していく。プリンシパルの高田茜のほか、アーティストの桂千里も出演している。

■4人のダンサーが紡ぎだすバーンスタインの名曲『不安の時代』

ⒸROH. Ph Bill Cooper

ⒸROH. Ph Bill Cooper

2作目は2014年に発表したリアム・スカーレット振付による『不安の時代』で、音楽はバーンスタイン屈指の名曲のひとつ、交響曲第2番「不安の時代」だ。英国出身で、のちにアメリカに移住した詩人、W・H・オーデンの散文詩にインスパイアされて書かれている。

物語の舞台は第二次世界大戦末期。バーで出会ったロゼッタ(ラム)、アメリカ海兵マリン(アレクサンダー・キャンベル)、ビジネスマンのクオント(ベネット・ガートサイド)、カナダ空軍のエンブル(トリスタン・ダイアー)の4人の若者たちの鬱屈した思いや孤独感を切々と踊られる。女性がポワントではなく、ハイヒールで踊る点も注目。ロゼッタのアパートで繰り広げられるクライマックス「仮面劇」の砕けたジャズのリズムは圧巻だ。ラム、キャンベルらお馴染みのプリンシパルらとともにガートサイド、ダイアーもそれぞれ熱演。4人のバランスが実に絶妙で、見応えがある。

ⒸROH. Ph Bill Cooper

ⒸROH. Ph Bill Cooper

■古代ギリシャと現代が呼応するウィールドンのシノプスレス・バレエ

3作目は『不思議の国のアリス』『冬物語』でお馴染みのクリストファー・ウィールドンによる『コリュバンテスの遊戯』だ。

コリュバンテスは古代ギリシャの地母神で、キュベレーあるいはフリギアとも呼ばれる。音楽は『セレナード(プラトンの「饗宴」による)』の通り、これはプラトンの対話篇をモチーフとしたものだが、ウィールドンは「ストーリーはない。純粋に音楽に踊りを振り付けた」という。いわばウィールドン的シノプスレス・バレエといえようか。

この作品では舞台衣装には英国の有名デザイナー、アーデム・モラリオグルを起用している。薄い透けた生地で作られたモダンな衣装が古代と現在を繋ぐような印象を感じ、まるで古代が現代とリンクしたような印象が実に洒落ている。ダンサーには平野亮一はじめローレン・カスバートソン、最近注目の若手マシュー・ボールなどが出演している。

ROHを中心に英国の芸術の力を集結した、巨匠への敬愛のこもった『バーンスタイン・センテナリー』。バレエファンはもとより、ダンスファン、バーンスタインファンもぜひ、この機会に足を運んでみてはどうだろう。

上映情報

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18」
ロイヤル・バレエ『バーンスタイン・センテナリー』

 
『幽玄 Yugen』
■振付:ウェイン・マグレガー
■音楽:レナード・バーンスタイン(「チチェスター詩編」)
■指揮:クン・ケセルス
■出演:フェデリコ・ボネッリ/ウィリアム・ブレイスウェル/ハリー・チャーチーズ/メリッサ・ハミルトン/フレンチェスカ・ヘイワード/桂千里/ポール・ケイ/サラ・ラム/カルヴァン・リチャードソン/ジョセフ・シセンズ/高田茜

『不安の時代 The Age of Anxiety』
■振付:リアム・スカーレット
■音楽:レナード・バーンスタイン(交響曲第二番「不安の時代」)
■指揮:バリー・ワーズワーズ
■出演:サラ・ラム/アレクサンダー・キャンベル/ベネット・ガートサイド/トリスタン・ダイアー

 
『コリュバンテスの遊戯 Corybantic Games』
■振付:クリストファー・ウィールドン
■音楽:レナード・バーンスタイン(「セレナード(プラトンの饗宴による)」)
■指揮:クン・ケセルス
■出演:マシュー・ボール/ウィリアム・ブレイスウェル/ローレン・カスバートソン/ティエニー・ヒープ/平野亮一/マヤラ・マグリ/マルチェリーノ・サンベ/ヤスミン・ナグディ/ベアトリス・スティックス=ブルネル

 
■上映時間:3時間5分(休憩2回)
■公開:2018年6月8日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋ほか、全国順次公開
※ディノスシネマズ札幌劇場、フォーラム仙台、中洲大洋映画劇場でも公開いたしますが、公開日が異なります。詳しくは公式サイトをご確認ください。
北海道 ディノスシネマズ札幌 2018/6/9(土)~2018/6/15(金)
宮城 フォーラム仙台 2018/6/9(土)~2018/6/15(金)
東京 TOHOシネマズ日本橋 2018/6/8(金)~2018/6/14(木)
東京 TOHOシネマズ日比谷 2018/6/8(金)~2018/6/14(木)
東京 イオンシネマ シアタス調布 2018/6/8(金)~2018/6/14(木)
千葉 TOHOシネマズ流山おおたかの森 2018/6/8(金)~2018/6/14(木)
神奈川 TOHOシネマズららぽーと横浜 2018/6/8(金)~2018/6/14(木)
愛知 TOHOシネマズ名古屋ベイシティ 2018/6/8(金)~2018/6/14(木)
京都 イオンシネマ京都桂川 2018/6/8(金)~2018/6/14(木)
大阪 大阪ステーションシティシネマ 2018/6/8(金)~2018/6/14(木)
神戸 TOHOシネマズ西宮OS 2018/6/8(金)~2018/6/14(木)
福岡 中洲大洋映画劇場 2018/6/9(土)~2018/6/15(金)
■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/
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